人外の来る酒屋さん

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第一章 未知との遭遇

士道酒店との出会い

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この話は実際に俺が大学生の間に体験したちょっと・・・いや、かなり不思議なアルバイトをした話だ。みんなは接客業って聞いたらどんなお客さんをイメージする?優しいお客さん?怖いお客さん?それとも理不尽なお客さん?
俺はこのアルバイトをしていた3年間、いろいろなお客さんを相手にしてきたよ。理不尽な人と怖い人達が九割方を占めていた気がするけど・・・・。ここまではどこにでもあるアルバイトだ。けどね、俺はもっとおかしな存在の接客もしていたんだ。なにかって?それはね、人外と呼ばれる存在さ。君たちも一度くらいは聞いたことがあるだろう?神様とか。妖怪とか、悪魔とか・・・俺はそんな人たちも相手に接客をしていたんだ。まあ当時はとても大変だったよ。なんせ人外と呼ばれる存在の接客なんてどうすればいいか分からなかったからね。はじめの頃なんか手探りで接客していたよ。
じゃあ、俺のアルバイトしていたときの体験談を少しだけ話していこうか。俺が体験した不思議な不思議なアルバイトの話を・・・



俺の名前は倉木啓介、少しマイペースなごくごく普通の大学1年生だ。俺は今年の春に地元にある私立大学に入学したんだ。入学したての4月は、サークルでの新入生歓迎会に参加したり、新しくできた友達と遊びに行ったりと、本当に忙しくも楽しい日々を過ごしていた。
 そして、大学に入学してから2ヶ月があっという間に過ぎたとき、俺はある危機に直面していた。

 「お金が・・・ない・・」

 そう、毎週のように遊びに行っていたらあっという間にお金がなくなってしまったんだ。とりあえず、両親に大学生になったことだし、お小遣いアップの相談してみたところ・・・

 「「働け」」

 という無慈悲を極めたありがたい言葉をいただいたため、早速近所のコンビニからバイトの求人情報誌をもらいアルバイトを探すことにした。

「お、これよさそう」

求人情報誌をめくっていると、あるアルバイト募集の広告が目にとまった。


店名:士道酒店
場所:金剛町
仕事内容:酒類の販売、配達
時間帯:18時~3時
時給:・18時~24時 時給1000円
・24時~3時  時給1500円
お酒に詳しくなくてもOK!
1から丁寧に教えます!
通勤手当あり!
まずはお電話ください!


バイト先の場所が夜のお店がわんさかある金剛町であるところが気になるけど・・・とりあえず、条件は良さそうなので電話をしてみることにした。

「あ、はいもしもし私倉木啓介という者なのですが・・・ええ、アルバイトの求人広告を見まして・・・はい・・・」

・・・・・・・・・・

・・・・・

こうして俺はこのアルバイトの面接を受けることとなった。面接は来週の火曜日に受けることになった。多少の不安はあるけれど、電話では丁寧に応対してくれ、優しそうな人の声だったから大丈夫だと思う。

そして面接当日、俺は少しでもいい印象を残すためにいつも着ているダルダルのパーカーではなく、親父のブレザーを借りて面接に望むことにした。
 午前中に入っていた大学の講義が終わった後、俺はすぐに金剛町に向かった。ちなみに金剛町は大学の近くにある駅から電車に乗って20分ぐらいのところにある駅のすぐそばにある。
 金剛町についた俺はすぐに士道酒店を探すためにスマホのマップ機能を起動した。ちなみに、金剛町は大きな一本の通りがあって、その通りに沿うようにいくつもの店やビルが建ち並んでいる。マップを見ると、金剛町のちょうど真ん中あたりにあることが分かったのでマップを閉じ、俺は歩き始めた。

 「ここか・・・」

 5分ほど歩くと士道酒店と書かれた看板を掲げた店を見つけた。店の外観は2階建てのビルのようで、1階が店舗になっているようだ。俺はとりあえず自動ドアをくぐり、店の中に入った。

 「いらっしゃいませ」

 太く野太い声が俺を出迎えた。見るとレジの中に筋骨隆々とした鬼のような顔をした男の人がこちらを睨んでいる。あまりの迫力に声も出ず固まってしまった俺を見て、レジの人はさらに声をかけてきた。

 「何かご用ですか?」

 その一言で俺はここへ来た目的を思い出し、ビビリながらもここへ来た用件を伝えた。

「ああああの、きき今日ここで面接を受ける予定のくくく倉木です、」

すると男の人は

「店長から伺っております。では2階にある事務所の方までついてきてください。」

と言ってレジから出てきて俺の誘導を始めた。

(うわ~まじかよ!あんな怖そうな人がいるなんて・・・レジの人であんな怖いんだったら店長どんだけ怖いんだよ!!)

脳内で軽くパニックになりながら、俺は男の人に連れられ2階に案内された。

・・・・・・・・・・

・・・・・・

レジにいたものすごく怖い人に案内され、2階へと昇ると『事務所』ととてもきれいな毛筆で書かれた大きな木製の看板が目についた。ヤクザとかの事務所の看板に使われていそうなアレ。

「お入りください、中で店長がお待ちしています。」

 レジの人はそう言い残して階段を降りていった。俺は頭を抱えた。大学デビューして初めてバイトの面接を受けに来たらそこはヤクザの事務所でしたなんて他人事でも笑えない。このまま引き返そうかと考えたが、店の出入り口は一つしかないし、万が一あのレジの人とバッタリ出会ってしまったら目も当てられない事態になることは容易に予想できる。どうしたらいいんだ・・・などとあーだこーだと考えていたら

ガチャリ

 いきなり事務所の扉が開いて

「おーい大丈夫かい?」

という親しげな中年男性の声が聞こえた。レジにいた怖い人のドスのきいた迫力のある声とは対照的な声に不意を突かれた俺は

「あ、はい」

という間抜けな返事を返してしまった。とりあえずヤクザだったとしても、店長は話の分かる人かもしれないと思い、意を決して事務所の扉を叩いた。

・・・・・・・・・・

・・・・・・

事務所の中はそこまで広くなく、壁際には隙間なくロッカーが並んでいて真ん中には4人掛けのテーブルが置いてあり、1人の男性が席に座っていた。男性は赤みのかかった茶髪で、かなり若々しく、同い年と言われたら信じてしまいそうな容姿をしていた

「大丈夫?とりあえず座って」

「・・・」

男性に促されるままに、男性の対面になる形で俺は席に着いた。

「初めまして、私がこの士道酒店の店長の大江童子です。とりあえず楽にしていいよ。まず履歴書を見せてもらってもいいかな?」

「はい、倉木啓介です。よろしくお願いします。」

店長の名前が少し変わっているなと思いつつ、とりあえず挨拶をして俺は履歴書を提出した。店長は履歴書を2~3分まじまじと眺めると、口を開いた。

「君は、高校時代の部活は何をやっていたの?」

「バレーボール部に所属していました。」

「ふむふむ・・・何でここのバイトに募集したの?」

「大学生活が始まってしばらく経ったので、新たにアルバイトを始めようかと思いまして、求人情報誌を読んでいたら大学からも自宅からも近いここが見つかったので」

志望理由の受け答えとしては零点だが、他に志望理由も思いつかなかったので包み隠さずに伝えることにした。

「わかりました。・・・君は入れるとしたらどの曜日に入れる?」

「えーと・・火曜と木曜と土曜ですかね」

「時間帯は?バイトは原則6時から始まるけど」

「えーと・・・火曜と木曜は11時までしか入れませんけど、土曜日は閉店時間まではいれますね。」

「閉店時間は電車の終電終わってるけど大丈夫なの?」

「ああ、僕原付持っているので・・・親が原付を使わない土曜だけは俺が原付を使えるんです。」

「なるほどね・・・あ、分かっているとは思うけど採用で」

「へ?あ、はい」

本日2度目の間抜けな返事をした俺はバイトに合格したという現実が受け入れられなかった。なんかあっさりと決まりすぎて本当にこれでいいのかと・・・

「うーんと・・とりあえず来週の火曜日から来てもらえるかな?」

「わ、わかりました」

「給料は○○銀行に振り込み形式で渡すから、口座を作っておいてね。後給料は10日締め日の30日支払いだから覚えておいてね。」

「わ、わかりました」

「あ、来週の火曜、少し早めに出勤してくれるかな?20分くらいでいいから。説明することがあるからさ。」

「わかりました。これからよろしくお願いします。」

「うん、こちらこそよろしくお願いします」

俺は店長にお辞儀をして、事務所を出た。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

そして火曜日、俺は大学の講義を終えた後、急いで電車に乗り金剛町へと向かった。友達からはかなり心配された(そりゃ夜のお店が沢山あることで有名な金剛町だしね・・・ヤクザもいるって噂だし・・・・)。そして約束通り、始業の20分前に俺は士道酒店に到着した。すると店長と、この前の怖い人が出迎えてくれた。

「お~お疲れさま。そうだ、今のうちに紹介しておくよ副店長の堺君だ。」

「堺政人です。よろしくお願いいたします。」

「彼は金剛町に詳しいから、お店の場所とか分からなくなったときに聞くといいよ」

「わ、わかりましたよろしくお願いします。」

「それじゃあ、とりあえず説明することがいくつかあるから2階に来て。堺君。レジお願いね。」

「畏まりました。」

 店長は怖い人・・・堺さんにそう言うと、二階へと上がっていった。俺も堺さんに会釈をした後、言われたとおり。俺は店長の後ろをついて行き、2階へと上がった。
 2階へ上がると、店長は事務所へと俺を招き入れた。

「はいこれ、制服。もうすぐ夏だから一緒に半袖の制服も渡しておくね。」

事務所に入ると店長は制服である黒いズボンと長袖と半袖の白いワイシャツ、青いスプライト模様のネクタイ、そして黒いエプロンを渡してきた。

「じゃあ、とりあえず着替えて。俺はちょっと用事あるからここで待ってて。」

そう言って店長は事務所から出て行った。とりあえず俺は言われたとおり着替えることにした。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

制服に着替えた俺は、自分の着てきた服をどうしようかと悩んでいると店長が戻ってきたので聞いてみることにした。

「店長、着替えた服どうすればいいですか?」

「ん?ああ、ごめんごめん君のロッカーの場所教えてなかったね。えーと・・・このロッカー使って!」

店長は近くにあったロッカーを指さした。そして俺に2つのネームプレートを手渡した。

「これ君の名札と研修中のプレート。研修中のプレートは私がいいって言うまで外さないでね。」

「わかりました。」

「じゃあ、タイムカードの押し方について説明するね。」

こうして俺はその他の業務の説明を店長との雑談を交えながら受けた。そうしているうちに業務開始の10分前になっていた。

「おっと、もうこんな時間か。じゃあ6時までここに待機してて、もうすぐ他のバイトも来るはずだから・・」

ガチャ

「おはようございま~す」

店長が言ってるそばから金髪で少しやせた背の高い人が入ってきた。

「お!木崎君!紹介するよ、こちら新しいバイトの倉木君。」

「よ、よろしくお願いします。」

緊張しつつも挨拶をすると木崎さんはにこにこしながら自己紹介をしてくれた。

「いいよいいよ~そんなに畏まらなくても。どうも木崎裕也です。☆☆大学の大学院生です。よろしく~」

「☆☆大学?!有名な国立大学じゃないですか?!」

「そうでもないよ~僕1回留年してるし~」

「木崎君って何で留年したんだっけ?」

店長が冗談めかしながら木崎さんに質問をする。ちょっと店長それはデリケートなことなのでは・・・とか思っていると。

「それが心当たりがなくてですね・・・単位はしっかりと取れていたのに大学側から複数の女性に傷を負わせたため停学っていきなり言われましてね~」

「え~?彼女いたこと一回もないよね?」

「ないですよ~その女性たちとは何度か食事に行ったことがあるくらいで~」

「あ、でもなんか手伝ってほしかったのか付き合ってほしいって言われたときに、『忙しいからあとでね~』って言ったら泣かれたことは何回もありますけど・・・」

「そりゃ処分下ってもしょうがないや」

「え~?」

分かった、この人天然の女たらしだ。とか思っていると続けて2人の男の人が入ってきた。1人は黒髪短髪のスポーツマンのような人で身長は木崎さんよりも少し背が低いくらいで、もう1人は俺と同じくらいの身長(俺は168cm・・・あと2cmあればなぁ・・)で、茶髪の明るいイケメンだった。

「店長、誰ですか?もしかして新しいバイトの方ですか?」

「おー佐藤君に古川君、そうだよ新しいアルバイトの倉木君だ。倉木君、背の高い方が佐藤君、そして小さい方が古川君だ。」

「僕は佐藤照彦です。座右の銘は『背水の陣』です。よろしく。」

「座右の銘とかオレはないけど・・オレは古川拓、××大学1年生だ!よろしく!」

佐藤さんがクールに、そして古川さんが元気よく挨拶をしてきた。

「倉木啓介です。よろしくお願いします。」

「とりあえず今日は木崎君に倉木君つけるから、木崎君よろしく」

「わかりました~」

「他の2人も倉木君が困っていたら助けてあげてね」

「おっけーです!」

「わかりました」

「それじゃあ6時だ今日もよろしく!」

店長の一言で俺たちは1階へと降りた。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

1階へ降りると、レジの横に大量のお酒の入ったレジ袋や生ビールの樽が並んでいた。そしてレジの中では堺さんが電話をしながら何かをメモしている。

 「ああやって堺さんが電話で注文を受け取るんだ。で、手の空いている人が商品を集めてレジで打ち込む。これで配達の準備完了。」

木崎さんが俺に説明してくれながら堺さんから伝票とお金の入ったEVAケースを受け取っている。そして伝票と百均で売っているような青くて四角い小さなケースを俺に見せた。

「この青いケースに入っているのは空瓶代だ、中には2000円分の小銭が入っている。で、こっちのEVAケースに入っているお金はお釣り用のお金。猫ばばしちゃだめだよ~」

そう言いながら木崎さんは空瓶代の入ったケースとEVAケースをエプロンのポケットへとしまった。そして俺に伝票を渡すと・・

「じゃあ、検品してみようか。伝票に書いてある商品読み上げてみて。」

「は、はい・・えーとアサヒビールの小瓶が10本、ろろロスバスコス?カベルネソービ・・?」

よ・・読みづらい・・外国のお酒ってこんなに難しい名前なのか・・・とか思いつつ読むのに四苦八苦していると、木崎さんが助け船を出してくれた。

「ロスバスコスのカベルネソーヴィニョンね~何本?」

「えーと・・・2本です。以上です。」

「よし、こんな感じで検品するけど大丈夫かな~?」

「ちょっと商品覚えていかないと不安ですね・・・」

「大丈夫大丈夫~そのうち覚えるから~」

じゃあ行こうか木崎さんに言われ、俺は商品の入った袋を両手に木崎さんと一緒に店を出た。
 さすがに6時ともなると繁華街である金剛町はとても賑わっていた。至る所に居酒屋のキャッチやキャバクラの客引きである黒服の人たちがお客さんを捕まえようと、躍起になっていた。

「・・・初めて夜の金剛町に来ましたけど、すごい賑わいですね。」

「そうだね~でも最近は新歓のシーズンも終わりだから大分少なくなった方だよ~」

「そうなんですか?結構多いように見えるんですけど・・」

「いつもこんなもんだよ~さあ、配達に行こうか。」

「はい!」

 こうして俺も木崎さんと共に夜の金剛町へと繰り出した。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

二時間後・・・

つ、疲れた・・・なんなんだこのバイト・・・
一緒に配達に行った木崎さんは配達先のスナックのママにいきなり水ぶっかけられた上に塩までまかれ、スナックのママにこんな男みたいになっちゃだめよって説教されるし、配達の帰りに途中ですれ違った古川君はどこかの配達員の人と台車でレースしてるし、店に戻れば佐藤さんに対してクレームを言いに、スキンヘッドにマッチョなおじさん(後で聞いたがゲイバーの店長らしい)が怒鳴り込んでくるわ、それに対して佐藤さんがスマホの録画をお客さんに見せてお客さんの落ち度であることを説明してお客さんを追い出してるしで、もうカオス以外の何物でもなかった。
 
「大丈夫?かなりお疲れのようだね~」

「ええ、かなり疲れました・・」

「まあ、慣れたらこのバイトは面白いと思うよ~」

木崎さんはにこにこしながら言ってるけど、キャバ嬢にビンタされた痕とか、スナックのママに水ぶっかけられてずぶ濡れになっている人に言われても何の説得力もないんですけど。

そんなこんなで波乱に満ちたバイト1日目が終わった。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・
この時点で普通の人だったら辞めようって思うだろ?でも俺はせっかく受かったバイトなのだからと思い、とりあえず様子見しながら続けることにしたんだ。思えばこれが運命の分岐点だった。
 そして運命の土曜日がやってきた。俺は木曜日と同じような時間に出勤した。
今日は佐藤さんと一緒に行動することになった。
 とりあえず昨日と同じように検品していると商品が足りないことに気がついた。

「あれ、ロスバスコス?っていう商品が入っていないんですけど」

「確認しますね、ちょっと待っててください・・・確かに無いですね。申し訳ありませんが奥のワインコーナーからとってきてください。」

 一番下の段にありますので、という佐藤さんの言葉を背に俺は店の奥にあるワインコーナーへと走った。佐藤さんに言われた通り一番下の段にロスバスコスがあるのを見つけたので戻ろうとした際、ふと店の奥にある大きなシャッターが気になって偶然通りかかった店長に聞いてみた。

「店長、ここのシャッターって開けないんですか?」

「ああ、ここはまだ開けない。今日って何時まで入ってるの?」

「今日は3時までですね。」

「じゃあ、そのときになったら教えるよ。」

 そう言うと、店長は商品を取りに店の奥へと行ってしまった。俺は不思議に思いつつ配達がたまってきていたので、シャッターのことはいったん忘れて佐藤さんと配達に出た。

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

何件かの配達をこなし、俺はやっとこのアルバイトの接客とか配達とかの要領がつかめてきた。木崎さんの接客はあまり参考にならなかったけど(だってどこへ行ってもお金たたきつけられてすぐに追い出されるし・・・)佐藤さんの接客のやり方は、きっちりとしていて無駄が無く、とても参考になった。
次のドンペリ白2本とモエ白1本を納品する配達先はどこなのかを考えていたら佐藤さんから話しかけられた。

「倉木さん、会計をしたことはありますか?」

「ないです。」

「では、ここでの会計はお任せします。何かあればサポートするので。」

「わ、わかりました。」
こうして俺が記念すべき初の会計をするお店は・・・

「ここって・・・」

「クラブ・エスポワールです。金剛町でも5本の指に入ると言われる高級クラブです。」

「ひええええええ!!」

「心配はいりません。ここは高級クラブだけあって礼儀正しい人ばかりなので、会計が遅いとかじゃ怒る人はいません。」

「ほ、ホントですか・・・?」

「ええ、何かあれば私もいるので」

「わ、わかりました・・」

「では行きましょうか」

佐藤さんに促され、高級クラブの扉をくぐるとすぐに2人の黒服の人が出迎えてくれた。佐藤さんが一人に商品を渡していると、もう一人の方が俺に近づいてきた。

「会計はあなたの方でよろしいですか?」

「あ、はい」

「いくらですかな?」

「お、お会計3万5千円になります・・」

「畏まりました。・・・とと、申し訳ないが4万円あるか数えてもらっていいですか?」

「え?ああ、はい」

黒服の人はごそっと財布の中から1万円札を出して俺に渡した。で、俺は言われたとおりに数えたんだけどやっぱり3万円ほど多かったのでお釣りと一緒に返したんだが、そこから衝撃的なことを言われた。

「いやーすいませんね。お札を数えようにも人差し指も親指も無くて・・・」

そう言って黒服の人はにこにこしながら自分の人差し指と親指を引っ張ると、スポッととれてしまった。なんと義指だった。呆然としつつ俺は店を出た。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

何件もの配達をこなしてきたところで午前零時が近づいてきた。すると急に店の中が慌ただしくなってきた。店長は、店の目の前においてある台車を次々と店の中に入れ始め、木崎さんは正面のシャッターを閉めるための柱を立て始めた。

「倉木君!こっちのシャッター閉めるからこのビールケース店の中に入れてくれ!」

「わ、分かりました!・・もうお店閉めるんですか?!」

「・・ああそうか、君はこの時間帯は初めてなのか。まだ店は閉めないよ。ただ、相手にするお客さんが変わるからね、こっちの出入り口は閉めちゃうんだ~」

「お客さんが変わる・・・?」

「そう!とにかく今は閉店の準備を急いで~」
 
そういうと木崎さんは店の正面のシャッターを閉めた。

「木崎さん、お客さんが変わるってどういうことですか?」

「ん~それは・・・」

「それは僕が説明しよう。」

木崎さんにから話を聞こうとしたとき、店長が二階から降りてきた。(なんていいタイミング・・・!)

「倉木君、君にこの士道酒店の秘密を教えよう。ついておいで」

そう言うと店長は店の奥に向かっていったので、俺も後に続いた。

「君は、人外の物を信じるかい?例えば・・妖怪とか幽霊とか」

「うーん・・・あんまり・・・」

「ははは、普通はそうだよね。でもね、いるんだよねこの金剛町には」

「へ?」

「この店はもともと室町時代に創業したんだけど、その時代は妖怪や幽霊なんかは結構身近な存在だったから人間だけじゃ無く妖怪とかも利用してたんだよね。」

「へ、じょ、冗談ですよね?」

室町時代?妖怪も利用していた?何を言ってるんだこの人は。ネット社会と言われるこの時代に妖怪やら何やらって・・・

「で、今でもこの酒屋を利用してくれる人外のお得意様がいるから土曜日の夜12時から3時までの3時間は向こうの人たちのために店を開けるのさ」

そういって店長はシャッターを勢いよく開けた。そこには信じられない光景が広がっていた。
 巨大な顔面が飛び跳ねていたり、河童みたいな頭に皿を乗せて甲羅を背負った奴もいたり、挙げ句の果てには箒に乗って空を飛んでいる人、etc・・・etc・・・ともかく現実ではあり得ない光景が目の前で繰り広げられていて俺は言葉を失った、

「な・・な・・・」

俺が絶句している中店長はにこにことしながらこう告げた。

「ようこそ倉木君、裏金剛町へ!」

「なんじゃこりゃあああああああ!!!!」

俺の叫びが木霊した。


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