隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵

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第二章

第29話 やきもち

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※智視点に戻ります※

 今日は大学も休んで、もう夕方だというのに、まだベッドでゴロゴロしながら過ごしている。もちろん、琥太郎とは手錠で繋がったままだ。

 監禁、拘束されることが、こんなにも嬉しいなんて、僕は変態になってしまったのだろうか。

 ただ、今日は監禁と言っても、琥太郎が外出しなかったので、あまり実感は湧かない。

 それでも、琥太郎が僕のことを好きだと分かって、至極安心する。僕も素直に気持ちを伝えなければ……と、何度も『好き』『嬉しい』『もっと縛って』と、琥太郎に伝えているのだが、どうも伝わっていないように見える。

 片手でスマホを操作する琥太郎に言ってみる。

「琥太郎さん、大好きです」
「智……」

 琥太郎に真っ直ぐ見つめられ、やや照れる。

 分かってくれただろうか。
 期待の眼差しで見れば、琥太郎は訝しげに言った。

「そんなこと言っても、スマホ返さないよ。誰に連絡する気?」
「誰にもしませんけど」
「安心して。智の御両親から連絡来た時は教えるから」
「……はい」

 やはり伝わっていないようだ。
 好意を伝える言葉が、何かの取り引きの材料のように聞こえているみたいなのだ。

「智、将来何になりたいの?」
「将来……?」

 今までにない質問で、一瞬何を聞かれたのか分からず、理解するまでに少しかかった。

「経済学部ってことは、やっぱ銀行とか金融系? それともITとか?」
「えっと……別に決まってないんですよね。とりあえず、経済学部入っとけば、道は色々あるよって言われて……」
「なるほどね」

 がっかりさせてしまっただろうか。
 夢や自分の信念みたいなものもなく、のらりくらりな僕に、失望してしまっただろうか。

「琥太郎さんは、お母さんの後を継ぐんですよね?」
「まぁ、そのつもりだったけど……どうかなぁ」

 琥太郎は、起き上がって言った。

「智が継ぐ?」
「は?」

 部屋に閉じこもりすぎて、頭がおかしくなったのだろうか。
 いやいや、恋人に対してそれは失礼か。

「母さんもさ、知らない人には譲りたくないみたいで」
「僕も知らない人の一員ですけど」
「俺と結婚したら身内だよ」
「そりゃ、そうかもですけど」

 無茶が過ぎる。
 僕は中学でも高校でも、成績は真ん中の方だ。平均並みの僕が、社長なんて無理に決まってる。

 でも、琥太郎とは結婚したい。
 事実婚を……というより、男性との結婚を僕の両親が許してくれるかは別として、僕は琥太郎と一生一緒にいたい。しかし——。

「僕が琥太郎さんと結婚したとして、どっちも社長しなかったら、琥太郎さん、またお見合いさせられたりするんですか?」
「そんなの断るよ」

 とは言うものの、立花先輩とのお見合いも結局することになったのだ。琥太郎の母なら有無を言わさず、僕らを引き離しそうだ。

「でも、どうして急にそんな話を……?」

 僕も頭を上げて座れば、琥太郎に頭をクシャッと撫でられた。

「ずっと閉じ込めてたいけど、そういう訳にはいかないでしょ? どうしたら外部と接触しつつも、智が俺から逃げられないか模索中」
「琥太郎さん……」

 そんなことをしなくても逃げないのに。嬉しさのあまり感極まっていると、琥太郎は補足して言った。

「単位落とす前に見つかれば良いんだけど」
「あ……」

 そうだった。
 僕は大学生。単位を落としたら留年ないし退学だ。琥太郎の気持ちが再確認でき、縛られることの喜びを感じている場合ではない。早急に琥太郎に僕の気持ちを理解してもらわなければ、僕は留年決定だ。
 まだ大学生活も二ヶ月程度しか満喫していないのに……親に顔向け出来ない。
 
 残り何日監禁されても大丈夫だろうか。スケジュールが手元にないので、計算出来ない。

「琥太郎さん! 僕、ちゃんと琥太郎さんのこと好きですから、出して下さい!」

 焦って言えば、琥太郎の顔が険しくなった。

「やっぱ俺から解放されたいんじゃん。縛られたいなんて嘘だったんだ」
「違いますよ。留年は困るって話です」
「だから、留年はしないように考えてるから」
「そうは言っても、急な体調不良とか……色々あるだろうし。何より授業について行けなくなるし……」

 不安ばかりが押し寄せる。

「留年したら、琥太郎さんのこと嫌いになっちゃいますよ! あ……」

 言って後悔し、口を手で押さえる。
 しかし、覆水盆に返らず。琥太郎は俯いた。

「琥太郎……さん?」
「……」
「留年したって、嫌いになんてなりませんから。琥太郎さんは、ちゃんと僕のこと考えてくれてるんですよね。それなのに、すみません」

 謝罪をするが、琥太郎は俯いたままだ。

 一旦ここは落ち着いて、何か……何か、琥太郎が喜びそうなことをしよう。でないと、また別れ話になりそうな予感しかしない。

 そこで、僕はハッと気が付いた。

「琥太郎さん。僕、デートしたいです」
「デート?」

 よし、食いついた。

「琥太郎さん、前に言ってたじゃないですか。『隣を歩きたい』って。登下校中は、隣を歩いているような気もしますが、改めてデートとなると……てか、僕らって、お付き合いしてからデートしたことないですし。この機会に」
「逃げない?」
「逃げるわけないじゃないですか」
「本当に?」
「誓って逃げません。てか、僕の帰る場所、ここしかありませんし」
「隣があるじゃん」

 どこまでも信用されていないようだ。普通に悲しい。

「じゃ、良いです。ずっとここにいます」

 不貞腐れたようにそっぽを向けば、琥太郎は困った顔で僕を見下ろした。

「智、ごめん」
「……」
「智、どこ行きたい?」
「フンッ……」

 ここまで信用されてないと、僕だって意地になってしまう。

 そんな時だった——。

 ピンポーン。

 玄関のインターフォンが鳴った。

「琥太郎さん。鳴ってますよ」
「うん」
「出ないんですか?」
「うん」

 ピンポーン……ピンポン、ピンポン、ピンポン。

 連打されるインターフォンの音に苛立ちを覚えながら、琥太郎が手錠の鍵をカチャリと外した。手錠と僕を交互に見て、琥太郎は聞いてきた。

「大人しく待てる?」

 コクリと頷けば、琥太郎は僕をベッドに拘束することなく部屋を出た。そして、昨日早急に取り付けられた新たな扉の鍵を外からかけられた。

 身動き出来るようになった僕は、伸びをしながらベッドに大の字になって寝転がった。

「さて、琥太郎さんは、どうやったら安心出来るんだろ」

 僕は琥太郎さん以外眼中にないのに、それを伝えても、疑いの目で見て信じてもらえない。

 監禁され縛られることで、琥太郎の愛が自分に向いていることが分かる。だから、監禁も悪いことばかりじゃないが、さすがに親は心配させたくない。一歩間違えれば、琥太郎が犯罪者にもなりかねないこの状況。

「女の子に産まれたかったなぁ」

 僕が女だったなら、正式に婚姻届を出して、法律で縛られるのに。それは、紙切れ一つで強固なものになるのに。しかし、男同士は法律上結婚出来ない。いくら口約束をしたって、それは婚姻届以上の効力を持たない。

 もしも、琥太郎が僕の言葉を信じてくれたとしても、付き合ってまだ一ヶ月でこの様だ。この先今みたいなことが何度も起こりそうだ。
 
 それを回避する手段……。

 そんなことを考えていたら、来客の対応が終わったようだ。外から鍵を開ける音が聞こえてきた。扉が開けば、琥太郎は大きめな封筒を持って入ってきた。

「誰だったんですか?」
「ああ、うん。和也かずや
「かずや?」
「この間のやつ。連絡来てたみたいだけど、気付かなかったから来たみたい」
「この間? 連絡?」

 全くピンと来ない。
 和也とは誰なのか。そして、腑に落ちないことが……。

「琥太郎さん、僕には交友関係全て削除させたくせに……浮気ですか?」

 プイッと怒りながら布団にくるまった。

 酷過ぎる。僕ばっかり縛って自分は他の男と。

「いや、智。立花薫が余計なことしないように、大学でのスケジュール探るよう頼んだじゃん。これ、来週分」
「……?」

 いや、それは僕も知ってる。僕にパフェを“あーん”した罪で、琥太郎が元カレさんをパシリ……偵察係に任命していた。

「え? 和也ってもしかして」
「俺の元カレ。名前、知らなかったの? あんなに仲良さそうにしてて?」

 元カレさんの名前が“和也”だと知った瞬間だった——。

 ではなく、勝手に浮気だなんて勘違いして、嫉妬して、恥ずかしい。
 頭からすっぽり布団を被る。

「智? もしかしてヤキモチ……焼いてくれたの?」
「悪いですか?」

 恥ずかしくて布団から顔が出せない。

「智、明日デート行こ」
「……はい」

 聞こえたか分からないが、ご機嫌な琥太郎に小さく返事した。

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