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227 抱き枕の刑

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「大、勝利……!!」
「ばかな、僕が、こんな子供に……!?」

 結果から言うと、葵が勝利した。
 葵はユニークスキルの効果で、職業スキルをほとんど使えない。
 使える状態にあるのは、たった一つだという。

 それ以外は≪使用不能状態≫になっている。
 これもユニークスキルの効果だ。
 その代わり、封印したスキルの数だけステータスとスキルの効果が+50%される。
 
 使用不能状態になっていないスキルの数だけ-100%されるデメリットもあるが、一つしか残っていない。
 たった二つで取り返せる数字だ。

「ねぇ、今どんな気持ち? 馬鹿にしてた子供に負けるってどんな気持ち……?」
「くっ……!」
「葵おつかれさまー! かっこよかったよ!」
「すごいよ葵ちゃん! 明日は美味しいご飯たっくさん作るね!」
「タマ、ミルキー、ありがとう……!」

 コッカーが倒された状態から身体を起こす。
 葵はゆっくりと距離を詰め、しゃがんだ状態でコッカーに質問を浴びせ始めた。
 その顔は満面の笑みだ。
 怖い。

 タマとミルキー、ムッキーが葵の元へ駆け寄っていく。
 それぞれの言葉で葵を労っている。
 葵も笑顔で出迎える。
 時折コッカーへ向ける冷たい視線以外は、とても和やかな空気だ。

 葵が使える状態にしてあるスキルは、≪起動スタートアップ≫の一つだけ。
 武器を強化する効果を持ち、攻撃力等を少しだけ上げるアクティブスキルだ。
 ≪魔導機械士≫の基本スキルで、色々なスキルに派生するらしい。
 
 対応する装備も、このスキルを使うことで効果を発揮するそうだ。
 今葵が装備してる初期装備や、≪純白猫≫に依頼している装備が当てはまる。

 葵はステータスが数倍になってるとはいえ、コッカーと比べて遙かに高いということもないと思う。
 そんな条件でコッカーに勝利出来たのは、ムッキーとの修行で磨き抜いた技術の賜物だろう。

「葵のことばかにしてなかった? ねぇねぇ? 自信満々だったよね? ね?」
「いっそ殺して……」

 俺もコッカーの方へ向かう。
 座り込んだコッカーの周りをタマが瞬間移動で動き回りながら煽っている。
 ムッキーも位置を変えながら自慢の筋肉を見せつけている。

 あれはきつそうだ。

 多分最初は抵抗したんだろうけど、振り払いようがないからな。
 すっかり諦めてしまっている。

「タマ、一旦そのくらいにしてやって」
「はーい」
「なんだよ、あんたも僕のこと笑いに来たのか?」
「ええ、まあ」
「畜生……!!」

 あれだけ葵のことを馬鹿にしたんだ。
 それくらいされても文句は言えないだろう。

「あれだけ馬鹿にしてた葵に負けた訳ですけど、何かコメントはありますか?」
「いや、なんなのあの動き。一般人の動きじゃないでしょあれ……」
「ふふん」
「あー、凄かったですね。さすが葵ちゃんだな、すごいぞ葵ちゃん!」
「ふっふーん」

 コッカーが絶望した顔で素直な感想を教えてくれる。
 それを聞いた葵はいい顔をしている。
 普段大人しくて表情の乏しい葵の渾身のドヤ笑顔は、すごく微笑ましい感じがする。
 この表情を引き出した点だけは、コッカーを褒めても良い。

 しかし、実際葵は凄かった。
 まるでコッカーの動きが事前に分かってるかのように攻撃を捌くし、的確に当てていた。

 スキルに対しても同じ。
 先手をとって潰すか、発動されても綺麗に躱していた。
 高速で跳ね回り、空中でぎゅるんぎゅるん動いてた。

 しかもその最中に攻撃と防御を的確に行う。
 あの動きは、もしもステータスの補正が無ければ俺には真似出来ないと思う。
 
「あれだけ偉そうなこと言ってたのに負けるなんて、恥ずかしいですね」
「ぐっ……、敗者を苛めて楽しいわけ?」
「今回に限っては楽しいですよ」
「手出すんじゃなかった……」

 満面の笑みを浮かべると、コッカーはがっくりと項垂れた。
 今更後悔しても遅い。
 しっかり反省してもらうからな。

「それで、葵ちゃんに完敗したわけですけど、一体何で支払ってくれるんですか?」
「は? アイテムと装備全部渡したじゃん」

 何言ってんの、とでも言いたげな顔だ。
 何を言ってるんだろうか。

「それは、一回目に降参した時点で全部葵ちゃんのものですよ。また負けたんですから、何かで支払ってもらわないと」
「そんなこと言ったって、払えるものなんて――」
「嫌ならいいんですよ。その時は一週間程、ムッキー達の抱き枕として過ごしてもらいますから」

 俺の言葉に、ムッキーがキメポーズを取る。
 見せつけるように腕の筋肉がピクピクしている。
 こういうポーズはそんなにしなかった筈だが、コッカーへの嫌がらせなんだろうか。
 もしそうなら効果は抜群のようだ。
 明らかに怯えている。

「わ、分かった。それじゃあ情報でどう?」
「情報?」
「今PKの討伐隊が出てるだろう? それに関してだ」
「聞きましょうか」

 コッカーが教えてくれたのは、モグラ達が掴んだ情報についてだった。
 PKが溜まり場にしている場所があって、PK討伐隊はそこへ向かっている。

 しかし、その情報は真っ赤な偽物。
 討伐隊の中にいる裏切り者が嘘の情報を伝えたらしい。

 その場所には誰もいない。
 PKに対して強い恨みや、対抗できる程の力を持つ討伐隊をおびき出し、その隙に好き放題暴れる作戦だと、コッカーは語った。
 なるほど。
 それでこいつらや、マッスル☆タケダを襲ったPK達がいたのか。

 各々好き勝手に動くが、大規模なPK集団が動くのは明日の日中の予定らしい。
 今すぐモグラにメッセージを送ろう。
 討伐隊を呼び戻せばPKも計画を諦めるだろう。

 俺達で迎撃なんてことはしない。
 人殺しは出来ればしたくない。
 俺達を殺しに来たのならともかく、知らない人の為に待ち構えて戦うなんてことを出来る程、俺は立派ではない。

 しかし、思った以上の収穫だった。
 揺さぶってみるものだな。

「これで決闘分の報酬にはなった?」
「はい、充分です」
「良かった……それじゃあ僕はこれで」
「ムッキー達の抱き枕五日間で許してあげますね」
「へ? いや、今充分だって……」
「葵にちょっかいを出した件については、許した覚えはないですよ」
「そ、そんな! 嫌だ! テレ」
「えいっ」
「ぐふっ!?」

 タマの手刀がコッカーの意識を刈り取った。
 よし、このまま連行しよう。
 他のPK達は、兵士に任せよう。

「タマ、グッジョブ。兵士を呼んできてもらっていいか?」
「りょーかい!」

 もう一人のタマが現れてストーレの方へと飛んでいく。
 俺もモグラにメッセージを送っておこう。
 読んだらすぐに戻って来てくれる筈だ。

「葵ちゃん、本当によく頑張ったね、お疲れ様」
「うん……!」
「よし、帰ろう」
「はい」
「はーい!」
「うん!」

 コッカーは俺が、葵はタマが抱えて村へと帰った。
 我が家の前に、畑へ寄った。

「それじゃあ、こいつのこと頼む」
「プシッ」

 後のことはピンポン玉にお願いした。
 手順としては、まずコッカーを沈黙状態にしてもらう。
 その状態で地面に転がすと、太い触手に絡め取られて樹上へと消えていった。

 これで彼は抱き枕として、しばらく生活することになるだろう。
 五日後に様子を見に来よう。

 ああ、突然のことで疲れた。
 葵も疲れただろう。
 明日……もう今日か。朝の予定はなしにして、ゆっくり起きるよう言っておこう。
 
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