俺のことがめちゃくちゃ好きなエセ関西弁オスサキュバス

鵜飼かいゆ

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俺のことがめちゃくちゃ好きなエセ関西弁オスサキュバスがパートナーになった話

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数十年前、淫魔と人間のパートナーシップ協定が結ばれた。両種族の利害が一致したのが理由とも、当時の総理大臣が淫魔に骨抜きにされたのが原因とも言われているが実態は一般市民が知る由もない。
何はともあれ、いわゆるイイトシになっても結婚できなかった人間は、適正試験を受けて淫魔のパートナー対象になるという流れが常識という名の義務めいたものと化した。伴侶にも巡り会えず適正試験も通過できない人間が孤独化の末に刑事事件を起こすのが一時的な社会問題になりはしたが、結局そいつが末代なので時間経過とともに淘汰されていった。
と、高校時代に現代史の授業で習ったことを思い出しながら、俺は掃除を終えた家の各所をひとつひとつ指差し確認していた。
「ん……ゴミ捨てた、水回りも綺麗にした。それと……」
トラブルが起きなければ今日、俺のパートナー候補の淫魔が家に来る。申請が受理されて三ヶ月、パートナー候補決定と派遣日の通知が来て一ヶ月、長いようであっという間だった。
ぴんぽーん、とインターホンが鳴った。そわそわしながら玄関モニターを確認すると、だぼついた黒いパーカーを着た男が映った。やや長い金髪は染めてるのだろう、頭髪の根元が黒くなっているのが、ざらついた画質でもわかる。
見慣れない人だな。新しく引っ越してきた人が挨拶に来たのかな?
「どちらさまですか?」
『派遣されてきた淫魔ですけど、開けてもらえますー?』
「……えっ!?」
困惑はしたが外で待たせるのは申し訳ないので、とりあえず玄関に向かい、ドアを開ける。バニラアイスに似た甘い匂いが、ふわっと漂ってきた。
「邪魔すんで」
めちゃめちゃボーイッシュな女性かもしれないという一縷の望みを持っていたが、直接見てみても顔つきはどう見ても男のものだし、体格も俺より一回り小柄だけど男にしか見えない。
「えっと……淫魔、の方?」
「俺さっきそう言うたよな?」
声もどう聞いても男の低音だ。
「俺、女の淫魔を希望したはずなんですけど……部屋か何か、間違えてませんか?」
「……あー、やっぱそうなんやな」
淫魔はひとり納得したように頷くと、パーカーのポケットから折り畳まれた紙を取り出し広げてみせる。印刷されているのは俺が提出したパートナーシップ制度利用申請書のコピーだった。
「兄さん、ここんとこ、男の淫魔希望ってチェックつけとるよ?」
「自分の性別の欄じゃないの!?」
「欄の上のとこ、ココ声出して読んで」
「『希望する淫魔の性自認』……」
「大事な書類は提出前に隅々まで確認せんとあかんよ?」
こともなげに言いながら淫魔は紙を畳み直し、ポケットに入れてからくすりと笑った。
「兄さん、スマホの契約とかサブスクで要らん金払ったことありそうやな」
……うっ。
「図星やった? そそっかしいヒトなんやな。ま、立ち話もなんやし、入れてもらえる?」
「あ……すみません、どうぞ……」
こうして俺は淫魔を部屋に招き入れた。
見かけのガラの悪さとは裏腹に、淫魔は脱いだブーツを丁寧に揃えていた。

「このコーヒー美味いなぁ。どこの店で買うてるん?」
「豆だけ買って自分で挽いてるんだ」
「へー、お洒落やん。……さて、本題いこか」
ローテーブルの上には、コーヒーが入ったマグカップがふたつと、淫魔が持ってきた書類が三枚広げられている。俺の向かいに立て膝で座る淫魔は、そのうちの一枚をトントンと指で叩いた。さっき見せてくれた申請書のコピーだ。
「違和感はあったんよ。要望欄に『明るく元気な子。できればギャル系』って書いてあるのに希望性自認男なんやもん」
「ははは……」
笑ってみたものの笑えない話だが、俺の要望を可能な限り叶えるべく、ギャルとは言えなくもない雰囲気の男性型淫魔が派遣された、ということらしい。
「ま、ようあるミスらしいけどな。安心せえ、記入ミスが発覚したとか実際に逢った時の相性が悪かった時のために再申請ができるってワケや」
淫魔が次に指さしたのはパートナー再申請書。必要事項を記入して淫魔に渡せば、言い方は悪いが「チェンジ」できるというわけだ。
「そんで、どうするんや? 再申請書書く……前に、一回お試しでシてみる?」
「え?」
「しっくりこんかったら二回戦では女の身体になったるから……な?」
「なんでそこまで……」
彼が食い下がる理由も、俺に執着するメリットも無いだろう。いや、人間が知らないだけで淫魔にとっては何かの旨みがあるのか?
「決まっとるやろ。兄さんみたいな上玉、そう簡単に諦められるか」
「え……」
生まれて一度も言われたことのない言葉を向けられてどぎまぎした。「ゆるキャラっぽい」や「ご飯美味しそうに食べるから餌付けしたくなる」とか「娘の結婚相手に欲しいタイプ」なんかはよく言われるけど……。ちなみに実際に娘さんを紹介はされたことは一度もない。
「ふたりっきりやから言うけどな、書類についてた兄さんの写真見た時に一目惚れしてたわ。絶対そばにいたいって思ってなぁ♡長かったわ、この一ヶ月……♡」
テーブルの向かい側にいたはずの淫魔が、いつのまにか横に移動していた。甘い匂いを漂わせながら、身体を押し付けてくる。間近で見ると顔が小さい。頭蓋骨も俺の両手に収まるんじゃないか?
……俺が望むなら簡単に突き飛ばしてしまえる体格差だけど、拒絶する気は不思議と起きない。こんなに自分に好意……淫魔が俺に向けているのが性欲なのか恋愛感情なのかはわからないけれど、気持ちを向けてくれているのなら、何も知らないまま拒否するのは違う、気がする……と、思ってしまった。
「顔もええし身体もええし感度とテクニックは言うまでもない淫魔といつでもどこでもヤり放題って、兄さんにも悪い話やないと思うけどなぁ? 言っとくけど、兄さんのこと一発で溺れさせる自信はあんで?」
淫魔がパーカーのジッパーを引き下ろす。黒い生地が左右に割れるにつれて、汗ばんで上気した白い肌が露出していく。
「でも俺喘ぎ声デカいから、兄さん以外のやつに聞かれたら恥ずかしいなぁ……」
「どういう……」
呈そうとした疑問は不意打ちのキスで潰された。ちゅ、ちゅっという軽い触れ合いが徐々に湿り気を孕みながら重く、深くなっていく。息が詰まる、けど、不快感はない。それどころか。
「はぁっ……♡俺、ベロに淫紋入っとるからキスすんのめっちゃ好きやねん……♡もっとちゅー、しよ?」
背筋を伸ばしていられなくなり、咄嗟に床についた両手がそれでもガクガク震える。
「んっ♡ちゅっ♡もっとぉ♡ベロ出してぇ♡おくちせっくすして♡俺のくちまんこぐちゃぐちゃにしてやぁ♡んっ♡」
唾液を流し込まれる音、吸われる音、舌が絡みつく音。いやらしい水音たちが頭の中で反響する。呼吸がうまくできないのに息苦しさは不思議と無い。されるがまま、求められるがままキスを繰り返した。
「んっ……はーっ……♡ベロに兄さんの唾液の味染み込んでる……♡ニオイだけでイきそうや……♡」
どちらの口から出たのかわからない涎をだらだらと垂らしながら淫魔が笑う。
「気持ちええべろちゅーのお礼に……兄さんのこと、いっぱい気持ちよくしたるからなぁ♡」
囁きと共にこぼされた熱い息が、顎に絡みついた。背筋に鳥肌が立つのを自覚する。
「そんなビクビク震えて緊張せんでええよ。カタくすんのは、ココだけで充分や♡」
淫魔の掌がデニム越しに股間を優しく撫で回し、しかし強制的に勃起を誘う。
「う……」
「ええ子ええ子♡いっぱい撫で撫でしたるから、ハメられるぐらいガッチガチにしてな♡」
くすくす笑いながら、淫魔がシャツをたくし上げてくる。ちょうどいい温度に空調を設定してるはずなのに、室温がひんやりしてるように感じてしまう。
「ん……かわええ乳首さんやなぁ……ちゅっ♡」
「っ……!」
「反応ええなぁ♡もっと優しくいじめたる♡指でカリカリされる方がええ?それとも口でちゅうちゅうぺろぺろされたいん?」
質問は形ばかりで、両手と唇を使って乳首と股間を無遠慮に弄んでくる。
「っ……あっ……」
「兄さん、かわいい声出すやないか……♡もっと聞きたいわ♡」
電流が走ってるかのような刺激が、硬くなってきた乳首にぴりぴりと刺さる。
「あっ……も……大丈夫、だから……」
「ふーん? ほんまに大丈夫か確認すんで?」
乳首への刺激が止まった代わりに、下半身をまさぐられる。
「兄さん、腰浮かせてー」
「ん」
言われるがまま動いてしまった。
「おおきに♡」
半勃ち、よりは硬くなっているペニスが室内の空気に触れ、淫魔の指が絡みつく。
「あは♡兄さんのチンポでっか……♡ますます離れたなくなるわ♡」
自分とは肉付きも骨格も違う細長い指とひんやりした手のひらが、絶妙な力加減で扱いてくる。
「俺にしこしこされるん気持ちええ?」
「あっ……気持ちいい、です……っ」
「んふふ♡そっかぁ……♡そんなかわいいこと言われたら……♡俺もう我慢の限界や……♡」
ペニスから手を離した淫魔はパーカーを脱ぎ落とし、腰を浮かせると手早く下半身の服もぽいぽいと脱いでいった。露わになったペニスは勃起して、先端から透明な汁をだらだらと垂れ流しており、彼の興奮状態を雄弁に物語っていた。そして、尾骶骨から生えた二股の尻尾が、彼が人間ではないことを教えてくれる。
「なぁ兄さん……ここ、見てぇ……♡」
尻尾が淫魔の尻を這い、手の代わりにアナルをくぱぁ♡と開いてみせた。拡げられた粘膜が、ぐいっと近付けられる。
「はぁ……俺のおめこ、兄さんのチンポ欲しくて欲しくて……とっくに奥までびしょびしょや……♡」
「んっ……♡」
「あはぁ♡兄さんのちんぽビキビキ言うてるなぁ♡はあっ♡俺の身体見て興奮してくれたんや♡そんな反応見せられたらもう我慢できひん♡」
俺のペニスを逆手で掴んだ淫魔が、ゆっくりと腰を落としていく。
「いただきます♡」
先端に穴の縁が当たっただけで、持っていかれるような電流が走った。耐えきれてよかったのか、耐えてしまったのか。とにかく、挿入する前に射精という醜態からは逃れられた。
「はぁ……♡入ってくぅ……♡おいしい……♡」
ぐちゅ、ぐちゅっ、と、えげつない粘液の音を立てながらペニスが淫魔の尻の中に飲み込まれていく。
「すごぉ♡兄さん♡兄さんのちんぽっ♡俺んナカこじ開けてぇっ♡奥まで届きそ……っ♡はあっ♡あっ♡ヒダめくれ、ぇっ♡えぐうっ♡おほぉっ♡」
腰骨に、淫魔の太ももの裏面が触れ、肩に腕が絡みついた。繋がってるところ以外からも体温が巻き付いて、食べられているような錯覚に陥る。
「はあっ……んっ……あは……全部入ったぁ……♡」
見下ろしてくる淫魔の細められた両眼は、どろりと濡れていた。
「ふふ……♡ここから動いたらどうなるんやろなぁ……♡動いてまうんやけどなぁ……♡」
肩を掴んでくる手に力が入ったと思ったのとほぼ同時に快感が走った。
「あっ♡あ、あっ♡んんっ♡はぁっ♡あ、んんっ♡あ、あっ♡」
強烈な甘い声と、笑いとは少し違う形で歪んだ顔が、鼓膜と網膜をちりちりと焦がす。日常や仕事で関わったことはあれど裸で交わったことのなかった淫魔という種族がどんなものなのか、いかなる情報よりも彼の身体と痴態が鮮明に教え込んでくる。
「うぁ♡あっ♡ちんぽぉ♡兄さんのちんぽぉ♡気持ちええよぉ♡腹んナカから兄さんのこと好きになってまう♡んんっ♡兄さんのチンポの形っ♡一発で身体が覚えてまう♡」
腸の粘膜はきついぐらい絡みついてきているのに、腰回りは上下に動いて。物理的に犯しているのは俺なのに、喰われているように思えてしまう。
「はあっ♡あんっ♡兄さんっ♡ちゅー♡ちゅーしよ♡ちゅっちゅしながらずこばこしたいっ♡」
さっきのキスよりも熱くて湿った唇が押し付けられて、ぬるついた舌が口の中を蹂躙してくる。注ぎ込まれる唾液がシロップみたいに甘いのは錯覚だろうか。それとも俺の舌がおかしくなったんだろうか。
「んっふ♡んぢゅ♡はあっ♡じゅぷ♡じゅるるっ♡はあっ♡あはっ♡兄さんのちんぽ♡また大きくなったぁ♡」
脚の付け根に、淫魔の汗と唾液がぼたぼたっと落ちる。
「っん♡あ゛っ゛♡いぐっ♡兄さんっ♡おれが♡兄さんのチンポでイくとこ見ててっ♡」
淫魔が、俺の肩にしがみついて震えながら背中を丸めた。咄嗟に彼の腰を抱く。あ、セックスするなら床じゃなくてベッドにすればよかった。念の為にシーツ新品にしておいたのに。そんな今更すぎてどうでもいいことが頭をよぎる。
「はあっ♡あ゛っ゛♡ぁ、あん♡お゛っ゛♡あ♡あ゛~~~~~っ゛♡」
ぶしゃっ♡と盛大な音が臍の辺りから響いて、濡れたシャツが腹に張り付いた。
びくびくと小刻みに揺れる淫魔の身体が、快感の刺激で強張っているのが掌から伝わってくる。
「腰、抜けそう、なのにっ♡動くの、やめられへんっ♡んお゛♡あかん゛♡またいぐっ゛♡」
乾きかけていたシャツが再び淫魔の精液で濡れる。正直気持ち良すぎて逆にイけない……というか、自分の心が身体の反応から置いてけぼりにされていて、刺激を受け入れきれていない気がする。
「はぁっ……兄さんまだ一回もイってへんのに♡俺だけ先に何回もイってる……♡はしたない雑魚おめこなん、堪忍なぁ……♡」
許しを求める様子がいじらしくて、気持ちよくなってるはずなのに怯えてるようにも見えて、気付いたら淫魔を抱き寄せて、頭を撫でていた。
「っ、兄さん、ほんま、優しいなぁ……♡ははっ、これ以上好きにさせてどうするつもりや? これでポイってされたら俺……ちょっと傷つくで……?」
「ポイなんてしないよ」
「は……?」
「俺は、あなたにパートナーになってほしい」
クサい台詞が、なんのためらいもなく口からこぼれた。言葉に引っ張られて考えが固まる。ああ、俺は、この淫魔に好きだと言われて、とても嬉しくかったんだ。
「っ、ちょ、待って、兄さん、ハメてる時にそれはズル、いっ……あ゛っ゛♡あか、んっ♡なん、これ、っひ♡」
気持ちよくなっているのに、さっきと様子が違う。淫魔は繋がったままなのに離れようと背中を引きながら、自分の身体をぎゅっと抱きながら込み上げる快感に耐えようとするみたいに震え、尻尾がびたびたと床を叩いている。
「っ!? どうしたの!?」
「ごっ♡ごめんなさいっ♡堪忍してっ♡俺っ♡嬉しくてっ♡イっ♡心でイってるっ♡イくの止められへんっ♡あっ♡なんなんこれっ♡こわいっ♡知らんっ♡こんなん知らんってぇ……♡たすけ、て♡あ゛っ♡またイぐぅ♡」
過呼吸に近くなっている口を咄嗟にキスで塞いだ。淫魔は一瞬だけ震えた後で、舌をこちらに入れてきた。労わるように舌を絡ませる。怖くないよ、と言う代わりに、背中を軽く叩いてやる。
「んちゅ♡じゅる♡んんっ♡ふ♡はあっ♡んっ……♡」
「落ち着いた?」
「ん……♡」
「疲れてるなら今日はこのぐらいで……」
「嫌や……最後までシたい……♡兄さんまだイってへんやん……?俺、兄さんのザーメン、お尻で受け止めたいんよ……♡でもぉ……俺もう腰抜けて動けへんから……♡兄さんに動かして欲しいなぁ……♡」
「こ、こう……?」
オナホールを使う時の手つきを思い出しながら、淫魔の腰を掴んで揺さぶる。
「んっ♡あっ♡あっ♡ありがとうございますっ♡にーさんが♡俺の身体でぇっ♡おまんこでぇ♡はぁっ♡チンポシコってくれとるぅ♡嬉しいっ……♡」
腸襞が収縮して、俺に快感を与えて射精を促すのが、わかっ、て……。快楽に奉仕されてる心地よさを感じる……。
「ごめんっ……淫魔さん、俺っ……!」
「なんで謝るん?ええよ♡兄さんの精液欲しいわぁ……♡」
生温い紐のようなものが急に腰に巻きつき、密着を強制される。淫魔の尻尾が絡みついてるんだと分かった時には、もう自分の限界が見えてきていた。
「兄さんがびゅーびゅーって吐き出すお精子……♡溺れるぐらい飲ませてや……♡」
欲望に濡れた視線と、言葉が、自分に向けられていると心から理解した瞬間に、身体と頭のペースがようやく合わさった。
「っ……!」
溜まっていた精液が全部一気に迸ってるのではないかと思うぐらいの解放感。生まれてこの方こんなに出したことがあっただろうか。
「あ゛~~~~~♡兄さんのザーメン♡俺のナカにたっぷり出とるっ♡せーえき♡せーえき美味しっ♡はあっ♡あ♡んんっ……♡」
金玉に残っている最後の一滴まで搾り取ろうとするみたいに、淫魔が腰をくねらせる。
「んっ……んふ……♡はあっ……♡あっ……♡ごちそうさまぁ……♡」
ふにゃっと笑いながらしなだれかかる。肩口に当たる荒い呼吸は、まだ熱い。
「しゃ、シャワー浴びる、よね?」
「んー……汗は流したいけど、もうちょっとだけ、ぎゅーってさせてな♡」
「……うん」
ふと床に目を落とすと、朝掃除したフローリングはいろんな液体でびしゃびしゃになっていた。
……やっぱり、ベッドですればよかったかも……。

「あの、名前……なんて読むの?」
「■■■やけど」
「……え?」
急に難聴になったのかと思うほど、彼がなんと言ったのかわからなかった。名前のところだけが、意味を持たないノイズにすら聞こえた。
「淫魔の本名ってな、人間には聞き取れんし発音もできひんのや。せやから俺のことは……そうやな、サキュバスくんとでも呼んでくれや♡」
淫魔改めサキュバスくんに見守られながら、書類にペンを走らせる。住所も名前も生年月日も、何度も書いてるはずなのに、初めて書く文字かのように緊張してしまう。
「か、書けた……」
「ちょい見せてみ」
「ちゃんと書けてるよ?」
「アホか。兄さん一回やらかしとるんやからダブルチェックせんと安心できんわ」
「あっ……」
ぐうの音も出ない。男性型淫魔が来たことに慌てふためいていたせいで、サキュバスくんが持ってきたパートナーシップ宣誓書の淫魔側の記入欄は全て記入済みだったことにすら気付かなかったことは秘密にしておこう。
うっかり者だと思われてしまう。
「ん、問題なさそうやな。これが受理されたら俺らは正式なパートナーや」
ふたり分の情報が書かれた紙一枚。吐息でめくれるほど軽いくせに、詰まってる意味はあまりにも重い。
「あ、一緒に役所まで出しに行って、『これから毎日このイケメン淫魔とドスケベセックスします♡』ってアピールする?♡」
「郵送するよ」
「アピれや」
……サキュバスくん、もしかしてノロけたがり?
「レターパック買いにコンビニ行こうと思うけど、一緒に行く?」
「行くけど、デートとしてはノーカンやからな」
受理証明が役所から届いたのは、一週間後のことだった。
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