【幼馴染DK】至って、普通。

りつ

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至って、普通。

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「別れよっか、僕達」
 切り出すと、いたるは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「な、んで」
 絞り出すように訊かれた。本気で驚いている。緑朗ろくろうには分かった。至とは幼稚園から始まる腐れ縁なのだ。
「いっちゃんと僕、立場が違いすぎる」
 至は陶芸をする。粘土を捏ね、ぐにゃぐにゃの塊だったそれに用の美を与える手つきは、とても高校生のものとは思えない。既に幾つかの作品は、好事家に買われているという。
(こないだ何かの雑誌にも出てた)
 緑朗には縁のない芸術雑誌だ。
 そのまま行けば陶芸家として名を成せるだろう。なのに高校に入って暫くして、至は緑朗に告白するという暴挙に出た。
「立場って何。同級生じゃん」
 そもそも至が陶芸に興味を持ったのも、轆轤ろくろが緑朗に似ているからという斜め上の動機かららしい。至に懐かれていることなど百も承知だった。その上で家族のようなものなのだろうと得心し、勝手に恋心を諦めていた。
 ――緑朗が好き。友達ってだけじゃなくて。
 きちんと好意を説いた至は強い。
 真逆の話を始めてしまった自分は、きっと凄く弱い。
「いっちゃんはこれからどんどん有名になる。だけど僕は」
 安いフライドポテトが頭を垂れた。どんどん冷えて不味くなる。
「なんにも出来ない。フツー過ぎて、全然、いっちゃんに釣り合わない」
 汗をかいた紙コップをぎゅっと握った。
「いっちゃんを幸せに出来るのはもっと――」
「やだ!」
 ばん、と至はテーブルを叩いた。店内にいる客が至と緑朗のほうを見る。
「は」
 至はぼろぼろと涙を零した。
「高校生が人前で泣くう!?」
 それも衆人環視のファーストフードでだ。緑朗は慌てるより先に呆れてしまった。
「俺は泣くよ! だから緑朗じゃないと駄目なんだよ!」
「ちょっといっちゃん声落としてっ」
「アタリマエじゃないことしても、緑朗が見ててくれるって思うから、安心できるのに」
 わあああん、と至は子供のように泣いた。最後には通りすがりのお母さんに、お友達を泣かせちゃいけませんよ、と諭されさえした。完全に幼児の扱いだ。
「バカ。いっちゃん天才なのにバカ!」
「バカでいいから俺といて」
 前言撤回しない限り泣いてやる、と至は情けない脅しをかけてくる。
(あー。くそう)
「緑朗の、フツーなとこが、俺にぴったりなんだよ」
 至の首に伝った涙が、制服の襟へと辿り着く前に指で掬う。ついでに紙ナプキンを掴み、頬も大雑把に拭いてやった。
(役得じゃん……)
 至の頭を撫でる。平凡良きかなと意見を変えつつある自分が現金で、緑朗は少しだけ笑った。



(了)121122
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