短編置き場

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魔王を倒してライバルと決着をつけようと右往左往としていたらことわざになっていた

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「さぁ、魔王は消えた。世界は平和へと歩き出すだろう。だが、その前にやっておかねばならないことがある……」

「ああ、そうだな!」

荒れ果てた荒野に佇む男が2人。1人は甲冑を着込み、もう1人は黒いローブを纏っている。2人は共にボロボロで既に満身創痍といった姿をしている。だが、戦いは終わったというのに2人の目には未だ闘志が迸っていた。

先程まで魔王という世界を破滅に導く存在を相手取り、打ち倒したとは思えないほどに二人の間には緊張感が漂っていた。

そして

「さあ、始めよう……!!」

「ああ、行くぞ!!」

「「決着をつける時だ!!」」

荒野が閃光に包まれた。



・・・



「喰らえ!''クーゲルシュライバー''!!!」

甲冑の男が天に手をかざすと、突如として虚空より無限とも言えるボールペンが現れる。

「甘いな……''ベツレヘムの星''」

しかし、ボールペンの鋭いペン先から主を守るかのようにクリスマスツリーの頂天を飾る巨大な星形の飾りが現れた。星形の飾りには無数の穴が開いたが、黒いローブの男にボールペンが突き刺さることはなかった

「クっ……流石だな!なら……!」

甲冑の男はローブの男に向けて手をかざすとすかさず

「"真空放電"!!」

甲冑の男の手から青白い雷撃が放たれる。

「"全反射"」

しかしローブの男は雷撃を全て反射し、甲冑の男へと跳ね返す。甲冑の男は反射された雷撃によって吹き飛ばされた。

「ぐああああ!!!」

自分の打った技によって吹き飛ばされた甲冑の男は遙か後方にある岩山へとめり込んだ。ローブの男は好機と言わんばかりに自身の左腕に魔力を集中させた。

「凝固点降下……!!!」

ローブの男の左腕に宿った必殺の絶対零度が甲冑の男を襲う。だが

「ぐぅっ……!火砕サージッッッッッッ!!!」

甲冑の男は寸前で右腕から火山灰と火山ガスを放った。

絶対零度と火山ガス、そして火砕サージに僅かに含まれていた溶岩片によって水蒸気爆発が起こり、甲冑の男はさらに吹き飛ばされた。

「ガハッ……!」

血反吐を吐く甲冑の男。見るからに最早立てそうにもない程の傷を負っており、甲冑は粉々に砕け散っていた。それに対してローブの男は悠然と近づいていく。そして甲冑の男に対してあざ笑うかのようにこう言った

「気づいていないのか?まあ、気づくとも思えないがな」

「何ぃ……」

「冥土の土産に教えてやろう。この世界は自由に見えて自由ではない。此の世を支配しているのは人ではない。神だ」

「そんな……お前…まさかッッッッッッ!!!」

甲冑の男は青ざめた。それに対してローブの男は笑みを浮かべながら両手を広げた。

「そう、お前は操作されていたのさこの、”神の見えざる手”によってな……!!」。

「チィっ?!」

「悪いが一気に畳み掛ける!''デフレスパイラル''!!」

世界が暗転した


・・・・・


「何故だ!何故当たらない!!ぐあっ……」

「無駄だ……!」

神の見えざる手、そしてデフレスパイラル。この2つの技が発動したことによって甲冑の男は窮地に立たされていた。
攻撃しても跳ね返され、さらにはローブの男に追い討ちをかけられる負のループへと陥り、もはや為す術など皆無に等しかった。

自分の方が圧倒的に優勢。だが、ローブの男は攻撃の手を緩めることはなかった。

「くそっ!!」

「未だかつてこの技を破れたものはいない!これまでも……これからもだ……!」

絶望的な状況。しかし、甲冑の男の目は死んでいなかった

「見破る……そうか!!」

残り少ない力を振り絞り立ち上がる

「ならその力の正体を見破ってやる!!!”キャリブレーション”!!!!」

「何?!」

瞬間、甲冑の男の目が輝いた。

甲冑の男の目に映ったのは黒いローブの男を守護るかのようにゆらゆらと漂う半透明な巨大な手であった

「"神の見えざる手"の正体はそれか!」

「っ……流石だな!だが!正体を見破れたところで……?!何!」

ローブの男の目が共学に見開かれる。なんと、神の見えざる手が崩壊を始めていたのだ。

「はっ!所詮見えないからこそ効力を発揮していたってわけかよ!」

「グッ……だがまだだ!まだデフレスパイラルは残っている!!」

「残念だったな!俺はそいつの破り方を知っている!!!''ビルトインスタビライザーー''!!!」

「なんだと!!!ぐぁぁぁあ!!!」

甲冑の男が放ったビルトインスタビライザーによって2人の戦力が拮抗する。つまり

「お、俺の体力が……!!」

ローブの男の体力が甲冑の男の体力に合わせられるということ。今までローブの男に受けていたダメージがローブの男へと帰ってきたのだ。甲冑の男が今まで負ってきたダメージを一気に受けたローブの男は地面へと倒れ伏し、それと同時に甲冑の男も倒れた。

「ハァ……ハァ……お互い…魔法を打てるのも次が最後だな……」

「……そのようだ……な……」

数分が経過した後、満身創痍の二人は再び立ち上がった。

「ならばこの一撃に俺の全てをぶつける!!」

「さすればこの一撃に私の全てを賭ける!!」

二人の魔力が限界を超えて高まり、二人の身体より溢れる。その勢いは天をも貫き、地面は大きくひび割れた

「それでこそだウオウ!!」

「流石私の見込んだ男だサオウ!!」

二人は互いの名を呼びながらほぼ同時に駆けだした。これまでの怒り、悲しみ、そして想い出をも全て乗せ、互いの名を叫んだ。

「うおおおおおおアアアアアアアアア!!!!!」

「さおおおおおおアアアアアアアアア!!!!!」

二人の拳がぶつかり合い、辺りは一面光に包まれた。





~数百年後~



「ねえママ、この”右往左往”って言う言葉の意味ってなんなの?」

「それはね。昔々のお話で……」



                                 Fin
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