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66 本当の敵
しおりを挟む結局ジャルージはパシオンが食い止めてる内に、出汁巻玉子にぼこられて引きずられていった。
行動が謎過ぎる。
儀式は一時中断して王様は臣下達と何かを話し合っている。
騎士達は待機だ。
俺達もその場を動かないよう言われている。
「まったく、何があったというのだ……? ミゼル! 無事だったぐっ!?」
「お兄様!?」
「貴方は引っ込んでいてくださいね」
突然の事態に困惑していたパシオンはミゼルの姿を見つけて駆け寄ろうとして、何故かこっちに転がってきた。
ミゼルの前にはヴェルスがいる。
まるでヴェルスが魔法か何かで吹き飛ばしたみたいだ。
「貴様、一体何を」
「はああっ!!」
「ぐっ」
「きゃあっ!?」
「うわああっ!!」
「何事だ!?」
ヴェルスが気合いを入れると、いくつかの集団に分かれていた俺達をそれぞれ囲うように黒いオーロラのようなものが出現した。
衝撃波みたいなものも一緒に出た。そこら中でで悲鳴があがる。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
「何が起こった!? ミゼルは無事か!?」
「なんなんだ一体」
「タケダさんも大丈夫ですか?」
「ああ、筋肉のお陰でな」
俺達はパシオンとミゼルの様子を見る為に最前列にいた。
衝撃波の影響でよろけていたミルキーとパシオンを支えていると、タケダも困惑を口に出していた。
俺達は平気だったけど、貴族の人達は大変な事になってるな。
「あっ、悪いやつだー!」
タマが指した方を見ると、ヴェルスはその姿を変えていた。
2mくらいのひょろ長い悪魔みたいな感じ。
全身真っ黒で角と羽が生えている。
あいつ、嫌なやつだと思ったら人間じゃなかったのか。
「モジャモジャ、あいつやっつけてもいい?」
「いいぞタマ、ぶっとばしてやれ!」
「らじゃー!」
ヴェルスは背後に立っていたミゼルに迫ろうとしている。
流石に呑気なことも言ってられないし、タマの全力でさっさと倒してしまおう。
俺の許可を受けたタマは元気のいい返事と共に、全力で地面を蹴って駆け出した。
「あうっ!?」
そして黒いオーロラに顔面から衝突した。
あれ?
もしかして通れない?
「……いったーい!」
「タマ、大丈夫か?」
「大丈夫モジャモジャ」
「攻撃で壊せるか?」
「やってみる!」
タマが痛がるくらい全力でぶつかったのに全く揺らぎすらしなかったぞこれ。
タマの攻撃で壊せるんだろうか。
だめだったら俺も攻撃してみるが、嫌な予感がする。
「ミゼル! 逃げろミゼル!」
「パシオン様、危ないから下がっててください」
「おらこっち来い!」
「ミゼルウウウウゥゥゥウウウウウウウウゥゥゥウゥウウウウゥウウウウ!!!」
オーロラに張り付いて叫んでいるパシオンを退かす。
心配なのは分かるけど、タマの攻撃の巻き添えをくらったら死ぬからな。
無理矢理ひっぱろうとしたらタケダが引きはがしてくれた。
「ふっふっふ、無駄ですよ。その闇のオーロラを破壊することは出来ません。さぁミゼル、そのコインをこちらへ渡していただきましょうか?」
「ヴェルス様、貴方は一体・・・!」
「えいっ! えいっ! かたいー!」
「どうなっている! なんとかしろ!」
「ミゼル様をお守りするんだ!」
「くそっ、攻撃が通じません!」
「副団長は!?」
「まだ戻られていない! 我々だけでもやるのだ!」
「陛下! ご無事ですか!?」
状況がカオスだ。
ヴェルスはミゼルに迫って何かを要求してるみたいだけど、よく聞き取れない。
タマがこの半透明のオーロラに攻撃を繰り返してもびくともしない。
俺も試しに剣で切り付けてみたけど、全然ダメそうだった。
周囲でも騎士や兵士達がオーロラに攻撃を加えている。
他に隔離された場所では王様が倒れていて、臣下が必死に助け起こそうとしている。
出汁巻も、ジャルージを連れて行ったきり戻って来ていない。
外の方にも黒いオーロラが立ち上っているように見えるから、状況は同じ気がする。
「無駄だと言っているでしょうに。私の邪魔をすることなど、叶わないのです」
「……このコインは差し上げます。その代わり、どうか皆の命を助けて頂けませんか」
「ふふふふふふ。ミゼルゥ、貴女は立場がわかっていないのですかぁ?」
≪解放の右脚≫の効果で向こう側へ行けないか試してみたが、それも出来なかった。
「ナガマサさん、こいつは壊せそうにねぇのか?」
「効いてる感じが全くないですね」
「もしかしたら、イベントを強制的に進める為にどうやっても邪魔できないようになってるのかもしれません!」
強制イベントってやつか?
もしそうだとすると、いくらチートみたいなステータスや数字を持ってる俺とタマでもどうにも出来ない?
ヴェルスの目的はミゼルが持ってるコインのようだけど、このイベントはどうなったら終わりなんだ。
せっかく知り合ったのに、ミゼルやパシオンが死ぬのはご免だぞ!
「ですが、いいでしょう。貴方のその美しい魂に免じて、あちらの方々にはこの場では手出しをしないことを約束いたします。ただし、向かってくるのなら保障は出来ません。これでよろしいですか?」
「ええ」
「無刀両断!」
ミゼルがコインをヴェルスに差し出した。
俺の持つスキルの中でも最大の威力を持つ≪無刀両断≫でも通じない。
本当に何をしてもダメなのか?
コインに手を伸ばしたヴェルスに、ミゼルがもう一方の手にしていた剣を振るう。
しかし、簡単に弾かれてしまった。
「――きゃあっ!?」
「受け取る隙を狙っても無駄ですよ。貴女程度の腕で私を倒すことなど出来ません。一番厄介な男は遠ざけることに成功しましたからねぇ」
ヴェルスが呆然とするミゼルから、毟るようにコインを奪い取った。
その顔はムカつくくらい嬉しそうだ。
「遂に、遂にこの時が!!」
ヴェルスがコインに装着されていた枠と鎖を引き千切って捨てた。
摘ままれたコインは黒く染まっていき、黒い光が弾けたかと思うと、そこにあったのは禍々しいオーラを放つコインだった。
多分、封印が解かれたんだろう。
「憎き竜共が眠る今、これで私が最強……! 支配者の誕生を目の当たりに出来るのです、光栄に思いなさい!」
ヴェルスがコインを呑み込んだ。
その姿が変貌を始める。
俺達に止める術は、無い。
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