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「東京駅ってだけで、合流はできるのかしら」
東京駅に着いたのはいいが、詳しい場所までは指定してこなかった蓮水に、小夜は若干の不信感を抱いていた。
普通は、何か目印がある場所を待ち合わせに使うのではないか。
出会えず、無駄な時間を過ごす羽目になるのではないかという不安に襲われながら、駅の改札を出た瞬間、声をかけられた。
「こっちだよ、星宮さん」
よく通る声に呼ばれ、声のした方に顔を向ければ、間違いなく蓮水が立っていた。
ほっとしたことに、相変わらずの黒マスクで、彼の服装は以前よりスッキリしているものの、かっちりとした服装といった感じではない。
「お待たせしました」
まさか、待ち合わせの二十分も前に着いたのに、先に居るとは思ってもいなくて小夜は驚いた。
「待ってないよ。俺も東京駅は詳しくなかったから、待ち合わせ場所の細かい指定が出来なかったんだ。ここで待ってれば、確実だと思ったけど、星宮さんが早くに来て驚いたよ」
「それはこっちの台詞ですよ。まさか、もういるなんて思いもしませんでした」
「お互い似た者同士だな。さて、また移動なんだ」
「目的地は東京駅ではないんですか?」
「そっ。あっちの駐車場に車を停めてあるから、行こうか」
促されるまま駅から出て、ビルの立ち並ぶ横道を歩いていくと、コイン駐車場に辿り着いた。
蓮水の後に着いていくと、一台の車の前で止まった。
ポケットの中から鍵を取り出して、ボタンを押したのか車のランプが点滅する。
「先に車で待ってて。精算してくるから」
助手席のドアを開けながら、そう言う蓮水に頷き、緊張しながら中へと乗り込んだ。
小夜は車の免許は持っておらず、乗用車に乗るのは実家に帰省した時以来である。
ドアが閉められ、緊張をほぐすために深呼吸をしたが、車内に嫌な匂いはない。
てっきり煙草や香水、芳香剤の匂いがするものだと思っていただけに、匂いに敏感な小夜は安心した。
片頭痛持ちで、あまりキツい匂いは体調がイマイチな時には頭痛を誘発してしまうため避けている。
他人の車というプライベート空間に、駄目だと思っていても興味が湧いてきて、少しだけ見回してみた。
けれど、バックミラーに何かがぶら下がっていることも、後部座席に物が散乱しているなんてこともない。
「何か面白いものでもあった?」
運転席がドアが開いて、顔を覗かせた蓮水の第一声はそんな言葉だった。
「特にはありませんね。むしろ、綺麗すぎて普段は乗っていないのかと思いました」
「運転することが好きだから普段から乗ってる。ただ、車の中に物を置くのが好きじゃないだけだよ。それより、これね」
差し出されたのは、よく見かけるコーヒー店のテイクアウト容器だった。
「ありがとうございます。でも、いつの間に」
「ん? すぐそこにあったから、飲みたくなったんだよ」
マスクを外してコーヒーを一口飲んだ蓮水は、エンジンをかけると滑らかな操作で車を駐車場から出し、大通りの車の流れにのった。
確かに、運転している様子を見ていると、常に車を運転しているんだなと思える動きだった。
急ブレーキや急加速もなく、無謀な運転はしない心地良い動きだ。
そんな滑らかな動きのまま、車は高速道路へと入っていく。
流れていく景色を見ながら、手にしているカップに口をつけると、濃厚なミルクティーが喉を潤してくれる。
なぜ好みが分かるのだろうか。
不思議な気持ちで運転している蓮水の横顔に視線を向ければ、視線に気がついたのか彼の口元が弧を描いた。
「そんなに熱心に見つめられると、照れるな」
「好きなミルクティーだったから、君の観察力の良さに驚いたんだよ」
「そりゃあ、好きな相手の行動はよく見るもんだろ」
「そういうものなのね」
誰かを好きになるということがなかった為、小夜にとっては不思議な感覚だった。
「星宮さんは、動物を飼ったことは?」
「犬と生活していましたよ」
「なら、犬のことが大事だから、色んな行動に目を配るし、好きな物とか把握するだろ? それと一緒だよ」
「それならわかる気がします」
「していたってことは、今は?」
「中学生の時に子犬で迎えて、十四歳で虹の橋を渡りました。今は、実家にも居ません」
「それは寂しいな」
「ええ。あのぽっかりと穴が空いてしまったような感覚に耐えきれなくなって、私は実家を出て一人暮らしをはじめたんです」
「へぇー、俺が持ってるイメージよりも、一人暮らし歴は短いんだな」
「ええ。私にとって、あの子──エルは犬という事実よりも、姉妹であり、一番の理解者の親友であり、無くてはならないソウルメイトだったんです。家から離れて、あの子の短い犬生を一日でも取り零すなんて出来なかった」
「……羨ましいな」
「羨ましい、ですか?」
小夜はどのことだろうかと思った。
蓮水には姉がいる。
だとしたら、親友かソウルメイトだろうか。
「ああ、あんたにそれだけ思われているのがだよ」
「蓮水さんは変わってますね。こういった話をすると大抵の人は、たかが犬と笑うのに」
「そんなバカ野郎がいたら、殴ってるよ。その人の大切な存在を誰かが馬鹿にする権利はない。俺の家では全員が怒りそうだ」
「蓮水さんも犬好きなんですか?」
「そうだよ。子どもの頃から、祖父母の家にジャーマンシェパードがいたし、実家にもゴールデンレトリバーがいたんだよ。この間帰省した時には、保護施設から迎えたシベリアンハスキーとサモエドが実家に居たな」
「うわぁー、夢のような空間ですね。素敵です」
「ははっ。まさか、犬の話題が一番星宮さんの気を惹けるとは思わなかったよ」
道路やサイドミラーから目を話すことなく、蓮水は可笑しそうに笑った。
「変ですか?」
「変じゃない。そういう星宮さんだから好きになったんだ」
車は渋滞にはまることなく、順調に進んでいく。
時々、標識が目に入るが、横浜方面に行くことくらいしか小夜には分からない。
一体、蓮水が連れて行ってくれる先に何があるのだろうか。
「まだ行き先は秘密なんですか?」
「まあ、あと少しとだけ言っておこうかな。それよりも、もっと俺の知らない星宮さんを知りたいな」
「お互い、知らないことだらけですから、蓮水さんのことも教えてくれるのなら、教えてあげますよ」
「いいね。じゃあ、定番のことから聞こうかな。誕生日はいつ? 俺は七月七日の七夕だよ」
「なかなか濃い日が誕生日なんですね。私は、一月二十七日です」
「付き合う前に終わってなくて良かった。その日は一緒に祝わせて」
「もういい歳ですよ? 祝うほどのことでも」
「俺は出会えたことも含めて祝いたいんだよ」
愛犬エルの誕生日も、必ず祝っていた小夜だが、自分の誕生日を楽しみにしていたことはない。
両親はケーキや好きな食べ物を用意してくれていたが、ただ一つ歳を取るだけで、何かが変わることはない、ただの一日にすぎないと思っていた。
基本的に、新年すら小夜にとっては何でもない日だ。
ただ、一年が終わって新たな一年が始まるだけ。
三十一日にカウントダウンをする気持ちすら分からない。
その日をカウントダウンしたからといって、何かが劇的に変化する訳じゃない。
イベントに関して、小夜は恐ろしいほどに無関心だった。
ただ、好みの小物が出るからハロウィンだけは好んでいる。
仮装や馬鹿騒ぎには興味が無いが、心躍る小物が多いのだ。
「嫌いな食べ物は?」
「極端に酸っぱかったり、辛かったりする物と貝類、モツ、イクラ、ウニですかね。蓮水さんはあまりなさそうですね」
「いや、あるよ? 辛いものは無理かな。あとは、豚骨ラーメンとドリアンとか」
「ドリアンは分かります。口に入れて匂いがキツいなと思うものも好きじゃないです」
「何だか食の好みも合いそうだな」
車は速度を落として出口へと進んでいく。
場所は、横浜だった。
蓮水は慣れた様子で車を進める。
ここまで来るのにナビは使っていないし、迷うことなく駐車場に停める所から、来るのに慣れている場所なのが伺えた。
「さっ、到着」
「ここに何があるんですか?」
「それは本当の目的地に着いてからのお楽しみってことで。少し歩き回るけど、平気?」
「はい。お店の中を歩き回るより、外を散策するのは好きです」
「良かった。それも、新しい発見だ」
車から降りて駐車場を見回せば、カップルが楽しそうに腕を組んだり、手を繋いで同じ方向に歩いて行くのが見えた。
恋人同士とはああするものなのだろうか。
横を歩く蓮水を見上げれば、困ったように笑った。
「別に無理して手を繋ぐものじゃないよ」
「少し不思議に思って」
「不思議?」
「正直、歩きづらくないのかと。ああしていると、突然の動作のときに相手を振り回してしまいそうで」
「試してみる?」
可笑しそうな顔をしながら、蓮水は右手を差し出してきた。
実験という意味では興味深く、小夜はおずおずと彼と手を繋いだ。
すると、わずかだが蓮水はほっとしたような顔をした。
「行こうか。ゆっくり歩けば、そこまで歩きづらくはないと思う」
のんびりと、用水路沿いに裏道を歩いて行く。
自然の景色と環境が好きな小夜にとっては、建物に囲まれている環境は楽しいものではないが、時々すれ違う犬たちに癒やされ苦痛ではなかった。
開けた道に出ると、流石の小夜も行き先が分かり始めた。
「赤レンガ倉庫ですか?」
「よく分かったな。来たことが?」
「はい。たまにエルを連れてこの辺を散歩したことがあります。でも、大抵は空いている平日に来ていたから、イベントを何かしているとかは知りませんでした」
「良かったよ。イベントの常連だったらどうしようかと思った」
「何のイベントなんですか?」
赤レンガ倉庫の広場に近づくにつれて、賑わうスケートリングが見えてきた。
その隣には、ずらっとテントが並んでいる。
そして、その先にはイベントを象徴するように大きなツリーが見えていた。
「クリスマスのイベント?」
「正確には、クリスマスマーケットだな。こういうのは、好きじゃない?」
「いえ、ずっと興味があったんですけど、なかなか一人で人混みに行くのが得意ではなくて、いつも諦めていたんです」
「夜の方がイルミネーションとかは綺麗なんだろうけど、昼間の方が人が少なくてゆっくり見られると思ったけど……この時間でも混んでるな」
「これくらいなら、混んでない方なのでは?」
よくテレビで紹介される時は、まるで竹下通りのように身動きの取れなさそうな印象だったが、早い時間だからか人は多く見えるがまばらだ。
「雑貨を見てから、食事をしよう」
初めてのクリスマスマーケットの熱気に、少しだけ圧倒されながら頼もしい手に引かれて、先ずは雑貨のお店が並ぶ方へと向かった。
スノードームやオーナメント、おしゃれな形をしたマグカップなど、普段は目にしない海外の商品に小夜は目を輝かせた。
商品を手にしようとする時には自然と蓮水は手を離し、次の店に移る時にはまた繋ぎ直される。
自然な動きに、彼の対応の良さを見た。
「何か良いものはあった?」
「記念の日付が入ったマグカップの形が丸くて可愛いんですよね。でも、普通の形のマグカップは絵柄が可愛くて……悩みます」
「じゃあ、丸い方は星宮さんが買って、こっちは俺が買って贈ってもいい?」
「でも、それは悪いです」
「いつか家に招待してくれた時に、それでお茶を入れてよ」
「うっ……なかなかズルイ手を使いますね。それじゃあ、断りづらくなります」
「じゃあ、決定だ。すみません、このマグカップをお願いします」
「ありがとうございます。プレゼント用の包装はしますか?」
「お願いします」
「はい、ではお会計は──」
蓮水が会計をしている間に、自分用に買おうと思っていた丸いポット型のマグカップの絵柄を選んで、もう一人の店員に会計をしてもらった。
これは自分の分だからと、小夜は包装は断る。
それでも、箱に入れてくれ、梱包材で包むという作業をしてくれ、紙袋の持ち手にはアメニティの小さなオーナメントまで付けてくれた。
小さなオーナメントは、柊のリースと鳩の形で可愛らしい。
これなら、クリスマスツリーが無くても飾っておきたくなる。
「可愛い」
口からは自然と言葉が零れ出ていた。
「ありがとうございます。手作りなので、個数限定なんですよ」
「わぁー、今日連れて来てもらえて良かったです」
紙袋を手に先に会計を終わらせていた蓮水に近づくと、彼は紙袋を掲げて見せた。
そこには、クリスマスらしいトナカイと星のオーナメントが付けられていた。
「ありがとうございます、連れてきてくれて」
「喜んでもらえて良かった。そろそろ、時間だから食事にしよう」
「ここで食事を摂るんですか?」
「こっちかな」
周りを見ても、外のテーブルは人がいっぱいで、どうにも落ち着いて食べられそうにない。
どうするのだろうかと手を引かれてついていくと、係員のいる区画に辿り着いた。
戸惑いながら、係員と蓮水のやり取りを見ていると、彼はスマホの画面を見せている。
画面を確認した係員は、すぐに入口の柵を開けてくれ、中に通して案内してくれたのは、小さな建物だった。
「ごゆっくりお過ごしください」
開けてくれた扉の中には、可愛らしい部屋が待っていた。
テーブルと二脚の椅子と、クリスマス感満載のモミの木があり、天井からは草花がぶら下がっている。
まるでおとぎの国のような空間に、小夜の心はキュンとしてしまった。
「この部屋か。予約の段階では内装は選べなくて、星宮さんが気にいるといいんだけど」
「最高です。こういう空間が好きなんです」
「そうなの? もう少し大人っぽい落ち着いた感じではなく?」
「はい。似合わないのは承知なんですけど、おとぎ話のような空間が好きです」
「へー、意外だな」
「この歳で恥ずかしいんですけどね」
入口の近くに荷物を置く場所があり、紙袋は割れないようにそこに置いた。
「とりあえず何か買ってこよう」
「一緒に行きますよ」
「いや、疲れただろ? 座って待っててくれ」
「何言ってるんですか。疲れでいったら、蓮水さんの方が運転もしてくれたんですから疲れているでしょ? 私が買ってきますよ」
「いや、重いだろうし……わかった。一緒に行こう」
渋々と言わんばかりに納得した蓮水と小夜は、屋台のエリアに近づいた。
看板にすべての店のメニューが載っていて、番号がふってあり分かりやすい。
「ドイツ料理があるんですね。私の行ってみたい国です」
「たしかメルヘンの国って言われているもんな。じゃあ、この八番の店でドイツのフランクフルトとフライドポテトを買おう。デザートはチュロスがいいいかな」
「そうしたら、手分けして買った方が早そうですね」
「そうだな。じゃあ、星宮さんはデザートと飲み物を頼む」
「分かりました。飲み物は何がいいですか?」
「うーん、アルコールを摂る訳にはいかないから、ココアで」
「分かりました。買い物が終わったら、個室のエリアの近くで待ち合わせましょう」
小夜は蓮水と別れて、まずはチュロスを買うと、隣の店でホットココアを二つ買ってどうにか手に持ち、待ち合わせ場所に行った。
その途中、女性たちが話す声が小夜の耳に届いた。
「ねえ、あの人絶対かっこよくない?」
「あの背の高い人のこと?」
「そう、マスクで隠れてるけど、絶対かっこいいって。滲み出る気品もあるし」
「でも、二人分の食べ物持ってるってことは、ぜったい連れがいるでしょ」
「えー、せっかくの大当たりなのにぃ……」
「もー、ここにはナンパに来たんじゃないんだから、行くよ」
小夜はちょうどすれ違った二人の女性を見ることはできなかった。
確実に、小夜よりも小洒落ていて美人で、自分に自信のある女性たちだ。
蓮水の連れが、自分だなんて知られたくない。
知られた途端に彼女たちが、どんなことを口走るかと思うと憂鬱な気持ちになって、心臓が嫌な音を立てはじめている。
なんだか息苦しい。
女性の値踏みする様子が、小夜は昔から苦手だ。
似合わない。
誰かのほうが似合う。
趣味が悪い。
どれも、よく誰かが誰かを批判する時に聞こえてきた言葉たちだ。
昔から、考えすぎだと言われる小夜の悪い癖なのだろうが、変えようのないものはあるのだから仕方がない。
小さくため息を吐くと共に視線を下げると、手にしていたココアが目に入って、冷めてしまうという気持ちが小夜の足を前に進める。
目ざとい蓮水は、すぐに小夜に気がついた。
「星宮さん、買えました?」
「はい。そこまで混んでなかったので」
「じゃあ、戻りましょか」
器用に片手で荷物を持った蓮水が扉を開けてくれ、中に入ると外よりかは暖かく、ほっと肩の力が抜けた。
テーブルに食べ物と飲み物を並べて、二人で席につくと用意のいい蓮水は、ウェットティッシュを取り出し小夜にも差し出した。
「それじゃあ、食べよう」
「いただきます」
使い捨てのフォークとナイフで蓮水はフランクフルトを切り分け、ポテトも半分づつに盛り付けてくれた。
それにお礼を言って食べ始める。
肉汁の入ったフランクフルトは、これまで食べたことがないほど美味しく、手が止まらない。
ココアは、少しだけ冷めて温くなっていたため、すぐに飲むことができた。
クリームも入っているからかマイルドで、そこまで甘ったるくなくほんのりと温まる。
食事もそこそこ終わった頃、蓮水は両手でカップを持ちながら落ち着かない様子だった。
「どうかした?」
「あー、一つ提案があるんだけど」
「なんですか?」
蓮水は、何度か口を開いては閉じるということを繰り返して、ようやく心が決まったのか小夜を見つめた。
「まだ、付き合い始めて時間は経っていないけど……お互い、名前で呼ばないか?」
「名前……」
「俺は、会社の外では星宮さんを“小夜”って呼びたい。ずっと、そう思ってた」
自分の名前を呼ぶのは、両親と仲の良い後輩くらいしかいない。
異性である蓮水の口から、自分の名前が紡がれると、なんともむず痒い気持ちになるが悪くない。
「構いませんよ」
「ほんとか! ちなみに、小夜は俺の名前は」
「“久遠”ですよね?」
そう小夜が呼ぶと、驚いたことに久遠は両手で顔を覆ってしまった。
「久遠? どうしたの?」
続けてそう呼べば、テーブルに突っ伏してしまい、発言を止めるように片手を上げた。
「こんなに威力が強いとは思わなかった。ニヤけそうになる顔をどうにかするから、少し待って」
名前を呼ばれるなんて、その見た目ではこれまでに何度もあっただろうに。
不思議な気持ちのまま、過ぎていく時間に小夜は小さな幸せを感じていた。
その後、個室の制限時間ギリギリにどうにか体を起こした蓮水は、事あるごとに小夜の名前を呼んでは、それに答える彼女に口元を緩めた。
東京駅に着いたのはいいが、詳しい場所までは指定してこなかった蓮水に、小夜は若干の不信感を抱いていた。
普通は、何か目印がある場所を待ち合わせに使うのではないか。
出会えず、無駄な時間を過ごす羽目になるのではないかという不安に襲われながら、駅の改札を出た瞬間、声をかけられた。
「こっちだよ、星宮さん」
よく通る声に呼ばれ、声のした方に顔を向ければ、間違いなく蓮水が立っていた。
ほっとしたことに、相変わらずの黒マスクで、彼の服装は以前よりスッキリしているものの、かっちりとした服装といった感じではない。
「お待たせしました」
まさか、待ち合わせの二十分も前に着いたのに、先に居るとは思ってもいなくて小夜は驚いた。
「待ってないよ。俺も東京駅は詳しくなかったから、待ち合わせ場所の細かい指定が出来なかったんだ。ここで待ってれば、確実だと思ったけど、星宮さんが早くに来て驚いたよ」
「それはこっちの台詞ですよ。まさか、もういるなんて思いもしませんでした」
「お互い似た者同士だな。さて、また移動なんだ」
「目的地は東京駅ではないんですか?」
「そっ。あっちの駐車場に車を停めてあるから、行こうか」
促されるまま駅から出て、ビルの立ち並ぶ横道を歩いていくと、コイン駐車場に辿り着いた。
蓮水の後に着いていくと、一台の車の前で止まった。
ポケットの中から鍵を取り出して、ボタンを押したのか車のランプが点滅する。
「先に車で待ってて。精算してくるから」
助手席のドアを開けながら、そう言う蓮水に頷き、緊張しながら中へと乗り込んだ。
小夜は車の免許は持っておらず、乗用車に乗るのは実家に帰省した時以来である。
ドアが閉められ、緊張をほぐすために深呼吸をしたが、車内に嫌な匂いはない。
てっきり煙草や香水、芳香剤の匂いがするものだと思っていただけに、匂いに敏感な小夜は安心した。
片頭痛持ちで、あまりキツい匂いは体調がイマイチな時には頭痛を誘発してしまうため避けている。
他人の車というプライベート空間に、駄目だと思っていても興味が湧いてきて、少しだけ見回してみた。
けれど、バックミラーに何かがぶら下がっていることも、後部座席に物が散乱しているなんてこともない。
「何か面白いものでもあった?」
運転席がドアが開いて、顔を覗かせた蓮水の第一声はそんな言葉だった。
「特にはありませんね。むしろ、綺麗すぎて普段は乗っていないのかと思いました」
「運転することが好きだから普段から乗ってる。ただ、車の中に物を置くのが好きじゃないだけだよ。それより、これね」
差し出されたのは、よく見かけるコーヒー店のテイクアウト容器だった。
「ありがとうございます。でも、いつの間に」
「ん? すぐそこにあったから、飲みたくなったんだよ」
マスクを外してコーヒーを一口飲んだ蓮水は、エンジンをかけると滑らかな操作で車を駐車場から出し、大通りの車の流れにのった。
確かに、運転している様子を見ていると、常に車を運転しているんだなと思える動きだった。
急ブレーキや急加速もなく、無謀な運転はしない心地良い動きだ。
そんな滑らかな動きのまま、車は高速道路へと入っていく。
流れていく景色を見ながら、手にしているカップに口をつけると、濃厚なミルクティーが喉を潤してくれる。
なぜ好みが分かるのだろうか。
不思議な気持ちで運転している蓮水の横顔に視線を向ければ、視線に気がついたのか彼の口元が弧を描いた。
「そんなに熱心に見つめられると、照れるな」
「好きなミルクティーだったから、君の観察力の良さに驚いたんだよ」
「そりゃあ、好きな相手の行動はよく見るもんだろ」
「そういうものなのね」
誰かを好きになるということがなかった為、小夜にとっては不思議な感覚だった。
「星宮さんは、動物を飼ったことは?」
「犬と生活していましたよ」
「なら、犬のことが大事だから、色んな行動に目を配るし、好きな物とか把握するだろ? それと一緒だよ」
「それならわかる気がします」
「していたってことは、今は?」
「中学生の時に子犬で迎えて、十四歳で虹の橋を渡りました。今は、実家にも居ません」
「それは寂しいな」
「ええ。あのぽっかりと穴が空いてしまったような感覚に耐えきれなくなって、私は実家を出て一人暮らしをはじめたんです」
「へぇー、俺が持ってるイメージよりも、一人暮らし歴は短いんだな」
「ええ。私にとって、あの子──エルは犬という事実よりも、姉妹であり、一番の理解者の親友であり、無くてはならないソウルメイトだったんです。家から離れて、あの子の短い犬生を一日でも取り零すなんて出来なかった」
「……羨ましいな」
「羨ましい、ですか?」
小夜はどのことだろうかと思った。
蓮水には姉がいる。
だとしたら、親友かソウルメイトだろうか。
「ああ、あんたにそれだけ思われているのがだよ」
「蓮水さんは変わってますね。こういった話をすると大抵の人は、たかが犬と笑うのに」
「そんなバカ野郎がいたら、殴ってるよ。その人の大切な存在を誰かが馬鹿にする権利はない。俺の家では全員が怒りそうだ」
「蓮水さんも犬好きなんですか?」
「そうだよ。子どもの頃から、祖父母の家にジャーマンシェパードがいたし、実家にもゴールデンレトリバーがいたんだよ。この間帰省した時には、保護施設から迎えたシベリアンハスキーとサモエドが実家に居たな」
「うわぁー、夢のような空間ですね。素敵です」
「ははっ。まさか、犬の話題が一番星宮さんの気を惹けるとは思わなかったよ」
道路やサイドミラーから目を話すことなく、蓮水は可笑しそうに笑った。
「変ですか?」
「変じゃない。そういう星宮さんだから好きになったんだ」
車は渋滞にはまることなく、順調に進んでいく。
時々、標識が目に入るが、横浜方面に行くことくらいしか小夜には分からない。
一体、蓮水が連れて行ってくれる先に何があるのだろうか。
「まだ行き先は秘密なんですか?」
「まあ、あと少しとだけ言っておこうかな。それよりも、もっと俺の知らない星宮さんを知りたいな」
「お互い、知らないことだらけですから、蓮水さんのことも教えてくれるのなら、教えてあげますよ」
「いいね。じゃあ、定番のことから聞こうかな。誕生日はいつ? 俺は七月七日の七夕だよ」
「なかなか濃い日が誕生日なんですね。私は、一月二十七日です」
「付き合う前に終わってなくて良かった。その日は一緒に祝わせて」
「もういい歳ですよ? 祝うほどのことでも」
「俺は出会えたことも含めて祝いたいんだよ」
愛犬エルの誕生日も、必ず祝っていた小夜だが、自分の誕生日を楽しみにしていたことはない。
両親はケーキや好きな食べ物を用意してくれていたが、ただ一つ歳を取るだけで、何かが変わることはない、ただの一日にすぎないと思っていた。
基本的に、新年すら小夜にとっては何でもない日だ。
ただ、一年が終わって新たな一年が始まるだけ。
三十一日にカウントダウンをする気持ちすら分からない。
その日をカウントダウンしたからといって、何かが劇的に変化する訳じゃない。
イベントに関して、小夜は恐ろしいほどに無関心だった。
ただ、好みの小物が出るからハロウィンだけは好んでいる。
仮装や馬鹿騒ぎには興味が無いが、心躍る小物が多いのだ。
「嫌いな食べ物は?」
「極端に酸っぱかったり、辛かったりする物と貝類、モツ、イクラ、ウニですかね。蓮水さんはあまりなさそうですね」
「いや、あるよ? 辛いものは無理かな。あとは、豚骨ラーメンとドリアンとか」
「ドリアンは分かります。口に入れて匂いがキツいなと思うものも好きじゃないです」
「何だか食の好みも合いそうだな」
車は速度を落として出口へと進んでいく。
場所は、横浜だった。
蓮水は慣れた様子で車を進める。
ここまで来るのにナビは使っていないし、迷うことなく駐車場に停める所から、来るのに慣れている場所なのが伺えた。
「さっ、到着」
「ここに何があるんですか?」
「それは本当の目的地に着いてからのお楽しみってことで。少し歩き回るけど、平気?」
「はい。お店の中を歩き回るより、外を散策するのは好きです」
「良かった。それも、新しい発見だ」
車から降りて駐車場を見回せば、カップルが楽しそうに腕を組んだり、手を繋いで同じ方向に歩いて行くのが見えた。
恋人同士とはああするものなのだろうか。
横を歩く蓮水を見上げれば、困ったように笑った。
「別に無理して手を繋ぐものじゃないよ」
「少し不思議に思って」
「不思議?」
「正直、歩きづらくないのかと。ああしていると、突然の動作のときに相手を振り回してしまいそうで」
「試してみる?」
可笑しそうな顔をしながら、蓮水は右手を差し出してきた。
実験という意味では興味深く、小夜はおずおずと彼と手を繋いだ。
すると、わずかだが蓮水はほっとしたような顔をした。
「行こうか。ゆっくり歩けば、そこまで歩きづらくはないと思う」
のんびりと、用水路沿いに裏道を歩いて行く。
自然の景色と環境が好きな小夜にとっては、建物に囲まれている環境は楽しいものではないが、時々すれ違う犬たちに癒やされ苦痛ではなかった。
開けた道に出ると、流石の小夜も行き先が分かり始めた。
「赤レンガ倉庫ですか?」
「よく分かったな。来たことが?」
「はい。たまにエルを連れてこの辺を散歩したことがあります。でも、大抵は空いている平日に来ていたから、イベントを何かしているとかは知りませんでした」
「良かったよ。イベントの常連だったらどうしようかと思った」
「何のイベントなんですか?」
赤レンガ倉庫の広場に近づくにつれて、賑わうスケートリングが見えてきた。
その隣には、ずらっとテントが並んでいる。
そして、その先にはイベントを象徴するように大きなツリーが見えていた。
「クリスマスのイベント?」
「正確には、クリスマスマーケットだな。こういうのは、好きじゃない?」
「いえ、ずっと興味があったんですけど、なかなか一人で人混みに行くのが得意ではなくて、いつも諦めていたんです」
「夜の方がイルミネーションとかは綺麗なんだろうけど、昼間の方が人が少なくてゆっくり見られると思ったけど……この時間でも混んでるな」
「これくらいなら、混んでない方なのでは?」
よくテレビで紹介される時は、まるで竹下通りのように身動きの取れなさそうな印象だったが、早い時間だからか人は多く見えるがまばらだ。
「雑貨を見てから、食事をしよう」
初めてのクリスマスマーケットの熱気に、少しだけ圧倒されながら頼もしい手に引かれて、先ずは雑貨のお店が並ぶ方へと向かった。
スノードームやオーナメント、おしゃれな形をしたマグカップなど、普段は目にしない海外の商品に小夜は目を輝かせた。
商品を手にしようとする時には自然と蓮水は手を離し、次の店に移る時にはまた繋ぎ直される。
自然な動きに、彼の対応の良さを見た。
「何か良いものはあった?」
「記念の日付が入ったマグカップの形が丸くて可愛いんですよね。でも、普通の形のマグカップは絵柄が可愛くて……悩みます」
「じゃあ、丸い方は星宮さんが買って、こっちは俺が買って贈ってもいい?」
「でも、それは悪いです」
「いつか家に招待してくれた時に、それでお茶を入れてよ」
「うっ……なかなかズルイ手を使いますね。それじゃあ、断りづらくなります」
「じゃあ、決定だ。すみません、このマグカップをお願いします」
「ありがとうございます。プレゼント用の包装はしますか?」
「お願いします」
「はい、ではお会計は──」
蓮水が会計をしている間に、自分用に買おうと思っていた丸いポット型のマグカップの絵柄を選んで、もう一人の店員に会計をしてもらった。
これは自分の分だからと、小夜は包装は断る。
それでも、箱に入れてくれ、梱包材で包むという作業をしてくれ、紙袋の持ち手にはアメニティの小さなオーナメントまで付けてくれた。
小さなオーナメントは、柊のリースと鳩の形で可愛らしい。
これなら、クリスマスツリーが無くても飾っておきたくなる。
「可愛い」
口からは自然と言葉が零れ出ていた。
「ありがとうございます。手作りなので、個数限定なんですよ」
「わぁー、今日連れて来てもらえて良かったです」
紙袋を手に先に会計を終わらせていた蓮水に近づくと、彼は紙袋を掲げて見せた。
そこには、クリスマスらしいトナカイと星のオーナメントが付けられていた。
「ありがとうございます、連れてきてくれて」
「喜んでもらえて良かった。そろそろ、時間だから食事にしよう」
「ここで食事を摂るんですか?」
「こっちかな」
周りを見ても、外のテーブルは人がいっぱいで、どうにも落ち着いて食べられそうにない。
どうするのだろうかと手を引かれてついていくと、係員のいる区画に辿り着いた。
戸惑いながら、係員と蓮水のやり取りを見ていると、彼はスマホの画面を見せている。
画面を確認した係員は、すぐに入口の柵を開けてくれ、中に通して案内してくれたのは、小さな建物だった。
「ごゆっくりお過ごしください」
開けてくれた扉の中には、可愛らしい部屋が待っていた。
テーブルと二脚の椅子と、クリスマス感満載のモミの木があり、天井からは草花がぶら下がっている。
まるでおとぎの国のような空間に、小夜の心はキュンとしてしまった。
「この部屋か。予約の段階では内装は選べなくて、星宮さんが気にいるといいんだけど」
「最高です。こういう空間が好きなんです」
「そうなの? もう少し大人っぽい落ち着いた感じではなく?」
「はい。似合わないのは承知なんですけど、おとぎ話のような空間が好きです」
「へー、意外だな」
「この歳で恥ずかしいんですけどね」
入口の近くに荷物を置く場所があり、紙袋は割れないようにそこに置いた。
「とりあえず何か買ってこよう」
「一緒に行きますよ」
「いや、疲れただろ? 座って待っててくれ」
「何言ってるんですか。疲れでいったら、蓮水さんの方が運転もしてくれたんですから疲れているでしょ? 私が買ってきますよ」
「いや、重いだろうし……わかった。一緒に行こう」
渋々と言わんばかりに納得した蓮水と小夜は、屋台のエリアに近づいた。
看板にすべての店のメニューが載っていて、番号がふってあり分かりやすい。
「ドイツ料理があるんですね。私の行ってみたい国です」
「たしかメルヘンの国って言われているもんな。じゃあ、この八番の店でドイツのフランクフルトとフライドポテトを買おう。デザートはチュロスがいいいかな」
「そうしたら、手分けして買った方が早そうですね」
「そうだな。じゃあ、星宮さんはデザートと飲み物を頼む」
「分かりました。飲み物は何がいいですか?」
「うーん、アルコールを摂る訳にはいかないから、ココアで」
「分かりました。買い物が終わったら、個室のエリアの近くで待ち合わせましょう」
小夜は蓮水と別れて、まずはチュロスを買うと、隣の店でホットココアを二つ買ってどうにか手に持ち、待ち合わせ場所に行った。
その途中、女性たちが話す声が小夜の耳に届いた。
「ねえ、あの人絶対かっこよくない?」
「あの背の高い人のこと?」
「そう、マスクで隠れてるけど、絶対かっこいいって。滲み出る気品もあるし」
「でも、二人分の食べ物持ってるってことは、ぜったい連れがいるでしょ」
「えー、せっかくの大当たりなのにぃ……」
「もー、ここにはナンパに来たんじゃないんだから、行くよ」
小夜はちょうどすれ違った二人の女性を見ることはできなかった。
確実に、小夜よりも小洒落ていて美人で、自分に自信のある女性たちだ。
蓮水の連れが、自分だなんて知られたくない。
知られた途端に彼女たちが、どんなことを口走るかと思うと憂鬱な気持ちになって、心臓が嫌な音を立てはじめている。
なんだか息苦しい。
女性の値踏みする様子が、小夜は昔から苦手だ。
似合わない。
誰かのほうが似合う。
趣味が悪い。
どれも、よく誰かが誰かを批判する時に聞こえてきた言葉たちだ。
昔から、考えすぎだと言われる小夜の悪い癖なのだろうが、変えようのないものはあるのだから仕方がない。
小さくため息を吐くと共に視線を下げると、手にしていたココアが目に入って、冷めてしまうという気持ちが小夜の足を前に進める。
目ざとい蓮水は、すぐに小夜に気がついた。
「星宮さん、買えました?」
「はい。そこまで混んでなかったので」
「じゃあ、戻りましょか」
器用に片手で荷物を持った蓮水が扉を開けてくれ、中に入ると外よりかは暖かく、ほっと肩の力が抜けた。
テーブルに食べ物と飲み物を並べて、二人で席につくと用意のいい蓮水は、ウェットティッシュを取り出し小夜にも差し出した。
「それじゃあ、食べよう」
「いただきます」
使い捨てのフォークとナイフで蓮水はフランクフルトを切り分け、ポテトも半分づつに盛り付けてくれた。
それにお礼を言って食べ始める。
肉汁の入ったフランクフルトは、これまで食べたことがないほど美味しく、手が止まらない。
ココアは、少しだけ冷めて温くなっていたため、すぐに飲むことができた。
クリームも入っているからかマイルドで、そこまで甘ったるくなくほんのりと温まる。
食事もそこそこ終わった頃、蓮水は両手でカップを持ちながら落ち着かない様子だった。
「どうかした?」
「あー、一つ提案があるんだけど」
「なんですか?」
蓮水は、何度か口を開いては閉じるということを繰り返して、ようやく心が決まったのか小夜を見つめた。
「まだ、付き合い始めて時間は経っていないけど……お互い、名前で呼ばないか?」
「名前……」
「俺は、会社の外では星宮さんを“小夜”って呼びたい。ずっと、そう思ってた」
自分の名前を呼ぶのは、両親と仲の良い後輩くらいしかいない。
異性である蓮水の口から、自分の名前が紡がれると、なんともむず痒い気持ちになるが悪くない。
「構いませんよ」
「ほんとか! ちなみに、小夜は俺の名前は」
「“久遠”ですよね?」
そう小夜が呼ぶと、驚いたことに久遠は両手で顔を覆ってしまった。
「久遠? どうしたの?」
続けてそう呼べば、テーブルに突っ伏してしまい、発言を止めるように片手を上げた。
「こんなに威力が強いとは思わなかった。ニヤけそうになる顔をどうにかするから、少し待って」
名前を呼ばれるなんて、その見た目ではこれまでに何度もあっただろうに。
不思議な気持ちのまま、過ぎていく時間に小夜は小さな幸せを感じていた。
その後、個室の制限時間ギリギリにどうにか体を起こした蓮水は、事あるごとに小夜の名前を呼んでは、それに答える彼女に口元を緩めた。
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