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第一話
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その日は朝から曇天だった
店を出す支度を始めるとバラバラと雨粒が落ちてきた
雨は小雨となり止みそうにない
今日はついてない。ま、こんな日もあるか
と小さく溜息をついて卓に手を置いた
片付けようと思い立ちあがろうとした時、不意に天幕が揺れた
はっとして、右袖に仕込んでいる小刀に触れていた
「今日は閑古鳥だな」
どかっと、男がずっと空いたままの椅子に座った
背が高い
それが第一印象だった
視線を合わせる為に顎をつい、と上げた
歳の頃は三十代か
この寒空に薄い服装姿だ
細身でしなやかな体つき
ふと目に止まったのは、脇差しだった
やや無造作にも見えるが銘品いや実用的だろうと察した
前に座った男と視線が合った
黒髪なのに赤い目をしている、いや、よく見ると黒目の周りを金色の縁どり
警戒しろと頭の中で大鳴った
特徴的な目は危険人物だ
「そんなに警戒するなよ」
やや揶揄う様な声だった
「占い師だろ。あんた」
面白そうに卓に並べられた道具を一つずつ見ている
こくり、と喉が鳴った
「な、何を占いましょう」
平然を装うとして失敗した
喉の奥で舌打ちをする
目の前の男がにかっと笑った
「あんた、俺の子を産まないか?」
どのくらい呆けていたのだろうか
「わ、わたしは男です」
「知ってる。俺は冷(ラン)。あんたは?」
「...月詠(ツクヨミ)です」
つい答えてしまった
しまったと思っても遅い
冷と名乗った男は頬杖をついて目を細めた
「それは商売用の名前だろう」
「本当です」
微かに声が震えてしまった
小さな溜息をついて冷は頬杖をやめた
「今日はもう店仕舞いだろう。俺の店に来ないか?」
そう言って冷は立ち上がった
やはり長身だ
「俺は商人をしている。店の一画をやるから商売するといい」
警戒心から喉が引き攣ってしまいそうになる
「な、なぜ」
「俺の嫁さんになる人が見窄らしい商売をしてちゃ体裁が悪いだろう」
「だっ、、」
我慢できずに立ち上がった
「誰が嫁ですかっ 聞いていなかったんですか?! わたしは、男です」
月詠は白い衣装を重ね着して帯で留めてある
合わせはピッシリと重なっていて肌は見えない
黒髪は両脇を後ろで結んでいた
女性にも見えるが、よく見れば男性だと分かる
中世的といえる容姿をしていた
「聞いたさ。あんた、光界びとだろ」
月詠は息を呑んだ
冷は粗末な天幕を指で摘んで、ひらひらとさせる
「俺は腐界人」
「...やはり」
「そう警戒するなよ。俺は店を切り盛りしている平凡な商売人さ」
「平凡? その刀は平凡とは言わない」
「ああ、これ?」
冷は左手を刀にかけて皮肉そうな表情になった
「こいつは別の商売用さ。悪さはしない。だろ?」
言われるように邪悪な気配は無い
かえって清浄な気配すら感じた
その刀が信用してもよいかと警戒心を和らげさせた
月詠は天幕を畳んで籠にしまった
軒先を借りた茶屋の主人に礼を言って籠を担いだ
そして、ついてこいと言われるままに歩き出した
店を出す支度を始めるとバラバラと雨粒が落ちてきた
雨は小雨となり止みそうにない
今日はついてない。ま、こんな日もあるか
と小さく溜息をついて卓に手を置いた
片付けようと思い立ちあがろうとした時、不意に天幕が揺れた
はっとして、右袖に仕込んでいる小刀に触れていた
「今日は閑古鳥だな」
どかっと、男がずっと空いたままの椅子に座った
背が高い
それが第一印象だった
視線を合わせる為に顎をつい、と上げた
歳の頃は三十代か
この寒空に薄い服装姿だ
細身でしなやかな体つき
ふと目に止まったのは、脇差しだった
やや無造作にも見えるが銘品いや実用的だろうと察した
前に座った男と視線が合った
黒髪なのに赤い目をしている、いや、よく見ると黒目の周りを金色の縁どり
警戒しろと頭の中で大鳴った
特徴的な目は危険人物だ
「そんなに警戒するなよ」
やや揶揄う様な声だった
「占い師だろ。あんた」
面白そうに卓に並べられた道具を一つずつ見ている
こくり、と喉が鳴った
「な、何を占いましょう」
平然を装うとして失敗した
喉の奥で舌打ちをする
目の前の男がにかっと笑った
「あんた、俺の子を産まないか?」
どのくらい呆けていたのだろうか
「わ、わたしは男です」
「知ってる。俺は冷(ラン)。あんたは?」
「...月詠(ツクヨミ)です」
つい答えてしまった
しまったと思っても遅い
冷と名乗った男は頬杖をついて目を細めた
「それは商売用の名前だろう」
「本当です」
微かに声が震えてしまった
小さな溜息をついて冷は頬杖をやめた
「今日はもう店仕舞いだろう。俺の店に来ないか?」
そう言って冷は立ち上がった
やはり長身だ
「俺は商人をしている。店の一画をやるから商売するといい」
警戒心から喉が引き攣ってしまいそうになる
「な、なぜ」
「俺の嫁さんになる人が見窄らしい商売をしてちゃ体裁が悪いだろう」
「だっ、、」
我慢できずに立ち上がった
「誰が嫁ですかっ 聞いていなかったんですか?! わたしは、男です」
月詠は白い衣装を重ね着して帯で留めてある
合わせはピッシリと重なっていて肌は見えない
黒髪は両脇を後ろで結んでいた
女性にも見えるが、よく見れば男性だと分かる
中世的といえる容姿をしていた
「聞いたさ。あんた、光界びとだろ」
月詠は息を呑んだ
冷は粗末な天幕を指で摘んで、ひらひらとさせる
「俺は腐界人」
「...やはり」
「そう警戒するなよ。俺は店を切り盛りしている平凡な商売人さ」
「平凡? その刀は平凡とは言わない」
「ああ、これ?」
冷は左手を刀にかけて皮肉そうな表情になった
「こいつは別の商売用さ。悪さはしない。だろ?」
言われるように邪悪な気配は無い
かえって清浄な気配すら感じた
その刀が信用してもよいかと警戒心を和らげさせた
月詠は天幕を畳んで籠にしまった
軒先を借りた茶屋の主人に礼を言って籠を担いだ
そして、ついてこいと言われるままに歩き出した
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