虐待されていた私ですが、夫たちと幸せに暮らすために頑張ります

赤羽夕夜

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パーティー当日。

この日のために用意した自慢のドレスを身にまとい、王城の広間へ足を踏み入れる。先に会場に向かった宰相夫妻の姿をすぐに発見できた。

身体のラインを強調したスリットが開いた漆黒のドレスの胸の部分にはラインストーンをはめ込み、シンプルでありながら上品さを演出している。髪の毛をまとめているバレッタの飾り、胸のペンダントは特産品のガラス装飾。手袋はアレーナ領の女性たちが必死に編み込んだ薔薇柄のレースの手袋をはめて。

足元の黒いハイヒールにワンポイントで赤いガラスの装飾をはめ込んでいる。

今回は宝石ではなく、アレーナ領地をアピールしたいので、装飾品はすべてガラスだ。

夫たちにもこの日に仕上げてもらった最高級のスーツと装飾品の結婚指輪以外の指輪やカフスボタンにいたるまで装飾品にはめ込まれている石はガラスに統一しており、それらの煌びやかで上品な装飾に視線を集めた。

ベルナルドは深緑のスーツにお揃いの薔薇の模様をモチーフにコーディネートさせて上品でありながらきっちりとしたコーディネート。

アリスタウは白ベースにところどころで紫の差し色を取り入れている。本人はトリカブトが一番好きな植物だからとスーツの裏地にはトリカブトを思わせるような紫を取り入れている。カフスボタンは紫の薔薇が入っている。

ミハイルはネイビーブルーのスーツにネクタイピンに薔薇を。カフスボタンにイエローの差し色を入れている。高貴さの中に幼さを演出するコーディネートとなっている。

モチーフカラーは違うが、全員でお揃いの薔薇の模様や装飾品を取り入れているのが今日のコーディネートの隠れポイント。

ミハイルの才能をまるで自分のように誇らしげにおもいつつ、視線の道をくぐりぬける。掴みは重畳。

大規模なパーティーだから知らない人も多いし、まずはお養父様たちに挨拶するためにシャンパンを片手にお養父様に声をかける。

「ようこそ、アレーナ伯爵。北方の地から足を運んできてくれたことに感謝する」
「オーツ宰相、お招きいただきありがとうございます。参加をお許しくださった国王陛下にも感謝の言葉をお伝えいただけると幸いでございます」
まずは貴族流の挨拶を、この後は世間話や雑談を交えるのだが生憎とお養父様の屋敷に滞在しているのでその辺のマナーは省略。互いに困ったように肩を竦めて、隣に控えているベルナルドが「ところで」と話題を切り出す。

「今年は見慣れない貴族も多いですね。それにいつもより参加人数も多いようだ。なにか」
「ああ、ヴァシリッサが帝国に”工作”をしてくれたおかげで帝国の侵攻の被害を受けていたべーレやハンドル領の領地内も落ち着いてきてね。その辺の貴族も今回は参加しているんだ」

アレーナ領から南東にあるべーレ領、ハンドル領は領土こそは小さいが漁業が盛んな海町だ。セブンドア帝国の海域に近く一番被害を受けるのがアレーナ領だが、べーレ領、ハンドル領も海が凍らず、大型船で時間をかければ帝国の侵攻が可能な地であることから王国への嫌がらせとして時々海賊を装った帝国兵が密漁や窃盗行為を犯し、両領の頭を悩ませていた。

「それに疫病の蔓延で国防も立ち行かなくなったセブンドア帝国がこちらの進軍を恐れてサドモア王国に有利な停戦条約を申し出てくれてね。いい気味だよ」
それはお父様の手紙でもよく知っている。水源の汚染と土壌の栄養の破壊、さらに疫病を蔓延させたことで湾岸沿いに住まう民は恐怖で水を口にできなくなり、作物は取れず飢饉に、さらには感染病が蔓延してそれらが経済に、人材に、大きく皇室に打撃を与えている。

帝国は調査を入れたところ、すぐにこちら側の工作だと感づいて抗議を入れるが度重なる侵略行為の件もあり王国側は受け入れなかった。しばらくするとそれらの毒が帝国全体を蝕み、戦争どころではないと悟り停戦を持ち掛けるに至った。

アレーナ海域の侵攻の停止とサドモア王国に隣接する国境海域と島国の3分の2の譲渡。多額の賠償金。長年欲張り続け戦争を起こした結果、セブンドア帝国は国情を立て直してもしばらくは王国に手出しはできない。

「水や食糧を絶って戦争すらできなくさせるなんて奇策、ヴァシィじゃないと思いつかないよ」
「そうですね。が国は兵の育成も質も帝国より低いので、正面衝突では勝ち目は薄いです。いわばあなたは救国の乙女ではないでしょうか」
うんうんと両親と夫たちは深く頷いた。確かにえげつない策だったけれど救国の乙女までは言いすぎだ。話をわかっていないミハイルはクエスチョンマークを浮かべながら頭を捻る。

「ああ、ミハイルが嫁ぐ前だからわからないでしょう。後で話すから今は話を合わせてくれ」
この場では序列が高いベルナルドが唇に人差し指を当てて、しぃ、といった仕草をするとミハイルは理解して頷く。セブンドア帝国とのいざこざは私がアレーナ領を賜った時の話あからわからなくて当然だ。だからといって妻が行った仕事を知らないのは夫として信用されていないことにも繋がってくるので彼だけ話を除け者にすることはできない。

態度の件もあったので念のため重要事項は伝えていなかったのだが、何故か最近は改心しつつあるから知っても良い重要なことは教えておいた方がいいだろう。

お養父様はシャンパンを傾けながら上機嫌に口にする。
「セブンドア帝国の戦争締結に尽力した件に関しても国王様からなにか褒美があるだろう。まったく、女の身でありながら治水に痩せた土地の改革、流行の創作、帝国の侵攻の阻止…、さらには国防崩壊まで追い込むだなんてその年で恐れ入るよ」
「こちらこそ過分なご評価ありがとうございます」
前世の先人の知識があることも多いので、褒められてもそこまで手放しで喜べない。けれどこの知識のおかげで今忙しいけど安定した生活が送れているので喜べないことばかりではない。罪悪感はあるけど、罪悪感を感じる以上の幸せがあるなら、私がこの世界に転生した意味があるのだろう。

お父様と歓談を終えると、様子をうかがっていた貴族が我先にとこちらに歩み寄ってくる。こういう場ははじめてではないにしろ、伯爵になってから、家門の主として接するのは初めてなので密に緊張しながら肩に力をいれて気合を入れた。
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