せっかく転生したのに田舎の鍛冶屋でした!?〜才能なしと追い出された俺が300年鍛冶師を続けたら今さらスキルに目覚めた〜

パクパク

文字の大きさ
29 / 36

第二十九話:火の市の幕開け

しおりを挟む

 街の外れの坂道を登りきったとき、まず最初に感じたのは、鼻の奥を突くような熱気だった。
 煤と鉄の匂い、そして焦げた油の残り香。それが、風に乗って押し寄せてくる。

 

 眼下に広がっていたのは、まさに“火の街”だった。

 

 《鉄環大市》。
 年に一度、各地から腕利きの鍛冶師たちが集い、その技と誇りをぶつけ合う巨大な市。

 

 建物は古びた石造りと仮設の木組みが入り混じり、通りには鍛冶炉がずらりと並んで煙を上げていた。
 炎の音と鉄の打撃音、怒鳴り声と笑い声が混ざり合い、まるで街そのものが一つの巨大な工房のようだった。

 

 リノは背筋を少し伸ばし、目を細めながら前を見据えていた。

 

「……相変わらずだな、ここの空気は」

 

「来たことあるのか?」

 

「一度だけ。でも、その時は見学だけ。参加者として来たのは初めてだよ。
 ……けど、なんかちょっと、火が入るね」

 

 リノの横顔に宿る微かな興奮に、思わず笑みがこぼれる。
 珍しく、彼のほうが前のめりだ。

 

 人混みを抜け、俺たちは市の中心部へ向かった。
 《武具試し》──それが、この市最大の目玉。
 優勝者には莫大な賞金と、名声、そして──今回は“ある遺物の地図”が贈られるという。

 

 俺にはまだ、それがどれほど大きな意味を持つか、分かっていなかった。
 ただ、リノが“そこに賭けている”ことだけは、背中越しに伝わってきた。

 

 

 受付の建物は、円形広場の一角に作られた石の仮設棟だった。
 入り口にはすでに多くの参加者たちが並んでいて、その顔ぶれは驚くほど険しい。

 

 鍛冶師たちは皆、年季の入った工具袋を腰に下げ、腕には火傷跡や古い傷。
 どこか殺気すら帯びた空気に、周囲の温度が一段下がったような錯覚すら覚えた。

 

 列に並ぶと、リノがふっと笑った。

 

「こういう空気、苦手?」

 

「……正直、あんまり好きじゃない」

 

「俺も。でも、君はここでちゃんと目立つよ。間違いなく」

 

「期待されすぎてないか?」

 

「いや、普通にしてれば、それだけで“浮く”から」

 

 それって褒めてんのか──と返しかけたが、リノの横顔が真剣だったので、やめておいた。

 

 

 受付では、二人一組の登録が求められる。

 

 鍛冶師として、“ユルク=カナデ”
 使用者として、“リノ”

 

 記名の瞬間、リノがすこし胸を張るような仕草を見せたのが、妙に印象に残った。

 

 

 登録を終えると、今度は運命の“工房抽選”へ。

 

 主催者側が用意した十数の工房の中から、くじ引きで使用する場所が決まる。
 工房によって設備の差があるため、鍛冶師たちは一喜一憂していた。

 

 俺が引き当てたのは──第九工房。

 

 案内されたのは、やや古びた石造りの建物だった。
 炉は小さめだが、構造が素直で、空気の流れも悪くない。

 

 壁の煤は厚く、金槌の音がまだ残響しているような、静かな熱があった。

 

 俺は炉の縁に手を当てた。
 ひんやりとしていたが、どこか奥底に、火の名残が眠っているようだった。

 

「……悪くない」

 

「当たりってこと?」

 

「ああ。必要なものは揃ってる」

 

 

 その夜、簡素な宿舎を避け、工房の脇で焚き火を囲むことにした。

 

 まだ周囲は静かで、遠くの鍛冶炉から時折金属音が響いてくる。

 

 

「なあ、リノ」

 

「ん?」

 

「弓以外って、どれくらい使えるんだ?」

 

 リノは薪を崩しながら、少しだけ考えるように笑った。

 

「弓が一番長く使ってきたけどね。他のも、触ってはきてるよ。剣も、槍も、小刀も。
 でも、極めたって言えるのは……弓だけかな。
 近接戦は、いつも流されるままって感じだったし」

 

「でも、戦えないわけじゃないんだな」

 

「まあね。君がくれる武器なら、どんな形でも、戦い方に合わせて使うよ。
 だから──君が作りたいと思った形で、やってくれたらいい」

 

 

 それを聞いて、ふと浮かんだ武器の姿があった。
 細く、鋭く、しなやかで、斬り込むたびに風を裂くような刃。

 

 

「……じゃあ、“刀”をベースにしてみようか」

 

「……刀?」

 

 リノが首を傾げる。聞きなれない響きに、眉を上げた。

 

「初めて聞いたな、それ。どんな武器?」

 

「細身で斬撃に特化した形だ。刃渡りは長いけど、厚みは薄い。
 片手でも使えるように工夫して、斬る瞬間に“前へ出る意志”が宿るような……」

 

「へぇ……なんか、その説明だけで、ちょっと好きかも」

 

「実は、昔自分のために試作したことがあってな。
 でも今回は、それよりもっと“人のため”に作ってみたいと思ってる」

 

 

 リノは静かにうなずいた。

 

「そっか……なら、その“想い”も、ちゃんと刃に込めて。
 俺、ちゃんと受け取るから」

 

 

 火がぱち、と小さく弾けた。

 

 その音が、まるで“契約の合図”のように感じた。

 

 

 ──翌朝。

 

 工房に、素材が運ばれてきた。

 

 鋼材、木材、革、布、そして、複数の魔石。
 どれも主催者が用意したもので、持ち込みは禁止。
 この限られた素材の中で、最良の武器を作ることが求められていた。

 

 俺は魔石の入った木箱の前に立ち、ひとつひとつ手に取る。
 冷たく、静かな石たち。

 

 けれど──まだ、どれも“何も語ってこない”。

 

 

 “思い”が眠っている。
 それが目を覚ますには、何かが必要だ。

 

 それが何なのか、まだわからない。
 でも──必ず、この中のどこかに“声”がある。

 

 

「よし、始めよう」

 

 俺はそう呟いて、炉に火を入れた。

 

 静かに、確かに。
 工房の奥に眠っていた熱が、ゆっくりと目を覚ましていく。

 

 こうして、《鉄環大市》──
 俺たち二人の、試練の三日間が始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...