虐待されていた私ですが、夫たちと幸せに暮らすために頑張ります

赤羽夕夜

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ギルバートの引っ越し作業が終わり、幾日か経った頃。

「なにか仕事をくれないか?」

順応力も高く、すぐにここに暮らしにもなれたギルバートだが、他の3人が仕事をしているというのに、仕事をしないのは居住まいが悪いと申し出てきた。

律儀だなと思いつつも、同じ立場ならきっと私も居心地が悪いと思うだろう。

むしろ、ギルバートがここの暮らしになれるまでは普通に過ごしてもらおうと思っていたけれど、丁度任せたい職もあったし丁度いい。

「なら、騎士や兵士の訓練や管理を頼んでいいかしら?管理はベルナルドが。訓練は各班の班長と班を纏める各団長がしているのだけど、ベルナルドの仕事量が多くてね。その点、あなたは元々戦働きが稼業だったから適任だと思って。いかが?」

――ギルバートは隻眼を丸くさせて固まる。なにか拙いことを言ったのだろうか。

「まさか、いきなり兵士を預けられるとは思ってもみなかった。兵とは家そのものの武力を現す。それを来たばかりの俺に預けてもいいのか?」

兵を管理させるということは、その家の武力を預けるという形になる。信頼のおけないものに任せれば、使い物にならなくなることだってある。

しかし、それは心配いらないと思っている。

「適材を適所に配置してなにが悪いの?あなたは義理と忠誠に厚い人だわ。それは貴方を婿として紹介してくれた皇帝陛下の態度でよくわかる。野心はあるだろうけど、野心だけの人間なら、自分から将軍職を辞任したりなんかしない。真面目に自分の仕事をこなし、こうして仕事に対しての相手のデメリットを表情で教えてくれる人を警戒する意味がないわ」

「それが全て計算尽くだとしても?」

「それを見抜けないのなら、私はそこまでの人間だったということ。こう見えても私は領主よ。人を見る目はあるつもり」

「……ふ、はははは。やっぱり、面白い人だな。貴女は」

試されていたのか、ギルバートの肩の力が抜けて腹を抱えて笑っている。真面目に答えた私が馬鹿みたいだ。

ムカついたので、私の机の前に立っているギルバートの腕に手を伸ばして抓った。

ちょっと和やかなムードになったところで、こほん、と私は咳払いをした。

「私の旦那様で、私の領民で、働きたいと口にしたのなら、是非、その力を存分に奮ってちょうだい。あなたの存在はこのアレーナ領の武力を高めてくれるでしょう」

「ああ、期待しててくれ。頭を使ったり、手先を使う仕事は他の夫たちに劣るが、軍の統率と管理は誰にも負けない自信がある」

エキゾチックな褐色の手が私の手を取り、端整な顔が手の上に降りる。騎士が主に誓いを立てる儀式のように高潔で、妻に愛を誓う夫のように甘い声音で宣言した。

――キュン、と来るのは私がまだまだ乙女である証拠だろうか。

ギルバートはニコリ、と笑うと、私の手を引っ張り、自分の胸の中へ抱き寄せる。

「これからの働きで貴女の力となろう。――その前の褒美と言っては難だが、今から休憩しないか?」

「唐突ね」

「それは、昨日はミハイルの番だったからな」

鍛えられた胸筋と筋肉の圧迫がとても雄味を感じさせる。このまま迫られたら――私。



…………………。

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