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謎の乗客

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気づけば、汽車の中で私は寝ていた。
車内の人口密度は、私が最初に乗ったガラガラの時よりも多くなっており、立っている人もちらほらいた。私は自分の大きな鞄を手繰り寄せて、車窓を見た。外は暗かった。ただ、私はエルフ族だ。夜目は人間族よりも効く。よく凝らして車窓を覗き込むと、驚くべきことが光景が広がっていた。

「あれ?森は?」

思わず声が漏れてしまった。すると、隣に座っていた蛇人が急に笑った。私は笑い声に引きつられるように蛇人を見た。

「お嬢ちゃん、森なんてもんはここにはねぇぜ。寝ぼけてんのかい?」
「あっ、いや、別に…」

私はなんか負けた気がして蛇人から目を背けた。すると、蛇頭が更に笑う。

「お嬢ちゃんの気持ちは俺にはよーく分かるぜ。俺はエゾ発展地区出身だからな。つまり、俺もお上りさんだから、ここの光景にはいつもビックリさせられるってもんよ。だからそう恥ずかしがることはない」
「はぁ…」

蛇人は楽しそうに喋る。私はなんとなくアルコールの臭いを感じとった。面倒な人に出会ってしまったみたいだ。私はそう思った。

「帝国の勢いはこの帝都を見ればよく分かるってもんよ。お嬢ちゃんが来た理由は俺には分からねぇが、人生で一度ここで生活してみるとよく分かる。この国は今本当の意味で産声を上げているんだなって、そしたら俺も頑張らないといけないよな、お嬢ちゃん」
「はぁ…」

すると、蛇人は徐に自分の鞄から何かを取り出し、私に見せた。

「何か分かるか?」

蛇頭が私の元まで下りてきた。とても酒臭い。
蛇人の手を見ると、何か小さな骨のようなものだった。
そういえば、昔、父がオーリ地方の商人から鳥を使った美味しい料理があるって話をしていた。鳥の小骨ばかりで食べるところが少ないとか…。確かその名前は…

「手羽先ですか?」

すると蛇人が大笑いをした。
すると、汽車内の人々の注目はその蛇人に集まった。そして、蛇人のボロボロの服装と何故か立派な鞄、少女に絡んでいる様に。
流石の蛇人も人の目が気になってしまったらしい。
蛇人は襟を正して、席を立った。
しかし、蛇人は一つ立派な御辞儀をした後、急に姿勢を正した。

「これは失礼!いやはや、お酒の少々飲み過ぎてしまったようだ。すまない、エルフのお嬢ちゃん。私にそんなつもりはなかったにしろ、気を悪くさせてしまったかもしれない。再び言う。申し訳ない」

蛇人は思いの外、丁寧な言葉で謝罪した。しかし、蛇人はまだまだ喋り足りないようだった。私に見せた骨を高らかに上げて、話始めた。

「皆様に謝罪として、一つ、面白い話をさせていただこう。

これは、湿った暗い洞窟で夏の暑い日だろうが常に冷たい洞窟に生息している特殊な山椒魚の上腕骨だ。この山椒魚は目が見えない代わりに、ある種の魔力が備わっている。その魔力は全身から息のように噴射されており、その魔力は使って餌となる獲物を見つけることが出来る。そして、この魔力を発生させる核となっているのが、この山椒魚の骨なのだ。
見ての通り、鳥の骨のようだ。しかし、この骨の中には小さな小さな小石の様なモノが、入っており、それが振動することで、魔力を発生させるのだ。

こんな小さな骨、されど、この世に隠れている謎の一つでもある。私はこの謎を解き明かし、そして、この国に貢献しようと思っている。

さて、骨の謎を解き明かしていかにこの国に貢献するのか。それはとても純粋な質問だ。
この骨の謎、この謎の魔力を活用することで、我々は新しい技術を生み出そうと思っている。

我々は目で見ることでしかモノを捉えることが出来ない。一度、岩の隅に人が隠れてしまったとする。すると、我々はその人を捉えることが出来ない。また、我々の目では追うことが出来ない遠くにいる人を見つけたいとき、我々にはなす術がない。

この骨の技術は、これを可能にする恐ろしい兵器となるだろう。近々、帝国傘下の北方で戦争が起きるだろう。その時、私の技術は帝国を戦略的に優位に導くことが出来るだろう」

彼は深々と頭を下げた。すると、乗客のほぼ全てが驚きと拍手で彼を称賛した。私もつられて拍手をした。
すると、乗客の一人が彼に近寄った。

「もしかして貴方は昌平坂学問所のルイベル・アーリ先生ですか?」
「いかにも!私は昌平坂学問所の魔法生物解剖学第1研究室のルイベル・アーリ准教授である!」

私は驚きで立ってしまった。

「エルフのお嬢ちゃんは元気が良いな!悪くない。私の下で働くか?ハハハっ!いや、冗談だよお嬢ちゃん」

私は急いで鞄から出頭命令書を取り出した。そして、彼に見せた。すると、彼の蛇頭が驚いた表情を見せた。それから少し目を泳がせて喋り出した。

「いやはや驚いた。お嬢ちゃんが、今度来る助手だとは…あっ、あっ、マズイ。お嬢ちゃんはエルフだよな?もしかして、俺に酒の臭いはするか?」

さっきまでの雄弁さは何処へやら、蛇人は再び下人の様な口ぶりに変わった。私は無言でうなずく。すると、蛇人は言った。

「俺が飲んでいたってことは内緒ってわけにはいかないか?もちろん、タダってわけじゃあない。今後、色々とお嬢ちゃんの都合通りに計らうことだって俺には出来る」
「あっ、私は別にそんな」
「なら決まりだ。お嬢ちゃん、これは大人の約束だぞ?そういえば、名前は?」
「リューナです。リューナ・エン」

すると、蛇人はニヤリと笑った。

「別にそんなにかたくならなくていいさ。それに安心しな、お嬢ちゃんのボスは俺じゃない。まぁ、悪い奴ではないさ。俺ほど紳士じゃないけどな」
「えっ、つまり、どういう…」
「お嬢ちゃん、もう帝都に到着だ。多分、駅にお嬢ちゃんの迎えが来てるはずだ。話はまた今度ってやつだな。長旅、ご苦労、また会おう!」
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