禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

しののめ すぴこ

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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。

模擬訓練①

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 そんな、周囲の密やかな注目を一手に浴びている噂の編入生・峯月累は、これから始まる模擬訓練について、必死に頭に入れようと努力していた。

「えぇと、C地点で2班を奇襲からの陽動、その後D地点まで逃げて1班からの攻勢に耐える、だっけ……」

 大まかなシナリオが記載されたプリントを、軽く眉根を寄せながら見つめる。
 先程、どのパートでどんな評価をするか、逐一説明があったのだが、物珍しく聞いていただけで、すっかり右から左だ。

「違うよぉ。D地点では、4班の拠点設置型魔法の構成を補助しながら、1班の攻勢を防ぐの」
「あー……で、C地点の奇襲は、反射を上手く使った攻撃魔法で居場所を特定されないようにして、陽動の時はタイミングよく攻撃と防御を織り交ぜて逃げないといけない……」
「そう! 4班の拠点設置型魔法が完成するか、途中で壊されたら、そこで模擬訓練終了だよ」

 ようはロールプレイングだ。各人が決められた配役で、その通りに進めていかなければならない。
 一回の訓練で、効率良く様々な状況を体験させるためのシナリオなのだろう。

 しかし、プリント片手じゃなければ、次の行動が行方不明になること間違い無い。

「……基本的には3班班長の後ろを付いていけば良いんだよね?」
「うん。ニイナも同じだから、何かあったら教えるよっ」

 どうせ呪文のように暗唱したところで、とっさに動けなければ意味がない。
 早々にプリントから目を離し、親切に教えてくれるニイナに、全面的に頼ることに決めた。

 ふわふわの綿毛のような色素の薄い髪と、幼さの残る容貌のニイナは、その反面、面倒見が良いらしい。自分の成績にも関係する模擬訓練で、面倒な編入生の世話まで引き受けてくれるのだ。
 助かったなぁと思いながら、ニイナの誘導で、模擬訓練場へと向かう。

「模擬訓練は、校舎から離れた専用の小さな森が舞台になるんだよ。森の周囲は結界で塞がれてて、外に魔法攻撃が漏れないようになってるの」
「あぁ、だよねぇ。適当な空き地で、はい始めー、なんてやったら大変なことになるもんねぇ」
「それ毎月校舎を建て替える勢いだよっ?」

 クスクスと笑うニイナと連れ立って歩きながら、早く校内の地図を覚えないとなぁ、と周囲をキョロキョロ観察する。

「こっちの方は1・2年生の教室で、向こうに魔法訓練場、あっち側の敷地は基礎科だよ。もし自主トレがしたかったら、あの手前側にトレーニングルームがあるからね」

 ニイナがあちこちを指差しながら教えてくれる。

 明確な時間割りがあるわけではないのか、廊下にはまばらに生徒の姿が見られた。

「ここから出て、まっすぐ前に見える森が模擬訓練場だよー」

 昇降口をくぐり、遊歩道のようになった道の先に、小さい森があった。周囲を簡易的な柵で囲っているが、その実、結界を張るために備えられた設置型魔法だ。
 入り口の手前に小さな広場があり、そこが集合場所になるようだ。すでに20人程度の生徒が、準備運動や相談を始めている。
 どの生徒も真剣な表情で、いまだにプリントを片手に持っているのは累だけのようだ。

「凄いね。皆もう覚えてるんだ」
「んー、もう何回も色んな役割でやってるから……。最初は私たちもプリント片手に、ぐだぐだだったよぉ」
「——そうそう。ニイナなんて毎回、どこを攻撃したらいいですか、って相手のやつに聞いてたぐらいだからなぁ」

 突然、男子生徒の低い声が、会話に割って入ってきた。

 揶揄いを含んだ内容に、クラスメイトの誰かだろうと予想しながら振り向くと、

「初めまして編入生。俺が今回、3班班長になった和久・リーゲンバーグだ、よろしくな」

 そう名乗りながら手を差し出してきたのは、長身の鍛えられた身体に、黒い制服が非常に迫力のある生徒だった。短くさっぱり整えられた金髪に、ヘーゼルの瞳は、この近辺ではポピュラーな組み合わせだ。
 ニカっと人好きのする笑みにつられて、その手を取る。想像以上に荒れている手に内心驚いたものの、顔には出さずに挨拶を返した。

「峯月累です、よろしく。——たぶん、全然動けないと思うから、本当に迷惑かけると思う」
「はははっ、まぁ大丈夫だろ。ちょい前のニイナ以上に動けねぇやつなんて、滅多にいねぇよ」
「ちょっと和久っ、累君に余計なこと教えないでよっ!」

 ふわふわの髪を揺らしながら、慌てるニイナ。和久の口を止めようと手を伸ばすが、全然相手になっていない。

「編入生の前でカッコつけんなって。すぐにボロが出るんだから」
「最初の印象は大事じゃないっ」
「ギャップ萌えでも狙ってんのか? 見たまんまだから安心しろよ、小動物」
「小動物って何よ! ちょっと戦闘が得意で、班長落ちしたことないからって自慢してるのっ?」
「俺って才能に溺れないタイプだから。真面目に努力してますしー」
「その顔で真面目とか言わないでよ。副会長ぐらいになってから言ってよねっ」
「それは言わないお約束。あれは別次元でしょーが」

 揶揄うような和久と、頰を染めながら必死に抵抗するニイナ。
 二人の親しさに自然と笑みが漏れる。

「仲が良いね。——ところで、この模擬訓練って、結構本気で戦うのかな?」
「当然だろ。来年の今頃、最前線でノクスロスと戦うんだからな。どんな訓練であろうとも、怪我や事故は全て自己責任。みんな、本気だよ。……っつっても、故意に大怪我をさせることは禁止だから、実力差がある場合は魔法でも体術でも、ちゃんとコントロールをする事は当然だけどな」
「訓練が終わると、みんな怪我だらけだからねぇー」
「ニイナは自滅の怪我が多いけどな」
「~~だからそういう情報は教えなくていいってばっ!」

 またじゃれはじめる二人を見ながら、魔法士の戦闘訓練学校という意識が、しっかりと浸透していることに納得する。

 魔力という強大な力を行使して戦う、戦闘員を育て上げるのだ。
 この学校に入学する前には、戦闘力を有することについての誓約書はもちろん、不慮の怪我や死亡事故への同意書も書いている。
 生徒達は皆、危険を十二分に承知ながら、魔法士になるための訓練を己に課すのだ。

「編入生。自分の身を守るぐらいは、心配ないだろ?」
「まぁ……最低限それぐらいは頑張るよ」

 苦笑しながら言葉を返す。
 近衛魔法士としても規格外の累は、残念ながら体力は無いし、戦闘訓練なんて苦手そのもの。だが、死なない程度にはどうとでもなるのは間違いなかった。


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