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第二部
発端 ⑦
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「いいって、これぐらい」
財布を取り出そうとする勝野小百合を見て、藤原は控え目に手で制した。彼女は礼を言って財布をしまったが、瞳の輝きから、こちらへの好感度が上がったのは間違いない。たった数百円の出費だったが、費用対効果は抜群だったようだ。
アイスティーを飲みはじめた勝野小百合を見て、藤原は攻めに転じた。
「田島とは、うまくいってるのか」
どうだろうなぁ、と相手は苦笑した。いい兆候だ。会ってすぐに同じ質問をしていれば、うまくいってると即答したはず。ここまでくれば、あとはいくつか突っ込んだ質問をして、本音を語らせればいいだけだ。
「あいつ、優しくしてくれるんだろ」
「うん。田島君は、確かに優しいんだけど……」
「なんか含みのある言い方だな。不満でもあるのか?」
「別に、不満とかじゃないんだけど……」
「優しいだけの男じゃ、満足できないってわけか」
「そういうわけでもないけど……」
本音を言いたくてウズウズしてるのが伝わってくる。だが、あまり強く押しすぎてもダメだ。ここは田島を肯定しつつ——。
「あいつ、顔もいいし勉強もできるしで、彼氏としては申し分ないだろ」
「それはそうなんだけど、やっぱり恋人同士なんだから、いろいろあるじゃない」
「いろいろって何だよ」
「いろいろは、いろいろだよ」
「別に言いたくなければ、無理には聞かないけどよ」
本当は言いたくてしょうがないんだろうけどな——。藤原は内心でほくそ笑む。
「藤原君はどうなの? 彼女とうまくいってるの?」
「そうだな。うまくいってるほうだろうな」
「そうなんだ。うらやましい」
勝野小百合は、嫉妬と羨望が入り交じったような表情を浮かべた。
「うまくいってる秘訣って、何なの?」
「そうだな。あいつが、おれの欲求に何でも応えてくれるからかもな」
「欲求って、たとえば?」
「それは言えないな」
「何でよ」
「わかるだろ? 男の欲求っていったら」
勝野小百合がとたんに顔を赤らめた。だが、この話題を避けるような気配は見られない。むしろ、この話題にとどまることを望んでいるのは明らかだ。相手の心中を察して、藤原は攻めの強度を上げていく。
「答えたくなければいいんだけどよ。どうなんだ、田島とそっちのほうは」
「うーん、どうなんだろう……」
相手に警戒させぬよう自然な感じで聞いたが、とくに警戒する様子は見られなかった。むしろ読み通り、この話題について真剣に話し合いたいという願望が顔に表れていた。自分に言い聞かせるような調子で彼女が口を開いた。
「やっぱ、それって大事だよね。藤原君の彼女って、幸せだと思うな。そうやって求めてもらえるなんて」
藤原はわざと大げさに驚いて見せる。
「まさか、田島とはまだやったことないのか?」
「ううん、それはないの。何回かはあるの。だけど、田島君は、あんまりそういうこと興味ないみたいで……」
やはり予想通りだった。あと何手かで、詰める。
「なるほど。じゃあ勝野にとっては、それが悩みってわけなんだな」
「うーん、悩みってほどじゃないけど、でもちょっと気になるかなぁ……」
「でも、別れる気はないんだろ?」
「そうだね、今のところはね」
「今のところは……か。じゃあ、田島が今のまんまだったら、考えるかもしれないって感じか?」
「そうだね。今のままだったら、そうなるかも……」
彼女は言葉を切ると、神妙な顔のままアイスティーをすすり出した。
藤原は心底呆れた調子を装って口を開いた。
「あいつもどうかしてるよな。こんな美人な彼女がいるのに、何考えてるんだろうな」
「そんなことないよ。わたし、別に美人じゃないし」
「そうか? おれは美人だと思ってるけどな」
「やめてよ」
相手は照れくさそうにハニかんで見せる。だが、内心ではかなり喜んでいることが雰囲気から察せられた。
よし。警戒心はだいぶ薄れているはずだ。ここら辺で切り出してみるか。あまりダラダラして暗くなってからだと、かえって逆効果だからな。
◈
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財布を取り出そうとする勝野小百合を見て、藤原は控え目に手で制した。彼女は礼を言って財布をしまったが、瞳の輝きから、こちらへの好感度が上がったのは間違いない。たった数百円の出費だったが、費用対効果は抜群だったようだ。
アイスティーを飲みはじめた勝野小百合を見て、藤原は攻めに転じた。
「田島とは、うまくいってるのか」
どうだろうなぁ、と相手は苦笑した。いい兆候だ。会ってすぐに同じ質問をしていれば、うまくいってると即答したはず。ここまでくれば、あとはいくつか突っ込んだ質問をして、本音を語らせればいいだけだ。
「あいつ、優しくしてくれるんだろ」
「うん。田島君は、確かに優しいんだけど……」
「なんか含みのある言い方だな。不満でもあるのか?」
「別に、不満とかじゃないんだけど……」
「優しいだけの男じゃ、満足できないってわけか」
「そういうわけでもないけど……」
本音を言いたくてウズウズしてるのが伝わってくる。だが、あまり強く押しすぎてもダメだ。ここは田島を肯定しつつ——。
「あいつ、顔もいいし勉強もできるしで、彼氏としては申し分ないだろ」
「それはそうなんだけど、やっぱり恋人同士なんだから、いろいろあるじゃない」
「いろいろって何だよ」
「いろいろは、いろいろだよ」
「別に言いたくなければ、無理には聞かないけどよ」
本当は言いたくてしょうがないんだろうけどな——。藤原は内心でほくそ笑む。
「藤原君はどうなの? 彼女とうまくいってるの?」
「そうだな。うまくいってるほうだろうな」
「そうなんだ。うらやましい」
勝野小百合は、嫉妬と羨望が入り交じったような表情を浮かべた。
「うまくいってる秘訣って、何なの?」
「そうだな。あいつが、おれの欲求に何でも応えてくれるからかもな」
「欲求って、たとえば?」
「それは言えないな」
「何でよ」
「わかるだろ? 男の欲求っていったら」
勝野小百合がとたんに顔を赤らめた。だが、この話題を避けるような気配は見られない。むしろ、この話題にとどまることを望んでいるのは明らかだ。相手の心中を察して、藤原は攻めの強度を上げていく。
「答えたくなければいいんだけどよ。どうなんだ、田島とそっちのほうは」
「うーん、どうなんだろう……」
相手に警戒させぬよう自然な感じで聞いたが、とくに警戒する様子は見られなかった。むしろ読み通り、この話題について真剣に話し合いたいという願望が顔に表れていた。自分に言い聞かせるような調子で彼女が口を開いた。
「やっぱ、それって大事だよね。藤原君の彼女って、幸せだと思うな。そうやって求めてもらえるなんて」
藤原はわざと大げさに驚いて見せる。
「まさか、田島とはまだやったことないのか?」
「ううん、それはないの。何回かはあるの。だけど、田島君は、あんまりそういうこと興味ないみたいで……」
やはり予想通りだった。あと何手かで、詰める。
「なるほど。じゃあ勝野にとっては、それが悩みってわけなんだな」
「うーん、悩みってほどじゃないけど、でもちょっと気になるかなぁ……」
「でも、別れる気はないんだろ?」
「そうだね、今のところはね」
「今のところは……か。じゃあ、田島が今のまんまだったら、考えるかもしれないって感じか?」
「そうだね。今のままだったら、そうなるかも……」
彼女は言葉を切ると、神妙な顔のままアイスティーをすすり出した。
藤原は心底呆れた調子を装って口を開いた。
「あいつもどうかしてるよな。こんな美人な彼女がいるのに、何考えてるんだろうな」
「そんなことないよ。わたし、別に美人じゃないし」
「そうか? おれは美人だと思ってるけどな」
「やめてよ」
相手は照れくさそうにハニかんで見せる。だが、内心ではかなり喜んでいることが雰囲気から察せられた。
よし。警戒心はだいぶ薄れているはずだ。ここら辺で切り出してみるか。あまりダラダラして暗くなってからだと、かえって逆効果だからな。
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