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その1

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爽やかなある昼下がりのことだった。
空は青く澄み渡っていて、庭の木々が緑々しい。

教室の窓から風がはいってきて、ふんわりとカーテンを揺らしている。

「キリアンはいいよな、聖女といい感じでさ」

幼馴染のクラスメイトの声が、廊下を歩いている自分の耳に聞こえてきたのは偶然だった。
キリアン、という名前に自然と体が反応したのかもしれない。

「今日も聖女と街でデートみたいだぜ」
「あー、どうりで若干浮き足立ってたわけだ」
「キリアンめ...」

今しがた自分の耳に聞こえてくる話題の人物は、幼馴染であり、なおかつ私の想い人でもあるキリアンだった。

キリアンが....聖女様と、いい感じ...


今日は私の、買い物に街まで付き合ってくれるはずじゃなかったのか。
最近はお互い忙しくてあまり交流がなかったけど、自分が買い物に街に出かけると知って危ないからと付いてきてくれると申し出たのはキリアンだった。

なのに。
嬉しかったのに。

じんわりと目が潤った。
失恋と同時に約束をすっぽかされるところだったのだ。なんて悔しいんだ。

「キリアンめ...」


ポツリ、呟いて。
キリアンに今日の予定をどうするのかを聞くためにきた教室を後にする。
もう用はないのだ。

当初の予定通り一人で街に繰り出してやる。






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