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その2(オモテ)

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「王太子殿下が亡くなられたそうだ」


朝。
いつの間にか寝てしまっていたのか、慌しい騒音に目が覚めた。

まだ顔も洗わぬうちに、父親が部屋に入ってくる。
その顔はなんとも重々しい。

公爵令嬢として、身なりが整わないうちに人に会うのは父親とて恥ずかしいものがある。これは一言言ってやらねばならない。
そう思って口を開きかけたとき、その前に父親が口を開いた。


王子が、亡くなった...?


「お父様?なんのご冗談ですの?」

「冗談ではない。今朝方王太子殿下が亡くなられた姿で発見されたらしい。」

ええ?メインヒーローのあの腹黒イケメン王子が?イケメンなだけで私のタイプではないのに俺のこと追いかけるのはやめてくれオーラを常に私に向けて放っていたあの王子が?とっても優秀らしくて腹黒くて抜け目がないから王子目掛けて爆弾を投下したとしてもなんか策を考えて回避して死なさそうなあの王子が!?

「亡くなられた原因は捜査中だが、お忍びで出かけられていた最中に何かしらの事故があったらしい」

え?もしかしてそれってヒロインとの出会い用の?
学園入学前日に出会ったイケメンが次の日入学式で生徒代表やっちゃってる展開用の初顔合わせのお忍びで!?
まさかの!?


「国葬を執り行う予定だが取り急ぎ沙汰があるまでは自宅で待機するように。本日の入学式は中止するとのことだ」


「は、い。わかりましたわ。」

おっと、いけない。
貴族たるもの、常に動揺を悟られないようにしなくてはならないのにとっても動揺してしまった。

急展開すぎてついていけないけどとりあえずここはどこの世界なの?
時間が巻き戻ってると思ってたけどもしかして違う世界線にワープしてるだけ?
え?
乙女ゲームの世界に転生したと思ってたけど違う系なの?似て非なるもの?急に怖くなってキマシタヨー



心の中は現在進行形で落ち着くことなく慌しいが、とりあえず平静を装ってメイドに顔洗う用の湯を持ってくるよう指示をする。

平静に....
平静に........




--------------



「リズ、聞いたよ。王太子殿下が亡くなられたって。」

「アシュフォード様.........」


午後。衝撃的な訃報を聞いてから約5時間とちょっと。
来客があったという知らせを聞いて、応接室に入ると、開口一番客人がそう口を開いた。

青みがかった銀髪に、右耳に長めのピアスをしている背の高い男性。
私と同い年で、幼い頃に共に我が領地で過ごした仲である。
現時点では、幼少以来交流はないはずなのに、まるでずっと交流があるかのように親しげに語りかけてくるこの男は、次期魔塔主と呼ばれるほど魔力を保有している乙女ゲーム内の攻略対象者であり、私の想い人でもある。

というかどうして愛称呼びなの、仮にも王太子の婚約者にこんな親しげにしてはダメだと思う。王太子の婚約者だった、が正しいのだろうけど。


「そんな堅苦しい呼び方はやめて、昔のようにアッシュって呼んで?リズ...」

コテン、と首を傾けると右耳のイヤリングがユラユラと揺れる。

いや、現時点でそんなに親しくないのに愛称呼びできるわけないよ!と思うも親しくないからダメだなんて言葉にできない。こちらは親しくしたいのだ。断る理由が正直ない。

「....アッシュ...」
「リズ!」
「!!?」

しばし思案した上で昔のように愛称で呼んだ瞬間、花が綻ぶように満面の笑みで近づかれて抱きしめられた。
流石にこれは動揺しかない!

「アシュフォード様!?や、やめてくださいまし」

顔が赤くなる。
貴族たるもの、顔に動揺を出してはダメなのに!
思わずアッシュの胸に手を置いて拒否すると、肩に手を置かれて顔を覗き込まれる。近すぎる!

「リズ、照れないで?それに呼び名が戻ってるよ」

「あ、アッシュ!とりあえず離れてくださいまし!それに我が家にはどういったご用件でいらしたのかまだ聞いてませんわ」

バッと顔を逸らしながらさらに胸を突っぱると、案外すんなり離れてくれた。

「どういうご用件って...
それはもちろん」


ふんわりと笑うアッシュが眩しい
眩しすぎて、次に聞こえて来た言葉がうまく理解できなかった。


「リズを迎えにきたんだよ?」
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