世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜

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つかまった

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「......で、おまえが流した魔女の噂だが、その噂は本当なのか?」

「......あ、あの」

「皇帝陛下の御前であるぞッ!さっさと答えぬか!」



ハルトは、玉座にて足を組み替えて横柄にアールを見下ろした。仕事中だったアールはなにがなんだかわからず、兵士に両脇を拘束されながら、玉座の下に跪く。



ただの事情聴取なのに、まるで罪人をこれから裁くかのような重たい空気だった。



玉座の隣に立って控えていた皇妃ミーユは、怯えるアールを気の毒に思い......。



「陛下、そんな威圧的にされたら、アールくんも困ってしまうのでは......?話を聞くだけなのですから、もう少し柔らかい言葉をかけてあげてください」

「......そうか。ミーユは下々のものにも気に掛けられて優しいな」

「いいえ、皇妃として当然のことをしたまでです」

(この人が皇妃か......たしかに、風変りな容姿で人目を惹くけど......姉さんより美人じゃないな。それに......なんか皇妃っぽい気品さが感じない)



アールはミーユのアシストもあって、ちょっとだけ緊張がほぐれた。金銀財宝で姿を彩る皇妃。金糸、金があしらわれた皇服を身にまとう皇帝。



平民の経済状況と比べるとまったく正反対の装いに、アールは首を傾げる。それよりも、ミーユの態度が気になる。



なんだか、人に接する態度が動物と接するように、感情がないというべきなのか......。公的な場で万物すべてに気を使っていると言わんばかりの、これみよがしな発現。



すべてが引っかかる。が......今はそんなことに思考を割いてはられなかった。



自分の軽率な発現で、ここに呼び出されたのは想像に難くない。この先の発現は予想はつくが、どう答えれば最適な答えを導き出せるのかが、アールには考えられなかった。





(ああ、俺の馬鹿。時間を遡れるなら、あの時に戻りたい......)



皇帝がなにやら話しているのが耳に入るが、急迫して被害の少ない回答を答えなければ、と感じれば感じるほど、感情はどんどん急いて、思考は停止し始める。



アールは唇を噛んだ。



「......とにかく、この沈みゆく皇国を立て直すにはなんとしても、その森の魔女とやらの協力が必要なのだ。連絡を取ってくれるな?」

「......あ、あの、......で、す」

「ん?遠くてよく聞こえん。もう少し大きな声ではきはき答えろ」



もう、これしかない。



「あの......噂は、僕が目立ちたくて、勝手に......ついた嘘、です。ごめんなさい......」



嘘をついたと言うことで、今まで流れた噂が消えるとは思わない。しかし、嘘と言うことで、流れた噂の信ぴょう性を問うことはできる。



皇室を混乱させるような噂を流せば、反乱罪として起訴できる案件。最悪、アールは死んでしまうこともある。アールはそれを覚悟のうえでついた。



今から死ぬかもしれない恐怖に心臓の音は急激に早くなる。緊張で涙は零れ、肺にたまる酸素を外に放出するために、息を長く吐き出すアール。



ハルトは一瞬、なにを言っているのかがわからなかったが、遅れてその意味を理解する。いつものハルトであれば、感情に任せてアールを捕まえたものなのだが......。



「......そういうと思ってな。先に裏付けはすませているのだ。すごいな。まだ成人して間もないのに、鑑定魔法、テレパシー......攻撃魔法や防御魔法まで使えるのか」

「あっ......」



そうか、ここに来る前にダレス商会に確認を取っていたのか。なら......もしかして。



「おまえには双子の弟がいるそうだな?おまえを反乱と虚偽罪で拘束して弟に真実を問うのもよかろう......」

「あ......あ......、ご、ごめん、なさ......」



まるでこの世のものとは思えない恐ろしい笑みを浮かべていた。かつて、世界を滅ぼしかけた邪竜の話があったが、その邪竜の話を聞いた時以上の怖さをアールは感じた。



兵士たちは対魔法用の甲冑を身にまとっている。ここで暴れても、被害はカールの方に向くだけだった。



アールは視界が真っ暗になった。



......しばらくの沈黙のあと、アールにはエミリアと森で過ごした日々を洗いざらい話すしか選択肢はなかったのだ。







「――なんですって!?アールが皇国のやつらに捕まったッ!なんで!」

【......カールに聞いたところによると、この森での生活の噂が皇室に伝わったらしく......事情聴取で呼び出されて、そのまま投獄されたのだとか】

エミリアは入れたての紅茶のカップを驚愕の報告のあまり、ひっくり返した。グレートは困った様子で嘶き、エミリアをなだめる。



まさか、投獄されるだなんて思ってもみない報告にショックで体の力が抜けてしまう。

崩れ落ちるすんでで、グレートが体をつかってエミリアを支える。



グレートの背に捕まるように立ち上がり、グレートに問う。



「アールを通して商人が魔法石やこの森に自生する薬草の売買について交渉を持ち掛けたから、まさか、とは思ったけど......アールとカールは無事なの!?」

【はい。アール様は投獄されていますが、命に別状はないと、森の魔獣たちの力を借りて確認を住ませております。カール様も、危険を察知して、万が一の時のための隠れ家に避難しておりますので、大事には至っておりません】

「......そう。それは、よかった。......でも、アールの命か皇国のやつらに握られているのは変わらないわ。......そうだわ、私が皇国に行けば......!」

「やめておけ。おまえが行ったところで状況は変わらん。相手は卑劣な手でガキを拘束した輩だぞ?こうなることを予想して行くのであれば、それはただの自殺行為だ」

【ファフニール様っ!】



慌ただしい様子が気になったのか、2階から降りて来たファフニールは淡々とエミリアを止める。ファフニールは手を腰のポケットの中にいれ、グレートに目配せをした。

おまえも、止めろということなのだろうか。たしかに、グレートもファフニールの言うことには賛成だった。



俗世と離れて平穏な暮らしをしていたのに、一緒に過ごしたとはいえ、自分で厄介ごとを引き起こしてエミリアに助けてもらうのは、少々虫がよすぎる気がする。



魔獣は弱肉強食。餌を調達できない子供を除いて、大人になれば一人で生きていかねばいけない。アールもエミリアの手から離れて独り立ちしたのだったら、その責任くらい自分で背負わなければ。



しかし、同時に子を持つ親の気持ち、弟を憂う姉の気持ちは、家族を大切にするグレーターバイコーンだからこそ理解できる。



そう簡単に言葉で割り切れるものではないのだ。

【......もし、皇国に行かれるのであれば、お供します。ご主人の故郷でもあるので、お役にたてるかはわかりませんが......護衛はできます】

「おい、僕の話が聞こえなかったのか?わざわざ敵の策中にハマる馬鹿がどこにいるのだ。アールは見棄てろ。カールには従魔を送って一時的にこの森で保護をする。今打てる手段はそれだけだ」

「......き、ない」

「は......?」



エミリアは拳をぎゅうっと握りつぶす。今でもアールへの心配で胸が張り裂けそうだ。すべて自分の不始末で起こったことだ。



こうなることを少しでも考えていられれば、彼らを危険に晒さずにすむ方法なんていくらでもあったのに。森を出る時に、記憶を消しておけば、こうならなかったかもしれない。



ああすれば、こうすれば。たらればが思考を支配する。



自分の詰めの甘さの後悔。誰の言葉を聞く耳も、冷静さもエミリアには失われていた。



「できない!なんとしてでも、アールを助けに行く!グレート、カールを保護して、一時的に私の家に連れてきて。シーフはレオンのところへ、サードもレイナとアースのところへ行って、皇国の手が伸びないように護衛して!」

【【【かしこまりました/承知】】】



エミリアは貯蓄していた魔法石や、武器を懐にしまう。いまから戦争に行くかのように鋭い眼光で皇国のある、明後日の方向を向いた。



ファフニールはエミリアの肩を押さえて体をはって止める。

「おい、待て!冷静になれ。そんなことをしてもなんの解決にもならんだろう!」



壊れないように体を揺さぶって、訴えかけてみるが、感情的になったエミリアはもう理性の欠片もない。あるのは、アールを助け出すことだけだった。

「ファフくんはあいつらのことを何も知らないからいえるのよ!アイツらは私利私欲の為なら平気で人を殺すし、金品を奪う......権力を持った強盗以上の人でなしよ!こうしているうちにも、アールが危険な目に会っているかもしれない。......ごめんなさい。この森に迷惑をかけるようなことになってしまって」

エミリアははじめてファフニールの手を払いのけた。いままで、エミリアはファフニールのすることも、言葉も全て受け止め、聞く耳を持っていたのに。



ファフニールはこうなってしまった以上、もう、言葉で彼女を止める術はなかった。実力行使に出るとしても、不死の彼女は体がバラバラになっても、再生して、アールを助けに行くだろう。



無駄な争いに時間を割くほど、ファフニールは愚かではない。これ以上この場を止める方法が思いつかなくて、エミリアの背中を目で追うしか、この場の選択肢はなかった。



「馬鹿者が......感情的になったところで事態が悪化するのが何故、わからんのだ」



ファフニールは厳しく、苦しそうに眉間に皺を寄せて、喉奥をきゅうっと締めた。



いつも笑って、子供を慈しみ、好奇心で目じりを垂れ下げる、あの表情が、怒りと緊迫した表情に染まってしまったのが、ファフニールにはどうしようもなく――。
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