灰に縛られし王冠:異世界に捨てられし者たちの王国

Tsukikage

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第一章 - アラリック・レザの最後の夜

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第一部:追放通知

世界が灰になる前に、心はすでに崩れ去っていた。

冷えきった鉄のような夕闇が、窓の隙間からじわじわと室内を侵食していた。アラリック・レザの部屋には、時計の音すら存在しなかった。いや、かつてはあったのだ。木製の古時計が壁に掛けられていた。しかし、五日前に止まったまま、誰にも気づかれることもなく、その時間は永遠に閉じられている。

六畳にも満たないこのワンルームには、最低限の家具と、記憶という名の亡霊が住みついていた。布団は畳の上に直接敷かれ、横には使い古されたノートPCが伏せられている。棚は歪んで傾き、本の山が崩れかけていた。室内の空気は、まるで世界から切り離された冷たい棺のようだった。

ガサッ。ポストの音がした。アラリックは一切動かなかった。彼の背中は壁に寄りかかり、視線はただ虚空を見つめていた。何かを考えているようで、何も考えていない。窓の外では、夜の冷気がビル群の狭間を這いずり回っていた。世界は依然として回っている。彼を置き去りにしたまま。

「来たか。」

ゆっくりと立ち上がり、アラリックは玄関へと向かった。扉を開けると、やはりそれは届いていた。白い封筒。封には、赤く太いスタンプでこう書かれている。『最終通告 強制退去:48時間以内』。その赤は血のようで、しかし血よりも冷たかった。彼はそれを手に取り、閉じた扉にもたれかかるようにその場に座り込んだ。静寂。目の前には、死刑宣告のような一枚の紙切れ。

「あと二日か。」呟きは誰にも届かず、室内に溶けて消えた。

壁際の小さな棚の上、埃をかぶった写真立てが一つだけ立っている。アラリックは立ち上がり、それを手に取った。写真には、かつての彼が映っていた。若く、誇り高く、何よりも「家族」という温もりに包まれていた男。それが、今ではもう存在しないアラリック・レザだった。

隣には、笑顔の妻。まだ小さかった娘。背景には、春の公園と桜が舞っていた。すべてが遠い過去。記憶の中の光景は色褪せていく一方で、現実の灰色だけが鮮明だった。『お父さん、また一緒にお花見行こうね』。小さな声が、耳の奥で囁いた気がした。だが、それはもう幻にすぎない。

家族は去った。仕事も名誉も、すべて失った。残ったのは、「なぜ自分だけがこうなったのか」という問いだけだった。彼は写真をそっと戻し、棚の隅に置いてあった封筒の束に視線を落とした。電気。水道。ガス。税金。どれも赤い文字と共に、何かを奪っていった。

「これは罰だ、ってことか?」誰に問いかけたわけでもない。だが、その声には怒りも憎しみもなかった。あったのは、ただ空洞のような諦観。彼は台所の蛇口をひねったが、何も出なかった。「ああ、そうだったな。」もはや何を驚くべきかさえ分からない。失うものがないと思っていたが、「何もない」ということを突きつけられると、人は想像以上に脆い。

床にしゃがみこみ、アラリックは手で顔を覆った。「俺は、どこで、間違えた?」答えは、風の音さえ奪われたこの部屋では得られなかった。彼は目を閉じ、思い出そうとした。過去に、希望は確かにあったのだ。

五年前。銀行員としてのキャリアは順調だった。上司の信頼もあり、部下にも慕われていた。彼には、人生を築く「理由」があった。家族、夢、未来、そして名前の誇り。だが、一度の内部告発がすべてを変えた。不正を暴いたはずが、逆に嵌められた。証拠は捻じ曲げられ、彼はスケープゴートにされ、社会から追放された。

「正しさが意味を持たないなら、俺はいったい何のために戦っていたんだ?」もう何度目か分からない問いだった。だが今夜は、いつもより重く、胸に沈み込んだ。机の上に残された小さなメモ帳に、娘の筆跡が残っていた。『お父さんだいすき。がんばってね。』涙は出なかった。泣くための心が、もうどこにも残っていなかったから。

彼は立ち上がり、窓を開けた。外の街は、ネオンに彩られていた。人々は笑い、歩き、叫び、進んでいた。ただ、自分だけが「停止」しているようだった。アラリック・レザ。一度は社会の中枢に立ち、未来を信じていた男。今、その肩には「何もない」という重さだけがのしかかっていた。

静かに、彼は呟いた。「明日、最後のコーヒーでも淹れるか。」それは絶望ではなく、ある種の「区切り」だった。世界が彼を見捨てたように、彼もまたこの世界を見限る準備を始めていた。だが、彼はまだ知らない。この「終わり」が、すべての「始まり」となることを。運命の灰は、まだその冠に触れていない。

  第二部:空の冷蔵庫

冷たき鉄の箱は、何も語らぬ。されど、空虚の声は確かに鳴いた。

台所に立つアラリックの指が、錆びかけた冷蔵庫の取っ手にかけられた。音もなく開いたその扉の中は白い虚無だった。あるいは、死よりも冷たい何かだった。彼の目に映ったのは、黄ばんだ卵の殻がひとつだけ。使いかけのマヨネーズ。半年前に期限の切れた漬物の瓶。もはや食物とは呼べぬ、形を失った『痕跡』たち。

「笑わせるな。」低く、喉を這うような声。自嘲のようでもあり、怒りでもあり、そして、ひどく静かだった。彼の胃が、空腹にうなりを上げる。それは本能からの最後通告。だが、彼は応じなかった。冷蔵庫を閉める。「カチン」という音が、まるで墓碑に刻む彫刻音のように響く。

リビングに戻ると、ソファの上に脱ぎ捨てられた薄手のコートがある。その下から、彼は小さな缶の灰色財布を取り出した。震える指でチャックを開ける。コイン、たったの三枚。100円玉ひとつ。50円玉ひとつ。10円玉が一枚。合計、160円。

「ジュースすら買えんな」彼は苦笑したが、唇は乾ききっていた。皮膚と皮膚の摩擦音だけが響き、何も潤わぬ。そうして、また沈黙。しばし、彼は床に座り込んだ。木目が剥げかけたフローリングの冷たさが、骨を通して内臓に染みる。

彼はこの数週間、ろくに飯を食っていない。電気もいつ止まるかわからぬ状態。Wi-Fiはもう途切れた。水道だけが、まるで彼を憐れむようにまだ流れていた。「助けを呼べ」脳裏で誰かが囁く。だが、即座に拒絶する自分がいた。

「俺は、俺は、そこまで落ちてねぇ。」それが本当かどうかなど、誰にも分からない。いや、彼自身すら分かってはいなかった。プライド?否。もっと浅ましく、もっと無様で、もっと脆いもの。羞恥。

「今さら誰に頭を下げる? 今さら、誰が手を差し伸べる? 元・英雄候補に?」そう、かつて彼は選ばれた者だった。アカデミアで最優等の記録を持ち、政治戦略シミュレータでは誰も彼に勝てなかった。「次代の王になる男」そう言われたことすらある。だが今、この160円の男に、誰が興味を持つ?

「俺は、もう誰でもないのか。」その言葉に、心の奥底が砕けたような気がした。しんとした部屋の中。窓の外で、雨が降り始めた。静かに、優しく、けれど容赦なく。水滴がガラスを叩く音が、まるで過去の記憶を呼び覚ますように響く。母の手料理。弟と遊んだ庭の夕暮れ。初めての演説大会で感じた、喝采の熱。恋人の笑顔。仲間たちの声。すべてが、今の彼には遠すぎた。まるで別の人生。まるで異世界。

「異世界、か。」不意に、彼は笑った。空っぽの冷蔵庫を背に、床に座り込んだまま、雨音に包まれて。「なら、いっそ死んで、違う世界にでも行けたら、救われるのか?」そう、思わずにはいられなかった。それは逃避だった。だが同時に、真実でもあった。この現実という名の檻は、あまりにも狭く、あまりにも冷たく、あまりにも無慈悲だった。

どこで間違えた?何を失った?なぜ、こうなった?問いは、もはや誰にも届かない。神にさえも。いや、彼はもう、神すら信じていなかった。

「希望という名の毒を、信じた俺が悪い。」「運命という嘘に酔い、努力という呪いに縋った俺が馬鹿だった。」雷鳴が響く。その一閃が、ガラス越しに彼の瞳を照らした。わずかに、過去の目が戻る。燃えるような、猛禽の眼差し。だがそれは、すぐに消えた。代わりに残ったのは、深く沈む無表情。

静かに、彼は立ち上がる。コインをテーブルに置き、財布を閉じた。まるで、その行為が「人間であること」を閉ざす儀式のように。そして、冷蔵庫の前に戻った。中をもう一度見る。無意味な行動だと分かっていた。けれど、何かが欲しかった。何か、意味を。だがそこには、やはり何もなかった。彼は、ため息すら漏らさなかった。ただ一歩、後ずさり、冷蔵庫のドアを閉める。静寂が部屋を再び包む。外の雨音だけが、生の証だった。

  第三部:拒絶の書簡

雨音が、部屋を囲うように激しくなっていく。それはまるで、世界そのものが彼の存在を否定しているかのようだった。アラリック・レザは、ひとつの封筒を手にしていた。古びたプリンターのインクがかすれたような書類。だがそれは、彼にとって最も鮮明で残酷な言葉を並べていた。

拝啓 アラリック・レザ様。貴殿の熱意ある応募に感謝申し上げます。しかしながら。

「しかしながら」。その言葉がナイフのように胸を切り裂いた。この一週間で聞いた中で、最も穏やかで最も冷たい拒絶の言葉だった。彼はソファにもたれかかり、書簡を静かに膝の上に置いた。薄い紙が、まるで彼の未来のように軽く、虚無に流されていく。

「また、か」乾いた嗤いが喉の奥で滲む。十六社目の不採用。最終面接まで行ったのは二社だけ。どちらも、まるで彼の魂を試すように問い詰め、そして、手の届く直前で梯子を引き上げた。窓の外、稲光が閃いた。その刹那、室内のすべての輪郭が鈍く震え、彼の影が壁に焼き付けられたかのように映った。

空虚。それがいまの彼の体内を支配していた唯一のものだった。彼はスマートフォンを取り出し、無意識のようにスクロールを始めた。SNSのタイムラインに流れる投稿。同世代の誰かが昇進し、婚約し、海外旅行に行き、起業し、家族写真を載せる。そして、その隙間に挟まれるように、匿名のつぶやきがあった。

「30超えて無職とか人生終わってるよな」「プライド高い無能が一番痛いw」「正社員経験ない奴に未来なんかねえよ」。

アラリックの指が止まる。それが、まるで自分に向けられた言葉であるかのように錯覚する。いや、錯覚ではないのだ。世界は彼のような人間を必要としていない。彼自身、薄々それを感じていた。だが、こうして文字にされると、それは確定された現実となる。

「失敗作、か」ぽつりと、声が漏れる。誰に向けたわけでもない。いや、きっと自分自身への嘲笑だろう。

彼は立ち上がり、鏡の前に歩いた。雨音に包まれながら、そこに映る自分を見つめる。眼の下には深く影が落ち、肩は下がり、無精髭が惨めに伸びている。着古したスウェット。何度も洗ったため色あせたシャツ。かつてアラリック・レザと呼ばれた男の面影は、そこにはなかった。

「俺は、誰だ?」静かに、だが重く響く問い。自己への懐疑が、次第に彼を飲み込んでいく。鏡の奥の視線が、ふと鋭さを帯びた。それはまるで、かつてどこかで戦場を駆けた騎士のような、誇りを纏った眼差しだった。しかし、その幻想はすぐに砕け散る。雷鳴が轟き、停電が訪れ、部屋のすべてが黒に呑まれた。

彼はベランダへ出る。濡れたコンクリートが足元に冷たさを伝えてくる。夜の雨は、もはや優しさではなかった。それは、すべてを洗い流す裁きのような激しさを帯びていた。空を仰ぐと、光も星もなく、ただ厚い雲が世界を覆っていた。

「神よ。いや、神など、いるものか」彼の声は雨にかき消された。彼はかつて神を信じていた。戦場において剣を振るうときも、民のために膝を折るときも、神という名の正義を心の奥に抱いていた。だがいま、この異国のアパートの最上階で、ただの一人の無職として立つ彼には、神も、運命も、物語もなかった。あるのはただ、静かな断絶。切り捨てられた希望。忘れ去られるという恐怖。

彼は部屋に戻り、床に崩れるように座り込んだ。冷たい床が背中を支える唯一のものだった。そして、もう一度スマホを開く。今度は検索バーに、こう入力した。「死ぬ前にしておくこと」「誰にも迷惑をかけずに消える方法」「存在証明を残さず消える」。

画面の光が、彼の顔を青白く照らす。そのとき、ふと、スマホの画面が、勝手に切り替わった。「?」彼は手を動かしていない。だがそこには、一枚の不思議な画像が表示されていた。それは、黒い王冠。灰の中から立ち上がるように浮かぶ、奇妙な紋章。背景は炎と瓦礫の都市。そして、画面中央に、ひとつの言葉が浮かび上がった。

「お前の物語は、まだ終わっていない。」「我が声に応えよ。選ばれし灰の王よ。」

心臓が、一瞬だけ強く脈を打った。雷が再び轟いたとき、スマホの画面は黒くなり、すべての電子機器が一斉に沈黙した。静寂。闇。ただの錯覚か、それとも。彼は目を閉じた。まぶたの裏に、炎の中で立つ王の幻影が、確かに焼きついていた。

夜は、なお深くなる。だが、その闇の底で、世界はすでに歪みはじめていた。アラリック・レザの終焉は、静かに目覚めへと形を変えていく。それはまだ誰も知らない。この世界が、彼を再び必要とする日が来ることを。だが今はまだ、彼はただ、孤独の王冠をかぶった亡霊にすぎない。そして雨は、その王の最後の夜を、静かに、確かに洗い流し続けていた。


第4章:「事故の記憶」

その夜、時間は過去をえぐりながら崩れ落ちていった。

風が叫び、窓が震えるたびに、アラリックのまぶたの裏に赤く焼きついた光景が蘇る。焦げ臭い空気。血に染まったダッシュボード。母の腕が、まだ自分を守ろうとしていたこと。弟の小さな声が、破砕された車体の隙間から遠ざかっていったこと。父の叫びが、ガラスのように砕け散ったこと。

「アラリック、逃げなさい…!」

その声だけが今も生々しく心に残っている。それは死者の声ではない。それは、生き残ってしまった者の呪いだ。

あの夜、世界は確かに終わった。アラリック・レザという名の"少年"は、そこで死んだ。生き延びたのは、ただの廃墟だった。息をし、歩き、食べるが、もう誰のためでもなく、ただ罪の重さに引きずられたまま、地獄の底を彷徨っていた。

「……なぜ、僕だけが生き残った?」

その問いは、百回、千回と問い直しても、返答など得られなかった。生き残ることが祝福ではなく、罰としての存在を意味する場合がある。とくに、それが家族全員を失った生存者にとっては。

手術、入院、リハビリ。生き残った身体には十七本のボルトが埋め込まれ、いくつものプレートが骨を補っていた。けれど、誰も心を修復してはくれなかった。

「費用はこちらに請求されます。保険では、全額は……」

病院の白衣が口にした言葉は冷たく乾いていた。家を売り、遺品を処分し、あらゆる繋がりが現金化された。無機質な数列に変換されていく家族の思い出たちは、ただの「支払い履歴」として残された。

アラリックは学費を諦め、バイトを掛け持ちし、眠らぬ夜に生きた。でも、どれだけ働いても、あの時の痛みを埋められる日は来なかった。

かつての"友人"たちも、最初は励ましの言葉を投げてくれた。

「元気出せよ」「いつでも話聞くからな」「オレたち友達だろ?」

でも人間は、絶望を長く見つめてはいられない。アラリックの中にある悲しみは、彼らには耐えきれない色を放っていた。誰もが彼から目を逸らし始めた。

返ってこないメッセージ。予定を濁される通話。SNSで見る彼らの"普通の幸せ"が、刃物のように突き刺さった。

「元気そうだな」「おまえ、いつまでも引きずってんのかよ?」「前向けよ」

前って、どっちだ?

アラリックは、もはや方向感覚すら持てなかった。

雨は窓を打ち続けている。まるで、記憶の残骸に蓋をするように。

彼は膝を抱え、天井を見上げた。裸電球が弱々しく瞬く部屋には、家具も、温もりもない。あるのは、詰め込まれた段ボールと、剥がれかけた壁紙だけ。その中で、アラリックの存在はまるで"物"のように漂っていた。

「僕の人生は、何かを選んで進んできたのか?それともただ、生かされてしまっただけなのか……」

彼は目を閉じた。すると、あの事故の瞬間が、また瞼の裏に降りてきた。

ブレーキ音。ヘッドライトの白さ。回転する世界。

弟の手を握っていた。次の瞬間、その手は消えていた。母の声は、絶望に濡れていた。父の腕は、何かを守ろうとしていたが、それもまた壊れた。

「神様」

祈った。でも、答えはなかった。その沈黙こそが、神の返事だったのだろうか。

保険会社の冷たい声が言った。「ご遺族の支払いについては…」彼はそのたびに、「自分だけが生きていること」を法的にも証明されていった。

知人は言った。「まあ、生きててよかったじゃん」彼はそのたびに、「生きている」ことの意味を剥奪された気がした。

病室の天井、コンクリートの隅、そしていまこの薄暗いアパートの影にさえ、亡き家族の気配が見える。幻覚ではない。それは記憶が、魂の奥底から血のように流れ出てくる、真の"実在"だった。

「僕が死んでいれば、よかったのか?」

問いは、夜の中に溶けていく。でも、答えはこなかった。むしろ、世界は沈黙で応え続けた。

彼の目の前にあるのは、冷蔵庫に貼られた最後の電気代請求書。その隣には、破られかけた書類があった。

"孤独死リスク通知:緊急連絡先未登録"

彼は苦笑する。もはや、役所の言葉すら彼を「死」にカテゴライズしはじめていた。

時計の針が、午前三時を告げた。

外は嵐。だが、内側の嵐のほうが遥かに激しい。

彼は手を伸ばした。引き出しの中の封筒。そこには、事故直後から一度も開かなかったものがある。弟が描いた、最後の家族の似顔絵。

父が微笑み、母が手を振り、彼と弟が並んで笑っていた。

だがアラリックの表情だけが、今見ると違っていた。まるで未来を知っているような…そんな目をしていた。

「…こんな絵、残すなよ……バカ……」

喉が焼けるように痛かった。だが涙は、もう出なかった。泣き尽くしてしまったのだ。

そのとき、雷鳴が轟いた。

電球が一瞬明滅し、停電。

闇が、すべてを呑み込んだ。

アラリックはただ静かに、闇の中に身を沈めた。そこではもう、思考すら意味を持たなかった。

ただ一つだけ、胸の奥に残っていた。

「この世界に、僕の存在する意味は、あるのか?」

問いは、やがて声にならず、彼の意識はゆっくりと沈んでいった。

そして、次の瞬間、世界が、静かに終わった。

いや、"終わったように"見えただけかもしれない。だがその夜、確かに一つの魂は壊れ、崩れ、そして何かが目覚めようとしていた。

そして、次章「黒き契約の鐘が鳴る」へ続く…

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  第五節:「鳴らない電話」

静寂がすべてを呑み込んだ部屋の中で、彼はソファにもたれかかったまま、手の中のスマートフォンをじっと見つめていた。画面には、虚無のようなリストが表示されている。「連絡先」。そこには、名前がある。が、意味はない。誰にかけても、もう何も返ってはこない。

まるで墓碑銘のように並ぶ名前たちは、今となっては幽霊だ。過去に笑いあい、未来を語りあったその人たちは、生きていても、もはや彼の世界には存在しない。

親友だったはずのセナ、大学の研究仲間だったミナト、そして兄のように慕った会社の先輩・川島。事故の後、彼の携帯から「お大事に」「無理するなよ」「いつでも話そう」そんなメッセージが消えていくのに、そう長くはかからなかった。

彼はそれでも、最初のうちは信じていた。皆が忙しいだけだと、そう思おうとした。けれど時が経つにつれ、着信音は鳴ることなく、通知も沈黙を貫き、彼の存在は徐々に世界から溶けていった。

彼はふと、指先で「すべて削除」のボタンに触れた。その瞬間、画面が黒に切り替わり、「連絡先はありません」と無慈悲な表示が浮かび上がる。それを見た彼の目元に、一筋の涙が流れることはなかった。ただ、胸の奥に小さくて黒い穴がまたひとつ開くだけだった。

机の上には、埃をかぶったタブレットが横たわっていた。SNSのアイコンが並んでいたが、どれもログインが止まったままの亡骸だった。

かつて彼は〈生きている〉証明として、日々の思考や写真をアップしていた。家族との旅行、書いた小説の一節、ゲーム大会での優勝シーン。それらは「いいね」と「コメント」で満たされ、誰かとつながっているという錯覚を与えてくれた。

けれど、事故の報せが届いたあと、反応は薄れ、やがて消えた。無数のデジタルの光が、彼の不在を埋めてくれることはなかった。

彼はそれらを一つずつ、手動で削除していった。Twitter、Instagram、Facebook、note、pixiv。「本当に削除しますか?」という確認画面に、ためらいはなかった。「はい」を押すたびに、彼は少しずつ透明になっていくようだった。

窓の外は、まるで彼の心の中を反映するような、灰色の曇天。遠くから踏切の音が聞こえた。が、その音すらどこか現実味がなかった。

テレビをつけると、バラエティ番組の音が不自然に騒がしかった。彼はすぐにチャンネルを変え、代わりにニュースを流す。「経済界の若き獅子、三条カズマ氏がAIスタートアップで快進撃」「美人実業家・綾瀬リサさん、パリで新ブランド発表」「国際文学賞、日本の若手作家が受賞」

どれも、自分と同世代、もしくはかつて同じ教室、同じ居酒屋、同じゲーミングルームにいた者たちの名前。その記事を見つめながら、アラリクは、飲みかけの冷めたコーヒーを静かに机に置いた。

「みんな……ちゃんと、進んでるんだな」

呟いた声は、壁に吸い込まれていった。誰も聞く者はいない。反響すらしない声だった。

冷蔵庫には、何もなかった。買い物に行く気力もなかった。料理する意味も見いだせなかった。

空腹ではあったが、食べることが命をつなぐことだという感覚も、もはや彼の中には残っていなかった。彼は体を支えながら、またソファに戻った。そしてまたスマートフォンの画面を開く。が、今度は真っ白なホーム画面だった。通知も、メッセージも、アプリの更新すらなかった。

「……俺って、まだ存在してるんだよな?」

誰にともなく投げかけたその言葉に、応答はなかった。彼は自分の手を見つめた。指が震えていた。けれどそれすら、どこか他人のような感覚だった。

夜が近づいてきていた。部屋には照明がついていない。外の街灯が窓からわずかに差し込むだけだった。

アラリク・レザは、その光の中に、自分の影が映っているのを見つめた。だが、その影はまるで彼の形をしていないように思えた。それは、無気力と孤独で歪んだ〈抜け殻〉だった。

「もし、明日、俺が消えても……気づく人間、いるんだろうか」

目を閉じると、何もなかった。色も、音も、感情すらもない世界が、ただ広がっていた。生きていることが、もはや罪のように感じられた。

ふと、昔読んだ小説の一節が脳裏をよぎる。"孤独は死を招くのではない。孤独とは、生きながら死んでいくことだ。"

彼はその言葉に、ただ静かに、共感していた。何かを叫びたくなる感情すら、もう残っていなかった。

そのときだった。

画面の右上に「1件の通知」

彼は反射的にスマートフォンを持ち上げた。心臓が、かすかに脈打つのを感じた。何かが、彼の中で僅かに、動いた。

だが、それはアプリの自動更新のお知らせだった。「システムアップデートを確認しました」それだけ。

彼は、スマートフォンをゆっくりと、膝の上に落とした。そして、ふっと笑った。

それは、笑いとも泣きともつかぬ音だった。壊れた歯車のような音だった。

時刻は23:57。彼が「この世界での最後の夜」と決めた時間が、刻一刻と迫っていた。

だが、彼の中にはまだ、決意と呼べるほどのものはなかった。ただ、これ以上進む道が見えないことだけは、はっきりしていた。

カーテンが、微かに揺れた。その隙間から、月の光が差し込む。満月ではない。欠けた月だった。

まるで彼自身のように、不完全で、どこかに欠けを抱えている。

「……見てんのか、母さん、父さん……リナ……」

彼は呟いた。その声は、もう涙に滲んでいた。

それでも彼は、涙を拭おうとはしなかった。

その夜、孤独は形を持って彼に寄り添い、そして彼の背中に、そっと手を置いた。

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  第六節:窓に映る影

雨は、遠慮のない叫び声で夜を裂いていた。空は怒り狂った獣のように唸り、稲光が断続的に黒い雲の腹を引き裂くたび、室内の壁が青白く照らされた。そのたびに、アラリクの顔が一瞬だけ、まるで亡霊のように、窓ガラスに浮かび上がった。

彼は、何時間も何日も変わらぬ姿勢で、窓際に立ち尽くしていた。古びたガラス窓、その中央に走る細い亀裂は、まるで彼の心の深層を映し出す傷のようだった。その割れ目を境に、アラリク・レザという存在は二つに分かれて見えた。かつて世界に抗い続けた"英雄"と、今や己の息すら疎ましく思う"敗残者"。

「誰だ……これは……」

彼は息を呑んだ。ガラスに映る自分を、まるで他人を見るような目で見つめた。

髪は油と汗で張り付き、顎には無精ひげが影のように残っていた。頬はこけ、目の下には血管の浮いたくすんだクマ。肉体はかつてのような剣士の引き締まった線を失い、疲労と飢えで骨張った形を浮かび上がらせていた。

いつから、こうなっていた?

答えは、いつも空白だった。

かつて王都で最も名を馳せた彼の声は、今では部屋の中すら揺るがせなかった。名声は忘れ去られ、仲間たちは散り、師も亡くなり、誰も彼を呼ばない。

彼がかけていたのは、最後の「使命」だった。だが、その使命すら、今は存在の意義を縛る鎖でしかない。

「俺は……こんなに、空っぽだったか?」

その問いは、外の嵐にかき消されるように虚空へと溶けた。

窓の向こうには、乱舞する稲妻の刃と、激しく打ち付ける雨粒の暴力があった。まるで世界そのものが彼の心を映し出しているようだった。混沌。怒り。哀しみ。沈黙。そして、終焉への誘惑。

彼は、ガラスに触れた。ひんやりとした冷気が、骨に染み渡るようだった。指先の感触は、死んだように無感覚だった。

「生きている理由を……忘れたわけじゃない。俺は……まだ、終わってなど……」

だが、その言葉は、信仰ではなく願望だった。

アラリクの目に、ふと棚に積まれたままのノートが映った。戦略の構想、軍政の改革案、封建制度の再構築モデル……そして、叶わなかった王国の青写真。その一つ一つが、彼の過去の希望を記した遺書のように、埃をかぶっていた。

彼は振り返り、机に歩み寄った。

指で埃を払い、最上段のノートを手に取る。そこに記された筆跡は、まるで別人のように力強く、美しかった。かつての自分は、こんなにも確信に満ちていたのか。それを失った今の自分は、何なのか。

「……誰かに求められたわけでもないのに、俺は『救おう』としていた。でも……その"誰か"の中に……俺自身がいたんだな。」

彼の言葉は、書かれていない文章への弔辞のようだった。

突如、窓が激しく鳴った。風に煽られた雨が、まるで誰かが扉を叩くかのような音を立てた。

アラリクは顔を上げ、再び割れた窓へと目を向ける。そして、見た。自分の瞳の奥に潜む、決意とも絶望ともつかない何かを。

それは、破滅の先に咲く最後の覚悟だった。

「終わらせよう。この"敗者の夜"を。そして……その先に何があるのかを、見てやろうじゃないか。」

決意は囁きのように小さかったが、確かに、そこに"火"が灯った。燃え尽きようとする魂の中で、最後の焰が。

彼は机の引き出しを開けた。中には、一枚の古びた硬貨があった。それは彼が最初に勝利した戦いの報酬として授けられた、名もなき街の市民たちからの贈り物だった。

「レザ様、これを持っていてください。いつか、あなたがこの王国の希望になりますように。」

かつての少女の声が、脳裏に蘇る。

希望。その単語が、あまりにも遠く、あまりにも残酷で、なおかつ美しかった。

彼は、その硬貨を握りしめた。

そして、窓を開けた。

暴風が室内に雪崩れ込む。冷たく、激しく、無慈悲な風が、アラリクの髪と衣を荒らしながら吹き抜けた。彼は、一歩前へ踏み出す。

その瞬間、彼の中で何かが確かに変わった。

「終わらせるんじゃない。やり直すんだ。この"世界"ごと。」

その言葉は、神への祈りではなかった。それは、自身への"宣誓"だった。

彼はもう、英雄ではない。救世主でも、王でも、剣士でもない。ただの、一人の人間だった。

だが、だからこそ、彼は"変えられる"。

瓦礫と絶望の上に、新たな戦場があるのなら、その中心に立つのは、もう一度、この名前であってもいい。

「アラリク・レザ」

そして、その名前が、灰の中で再び燃え上がるとき、世界は、その王冠の重みによって、再び縛られる。

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  第七節:最後の願い

外の嵐は、まるで世界の涙のようだった。雷鳴が、飽くなき怒りを刻むように空を引き裂き、その閃光は割れた窓の縁をなぞるたびに、彼の影を壁へと焼きつけた。

部屋の灯りはすでにほとんど死んでいた。わずかな蛍光灯の残照が、天井の隅で微かに揺れていたが、その脈動はまるで生命維持装置のそれのように弱々しく、今にも途切れそうだった。

アラリク・レーザは、窓の前に立っていた。

彼の頬には、雨ではない滴が一筋。それが涙だったのか、疲弊した身体の冷汗だったのか、あるいは魂が流した血だったのか、彼自身にも分からなかった。

「……この世界は、あまりにも冷たいな。」

それは独白ではなく、断罪でもなく、誰にも届かぬ祈りだった。

彼の掌は、静かに窓枠に置かれていた。痩せこけた指先には力がなく、ひび割れた爪は、まるで長い間、生きるために爪を立て続けてきた証のように色を失っていた。

外の雷がまたひとつ、この世の終わりのような閃光を落とした。

その瞬間、彼の顔が、割れたガラスに映り込んだ。

目の下の黒い隈。頬の骨が突き出た痩せた輪郭。干からびた唇、そして、瞳。

その目はもう、何も見ていなかった。ただ空虚を映し、虚無を見つめ、誰も手を伸ばさなかった深淵の底に、ずっと沈んでいた。

「もし……もし、もう一度やり直せるなら」

彼の声は、まるで崩れ落ちる塔の内部から響くように、遠く、かすかだった。

「……今度こそ、誰にも……こんな孤独を……味わわせないように……」

言葉は、自分に対する誓いのようでもあり、誰にも聞かれぬ告白のようでもあり、生き残った者たちへの赦しのようでもあった。

しかしその願いは、誰に届くでもない。

ここは、世界の死角。誰も手を伸ばしてはこなかったし、誰も彼に名を呼び返すことはなかった。

窓の外で雷光が走り、アラリクの瞳を照らす。

その一瞬、彼の表情には確かに何かが灯った。悔恨か、憎悪か、赦しなのか。それは誰にも定義できなかったが、その瞳には確かに"始まり"の欠片があった。

だが次の瞬間、部屋の最後の光が消えた。

ブツン。

電源が落ちる乾いた音と同時に、世界が音を失った。機械音も、雨音も、風のうなりも、すべてが暗闇に溶けた。

漆黒の中で、彼の呼吸だけが、ほんの一瞬、残された命の証として鳴った。

スウ、ハア。

スウ……ハ……

そして、止まった。

その部屋にいた男の名は、アラリク・レーザ。かつて、千の戦を制し、百の王を跪かせた策謀の王。

その最期は、誰にも看取られることなく、記録にも残らず、ただ暗闇の中に溶けていった。

彼の人生には、栄光も、裏切りも、血の涙もあった。

だがこの最期の夜にあったのは、"孤独"と"願い"、それだけだった。

そして。

静けさの中、部屋の片隅で埃を被っていた古い懐中時計が、ひとりでに動き始めた。

カチリ。

……カチ、カチ、カチ……

その音は、まるで時の神が、"彼の願い"を聞き届けたかのように。

闇の奥底で、何かが軋み、何かが開いた音がした。

やがて、そこには"声"が生まれた。

「望んだな、アラリク・レーザ。」

誰のものでもない声だった。男とも女ともつかず、古代の碑文のような響きと、胎児の産声のような柔らかさを併せ持っていた。

「ならば、その魂、再び縛られるがいい。」

嵐が遠ざかる。部屋が沈黙に包まれる。

そして、ひとつの命が終わり、ひとつの世界が、"開かれる"。

その名は、灰に縛られし王冠(The Ash That Binds the Crown)

だがそれは、まだ誰も知らぬ物語の序章にすぎなかった。

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