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013 隣りのJKとの金曜ロードショー鑑賞会

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しばらく無言でお互い作業に集中し、流れる少し気まずい空気に業を煮やした翔は、肉だねをこねながら、空気を変えるべく桃花に質問した。

「なんで肉をこねる間、ボウルの底を氷水で冷やしながらするの?」

「あっ、それはですね!手の温度で肉の脂が溶け出してしまうのを防ぐためらしいですよ。」

「おっ、今日は検索しなくても大丈夫なんだ。」

「もう!ちゃんと今日は勉強してきましから。」

桃花は手慣れた手つきで肉だねを二等分し、両手でキャッチボールをするように、なかの空気を抜いて、ふっくらと丸みのある楕円形に整えた。

「おー、上手だね。」

「ありがとうございます。よくお母さんのお手伝いをしてましたので。」

桃花は細い指で、肉だねの表面をやさしく撫でるように整えた。

「表面がなめらかになるように整えて下さいね。……均等に熱が当たらないと、ひび割れて中の肉汁が逃げてしまうので。」

「おっ、Whyと尋ねようと思ったら、Becauseまで説明するようになったね。」

「なんで?って聞かれると思いましたので。」

桃花は少し得意げで嬉しそうだ。翔も桃花の真似をして肉だねを整える。表面を整えられた二つの肉だねは、蛍光灯の光をてらてらと僅かに反射している。

「それでは、焼いていきましょう!」

サラダ油をひいて熱されたフライパンの上に、まだ赤いハンバーグを並べる。

ふっくらとしたハンバーグの断面が、茶色に変わってきたところでひっくり返し、両面に焼色をつけていく。肉の焼ける幸せな香りがキッチンに広がった。

その後は弱火にして、五分ほど蒸し焼きにする。

翔が一瞬不思議そうな顔をしたので、「中までちゃんと熱を通しつつ、ハンバーグの醍醐味ともいえる肉汁をしっかり閉じ込めるためです。」と、桃花は翔の「なんで?」を受け付ける前に説明した。

焼きあがったハンバーグが冷めないように、大葉と大根おろしとポン酢をあえたソースは別の器に添えた。

「いただきまーす!!」

二人は声を合わせ、ハンバーグの柔らかな表面に箸を押し当てた。

それだけで、じわりとなかから清涼な油が染み出てきた。箸をさらに中の方まで入れると、勢いよくハンバーグの肉汁が溢れ出してきた。

「うわっ、すごい。こんなの絶対うまいに決まってるよ。」

まずは何もつけずに食べ、ハンバーグの溢れる肉汁を堪能した。

「うーんっ!幸せですね!」

噛みしめる度に溢れてくる肉のうまみに、桃花も頬がゆるんだ表情になっている。

「和風ソースにつけたら、また一段と美味しいな。」

和風ソースに絡めると、ポン酢の酸味と甘みが肉のうまみとマッチし、大根おろしが口内にのこる油をすっとそそぎ、いくらでも食べられそうだった。

「お肉の濃厚な味と、大根おろしのさっぱり加減が丁度いいですね。」

白いごはんとともに、一気に平らげてしまった。

お腹がひと段落ついたところで、二人はテレビを眺めた。

翔は普段あまりテレビを見ないのだが、今日は金曜ロードショーで「耳をすませば」が放映されるため、二人で一緒に見ようという流れになった。

「いやー、甘酸っぱいね。」

「青春ですね。」

エンディングのカントリーロードが流れるのを聞きながら、先月二十歳になったばかりの翔と、もうすぐ十六歳になる桃花はしみじみと口にした。

「桃花ちゃんは好きな人とかいないの?」

「えっ!?」

桃花の心の動揺が、持っていたマグカップに伝わり、カップのふちから紅茶が溢れそうになった。

「いや、桃花ちゃんのくらいの年齢ならさ。彼氏とか、好きな人とかいるんじゃないかなって思ってね。」

紅茶の揺れは収まったが、桃花の動揺が今度は心臓に伝わり、とくとくと鼓動を速めていた。

なんと答えるのがいいのだろうか、と一瞬考えを巡らしたが、素直に答えるのがベストだと、心の動揺を周囲に伝えきって、少し落ち着いた桃花の心は判断を下した。

「えっと…、彼氏はいません。でも、気になっている人は…います。」

桃花は首まで真っ赤にしながらそう答えた。
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