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197 拘りと支援
しおりを挟む「ふんっ……!!」
葵はなんとか剣を持ち上げた。
プルプルしている。危ない。
構えるというよりは、辛うじて持っているだけだ。
重量挙げかな。
よし、一旦落ち着こう。
「葵ちゃん、一回それ下ろそう」
「むー……!」
葵は唸ったまま、剣を下ろそうとしない。
まだ頑張りたいらしい。
これが葵がレベル3の理由だ。
あの立派な剣は父親の形見で、手放そうとはしないしストレージにも仕舞わない。
戦闘でも絶対使いたがるけど、今の通りとても使いこなせない。
むしろよく1上げられたな。
これはシステム的な問題だ。
あの剣に対してStrが足りていない。
このゲームでは、装備品ごとに必要なStrが設定されている。
足りないと装備出来ない訳じゃない。
じゃあどうなるか。
「っ……!?」
葵が剣を振り上げようと持ち上げていく。
途中でバランスを保てなくなり、ふらつき始めた。
そのまま後ろへ倒れた。
頭を強打したようだ。あれは痛い。
と、こうなる。
武器はStrが足りなければ足りない程、上手く扱えなくなる。
マウントしてる状態はそうでもないが、構えようとすると影響を受けるらしい。
防具は、動作全般が鈍くなる。
昨日、苦笑いのモグラが教えてくれた知識だ。
俺は始めの頃は初心者向けの武器しか使わなかったから、知らなかった。
「初心者用短剣使わない?」
「嫌……!」
「どうしても?」
「どうしても……!」
頭を押さえていた葵が立ち上がって拒絶の意思を見せた。
どれだけ痛い思いをしても、曲げられないらしい。
やっぱり立ち直りが早いな。
≪初心者用短剣≫は、ゲーム開始時点でストレージに放り込まれている初期装備だ。
攻撃力は低めだが、軽いし扱いやすい。
魔法使い志望も聖職者志望も、最初は皆この短剣でレベル上げをする、らしい。
それも不思議な話ではある。
しかし、使いたくないなら仕方ない。
あの剣を使えるようになるまで、どのくらいのStrが必要か分からない。
見た目からして結構高そうだ。
なるべく手は出さないで欲しいと言われたけど、直接じゃなければいいよね?
葵に≪無属性魔法≫の≪筋力上昇≫を掛ける。
これはStrを+10する効果を持つ。
俺が使えば100倍の+1000。
あれ、これって普通に強くないか?
「あれ、何かした……?」
「支援魔法を掛けたんだよ。これでその剣を持ってみて」
「あれっ……! 普通に持てる……!?」
なんということでしょう。
あれだけ持ち上げるのに苦労した剣。
それを、軽々と振り回しているではありませんか。
「すごい……! ナガマサは神官系の職業なの……!?」
「魔法も使えるだけで神官系じゃないよ。とりあえず、そこのプルンを攻撃してみようか」
「うん……!」
葵は喜びを表現するように剣を振り回している。
今まで持つのもやっとだったからな。
剣をプルンに叩きつけた。
哀れ、プルンは一太刀で一刀両断されて消えていった。
「すごい! 一撃!」
「やったね葵!」
「うん! ありがとうタマ!」
今の葵は攻撃力が高そうな剣に加えて、Strが1000も上がっている。
このエリアのモンスターは全部一撃になる気がする。
戦闘にならないのもあれだと思って掛けたけど、全部一撃じゃ練習にならないかもしれない。
……それは別に考えるとして、まずはレベル上げかな。
≪筋力上昇≫を維持しつつ、モンスターを狩っていった。
≪オオカナヘビ≫も≪草羊(グラスシープ)≫も、当たりさえすれば一撃必殺。
もう一つ隣のエリア≪ストーレ草原06≫に移動してみたが、やはりみんな一撃で倒せた。
ノンアクティブのモンスターは初撃で倒せるから、効率が良い。
当たりさえすれば。
剣が振れるようになっただけで、扱いはまだ慣れていない。
その上、ステータスがほぼ初期値だからプルン以外だと命中が安定しない。
俺達はステータスが上がり過ぎててつい忘れそうになるけど、Agiが高いモンスターには攻撃が当たり難くなる。
詳しくは、相手のAgiに対してこっちのDexが低い程、ミスになる確率が上がる。
明らかに攻撃を当てても、すり抜けたようになる。
そういう仕様だ。
と、そこまで考えたところで思い出した。
≪無属性魔法≫の中級にDexに補正を掛けるスキルがあった。
習得して以降≪ステータスが凄いことになってる人≫以外と狩りをする機会がなかったから、すっかり忘れていた。
≪器用上昇≫を掛けると、どのモンスターに対してもミスが無くなった。
Dexも+1000されてるからな。
普通じゃ有り得ない数値だから当然の結果だ。
ストーレ草原06はアクティブモンスターもいるから、≪誇りの献身≫もしっかりかけておいた。
これは他の人のダメージを肩代わりする効果を持つ。
突然≪弾丸鷹(ブリットホーク)≫が葵に突っ込んできてもこれで安心だ。
飛んできても即座にタマが迎撃するから、一度もダメージを受けなかったけど。
備えは、することに意味がある。
何が起きるか分からないからな。
モグラから預かった葵を無事に返すのが一番の目的だ。
効率は置いておいて、安全第一で一週間を過ごしたい。
≪三日月≫との戦いに備えて取得した≪極・守属性魔法≫も活用した。
取得してから初めて使った。
レベル1だから≪物理ダメージ軽減≫の魔法しか使えなかったけど、これも便利そうな魔法だ。
レベル1の1%軽減の時点で100%軽減になるから、維持してる間は受けるダメージが1になる。
そんな感じで、育成一日目は過ぎていった。
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