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154.坂の上の小話(day12「坂道」) #ノベルバー
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「っしゃ行くぞ、湊」
「おー」
晴海は肩を怒らせる。湊も拳をゆるく振り上げて同調した。自転車を引いた晴海の目の前には、急勾配の坂が聳えていた。
「チャリはこーゆーときキツいよなー」
「雨の日と坂ね」
晴海がハンドルを握って自転車を押し上げる。湊も荷台を押して手伝った。一歩一歩、じりじりと坂を上がってゆく。見上げた坂の上には真っ青な空と絵に描いたような雲が浮かんでいた。湊は司馬遼太郎の有名な小説を思い出す。明治時代とそこに生きた人々の空気を、坂の上の雲に例えた大長編だ。
「っし、頂上ォ」
自転車の前輪が坂のてっぺんにさしかかる。短い坂ではあるけれど、民家の屋根や緑を見下ろせる高さが新鮮だった。
――鶯や江戸を見下す坂の上
そういえば正岡子規が詠んだ俳句に、そんな作品があった。子規といえば『坂の上の雲』の主要人物の一人でもあるから連想されたのかもしれない。
俳句、短歌、随筆、小説――およそ書き物という書き物はものしているかの才人と湊の共通点は、タイプの違う幼なじみがいたことだ。幼なじみが軍人になったのに対し、子規は文筆の道を極めようとした――病で死ぬ間際まで。間もなく死ぬと分かっていたからこそ。
「下りは早いだろうなー」
湊は荷台に跨がると、晴海の背中に頬を寄せ、腰に腕を回した。
「法律違反だ」
晴海はにんまりと笑う。
「安全運転、秘密厳守でよろしく」
「ワルいねえ、お客さん」
人影のない坂道を晴海はゆっくりと下り始める。湊は腕に力を込めた。坂道を上るも下るも、湊は晴海と一緒がいい。
(了)211112
「おー」
晴海は肩を怒らせる。湊も拳をゆるく振り上げて同調した。自転車を引いた晴海の目の前には、急勾配の坂が聳えていた。
「チャリはこーゆーときキツいよなー」
「雨の日と坂ね」
晴海がハンドルを握って自転車を押し上げる。湊も荷台を押して手伝った。一歩一歩、じりじりと坂を上がってゆく。見上げた坂の上には真っ青な空と絵に描いたような雲が浮かんでいた。湊は司馬遼太郎の有名な小説を思い出す。明治時代とそこに生きた人々の空気を、坂の上の雲に例えた大長編だ。
「っし、頂上ォ」
自転車の前輪が坂のてっぺんにさしかかる。短い坂ではあるけれど、民家の屋根や緑を見下ろせる高さが新鮮だった。
――鶯や江戸を見下す坂の上
そういえば正岡子規が詠んだ俳句に、そんな作品があった。子規といえば『坂の上の雲』の主要人物の一人でもあるから連想されたのかもしれない。
俳句、短歌、随筆、小説――およそ書き物という書き物はものしているかの才人と湊の共通点は、タイプの違う幼なじみがいたことだ。幼なじみが軍人になったのに対し、子規は文筆の道を極めようとした――病で死ぬ間際まで。間もなく死ぬと分かっていたからこそ。
「下りは早いだろうなー」
湊は荷台に跨がると、晴海の背中に頬を寄せ、腰に腕を回した。
「法律違反だ」
晴海はにんまりと笑う。
「安全運転、秘密厳守でよろしく」
「ワルいねえ、お客さん」
人影のない坂道を晴海はゆっくりと下り始める。湊は腕に力を込めた。坂道を上るも下るも、湊は晴海と一緒がいい。
(了)211112
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