せっかく転生したのに田舎の鍛冶屋でした!?〜才能なしと追い出された俺が300年鍛冶師を続けたら今さらスキルに目覚めた〜

パクパク

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第三十六話:火の刻まれる場所へ

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鐘の音が三度、闘技場に鳴り響いた。
 試練の前半──予選の終わりを告げる音だった。

 

 リノが転送陣から戻ってくる。
 深く息を吐くでもなく、いつものように静かに歩いてきて、俺の隣に立った。

 

 控室には、戦いを終えた者たちの空気がこもっていた。
 緊張はまだ途切れていない。
 これから先に、最後の戦いが控えていることを、誰もが知っていた。

 

 

「これより、決勝進出者の発表を行う」

 

 魔声具から、審査員の淡々とした声が響いた。
 すぐに名前が読み上げられていく。

 

「エントリーNo.03──鍛冶師エルガン、使用者ヴィス」
「エントリーNo.05──鍛冶師キアナ、使用者ノヴァ」
「エントリーNo.07──鍛冶師ユルク、使用者リノ」

 

 俺たちの名前が最後に呼ばれた瞬間、
 空気がほんの少しだけざわついた。

 

 ギリギリの通過。
 でも、それで十分だった。

 

「……三番目、か」
 リノがつぶやいた。

 

「最下位通過ってやつだな」
 俺が笑うと、彼も肩をすくめるようにして、わずかに口角を上げた。

 

「まあ、悪くない。足りなかったなら、決勝で出せばいいだけだから」

 

 

 そのひとことに、妙な重さはなかった。
 気負いもなければ、余裕もない。
 ただ、刃物のような静かな集中だけがあった。

 

 

 観客の歓声が一気に高まり、
 同時に足元の石床が震え始めた。

 

 会場全体が、動く。
 地鳴りにも似た轟音と共に、闘技場の中心が回転し、
 三つの円形のフィールドが浮かび上がるようにせり上がっていく。

 

 透明な魔力障壁が張られ、それぞれが明確に分断される。
 物理的な干渉はできない。だが、視線は届く。
 声も、わずかに通る。

 

 それは、“競い合い”であると同時に、
 “見せ合う”場でもあった。

 

 

 リノの視線が、すっとフィールドに向かう。
 何も言わない。だが、その姿勢に、言葉は要らなかった。

 

 刀の柄に軽く手を添えながら、静かに踏み出す。

 

「緊張してるか?」
 俺はふと聞いてみた。

 

 リノはわずかに目を細めた。

 

「してるよ。……でも、それでいいんだと思う。
 無くなったら、それはもう俺じゃないから」

 

「そうか」

 

 俺は頷いた。
 それが彼の“戦う形”なのだと、思った。

 

 

 そのときだった。

 

「決勝魔物──《深紅喰らい(スカーレット・グラット)》を召喚する」

 

 

 その名が読み上げられた瞬間、空気が変わった。

 

「……深紅、なんて?」

 

 俺は聞き返すように呟いた。
 知らない名だった。魔物の種類にも詳しくはない。

 

 けれど、周囲の反応がすべてを物語っていた。

 

 「本物かよ……」
 「マジで呼ぶつもりか……」
 「緊急討伐級だったはずだぞ……!」

 

 それまで静かだった控室に、ざわめきと小さな悲鳴が走る。

 

 そして、観客席すらもざわついていた。
 それは、期待ではない。驚愕と、恐怖。

 

 

 リノはその反応を背に受けながら、構わずに進んでいく。
 俺は思わず言葉をかけた。

 

「知ってるのか、あれ……」

 

「名前と、ちょっとだけ。
 でも、どんな敵でも──俺がやることは変わらない」

 

 それだけ言って、彼はフィールドへと向かった。

 

 

 やがて、三つの戦場の中央に、赤黒い魔法陣が出現する。
 空気が重くなる。
 金属を擦るような甲高い音が響き、赤い煙が巻き上がる。

 

 

 姿を現したのは──

 

 六本の脚を持ち、皮膚全体が刃へと変質した異形。
 赤黒い体に、目だけが沈黙のように輝いていた。

 

 魔物は咆哮せず、ただ、音を発していた。
 ギィィ……ギチ、ギギ……

 

 それは、金属が歪む音だった。

 

 

 俺の背中に、冷たい汗が伝う。

 

 ここまでの二体とは、あきらかに“別格”だった。
 姿を見ただけで、そう思えた。

 

 けれど、リノはその場で刀を引き抜くことはなかった。
 静かに、鞘の上から柄に手を添えたまま、敵を見据えていた。

 

 火は、まだ灯っていない。
 だが──その場にいる誰もが、気づいていた。

 

 この決勝は、“試し合い”では終わらない。

 

 命が、踏み込んでくる。
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みんなの感想(1件)

FrozenNexus
2025.04.10 FrozenNexus

なぜ主人公は置き去りにされる前に父親の様子を確認しなかったのか?

解除

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