独裁国家の王女に生まれたのでやりたい放題して生きていきます!〜周りがとんでもなさすぎて普通なのに溺愛されるんですが!?〜

パクパク

文字の大きさ
3 / 17

第三節:兄姉が全員濃すぎて情報量が限界です

しおりを挟む
家族が、また部屋に来た。

というか、日に何回も来る。
生後一週間の赤ちゃんに、だ。みんな忙しいんじゃないの? 王族なんでしょ? 政務とかさあ?

 

でも、何かっていうと「リアナの様子を見に来た」って顔をして現れる。

 

今日は、第一王子から順番に、ぞろぞろ来た。

 

「妹。今日の具合はどうだ?」

 

現れたのは、第一王子・シグルド兄さま。
銀髪に鋭い赤い瞳。20代前半くらいかな?
見た目だけで言えば、“絶対に戦場で敵を皆殺しにして帰ってくるタイプ”。実際、そういう人らしい。

 

「戦場では冷酷無比で通ってるが、妹の寝顔には勝てん」

 

って言って、私のほっぺに指で触れてくる。

やさし~~く。繊細に。

 

(あの……ギャップ、えぐない? ていうか、あの指、絶対剣で何人も倒してるやつだよね……?)

 

「可愛いな……兵たちにも自慢してやりたい」

 

(やめて!? 赤ちゃんを兵士に見せびらかすとか、正気!?)

 

続いて、第二皇女・レオノーラ姉さま。

赤い髪、細い体。くるんと笑ってるけど、その手には何故か小瓶。
中身は……紫? いや、黒? なんか泡立ってるんだけど。

 

「妹の寝汗を分析してみたの。ほら、これ」

 

(やめろおおおお!! 寝汗を抽出しないで!?)

 

「……やっぱり、リアナの体液には特別な魔力成分が含まれてるわ。研究価値、高い」

 

(それ言い方によってはホラーだから!!)

 

第三王子・ゼクス兄さまは……一言でいうと芸術家。美形で美意識高そうで、話すことが全部ポエム。
会話はだいたいこんな感じ。

 

「リアナ……今日もその瞳は、世界の光。儚き存在よ、君は僕のミューズだ」

 

(わかったようなわからないような……)

 

第四皇女・ルチア姉さまは、物静かで氷のような雰囲気。

魔導の天才らしくて、目を見ただけで“眠りの魔法”かけてきた。

 

「リアナが泣く理由を突き止めたいの。泣き声の波動を解析中」

 

(データとらないで!? 泣いたら抱っこしてくれればいいから!!)

 

第五王子・ユリウス兄さま。
一見温和な微笑み。でも、情報収集と謀略に長けたタイプで、クラリス母から「うちの子で一番腹黒い」と評されてた。

 

「妹の視線の動きから、好みの人物相関を作ってみたよ。これ、君が将来誰を好むかの予測データ」

 

(だからデータ取らないでって言ってるでしょ!? ていうか恋愛予測って何!?)

 

そして、全員が帰る時に私の頬を撫でながら、必ず言う。

 

「また来るね、妹」

 

「いい子にしててね、リアナ」

 

「次は、僕の絵をプレゼントするよ」

 

(……もう、全員、濃すぎんだよ!!!)

 

前世では、同僚にすら名前覚えてもらえなかった私が――
今じゃ、このカリスマ兄姉たちに1日3回ずつ通われてるんだけど!?

 

(というか、仲良くしてるの、私の前だけだよね?)

 

なんとなくわかる。
私が部屋にいない時、あの兄姉たちが顔を合わせると……たぶん、空気が凍る。
誰もが自分以外を信用していない。敵視してる。でも、私の前だけは、それをしまい込んでいる。

 

(……逆に、私ってどんな立場なん?)

 

まあでも、今のところ――

悪くない。

やばい人たちだけど、家族だし、ちゃんと私を大事にしてくれてるのはわかるし。

それに、毎日なにかしらのツッコミどころがあるから、飽きない。

 

(……この調子で、“自由気ままな王女ライフ”、やっていけるかな)

 

そう、心の中でほっと息をついた……その瞬間。

 

「リアナ様、貴族学園入学の準備、早めに進めておくべきかと!」

 

(まだ喋れない赤ちゃんだよね!?)

 

──私の人生、やっぱり自由にはさせてくれない気がしている。

今日も、朝から使用人たちがざわついていた。

「第六皇女殿下、本日もお目覚めが麗しゅうございます!」
「本日、寝返り1回、あくび2回、泣きなし! 異常なし!」
「本日も……尊い……」

 

(ちょっと待って。寝返り1回で報告書作られてる!?)

 

生まれてから一週間と少し。
私はだんだんとこの世界の“異常さ”に慣れてきた。が、この国の人間たちの反応だけは慣れない。

 

今日、私は――

 

泣き止んだだけ。
本当に、それだけだった。

 

寝起きで少しぐずったけど、クラリス母の手が優しかったから安心して、すぐ落ち着いた。

ほんとにそれだけ。それなのに――

 

「……やはり、奇跡の御子……!」

「癒しの力があるに違いない。殿下のお泣きになる声には、魔を祓う浄化の波動が……」

「これ、聖女の再来じゃない!? いや、神子か!? いや、もはや女神では!?」

 

(いやいやいやいや、どっから出てきたそのワード!? 神格化が早すぎんだよ!!)

 

極めつけは、宮廷神官までやってきたこと。

ひげもじゃの年配男性が、厳かな顔で私の前に立ち、跪いたかと思えば――

 

「……第六皇女リアナ殿下は、きっと我らが信仰する“光の乙女”の生まれ変わりです……!」

 

(知らない信仰キターーーー!!!)

 

周囲の侍女や従者たちが、全員「やはり……!」みたいな顔でうなずいてるのが、余計に怖い。

 

「浄化の象徴……」
「癒しの女神……」
「平穏の微笑み……」

 

なんか二つ名が勝手に増えていってるんですけど!?

 

(やめて。マジでやめて。私はただの元社畜OLなんですけど!!)

 

それだけじゃなかった。

今日のお昼、母・クラリスにミルクを飲ませてもらったあと、私は無意識に笑ったらしい。
美味しかったし、なんか落ち着いたから。

 

「ふふ、よく飲めたわね」

 

その声があたたかくて、つい「にっこり」してしまった。

 

そしたら――

 

「――っ……!」
「い、今……微笑まれた……!」
「ご覧になりましたか!? あの慈愛に満ちた笑顔!」
「まさに、癒しの光……! 万民の希望が、あの笑みに宿っている……!!」

 

(勝手に希望とか託さないでくれない!?)

 

国中に響く勢いの大騒ぎ。

使用人だけじゃなく、見学に来ていた貴族の奥方たちまでが感動して泣いてる。
え、なんで? 赤ちゃんが笑っただけで、なんで泣くの??

 

そして夜。
今日一日の“リアナ様の奇跡的行動まとめ”が、正式な報告書として国王に提出されたらしい。

王「……ほう、今日も順調のようだな。笑ったか。ふ……可愛い奴め」

 

(うちの王、表情硬いのに“娘が笑った”ってだけでめっちゃテンション上がってない!?)

 

そしてその報告は、翌朝には国内の貴族ネットワークを通じて――

 

「第六皇女、微笑む」

という見出しで、王都中に広まっていた。

 

(マスコミ!? マスコミ的なやつ!?)

 

街の人々が口々に言う。

「さすがはヴァルト帝国の宝……」
「我らの未来は明るい……!」
「ついに救いが現れた……!」

 

(ちょっと待って、国民の精神状態大丈夫!? 私、一回笑っただけなんだけど!?)

 

こうして私は――

泣き止んだだけで、笑っただけで、
「この国の希望」扱いになってしまった。

 

いやほんとに。

 

(この国、いろんな意味で末期じゃない!?)

 

 

──けれど、まだ私は気づいていなかった。

この「過剰な期待」が、やがて予想外の溺愛展開と権力バトルを引き寄せるということを。

 

(……えっ、私の人生、ほんとに自由に生きられるの!?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜

よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」  ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。  どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。  国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。  そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。  国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。  本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。  しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。  だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。  と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。  目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。  しかし、実はそもそもの取引が……。  幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。  今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。  しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。  一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……? ※政策などに関してはご都合主義な部分があります。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

処理中です...