『  』

ちかライダー

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であい  その3

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 屋敷の縁側で、月を眺める道満どうまん
 
            綺麗な満月。


『なんで、オニの気配は消えたんだ』

道満どうまんの横に、背丈150センチくらいの髪の長い子が一緒に座っている。

切れ長の目元から冷たい印象を受けるが、頬がふっくらとしているためとても可愛らしくもある。

「お主が来て、この屋敷も賑やかになったな」

別の話が飛んできた。
 ヒトの話を聞いているハズなのに、時折別方向から話を被せてくることもある。


          一方通行の会話。

切れ長の子は 『またか…』 と、ばかりにこれ以上の言葉を止めた。

「俺は、この季節が1番好きだ」
月明かりに照らされた庭の真ん中に、静かに垂れる木がある。

      その木は、桜の木だ。

桜の枝には、今にも咲きそうな蕾がふっくらといくつも付いている。

道満どうまんは、笑みを浮かべその木を見つめている。

「この桜は、初夏を迎えるこの時期にしか花を咲かさない、珍しい木なんだ」

     『・・・・・・』

月明かりに照らされ、桜の蕾はゆっくりとその身を動かした。

 綺麗に開花したその桜は、蒼白あおじろく月明かりに照らされている。

淡い桃色に咲く桜はとても可愛らしいイメージがあるが、この桜は青っぽい色でとても清楚なイメージがあり・とても神秘的だ。

「桜の寿命は永い、 人間のとは比べ物になら無いほどに」

道満どうまんは、遠い眼差しで桜を見つめる。

「初めて、お主が襲ってきた日が懐かしいなぁ。
  あの日の事は、今でも覚えている」

道満どうまんの横にいる子。
 そう、あの日からしつこく命を狙っていた『オニ』である。

2度の敗北で、闘争心を削ぎ落とされてしまってからは、この屋敷で腕を磨きながら道満どうまんのもと、式神たちと過ごしていた。

あの時とは比べ物にならない程に身なりを整えられている。
 いや、整えさせられた… この言葉が正しいか。

道満どうまんに仕える式神たちが、
主様ぬしさまに仕えるのなら、汚い格好は許さん!〉

 と、無理矢理とばかりに綺麗に整えさせられた。

「お主に『蒼桜あお』と、名付けたいのだが」

さわさわと、涼しくも爽やかな夜風と共に、道満どうまんは唐突にささやくように話しかけた。

 その風に乗って、桜の枝がゆっくり揺れる。

『オレは負けたあの日、好きにしろと言ったハズだ。
 オレは、あの日に死んだんだ。 お前が呼びたいもので呼べ』

その言葉に道満どうまんは、笑みを溢した。

 夜風に吹かれ、ゆっくり揺れる桜は月明かりに照らされると、とても綺麗にその姿を映してくれる。

『この花いいな… 好キダ』
蒼桜アオは、小さく言った。

桜の花を褒めつつも内心は、自分に付けてもらった名前を気に入っているようにも聞こえる。

道満どうまんには素っ気なく言ったが、嬉しさが漏れてしまうほど、その可愛らしい頬がすべてを表していた。

本人は気付いていないだろうが、道満どうまんはその仕草を見逃さず、気に入ってくれたことに満足していた。

〈蒼桜、アオッ! 良い名前、主様ぬしさまスゴイ!〉
蒼桜アオですか、涼風すずかぜと同系ですね〉
〈ハァ!? 全っっ然似てねぇだろ! コイツと一緒にすんじゃねぇ、すい!〉

 道満どうまんの式神3体が現れた。

薙刀なぎなたを振りかざし戦う、戦闘専門の〈涼風すずかぜ〉。
 美しい顔立ちをしているが、気性は荒く・口も悪い。

私生活がだらしないあるじの身の回りなどのお世話をする双子の姉弟、
 おっとりした性格の〈緑生りょくせい〉。
 しっかり者のお姉さん的存在の〈すい〉。

式神とも、すっかり打ち解けた『蒼桜アオ』。

 4体は、騒がしくも・愉しく道満どうまんの屋敷で暮らしていた。








        月日は流れた。


 どんなに強い力を持っていても・地位や権力・財力を持ってしても、生在る者はいつかその命を終わらせる。

      最強の陰陽師と言われた蘆屋道満あしやどうまんであっても例外ではない。

この理から逃れることはできない。


道満どうまんは、式神たちに・蒼桜アオに・友人である実哉さねちかに、見守られながらその生涯を静かに終えた。


あるじが亡くなれば、その式神は消え・紙に返るのだが、3体は変わりなくその場に存在していた。

 このまま放置はできないとその式神と・蒼桜アオのため、自分が持てる権力を使い、道満どうまんの屋敷を残した。

「これなら、お前たちも気兼ねなく生きていけるだろう。
 俺には、こういうことしか出来ないけど、たまには菓子でも持って顔を見せにくるよ」

実哉さねちかは、悲しそうな表情を見せていた。

 〈実哉さねちか様、我々のためにありがとうございます〉
すいは、深々と頭を下げた。

〈さねちか、ありがとう! これで、ヌシサマのために生きれる!〉
緑生りょくせいは、ピョンピョン跳ね回って喜んでお礼を言った。


この屋敷に人などが無闇に入り込まないように、緑生りょくせいは敷地全体に結界を張り直し、力無き者の侵入を防いだ。


 実哉さねちかは、手を振り屋敷を後にした。


道満どうまんは前に言った。  大きな力が、この土地を支配する… と』

道満どうまん様が占ったこの時代には来なかった。
   しかし、俺らがまだ消えてないのには必ず意味があるハズだ〉

蒼桜アオ涼風すずかぜ実哉さねちかの後ろ姿を見送りながら話していた。



   『オレたちに出来ることを懸命ニ』
   〈俺たちに出来ることを懸命に〉





オニは消えたわけではない・・・・・    
                消エナイ・・・・・



ソコに居ル、   ソコに居ナイ。

                  でも、、、、、
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