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第一章
第4話 ハンバーグはクマさんでしょ。
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ランチタイム。
天気も良いので、外でお昼を食べようと歩いていたら、前の方から大きな声で三笠先輩の声がした。
「あ、いたいた! さーとーし!」
ニコニコ笑顔で手を振ってくる三笠先輩に気付かないフリをしながら、進路を変える。
「あれ? 聞こえないのかな? さーとーし」
三笠先輩は、更に大きな声で呼んでくる。皆が注目するので、僕は諦めて三笠先輩の方へ足早に歩いた。
「智、友達は?」
「そんなのいませんよ。それより、三笠先輩。何で黙ってたんですか?」
「何を?」
「お母さんのこと。申し訳ありませんが、ネットで調べちゃいました」
「智、ここのベンチで食べよ」
三笠先輩がベンチに座ったので、僕もその隣にストンと腰をおろした。
巾着を開けながら、三笠先輩が言った。
「別に隠してた訳じゃないよ。聞かれなかったから」
「聞く訳ないでしょ。知らないんですから」
「怒ってる?」
「怒ってはないですけど……家事代行サービス使えば良いじゃないですか」
お金がないから、僕を家政婦代わりにしているのだと思っていた。だから、お金持ちの三笠先輩にとって、本来僕は不要な存在なのではないかと思ってしまう。
だから、何が言いたいかと言えば、僕が居候するのは、迷惑でしかない。ウィンウィンな関係だから了承したが、そうでないのなら僕は出て行くべきだ。
「居候の身でアレなんですけど……僕、いらないですよね?」
「ほんと、居候の分際で図々しいね。存在意義を聞いてくるなんて」
「すみません……」
三笠先輩は、物憂げに言った。
「お小遣いはもらってるけど、稼いでるのは母親だから。あんまり使いたくないんだよね」
「めっちゃ良い息子じゃないですか」
「それに俺……」
それだけ言って、三笠先輩は黙ってしまった。
あまり深く聞くものでもないと思い、僕も静かに三笠先輩が作ったお弁当を食べる。
「美味しい」
つい頬が緩む。
「智、これもどうぞ」
三笠先輩が卵焼きを“あーん”してきたので、僕は躊躇いながらも、それをパクリと食べた。
「あれ? 僕のと味が違う。けど美味しい」
「智の味の好みがまだ分からなくて、色々作ったんだけど入りきらなくってさ。でも、これなら全部食べてもらえるね。ほら、あーん」
「はむッ、でも、これじゃ三笠先輩の食べるおかずが無くなりますよ」
そう言いながら、僕は唐揚げを三笠先輩の前に持っていった。
三笠先輩は、それを食べながら嬉しそうに言った。
「俺ら、まるでカップルみたいだね」
「グッ」
食べていたアスパラベーコンが詰まりそうになり、急いでお茶を飲んで流し込む。
「はは、智。動揺して可愛い」
「三笠先輩が変なこと言うからですよ」
「それより、出て行くなんて言わないでよ」
「居ても良いなら……宜しくお願いします」
頭を下げた僕は、ふと思い出したので言った。
「あ、今日から布団二枚ギリギリ敷けそうなので、別々の布団で寝ましょうね」
「え、マジで? 寂しいじゃん。いつもみたいに、ぎゅーッてして寝ようよ」
三笠先輩が僕の腰に手を回して、ギュッとしてきた。
「ちょ、三笠先輩。やめてくださいよ。みんな見てますって」
「良いじゃん。放っておけば。てか、誰もいないじゃん」
「いなくてもですよ。誰がいつ通るか分かんないじゃないですか」
「じゃあ、夜一緒に寝よ」
「寝ませんよ。何の為に必死で片付けたと思ってんですか」
そう、三笠先輩の部屋は六畳一間。ただでさえ狭いのに、足の踏み場もない程汚い。初日こそ別々で寝たが、この一週間、シングル布団一枚の上に二人で寝ていた。
しかも、三笠先輩は無駄に絡みついてくるのだ。ドキドキして眠れやしない。
「智、俺のこと嫌い?」
ウルウルした瞳で首をコテンとしながら上目遣いされ、ドキリとしてしまう。
「もう、三笠先輩。本当に誰か来たら勘違いされちゃいますから。離れて下さい」
「じゃあ、抱いて良い?」
「三笠先輩。言い方。もう、抱き枕でも何でもなりますから。学校ではやめて下さい」
「やった」
三笠先輩は、小さくガッツポーズを作ってから離れた。
「はぁ……」
疲れる。学校でも家でも揶揄われて、休まらない。特に無駄に顔が良いせいで、心臓がフル稼働している気がする。
これが残り三週間も続くと思うと、気が遠くなる。
だからさ、これくらいリクエストして良いよね?
「三笠先輩。今日の晩御飯、ハンバーグが良いです」
「智、ハンバーグ好きなんだ」
「子供みたいで、すみません」
「ううん。クマさんとウサギさんどっちが良い?」
「じゃ、クマさんで」
三笠先輩のペースに飲まれ、疲れることもしばしばあるが、僕はこのやり取りが案外嫌いじゃない。三笠先輩には内緒だが。
天気も良いので、外でお昼を食べようと歩いていたら、前の方から大きな声で三笠先輩の声がした。
「あ、いたいた! さーとーし!」
ニコニコ笑顔で手を振ってくる三笠先輩に気付かないフリをしながら、進路を変える。
「あれ? 聞こえないのかな? さーとーし」
三笠先輩は、更に大きな声で呼んでくる。皆が注目するので、僕は諦めて三笠先輩の方へ足早に歩いた。
「智、友達は?」
「そんなのいませんよ。それより、三笠先輩。何で黙ってたんですか?」
「何を?」
「お母さんのこと。申し訳ありませんが、ネットで調べちゃいました」
「智、ここのベンチで食べよ」
三笠先輩がベンチに座ったので、僕もその隣にストンと腰をおろした。
巾着を開けながら、三笠先輩が言った。
「別に隠してた訳じゃないよ。聞かれなかったから」
「聞く訳ないでしょ。知らないんですから」
「怒ってる?」
「怒ってはないですけど……家事代行サービス使えば良いじゃないですか」
お金がないから、僕を家政婦代わりにしているのだと思っていた。だから、お金持ちの三笠先輩にとって、本来僕は不要な存在なのではないかと思ってしまう。
だから、何が言いたいかと言えば、僕が居候するのは、迷惑でしかない。ウィンウィンな関係だから了承したが、そうでないのなら僕は出て行くべきだ。
「居候の身でアレなんですけど……僕、いらないですよね?」
「ほんと、居候の分際で図々しいね。存在意義を聞いてくるなんて」
「すみません……」
三笠先輩は、物憂げに言った。
「お小遣いはもらってるけど、稼いでるのは母親だから。あんまり使いたくないんだよね」
「めっちゃ良い息子じゃないですか」
「それに俺……」
それだけ言って、三笠先輩は黙ってしまった。
あまり深く聞くものでもないと思い、僕も静かに三笠先輩が作ったお弁当を食べる。
「美味しい」
つい頬が緩む。
「智、これもどうぞ」
三笠先輩が卵焼きを“あーん”してきたので、僕は躊躇いながらも、それをパクリと食べた。
「あれ? 僕のと味が違う。けど美味しい」
「智の味の好みがまだ分からなくて、色々作ったんだけど入りきらなくってさ。でも、これなら全部食べてもらえるね。ほら、あーん」
「はむッ、でも、これじゃ三笠先輩の食べるおかずが無くなりますよ」
そう言いながら、僕は唐揚げを三笠先輩の前に持っていった。
三笠先輩は、それを食べながら嬉しそうに言った。
「俺ら、まるでカップルみたいだね」
「グッ」
食べていたアスパラベーコンが詰まりそうになり、急いでお茶を飲んで流し込む。
「はは、智。動揺して可愛い」
「三笠先輩が変なこと言うからですよ」
「それより、出て行くなんて言わないでよ」
「居ても良いなら……宜しくお願いします」
頭を下げた僕は、ふと思い出したので言った。
「あ、今日から布団二枚ギリギリ敷けそうなので、別々の布団で寝ましょうね」
「え、マジで? 寂しいじゃん。いつもみたいに、ぎゅーッてして寝ようよ」
三笠先輩が僕の腰に手を回して、ギュッとしてきた。
「ちょ、三笠先輩。やめてくださいよ。みんな見てますって」
「良いじゃん。放っておけば。てか、誰もいないじゃん」
「いなくてもですよ。誰がいつ通るか分かんないじゃないですか」
「じゃあ、夜一緒に寝よ」
「寝ませんよ。何の為に必死で片付けたと思ってんですか」
そう、三笠先輩の部屋は六畳一間。ただでさえ狭いのに、足の踏み場もない程汚い。初日こそ別々で寝たが、この一週間、シングル布団一枚の上に二人で寝ていた。
しかも、三笠先輩は無駄に絡みついてくるのだ。ドキドキして眠れやしない。
「智、俺のこと嫌い?」
ウルウルした瞳で首をコテンとしながら上目遣いされ、ドキリとしてしまう。
「もう、三笠先輩。本当に誰か来たら勘違いされちゃいますから。離れて下さい」
「じゃあ、抱いて良い?」
「三笠先輩。言い方。もう、抱き枕でも何でもなりますから。学校ではやめて下さい」
「やった」
三笠先輩は、小さくガッツポーズを作ってから離れた。
「はぁ……」
疲れる。学校でも家でも揶揄われて、休まらない。特に無駄に顔が良いせいで、心臓がフル稼働している気がする。
これが残り三週間も続くと思うと、気が遠くなる。
だからさ、これくらいリクエストして良いよね?
「三笠先輩。今日の晩御飯、ハンバーグが良いです」
「智、ハンバーグ好きなんだ」
「子供みたいで、すみません」
「ううん。クマさんとウサギさんどっちが良い?」
「じゃ、クマさんで」
三笠先輩のペースに飲まれ、疲れることもしばしばあるが、僕はこのやり取りが案外嫌いじゃない。三笠先輩には内緒だが。
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