世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜

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宿屋でのいざこざ

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――食堂。



レオンは無事宿を借りることに成功した。今日は体を休めて、明日は騎士志願のために王城へ行こうとを計画。早めに寝たかったので、夕食は早めに取ることに。



食堂は宿の1階に併設されている。レオンは貴重品だけ持って宿の階段を降りて、食堂に現れたのだが......。



――ガシャンッ!

「この野郎!客の言うことを聞けないのか!」

「駄目なものは駄目なのです!お酒の提供は泥酔トラブルを避けるために、午後8時からとの宿の決まりです!守れないならお代はいらないので出て行ってください!」

「んだとッ!女の癖に調子乗りやがって」



ならずものだろうか、身なりが汚い右頬に傷のある、中年の男が従業員の少女に食ってかかっていた。その姿は見苦しいとレオンは感じた。男は感情のままに運ばれた料理やドリンクをひっくり返す。



「俺は王国騎士に入団したんだ!街の治安を守る役目についてやっているのにその態度が気に喰わないっていってんだよ!さっさと酒を出せッ!」

(この人が王国騎士......なにかの間違いだろ?たしかに身分問わずに採用する仕組みだけど......だからって無害な人間に暴力って......しかも非力な女の子だろ?)



レオンは自称王国騎士の中年の態度を見て絶句した。こんなのを採用する騎士機関がどういう神経、考えをしているのかまったく理解できなかった。



たしかに、身分を問わず騎士に取り立てるのはいい政策だと思う。だが、こうして身分、権威を振りかざして乱暴を働く人間を採用する上の人間の考えがわからない。もしかしたら、きちんと選考していないのだろうかとすら思った。



だが、店の従業員を助けるのはまた別の話だった。たしかに、自分は王国の悪を正す側になりたいと思い、騎士になりたくてこの王国にやってきた。



しかし、無用なトラブルを起こして自分の将来を棒に振る勇気はまだなかった。レオンは思う。だってあのエミリアも......。



【外に出るなら覚えておいて。目の前にいる人たち全員に手を差し伸べ、助けるのは到底無理。助けて自分に被害が及ぶのなら本末転倒。時には見棄てることも重要よ】



たしかに。彼は曲りなりにも騎士。上司にあることないことを報告されたら、ここで騒ぎを起こしたことを考慮され、自分の騎士への道が閉ざされるかもしれない。



エミリアの教えにも一理あると、レオンはこの騒ぎに介入するほどの勇気がどうしても出なかった。――だが、そんな悩みも吹っ飛ぶような耳の奥まできぃんと響くような声が宿中に響いた。



「待ちなさい!さっきから黙って聞いてれば!お店の規則を守らないどころか、不当な理由で女の子に手を挙げるなんて最低よッ!王国騎士と名乗るくらいならそれ相応の態度を見せなさいよ!恥知らずッ!!」



レオンは声がした先を見た。店の奥の方。カウンターの席に座っていた、フードを深く被った少女が立ち上がった。



フードの脇から除くストレートのブロンドヘア。平民はほとんど水洗いなので髪質が固いものが多い。けど、彼女の髪はエミリアと同じように、さらりとしている。多分石鹸やトリートメントを使える身分にいるものだとレオンは判断した。



石鹸やトリートメントはレオンたちが金策のために流行らせたもの。貴族趣向に作られたこの製品は瞬く間に王国中、引いては他国の女性貴族に売れに売れたから。



訝し気に少女の様子を観察する。隣に座っていたフードを被った男性が少女を守るように立ちはだかろうとするが、少女は制した。



「んだぁ?このアマ。不敬罪でしょっぴくぞ」

「不敬罪は王族や貴族を侮辱する際に適用される罪よ。一塊の騎士に適用される法律ではないわ!法律を語るなら法律の意味を勉強なさい!」

「こ、この~~~~~馬鹿にしやがってッ!」



男は女性店員の胸倉を掴んでいたが、怒りの矛先がフードを被った少女の方に向いた隙に、その手から逃れる。



しかし、それも気にする素振りもなく、感情のまま怒りを少女に向け、距離を詰める。



少女をどうにかするつもりなのだろうか。

「なに?言い返せないから暴力で解決しようとするのかしら?王国の治安を守る騎士が聞いて呆れるわ。......で?他になにかいいたいことないのならさっさとここから出て行ってよ。口が臭いのよ!」

「馬鹿にしやがって!一遍痛い目に合わせてやる」



少女の言葉に相当頭に来たのか。男は腰に下げていた、支給された剣を抜いた。その瞬間、食堂は混乱を極めた。力の弱い女性はそそくさと自分の部屋に帰り、丸腰の男性たちは被害が飛び火しないように壁際やら部屋の隅に避難し、ひたすら壁のシミに徹する。



少女は武器に怯える素振りもなく、鋭い眼差しで侮蔑の色を込めて男性を睨みつけた。



少女の護衛だろうか、男は少女のいいつけに逆らおうとするが、ずっと少女に行動の制止に掛けられているので、動くことはない。



レオンは何をやっているんだと突っ込みたくなる。



(このままだと女の子が危ない......護衛の人間っぽい人は女の子に逆らえないっぽいし。この場であの男性に立ち向かえるのは――)



少女は男のみをまっすぐ見据える。男は下種な笑みを浮かべて鋭い刃を振り降ろし――。



「脚力強化、防御強化」



カキン。男は目を丸くさせた。先程まであった剣の刃部分だけが一瞬にして折られていたからだ。目の前に立ちはだかったのは若い男――レオンだった。



レオンは脚力を強化して、一瞬で男に間合いを詰めて、防御を高めた腕を使ってそのまま剣を弾き折り、飛ばしたのだ。



そんな芸当、王国でできるものはいない。少女も男も目の前の得体の知れない強者にただ目を瞬かせるしかなかった。



レオンというと、困ったように頬を掻いていた。



「姉さんには余計な騒ぎに首を突っ込まないように釘を刺されてたけど。......でも、目の前に正当性のない暴力を振りかざす輩がいるんならやっぱり見過ごすことはできないよ。......ええっと。そこの女の子、大丈夫」

「え?......ええ、大丈夫。助けてくれて、ありがとう。あなた......怪我は?」

「え?......ああ、傷ひとつないよ。ほら」



レオンはケロリとした様子で剣を受け止めた腕を振って見せた。肌にも服にすら切り傷ひとつついていない異常事態に少女は唖然とした。



「い......一応、王国騎士に配給される剣って、斬撃強化の魔法がかかってて......普通に受け止めると傷ひとつはつくはずなんだけど......」

「魔法の掛け方が足りないんじゃない?それか不良品だったとか?現に俺は受け止められたけど」

「......このッ、ぐぇ」



レオンは少女と話すために後ろを振り向いた。男に背を向けた無防備な状態。男はチャンスとばかりに遅いかかるが、レオンは裏拳で対処した。



気絶したのか、そのまま地面に突っ伏すことになり、動くことはなくなった。

レオンは男の様子を確認して、叱られた子犬のような瞳で少女に向いた。



「あの......このことは内緒にしてくれないか?騎士に暴行したとあったら俺、騎士になれなくなるかもだし」

先程まで凛々しい態度だったのに、急変した様子に戸惑う少女。戸惑いは見せたが、すぐに気を取り戻し、両手を合わせてお辞儀した。この国流の感謝の意を伝える礼だ。

「あ、うん。それは心配しないで。この不細工が悪いのだし、もしそうなっても私が証言してあげるわ。......それより、あなたの勇気ある行動に感謝を」

「こちらこそ、とんでもない。君が行動しなければ、僕はわが身可愛さでこの現状を放置しておいただろうし」

「それが普通の行動よ。あなたが気にすることはないわ。ところで、強化魔法なんて強力な魔法の使い手が騎士志望だなんてね。この国の騎士は腐りきっているから......」



悲し気な顔で少女は地面に突っ伏した男性を見つめた。腐りきっているといった言葉にどこかひっかかりを覚えたレオンは問い返す。

「それは......どういう意味――」

「なんでもないわ。これから入団してくれる新米騎士を怖がらせたら駄目よね。うん。じゃあ、私はこれを騎士に引き渡すから。......じゃあ、また会いましょう」



しかし、言葉は遮られ、会話はそこで終った。少女がつれていた男が片腕でひょいっと、男を持ち上げると、食堂にいた全員分の飲食代を店員に渡して去って行った。
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