月に祈る者たちよ

アイイロ

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序章

ある昔話

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ある昔話をしよう。

 遥か昔、シャタール連邦という広大な多民族国家が存在した。その版図は広大で、多様な文化と人々が共存していた。連邦議会は各地区の代表者によって構成され、表面上は民主的な統治が行われた。

 しかし、時が経つにつれ、連邦は自らを蝕む影を深めていった。多民族化の進展は、異なる文化間の軋轢を生み、連邦の結束を揺るがした。各地区間の経済格差は拡大し、富は一部の地区に偏在するようになった。
 連邦議会は、表向きは連邦の発展を謳いながら、実際には一部の地区への不当な増税、搾取、そして法令の恣意的な執行を行った。
 なかでもメア地区は、連邦の中心に広がる豊かな穀倉地帯や港湾都市とは異なり、砂漠の辺境に位置している。その過酷な環境ゆえに連邦議会の重税がより一層の負担となっていた。

 メアの人々は、古くより衛星ラーテを信仰の対象としてきた。砂漠の夜空に輝くラーテは、彼らにとって希望の象徴であり、心の拠り所であった。
 満月の夜には、ラーテへの感謝を込めた礼拝が催され、新月の夜には、再びラーテが現れることを祈る儀式が執り行われた。
「人は皆、ラーテより来たりてラーテに帰らん」
メアの人々は、ラーテこそが自分たちの真の故郷であり、ラーテは全ての人々を公正に見守っていると信じている。

 附暦七百三十年六月三十四日。一人の男児が誕生する。黒い髪に青い瞳を持つその者は、後に「シャタール連邦の大分裂」として語り継がれる歴史の転換点に、足を踏み入れることとなる。

 彼の名はアヌー。
 ランジャン・アヌーという。
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