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いけないコト
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ノエル王国。
豊かな土地のおかげで農産業はもちろん鉱業から製造業まで盛んな国だ。
5つの諸国に囲まれており、各国の要所にも隣接しているので、これらの国との取引も多くおこなわれている。
それもあり、武力こそ弱いが、経済力のおかげで周辺諸国と引けを取らない強みがある。
私ミリアーナ・アーテルはこのノエル王国で宰相をつとめるヴェスター・アーテルの娘。いわゆる公爵令嬢というやつだ。
さらに付け加えるなら、私は前世の記憶を持っており、ここより技術も文化も発達した日本という国でOLをしていた。
ひょんなことから死んでしまったが、今は15年間、ミリアーナとしてのステータスがあるので、違う人間の記憶をもったミリアーナという個として生きていると表現したほうがしっくりくる。
これはそんな私の何気ない1日の物語だ。
★★★
――某日、アーテル公爵邸の執務室。
ここは、私のお父様、ヴェスター・アーテルが国のために働くために設けている部屋。
自室とはまた違うが、豪奢なデスクワーク用の机の上には法案や国の整備施策の資料などが置かれており、お父様はその机の方向に向かい立っていた。
表情こそは見えないが神妙な雰囲気なのは察知できる。
そして、机の横に立っていた執事のジョンも扉から入ってきた私の姿を見ると、端正で淡々とした表情ではあるが、落ち着かない雰囲気で掛けている眼鏡を押し上げる。
「ミリアーナ、呼び出してすまないね」
「どうされましたの?お父様、こんな夜更けに......。しかもジョンまで」
「いけない娘だ我が娘......。呼び出された理由をわかっていながらあえてじらすなんて、どこでそんな駆け引きを覚えてきたのかい?」
今にも熱い吐息がこぼれそうなくらいの色気がある声音、そして数々の修羅場をくぐってきたであろう厳格さがにじみ出る表情が柔らかく崩れ去る。
相変わらず、私のお父様ってイケメンだな......、お母様も相当面食いだ。
と考えていると、お父様は私の方を向き、私の方に優しく、どこか思いがこもった手を置く。
「ミリアーナ......。お願いだ、父をいじめないでくれ」
一瞬心臓がどきっと動き、お父様に流されそうになるが、お父様が求めているものに対し首を縦に振るわけにはいかない。
「おやめくださいお父様。あれは一夜限りの過ち。このミリアーナ、これ以上お父様との関係を誰かに知られるのが怖いのです。…...ジョンもそうでしょ?」
「お嬢様、私......いいえ、俺は旦那様のおっしゃるとおりのことを考えている身です」
ジョンに助けを求めるが、ここにいることはお父様の味方だと自分で公言する。
ひどい、こんな夜更けに2対1で私を追い詰めるなんて。
私に彼らの共犯にされるなんて。
けど、現状がこれでいいと思う自分もここに居るわけで。
ろうそくの淡い灯に照らされた二人の潤んだ瞳と胃の違和感を覚えてしまえば、私のなけなしの意志も折るしか道がない。
自分の気持ちと葛藤しながら首を縦にすると、父は熱い抱擁を交わし、ジョンはひどく弱弱しい表情でこちらに寄ってきた。
「......ありがとうミリアーナ。では、行こうか。人払いは済ませてある」
「お嬢様の温情感謝いたします」
「......はい」
――ああ、今日も彼らの共犯にさせられてしまう。
豊かな土地のおかげで農産業はもちろん鉱業から製造業まで盛んな国だ。
5つの諸国に囲まれており、各国の要所にも隣接しているので、これらの国との取引も多くおこなわれている。
それもあり、武力こそ弱いが、経済力のおかげで周辺諸国と引けを取らない強みがある。
私ミリアーナ・アーテルはこのノエル王国で宰相をつとめるヴェスター・アーテルの娘。いわゆる公爵令嬢というやつだ。
さらに付け加えるなら、私は前世の記憶を持っており、ここより技術も文化も発達した日本という国でOLをしていた。
ひょんなことから死んでしまったが、今は15年間、ミリアーナとしてのステータスがあるので、違う人間の記憶をもったミリアーナという個として生きていると表現したほうがしっくりくる。
これはそんな私の何気ない1日の物語だ。
★★★
――某日、アーテル公爵邸の執務室。
ここは、私のお父様、ヴェスター・アーテルが国のために働くために設けている部屋。
自室とはまた違うが、豪奢なデスクワーク用の机の上には法案や国の整備施策の資料などが置かれており、お父様はその机の方向に向かい立っていた。
表情こそは見えないが神妙な雰囲気なのは察知できる。
そして、机の横に立っていた執事のジョンも扉から入ってきた私の姿を見ると、端正で淡々とした表情ではあるが、落ち着かない雰囲気で掛けている眼鏡を押し上げる。
「ミリアーナ、呼び出してすまないね」
「どうされましたの?お父様、こんな夜更けに......。しかもジョンまで」
「いけない娘だ我が娘......。呼び出された理由をわかっていながらあえてじらすなんて、どこでそんな駆け引きを覚えてきたのかい?」
今にも熱い吐息がこぼれそうなくらいの色気がある声音、そして数々の修羅場をくぐってきたであろう厳格さがにじみ出る表情が柔らかく崩れ去る。
相変わらず、私のお父様ってイケメンだな......、お母様も相当面食いだ。
と考えていると、お父様は私の方を向き、私の方に優しく、どこか思いがこもった手を置く。
「ミリアーナ......。お願いだ、父をいじめないでくれ」
一瞬心臓がどきっと動き、お父様に流されそうになるが、お父様が求めているものに対し首を縦に振るわけにはいかない。
「おやめくださいお父様。あれは一夜限りの過ち。このミリアーナ、これ以上お父様との関係を誰かに知られるのが怖いのです。…...ジョンもそうでしょ?」
「お嬢様、私......いいえ、俺は旦那様のおっしゃるとおりのことを考えている身です」
ジョンに助けを求めるが、ここにいることはお父様の味方だと自分で公言する。
ひどい、こんな夜更けに2対1で私を追い詰めるなんて。
私に彼らの共犯にされるなんて。
けど、現状がこれでいいと思う自分もここに居るわけで。
ろうそくの淡い灯に照らされた二人の潤んだ瞳と胃の違和感を覚えてしまえば、私のなけなしの意志も折るしか道がない。
自分の気持ちと葛藤しながら首を縦にすると、父は熱い抱擁を交わし、ジョンはひどく弱弱しい表情でこちらに寄ってきた。
「......ありがとうミリアーナ。では、行こうか。人払いは済ませてある」
「お嬢様の温情感謝いたします」
「......はい」
――ああ、今日も彼らの共犯にさせられてしまう。
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