『  』

ちかライダー

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DRUG  2

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 朝。 あいなの足は重い。
 学校へ行く足がいつもより重く感じる気がする。

 あの時の事が頭から離れない…。
「私は、あの花びらを食べた…
  でも、特に身体とかに変化は見えない。
    ひとつだけだったから? まだ、何も起きないわけ?
  それとも、実はもう…自分が気付いてないだけで、本当は…」

 そんなことを一人考えている。
 ボッチとして周りから話しかけられなったのは慣れた。

「あ、い、なちゃーん♪︎」
 いや、そうだ。 それでも話しかけてくる… ちょっかいを出してくる者はいた。
 あのグループだ。
 今日も、嫌がらせをすべくあいなへと近付く。
「おい、俺らが来てんのに挨拶できねぇのかよ」
「おい、キミカからもなんか言ってやれよ」
 男子がけしかけて話す。

 だが、なんかおかしい。
 まわりはいつもの乗りでちょっかいをかけようとしているのだが、キミカだけは違っていた。

「別に… 別に好きにすれば…」

 そう言うと、キミカは一人でどっかへ行ってしまった。

 突然の事に、みんな驚いて私の事はそっちのけにキミカを追っていったので、あいなはひとり取り残された。

 そのあと、何もなくその日は終わった。

 次の日も、その次の日も…。

 キミカは、なにもしてこなかった。
 キミカの一言で動いていた集団だから、キミカがなにもしなければあいなは苛められることはなかった。
 
 あの日から、キミカはとても静かに過ごすようになっていた。

 周りが話しかけてきても、上の空。
 空返事はするが、それ以外は返ってこない。

 チャイムが鳴り、今日も普通に授業が始まった。
 そして、それは起きた。

 3時限目のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
「はい、昨日の続きです。
   132ページ開いて…」

 授業が始まる。
 しかし、その中1人微動だにしない人物がいた。
 その子は、教科書すら出していなかった。
不思議に思った横の席の子が声をかけた。
「キミカ? 先生来てるよ」
 小声で話しかけるが、本人は聞こえてないのか机を見つめうなだれているだけだった。
 
 すると、突然にその子は立ちあがった。
静かな空間で、椅子の擦る音が響いた。

 突然、優等生が立ち上がったため周りはざわつきはじめた。
 それに気付き、先生が優等生に注意するが、声が聞こえてないのか立ったまま動かない。

 「前橋! 何してる? 早く座りなさい」
 
先生が注意をすると、キミカは突然
「ギョケェッケッケッケッケッケッケッ!」
 と、聞いたことのない叫び声をあげた。

 その声は、けたたましく教室に響き、室内みんなが驚いた。

 優等生のまさかの奇行に近くにいた生徒は、その場から離れた。
 先生もあまりの事に、動揺している。

 目を見開き、奇声を発しているキミカはとても恐ろしかった。
教室が騒がしいと、他の場所からも先生が来た。
 キミカの姿を見て、最初は驚いていた先生たちも落ち着くように声掛けして近付いた。

 すると、電池が切れたかのように動かなくなったキミカは、そのまま気を失って先生にもたれかかるように倒れた。
 先生が呼び掛けても、全く反応をしめさない。

 すぐに担架で保健室へと運ばれたが、騒ぎのせいでその階は暫くざわついていた。

 キミカの姿を目の当たりにして、あいなは動悸が収まらなかった。
 あいなだけじゃない、他にも数人…。
  「もしかして… もしかして…」

 キミカはその後すぐに意識を取り戻し、本人の意向もあってそのまま保健室で休むことになった。
 親が迎えに来ると、キミカはそのまま一緒に帰っていった。

 その日は、ざわつきのまま終わった。

 次の日、キミカは学校を休んだ。
 次の日も… その次の日も。

 あいなはキミカがおかしくなった日から、あのお店を必死に探したが、見つけることは出来なかった。

 キミカが休んだ次の日から、ひとり・またひとりと、いじめグループが学校へ来なくなった事で、あいなを苛めるものはいなくなった。

 学校へ来ていたとしても、あいなを避けるように誰ひとり近付くものはいない。

 あいなは怖がっていた。
花びらをもらった日から、何となくキミカな様子は変わっていった。
 違うかもしれない… でも、もしかしたら…。

 キミカがおかしくなったあの日、いじめグループが接触してきた。
「おい! お前が何かしたんだろ!」
 当然だが、あいながなにか出来るわけがない。
 だが、もしかしたらあの渡した物が怪しいものだったかもと疑っているのだ。

 しかし、あの花びらはあいなも口にしている。
 当のキミカ本人が、無理矢理口に入れたのだからむしろ被害者だ。

 実はあの後、キミカに進められていや半ば強引にみんなあの花びらを口にしてしまっている。
 
 でも、特になにもないし。
あいなにも、何も起きていないようだから、安心していたようなのだが、今日目の当たりにキミカの奇行を見て怖くなった。

   「自分は悪くない」
 
 それを守りたいため、弱い人間に牙を剥く。

「キミカがあんな風になるのはおかしいだろ!」
 自分等を正当化したいのだろう。
動揺を暴力で隠そうとしている。
拳が当たる瞬間、遠くで誰かの声が聞こえる。

その声に驚き、グループは吐き捨てる言葉を投げてどっかへ行った。

 毎日探しているが、見つからない。

今日も学校終わり、商店街へと向かっていると… カバンの中から音が鳴る。
 確かめると、スマホに通知が来ていた。

  「まさか」

あいなは、すぐに確かめた。
    
【ご無沙汰しております。
体調はいかがですか?
もし、お時間がありましたら
こちらまでどうぞ】

あれだ! あいなはすぐに地図をたどり、そのお店に急いだ。

「こんなとこ… だったかな?」
前来た道だったか… 違うか…
違うような、そうだったような、半信半疑な気持ちで地図に従い歩いていく。

「ここだ」

 白い可愛らしいお店、あの店だ。
あいなが店の前で立っていると、店の扉が開いた。

「いらっしゃいませ、どうぞ…」
目元に仮面をつけた店主が、中へと招き入れる。
あの女性ひとだ。
あいなは、招かれるまま店へと入った。

 「あ、あの…」
あいなが話そうとするが、その言葉遮るようにあいなの顔に近付いてきた。
 あいなはその行動の驚いた。
店主は、まじまじとあいなの顔を見て、驚いた後に笑みを浮かべた。

「ふーん、なるほど… フフッ」
小声で何か言っている。
離れた店主は、言葉を続けた。

「あれほど、過剰摂取はお止めくださいと、御忠告したのに…」

    ドキッ!

あいなは驚いた。
「あ、あの! 頂いた花びらを食べたも知れない子が倒れて、、その日から学校に来なくて、あの…」
聞きたいことが先走り、言葉が追い付かない。

店主は、特に反応を示すわけなく話を聞いていた。
「…さっき、"過剰摂取"と言ってましたが、もしかして食べすぎたから、あの子は倒れたのですか?」
ドキドキして、あいなは聞いた。

 その問いに店主は答えてくれない。
「あ… あの子は、大丈夫なのですか?」
あいなは聞いた。
 その質問に店主は少し首をかしげた。

「あんなことをした相手を、貴女は… 助けたいの?」

 まさかの質問に、あいなはすぐに言葉がでなかった。
「…わかりません、、 私はいじめられてました。
正直、あの人たちは大嫌いです。
 あの時も、最初は "ザマァ" と、思ってたんですけど… その反対に、なんかイヤだなぁ… って思ったりして」
 復讐の気持ちもあるが、その反面そんなことしてあの人たちと同じ分類みたいになるのもイヤだなぁと、思う複雑な気持ち。

「なるほどねぇ…」
そう言うと、店主はあいなを残して奥へと消えた。

 ひとり残されたあいなは、どうすればいいかわからずそのまま待っていた。
店主はすぐに戻ってきた。
そして、小瓶を差し出した。

 あの時もらった小瓶と一緒、中には花びらが数枚入っている。

あいなは困惑した。
「こ、これは受け取れません!
もらうつもりで、ここへ来たかったわけじゃありません」
両手を前にして、受け取るのを拒否した。
 しかし、店主はその手を優しく取り言った。

「貴女に不必要なのは残念だけど、これは持っておくと良いわ。
きっと、必要になるから…」
そう言うと、店主はあいなの手に小瓶を握らせた。
 とても美しく笑う店主をあいなは少し怖く感じた。

《フフ、ダイジョウブ。
貴女はこのまま、時間の流れるまま… そのまま身を任せておけば良いから》

ーそう、このまま運命のままにー
あいなの耳元で店主が囁く。
 甘いいい香りがする。

あの時と一緒、、あいなは夢心地に包まれた。

《もう少し、、モウ少シ…
その前に、アノ子ネズミたちをどうしましょうかしら…》

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