【双子型ロボットと博士】らせん階梯

りつ

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らせん階梯

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 詰め込んで、 
 詰め込んで詰め込んで詰め込んで、 
(繰り返し) 
 詰め込んで詰め込んで詰め込んで。 
(繰り返す、ということは) 
 詰め込んで―― 
(なぜヒトに鬼気迫る印象を与えるのでしょうか) 
 命題。 
あまねたすく」 
 ハイセンセイ。パク先生。僕の呼びかけに、少女の声が応えた。 
「周が参りました」 
「翼が参りました」 
 ふたりの顔は全く同じ造りをしていた。髪だけが違う。周は赤みがかった黒髪を市松人形のようなおかっぱにしている。翼は光に透かすと橙色に近くなるベリーショートだ。見る人間が見ればすぐに、彼女たちの顔がシンメトリックに過ぎることに気が付くだろう。普通人間の顔は完全に左右対称にはならない。しかし周と翼の場合、きれいに中心から折り畳むことができる。それどころか、並び合ったふたりから等距離の点を取って折り畳んだとしても、髪型以外はぴったり重なるはずだ。人間で言うところの双子。その形をした、彼女たちは機械だった。 
「お茶を淹れて貰えますか」 
「はい朴センセイ」 
 周と翼は生真面目に頷いて台所へ向かう。 
(お茶を淹れるにも二人がかり、か) 
 最新のヒト型ロボットならばあり得ないことだ。 
 周と翼は、朴家が最初に造ったヒト型ロボットだった。今やロボットの制作と整備に関わる人間はほとんどがアジア系、さらにルーツを遡ればいくつかの家柄に辿り着く。朴家は韓国系の、その道の名家だった。名家と言ってもせいぜいが欧米系より少し上という程度で、アフリカ系の人間からすればやはり下流ではあるのだが。 
 もう何人もの朴という名の当主が、彼女たちと生活を共にしている。ふたりのメモリバンクはとっくの昔に余裕がない。能率の良いお茶の入れ方も、次々変わる当主のことも、新しい事柄はあまり覚えておけなくなっている。 
(詰め込んで) 
 取捨選択して、ぎりぎりまで、詰め込んで詰め込んで詰め込む。「何を優先的に覚えさせておくべきか」は彼女たちを造った初代当主が定めていた。僕はメンテナンスのたびに、データを整理し、余計なものは消し、彼女たちが覚える余地を少しだけ増やしてやる。 
「朴センセイ」 
 柚子茶をどうぞ。周は優雅に茶器を置く。朴センセイ。その呼び名も、一体いつから変わらないのだろう。 
 僕は彼女たちにとって、「朴」という大きな有機体の一部に過ぎない。 
「ありがとうございます」 
 甘酸っぱい香りが立ち上る。周と翼は硝子玉のような黒い瞳で、僕の手元を注視している。瞳には水っぽい膜が貼っているようにさえ見える。そういうふうに、造られている。 
「――ああ。美味しい」 
 それが合い言葉であったかのように、ふたりはほろりと口元を綻ばせた。 
「良かった」 
「良かった。朴センセイ」 
(初代の朴と、したんだろうねえ、こういう会話をさ?) 
 僕の父も、祖父も、曾祖父も詰め込んだ。詰め込んで詰め込んで、詰め込んだ。機械工学の知識と技術を。 
 幼い頃から傍にいる、可憐な自動人形のために。 
「僕は洸煥クァンファン」 
 はい朴センセイ。 
「僕は洸煥……」 
 はい朴センセイ。 
「それを言うな!」 
 沈黙が下りた。僕はぐったりと机に顔を伏せる。酷く疲れていた。僕はメンテナンスのたびにメモリバンクの隙間に僕の名前をねじ込んでやりたくなる。初代の手による絶妙の調和を崩しては何が起こるか分からないのだけれど、どんなことでも今よりは満たされる気がするのだった。



(了)110406
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