世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜

文字の大きさ
40 / 48

怒り

しおりを挟む
「おい!誰か!誰かいないのかッ!」

ハルトは必死で荒れ果てた皇城を走り回った。ミーユと離れ離れにならないように、しっかりと手を握られている。どこもかしこも部屋には鍵がかかっており、外へとつなぐ階段入口には、エミリアが解き放ったであろう魔獣や魔物が道を塞いでいた。



死肉を喰らうもの、生きた人間に威嚇する魔獣や魔物……見ているだけで恐ろしい光景だ。だが、彼らは道を塞ぐだけで、襲っては来ない。まるで、どこかに導いているようだった。



ハルトたちはわずかな手勢で、道しるべを頼りに目的の場所へ向かう。



――そこは、謁見の間だった。



高々とある皇帝の玉座には一人の女性――エミリアが余裕の表情を浮かべて足を組んで座っていた。さながら皇帝のようだった。



ハルトは目の前の絶望にどうすることもなく、らしくない表情を浮かべて懇願した。



「許してくれ……!皇帝の座が欲しいなら明け渡す!今までして来たことも謝罪する!だからッ……!」

「……あの日、あなたが襲って来なかったら、私はアールを連れて帰れた。死んですぐの状態であれば死者蘇生の術も掛けられたのに。それをあなたは台無しにした。ただ、私と関わった、それだけの理由で。あなたは私をおびき寄せるために、アールに有りもしない罪状で、あんな辱めを……謝罪だけで許せるなら、あなたは万々歳よね?」



嘲笑を浮かべてハルトを玉座から見下ろす。この位置から見下ろすのって、中々悪くないと思いつつ、ハルトの返答を待つ。しかし、出たのは許してくれの一点張りだった。



「……あなたが少しでも自己犠牲を見せてくれたらちょっとは考えて上げたんだけど。……さっきから自分のことばかりで、反省の色も見せてくれない。私じゃなくて、他に謝るべき人がいるでしょう」

「おまえ以外に誰に謝ればいいというのだ!」

「…………ふふ、ふふふふ、本当に。愚か。おまえも、私も」



ハルトは助かりたいと必死に泣き叫び、ミーユはイかれてしまったかつての世界の同胞にして、この国から追いやったライバルに色のない表情で見上げる。



この先自分がどうなるのか。あの強大な力を見せつけられて、恐怖するしか道は残されていなかった。



エミリアは立ち上がる。一声、「下がれ」と張り上げると、皇城中に蔓延る魔物や魔獣は去っていく気配を感じられる。この部屋に集められた生き残りたちは安堵の息を吐く――が。



「なにを安心しているの?私はおまえたちを生かす気は毛頭ない。地獄でアールを殺したことを後悔するといい。……一部関係のない人もいるけど。必要な犠牲だった、ということで」



エミリアは玉座からゆったりとバイオリンの音のように優雅に立ち上がる。両手を一度、パチン、っと叩くと近くから爆発音が聞こえる。



そうして、集められた人たちの足元から魔法陣が浮かび上がる。

「――ヒッ!な、なんだ!これはッ……」

「命を核にした核撃魔法。あなたたちがこうして立っていることも、象徴としてあなたたちが住む城があることすら腹立たしいから。アールを処刑したこの城ごと、私が破壊する。安心して、この魔法結界に包まれている城のみを吹き飛ばすものに留めているから」

「わ……私だけはッ!同じ世界のよしみとして、私だけは助けて!」



エミリアの左胸に刻まれた魔法陣が同時に起動する。おびただしいほどの魔力の奔流があふれ出し、それに引き寄せられた魔素が城を包む。



命を糧とした魔法に、ミーユを初めとして恐怖に慄く。そこまでして、彼女は皇国を滅ぼしたいと思っているのか。強大な魔法を用いて。



その狂気に抗えるわけでもなく、ただ、無様に命乞いをするしか彼らに道は残されていない。エミリアはその道さえも――。



ミーユの必死の命乞いに、エミリアは一笑した。

「悪いけど、諦めて。こんなことになって傍観したあなたも同罪だと思っているの」

「わ、私は必死に止めたわ!うかつに魔女に関わるものを手出しするなって――」

「……嘘ね。あなたも私と同じ、他人には一ミリも興味ないもの。自分の保身だけ気にする。タイプは違うけど、あなたは自分の利益にならないことに労力は割かない。じゃないと

――アールがあんな目に遭うはずない。

じゃあ、お喋りは終り」



話を区切ると、エミリアはさらに魔素を取り込み魔力を膨らまし、魔法の発動準備に入る。風船のように膨らむ魔力量、自分たちの死が近いことに発狂する、残された人間たち。



「きゃああああああ」

「おい、どけ!早くこの扉を開けるんだ!窓でもいい!早くッ!」

「いや、死にたくない!」

「……核撃魔法、範囲縮小!」



扉は魔法で鍵をかけてある。窓も窓ガラスを割られないように強化をかけてあるので、割れない。逃げ道がない人間たち。魔法の発動を唱えるエミリア。余計に焦ることで、正常な判断ができなくなる。



ハルトは「待て、待ってくれ、エミリア」と問いかけるが、怒りに我を忘れたエミリアの耳には届かなかった。そして、唱えられる。



「――――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...