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第二章
第15話 僕の恋人
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晴れて恋人になった三笠先輩と僕。
居候していた頃のような生活に戻るのだとばかり思っていた——。
三笠先輩は、僕のスマホを操作しながら聞いてきた。
「これは誰?」
「えっと……高校の時の担任の先生です。近況を報告するかもしれなくて」
「はい。削除して」
「でも、進路のことで親身になってくれた先生で」
「好きなの?」
「ま、まさか……すぐに削除致します」
僕はスマホからまた一人、知り合いをデリートした。
「先輩、この調子だと僕のスマホの中、両親と祖父母だけになっちゃいますよ」
「そのつもりだけど……?」
さも当たり前のように言う三笠先輩。世のカップルは、付き合い始めた途端にこんなことをしているのだろうか。
——付き合い始めた夜は、三笠先輩の部屋で二人仲良く抱き合って眠った。
僕が恋愛経験ゼロなので、エッチなことは徐々に慣らしていこうと、三笠先輩の配慮もあった。やはり、三笠先輩は優しい。そう思いながら、三笠先輩お手製の朝食を食べていた時だった。
『智、スマホ貸して』
『はい』
言われるがままスマホを三笠先輩に手渡した。それから、かれこれ一時間近く、僕の身辺整理がなされている。
数少ない友人達。連絡することは、ほぼ無いと思う。けれど、一応連絡先は残しておきたい。何かあった時に連絡を取り合うかもしれないから。
だから、三笠先輩が連絡先を削除しろと言う度に抵抗している。しているのだが、今までのヘラヘラふわふわした三笠先輩はどこへやら。ほぼ無表情の三笠先輩が、物凄く怖いのだ。削除をタップせざるを得ない。
それでも、僕は——。
「三笠先輩!」
「名前で呼んで」
「え?」
「俺ら付き合い始めたんだよ。名前で呼び合わないと、先輩後輩感が抜けないじゃん」
「確かに……でも先輩」
「琥太郎」
「は、はい!」
僕は緊張しつつ、それでいて照れながら呼んだ。
「こ、こ、琥太郎……さん」
暫く無表情だった三笠先輩……じゃなくて、琥太郎の顔が、満面の笑みに変わった。
ホッとしながら、本題に入る。
「琥太郎さん! 僕の数少ない友人を奪わないで下さい!」
「は?」
琥太郎の表情が、また無くなった。怖すぎる。
「ぼ、僕は、三笠先輩を」
「琥太郎」
どうしても名前で呼ばれたいらしい。
「僕は、琥太郎さんを裏切ったりなんてしませんから」
「そんなの当たり前だよ。だから消してるんでしょ?」
琥太郎の元カレ情報。束縛が激しいのは本当だったようだ。琥太郎から愛されるのは嬉しいが、初っ端からこれなので、先が思いやられる。
「と、とりあえず、僕は大学行って来ます」
一旦逃げようとスマホを持って立ち上がれば、琥太郎が静かにスケジュール帳を開いた。
「智は今日の講義、昼からだよね」
「まさかそれ……」
琥太郎は、にっこり笑顔で言った。
「恋人の予定くらい把握しとかなきゃね」
「そ、そうですね」
歴代の琥太郎の彼氏達が逃げ出した気持ちが分かった気がする。ただ、その人達と僕とでは、違うことがある。それは、ズバリ!
“愛があるかどうか”
性欲を満たしたい為、又は、家柄を利用しようとして付き合う歴代の彼氏達と違い、僕は琥太郎が好きなのだ。琥太郎と一緒にいたいから、琥太郎を選んだのだ。
「後で琥太郎さんのスケジュールも教えて下さいね」
僕が元いた場所に座り直せば、正面にいた琥太郎が横にやってきた。そして、ギュッと抱きしめられた。
「智、大好き」
「僕もです」
束縛が何だ! 愛されてる証拠だ。これが嫌だなんて思う方がおかしいのだ。
そう自分に言い聞かせながら、家族以外の連絡先を全て削除した——。
僕が知人の連絡先を削除したことで、琥太郎は上機嫌だ。鼻歌混じりに食器を洗い始めた。
「三笠先輩……じゃなくて、琥太郎さん。僕がしますよ。ご飯作ってもらったんですから」
「大丈夫だよ。智は休んでて」
「でも……」
何もしないのもソワソワするので、琥太郎の横で洗い終えた食器を拭くことにした。
早速ガラスのコップを拭きながら、琥太郎に言った。
「琥太郎さんは、僕がいなくてもちゃんと掃除してたんですね」
琥太郎も皿に付いた泡を水で流しながら応える。
「智がまた部屋に来た時、部屋が汚すぎて帰るなんて言われたら困るから」
「琥太郎さん……」
健気だ。そんな琥太郎も好きだ。
そして、自分の部屋を掃除していないことを思い出す。
「僕、これが終わったら一旦部屋に戻りますね」
「は?」
空気が一瞬ピリついた。それが分かった僕は、急いで付け足した。
「琥太郎さんに会えない寂しさから、部屋がぐちゃぐちゃでして」
「何だ」
納得してくれたようだ。ホワホワと穏やかな空気に戻ったのが分かった。
この先、自分の部屋に戻るだけでも気を使わなければならないのだろうか。それならいっそ——。
「「あの」」
ハモってしまった。
僕は急いで琥太郎に発言を譲る。
「すみません。琥太郎さん、どうぞ」
「いや、智からで良いよ」
「いえ、琥太郎さんが」
「智から」
譲り合いが続き、埒が明きそうにないので、僕から言うことに。
「では、僕から失礼します」
「うん、何?」
琥太郎が皿を全て洗い終え、蛇口をキュッとしめた。僕は、最後の一枚の皿を拭きながら言った。
「この部屋で、一緒に暮らしても良いですか?」
「……」
琥太郎は、自身の手を拭きながら黙ってしまった。何やら考え込んでいる様子。
不安になってしまう。束縛が激しい琥太郎なら、即了承を得られると思っていた。
「えっと、ダメ……ですか?」
不安気に聞けば、琥太郎は困ったように応えた。
「大歓迎なんだけど……」
「だけど……?」
「この賃貸って、単身用なんだよね」
「あー」
そうだった。今までは、雨漏りによって僕の部屋が使えなかったから琥太郎の部屋に居候が許されていただけ。何の理由もないのに、単身用のアパートに二人暮らしは契約違反になってしまう。
琥太郎の顔色を窺いながらは若干疲れそうだが、致し方ない。恋愛の醍醐味だと思おう。
「じゃあ、行ったり来たりしましょっか。琥太郎さんは何を言おうとしたんですか?」
「いや、大したことじゃないんだけど」
「言ってください」
「智は、声我慢出来る?」
「声……ですか?」
「うん。この部屋、結構壁薄いじゃん? 毎晩だと苦情来ちゃうかなって」
苦情が来るほど、大きな声で喋ったりしないと思うのだが。しかも毎晩。
そんな心配はいらないと言おうとしたら、琥太郎が思いついたようにニッコリ笑って言った。
「智、引っ越そう」
「え!?」
「二人の新居探しに行こう。智も一緒に住みたいんだよね?」
「いや、でも。別に隣だし、行ったり来たりすれば……ヒャッ」
琥太郎に、後ろから耳をペロッと舐められた。皿を食器棚に片付けようとしていたので、落としそうになる。
「声、我慢出来る?」
耳元で囁かれ、ドキドキが止まらない。
「声って……んんッ」
左耳を舐められながら、琥太郎の右手がシャツの中に入ってきた。そして、耳を舐める舌が、どんどん奥の方へと移動していく。
初めての感覚で、全身がゾワゾワしてきた。
「ぁあ! ダメ……お皿、落ちちゃ……んんッ」
「お皿、落としちゃダメだよ」
「い、いじわる……あんッ、ダメ……」
頭が真っ白になっていく。
全身の力が入らなくなり、本気で皿を落としそうになったところで、琥太郎のねっとりした舌が糸を引きながら離れていく。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「智、大丈夫?」
足腰立たなくなった僕を琥太郎が後ろから支えてくれた。
「ら、らいじょうぶじゃないれす」
呂律も上手く回らない。
そして、さっきから琥太郎が言う“声”が何か理解した。
「こ、琥太郎さん……もしかして、こんなこと毎晩……」
耳を舐められただけで変な声が出るのに、それ以上のことをされたら我慢出来る自信はない。
ただ、一番の問題は声ではない。こんなことを毎晩されるという点だ。耳だけでこんなにトロトロなのに……考えるだけで恐ろしい。
「安心して、智」
「で、ですよね。流石に毎晩なんて……」
「休みの日は一日中だから」
「……は?」
「ふふ、新居楽しみだなぁ」
ルンルンの琥太郎に対し、僕は不安でいっぱいだ——。
居候していた頃のような生活に戻るのだとばかり思っていた——。
三笠先輩は、僕のスマホを操作しながら聞いてきた。
「これは誰?」
「えっと……高校の時の担任の先生です。近況を報告するかもしれなくて」
「はい。削除して」
「でも、進路のことで親身になってくれた先生で」
「好きなの?」
「ま、まさか……すぐに削除致します」
僕はスマホからまた一人、知り合いをデリートした。
「先輩、この調子だと僕のスマホの中、両親と祖父母だけになっちゃいますよ」
「そのつもりだけど……?」
さも当たり前のように言う三笠先輩。世のカップルは、付き合い始めた途端にこんなことをしているのだろうか。
——付き合い始めた夜は、三笠先輩の部屋で二人仲良く抱き合って眠った。
僕が恋愛経験ゼロなので、エッチなことは徐々に慣らしていこうと、三笠先輩の配慮もあった。やはり、三笠先輩は優しい。そう思いながら、三笠先輩お手製の朝食を食べていた時だった。
『智、スマホ貸して』
『はい』
言われるがままスマホを三笠先輩に手渡した。それから、かれこれ一時間近く、僕の身辺整理がなされている。
数少ない友人達。連絡することは、ほぼ無いと思う。けれど、一応連絡先は残しておきたい。何かあった時に連絡を取り合うかもしれないから。
だから、三笠先輩が連絡先を削除しろと言う度に抵抗している。しているのだが、今までのヘラヘラふわふわした三笠先輩はどこへやら。ほぼ無表情の三笠先輩が、物凄く怖いのだ。削除をタップせざるを得ない。
それでも、僕は——。
「三笠先輩!」
「名前で呼んで」
「え?」
「俺ら付き合い始めたんだよ。名前で呼び合わないと、先輩後輩感が抜けないじゃん」
「確かに……でも先輩」
「琥太郎」
「は、はい!」
僕は緊張しつつ、それでいて照れながら呼んだ。
「こ、こ、琥太郎……さん」
暫く無表情だった三笠先輩……じゃなくて、琥太郎の顔が、満面の笑みに変わった。
ホッとしながら、本題に入る。
「琥太郎さん! 僕の数少ない友人を奪わないで下さい!」
「は?」
琥太郎の表情が、また無くなった。怖すぎる。
「ぼ、僕は、三笠先輩を」
「琥太郎」
どうしても名前で呼ばれたいらしい。
「僕は、琥太郎さんを裏切ったりなんてしませんから」
「そんなの当たり前だよ。だから消してるんでしょ?」
琥太郎の元カレ情報。束縛が激しいのは本当だったようだ。琥太郎から愛されるのは嬉しいが、初っ端からこれなので、先が思いやられる。
「と、とりあえず、僕は大学行って来ます」
一旦逃げようとスマホを持って立ち上がれば、琥太郎が静かにスケジュール帳を開いた。
「智は今日の講義、昼からだよね」
「まさかそれ……」
琥太郎は、にっこり笑顔で言った。
「恋人の予定くらい把握しとかなきゃね」
「そ、そうですね」
歴代の琥太郎の彼氏達が逃げ出した気持ちが分かった気がする。ただ、その人達と僕とでは、違うことがある。それは、ズバリ!
“愛があるかどうか”
性欲を満たしたい為、又は、家柄を利用しようとして付き合う歴代の彼氏達と違い、僕は琥太郎が好きなのだ。琥太郎と一緒にいたいから、琥太郎を選んだのだ。
「後で琥太郎さんのスケジュールも教えて下さいね」
僕が元いた場所に座り直せば、正面にいた琥太郎が横にやってきた。そして、ギュッと抱きしめられた。
「智、大好き」
「僕もです」
束縛が何だ! 愛されてる証拠だ。これが嫌だなんて思う方がおかしいのだ。
そう自分に言い聞かせながら、家族以外の連絡先を全て削除した——。
僕が知人の連絡先を削除したことで、琥太郎は上機嫌だ。鼻歌混じりに食器を洗い始めた。
「三笠先輩……じゃなくて、琥太郎さん。僕がしますよ。ご飯作ってもらったんですから」
「大丈夫だよ。智は休んでて」
「でも……」
何もしないのもソワソワするので、琥太郎の横で洗い終えた食器を拭くことにした。
早速ガラスのコップを拭きながら、琥太郎に言った。
「琥太郎さんは、僕がいなくてもちゃんと掃除してたんですね」
琥太郎も皿に付いた泡を水で流しながら応える。
「智がまた部屋に来た時、部屋が汚すぎて帰るなんて言われたら困るから」
「琥太郎さん……」
健気だ。そんな琥太郎も好きだ。
そして、自分の部屋を掃除していないことを思い出す。
「僕、これが終わったら一旦部屋に戻りますね」
「は?」
空気が一瞬ピリついた。それが分かった僕は、急いで付け足した。
「琥太郎さんに会えない寂しさから、部屋がぐちゃぐちゃでして」
「何だ」
納得してくれたようだ。ホワホワと穏やかな空気に戻ったのが分かった。
この先、自分の部屋に戻るだけでも気を使わなければならないのだろうか。それならいっそ——。
「「あの」」
ハモってしまった。
僕は急いで琥太郎に発言を譲る。
「すみません。琥太郎さん、どうぞ」
「いや、智からで良いよ」
「いえ、琥太郎さんが」
「智から」
譲り合いが続き、埒が明きそうにないので、僕から言うことに。
「では、僕から失礼します」
「うん、何?」
琥太郎が皿を全て洗い終え、蛇口をキュッとしめた。僕は、最後の一枚の皿を拭きながら言った。
「この部屋で、一緒に暮らしても良いですか?」
「……」
琥太郎は、自身の手を拭きながら黙ってしまった。何やら考え込んでいる様子。
不安になってしまう。束縛が激しい琥太郎なら、即了承を得られると思っていた。
「えっと、ダメ……ですか?」
不安気に聞けば、琥太郎は困ったように応えた。
「大歓迎なんだけど……」
「だけど……?」
「この賃貸って、単身用なんだよね」
「あー」
そうだった。今までは、雨漏りによって僕の部屋が使えなかったから琥太郎の部屋に居候が許されていただけ。何の理由もないのに、単身用のアパートに二人暮らしは契約違反になってしまう。
琥太郎の顔色を窺いながらは若干疲れそうだが、致し方ない。恋愛の醍醐味だと思おう。
「じゃあ、行ったり来たりしましょっか。琥太郎さんは何を言おうとしたんですか?」
「いや、大したことじゃないんだけど」
「言ってください」
「智は、声我慢出来る?」
「声……ですか?」
「うん。この部屋、結構壁薄いじゃん? 毎晩だと苦情来ちゃうかなって」
苦情が来るほど、大きな声で喋ったりしないと思うのだが。しかも毎晩。
そんな心配はいらないと言おうとしたら、琥太郎が思いついたようにニッコリ笑って言った。
「智、引っ越そう」
「え!?」
「二人の新居探しに行こう。智も一緒に住みたいんだよね?」
「いや、でも。別に隣だし、行ったり来たりすれば……ヒャッ」
琥太郎に、後ろから耳をペロッと舐められた。皿を食器棚に片付けようとしていたので、落としそうになる。
「声、我慢出来る?」
耳元で囁かれ、ドキドキが止まらない。
「声って……んんッ」
左耳を舐められながら、琥太郎の右手がシャツの中に入ってきた。そして、耳を舐める舌が、どんどん奥の方へと移動していく。
初めての感覚で、全身がゾワゾワしてきた。
「ぁあ! ダメ……お皿、落ちちゃ……んんッ」
「お皿、落としちゃダメだよ」
「い、いじわる……あんッ、ダメ……」
頭が真っ白になっていく。
全身の力が入らなくなり、本気で皿を落としそうになったところで、琥太郎のねっとりした舌が糸を引きながら離れていく。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「智、大丈夫?」
足腰立たなくなった僕を琥太郎が後ろから支えてくれた。
「ら、らいじょうぶじゃないれす」
呂律も上手く回らない。
そして、さっきから琥太郎が言う“声”が何か理解した。
「こ、琥太郎さん……もしかして、こんなこと毎晩……」
耳を舐められただけで変な声が出るのに、それ以上のことをされたら我慢出来る自信はない。
ただ、一番の問題は声ではない。こんなことを毎晩されるという点だ。耳だけでこんなにトロトロなのに……考えるだけで恐ろしい。
「安心して、智」
「で、ですよね。流石に毎晩なんて……」
「休みの日は一日中だから」
「……は?」
「ふふ、新居楽しみだなぁ」
ルンルンの琥太郎に対し、僕は不安でいっぱいだ——。
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