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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。
訓練が終わって……②
しおりを挟む「全然、汚れてないね。ヨレヨレだけど」
「…………制服ですか?」
「うん。編入して1回目の模擬訓練だから、どうかなーと思って。特に最初のフェーズは全然動けてなかったし、戦闘自体、苦手そうだったから」
「それは、ご心配をおかけしたようで……」
「さっきの最終フェーズは攻防が激しかったし、結構汚れるかな、と思ったんだけど……。……あんまり戦闘に参加してなかったの?」
「まぁ……はい、あまり……」
「——あ、それは俺が。累には、とりあえず逃げとけ、って指示したんで」
和久が小さく手を挙げて、会話を割って入る。
「そういう作戦だったの?」
「あー、累は索敵が得意なんで、後方支援としてのサポート役をお願いしてたんです。直接対峙しての戦闘は、また次回以降でも良いかと思ったんですが……マズかったですか?」
恐る恐る聞く和久に、ユーリカはカラカラと笑って否定した。
「違う違う。別に全然問題ないよ。ただ、ちょいちょい攻撃を指示してたんだけど、当たった気配は無いし、前線にも出てこないから、どうしたのかなぁと思っただけ。そっかー、探知系が得意なんだ。ふーん……でも、最後の重力波を躱されたのは、ちょっと悔しかったかな。私の得意攻撃なんだよ?」
「——え、累、会長の攻撃を避けたの!?」
驚愕の声を上げる和久に、たじろぐ。
「そりゃ、狙われたから逃げたけど……最後のはホントびっくりした」
「いやいやいや。ビックリとか冷静に感想言えるような代物じゃねーって。お前の探知能力、便利すぎるだろ」
「……便利だねぇー」
「他人事かっ!」
食い気味のツッコミは、疲労した身体には辛かったらしい。笑った表情のまま一瞬顔をしかめた和久が、大きく脱力した。
「こっちが必死に攻防してたっつーのに。なんだよ余裕かよ。……次は絶対に前線メンバーに加えてやる」
「えぇぇ、攻撃系は全く適性無いんだってば」
「なんとかなるだろ。お前、器用そうだし」
「いやぁ、だから逃げるのだけは得意っていうか……」
「自慢になんねぇよっ?」
ぽんぽんと続く軽快な会話に、ユーリカがくすくすと上品に笑いながら口を開いた。
「いいねぇ、二人。なんか凄く……バランスが絶妙」
「絶妙って……それ褒めてませんよ?」
「あははははっ」
和久の言葉に更に楽しそうに笑うユーリカ。無防備な笑顔を見せると、戦闘時の威圧感などまるで無く、人としての魅力に溢れている。
これで生徒会長なのだから、慕われるのも納得だ。
「ユーリカ様」
そしてその腹心となるのが、冬馬ハルト副会長。
颯爽とした足取りで歩み寄ってきた冬馬は、累と和久に気持ちだけの目礼をして、自身の主人へと話しかける。
「特にケアが必要な負傷者はいないようです。大きな問題点もありませんので、このまま解散になるでしょうが、何かございますか?」
冷静沈着を絵に描いたような、薄いレンズの眼鏡が非常によく似合っている男だ。性格なのか、従者として育てられていたせいか、淡々とした物言いは、見た目以上に落ち着いた年齢に見える。
「そうね、峯月くんも怪我は無かったし、私からは何もないよ」
「では担任へその旨を伝えて、集合を促します。……あと別件ですが、夕方の会食がキャンセルとなりました」
「あら、叔父様、どうかしたの?」
「緊急の出動要請があったようで……」
「まぁ、ディギー叔父様が出るなんて相当ね。手強いノクスロスだったのかしら……」
「——え、ディギー叔父様……って、第4連隊を率いる鷺ノ宮ディギー連隊長ですか!?」
二人の会話を聞くともなしに聞いていた和久が、驚いたように声を上げた。
それがどうした、と言わんばかりのユーリカが小さく頷く。
「そうよ。知ってるの?」
「お名前は有名なので以前から。でも1度だけ、実地訓練の時にお会いしたんです。……凄い、魔法士様でした……」
「叔父様は、近年の鷺ノ宮家でも3指に入る天才ですもの。私なんか、叔父様が学生だった時には全然及ばないわ。今日は、こちらにお招きして、勉強させてもらおうと思っていたのだけれど……お忙しいみたいね……」
せっかく広間に夕食の用意をさせていたのに……と残念がるユーリカ。
大きな被害が無いと良いんですけどね、と憂う和久も名前を知っているほど、この辺りでは高名な魔法士のようだ。
残念ながら世事に疎い累には、会話を挟む余地もない。むしろ、未だに冬馬と言葉を交わしていない事に気付き、どうやって話し掛けようか、なんて悩んでいた。と言っても、一欠片の視線も合わない隙の無さに心が折れてしまう。
身長高いくせに背筋も良いって嫌味だよねー、なんて僻み根性丸出しの心境で眺めていると、雑談を交わしていたユーリカが、少しの間を置いて、はたと顔を上げた。
「そーうだっ、歓迎会にすればいいじゃない!」
「……ユーリカ様?」
「もう殆ど準備は済んでいたんでしょう? せっかくの機会だわ。——ねぇ峯月くん、夜空いてる?」
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