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復興 ~Revival~
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式典から2週間が経った。半壊された天界は、修復能力を持つユゥを筆頭にして復興活動が行われ、なんとか元通りにする事が出来た。
他の天使達も日常を取り戻した事で安寧の時を過ごせていた。
「お姉!」
天使達と話していたユゥを見付け、ナギが声を掛けた。
「おぅ。どうした?」
「イリア様が目を覚ましたんだ」
「そっか・・・。じゃあ、挨拶しに行くかな」
「うん」
ユゥは身体を伸ばしながら神殿へと向かった。入口にはパンドラの姿があり、ナギは挨拶しながらイリアに会う事を伝えた。
「久しぶりですね、ユゥ」
「そうだな。お前は相変わらず堅苦しいな」
「そういう貴方もガサツになりましたね」
「もう悩むのやめたんだよ」
「・・・そうですか」
親しく話すユゥを見てナギは微笑ましく思う。誰にでも打ち解けられるユゥの性格を知っているからこそ、ナギはまた以前と同じ様に振る舞う姉を自慢に思えた。
「じゃ、また後でな」
「はい」
パンドラは色の戻った瞳で二人を見送った。
イリアは寝室にいた。他のミスタシア達もいるだろう事を想定していたナギ達は誰もいない事に拍子抜けしてしまった。
「どうしたの?ナギ」
「いえ・・・。お一人なんですね」
「あぁ、今みんな会議中」
「会議?」
「ミスタシアだけで話したい事があるって」
「そうなんですか。怪我の方はどうですか?」
「うん。もう大丈夫だよ。ナージャに治して貰ったから」
悪魔王が消滅した後、イラもカサンドラもランティスも悪魔王の能力から解放された。カサンドラの能力も自然解凍し、すぐに治癒活動を行う事が出来た。イリアもナージャによって治癒され、傷跡は残らなかった。
「良かった・・・」
「あんたが悪魔王を倒したんだってね」
安堵するナギの隣でユゥは突発的に聞いた。
「必死だったけどね・・・」
「凄いんだね。一人で立ち向かうなんて」
「えっ・・・」
「ミスタシアの奴等でさえ敵わなかった奴なのに、本当凄いなって思うよ」
ユゥに誉められ、イリアは頬を真っ赤にした。
「・・・ありがとう・・・」
「紹介がまだだったね。アタシはユゥ。ナギの姉だ」
「あぁ、貴方が・・・。あたしは・・・」
「女神の代理・イリア様だろ?」
「様なんて付けなくていいよ」
「じゃあ、イリアって呼ぶけど」
「うん。その方が落ち着く」
イリアは可愛らしく笑った。
「イリア様。お姉が天界を元通りに直したんですよ」
「そうなんだ。ありがとね」
「いやいや。大した事してないよ」
「其でも、あたしには出来ない事だから。ありがとう」
改めてお礼を言われるとユゥは顔を逸らしなが「どういたしまして」と返した――。
【王座の間】にはミスタシア達が集まっていた。重い空気が支配する。話し合う事はあるのに、切り出し方が解らない。
「・・・腕、大丈夫?」
「少しずつ慣れてきました。まだ重心を保つのが難しいですけど」
エチカは片腕を失った事で杖を使用する事になった。利き腕だったので色々と不馴れな部分もあり、カサンドラが支えていた。
悪魔王に操られていた時の記憶はなく、後からアルカディアによって知らされた。カサンドラは何度もエチカに謝ったが、エチカは優しく笑んで許してくれた。
「ランティスの事・・・だけど」
気まずい空気を破って口火を切ったのはアルカディア。悪魔王を復活させ、式典を滅茶苦茶にしたランティスは地下牢にいた。
「どうする?」
「どうって・・・。あれだけの事したんだもん。ちゃんと責任は取って貰うべきよ」
ナージャが最もな意見を述べた。
「当然かな。オレ達を裏切った罪もあるし」
「・・・追放・・・と言う事ですか・・・?」
レフィが確信に触れた。その言葉程嫌なものはない。だが、他に意見は上がらなかった。
「イラは?」
アルカディアはずっと黙っているイラに聞いた。
「反対はしない。私も、イリアを傷付けたみたいだからな。決める権利はないよ」
「そっか。じゃ、決まりだね。レフィ、イリアちゃんに伝えてきて」
「・・・はい」
指名されたレフィはすぐに寝室へと向かった。話し合いは終わり、アルカディアは地下牢へと足を運んだ。
「無様だね」
足と手に錠を掛けられ、大人しくしているランティスにアルカディアが言った。
「・・・・・・」
「君の処分が決まったよ」
「・・・そう」
「【エデンのほとり】まで来てもらおうか」
「・・・お前の判断か?」
「妥当でしょ。其だけの事したんだもん。責任は取って貰わないと」
アルカディアはランティスの足枷を外しながら言った。
「――なんだ。てっきり情に流されてくれるもんだと思ってたのに」
「オレはそんな甘くないよ」
「イリアはどうかな」
「・・・えっ・・・」
「あの子は優しいから」
ガッとアルカディアはランティスの襟元を掴んだ。
「イリアちゃんの事傷付けといてよくそんな事言えるね。式典だって楽しみにしてたのにあんな風に壊されたら・・・オレだって許せないよ」
アルカディアはランティスを放し、檻から出した。 外に出ると他の天使達がランティスを見ながら囁き合っていた。当然の視線だ。多くの天使を傷付けて、その代償に大切な人を失った。
その凶報を聞いてイリアは理解に遅れた。レフィが言った事を頭の中で復唱する。ランティスの処分。其は、天界からの追放。
「・・・ランティスは?」
「もうアルカディアと【エデンのほとり】に・・・」
イリアはすぐに【エデンのほとり】へと向かった。パジャマのまま裸足である事にも気付かずに。レフィとナギ達も後を追う。
「イリア。まだ無理をしては・・・」
「大丈夫。もう身体は平気だから」
逸る気持ちが抑え切れない。呼吸が荒くなる。縺れそうになる足を必死に動かしながら【エデンのほとり】へと着いた。ちゃんと息が出来ない。膝に手を付きながら呼吸を整える。アルカディアが側で心配する声が聞こえる。
「イリアちゃん」
「・・・大丈夫」
深呼吸し、脈を整えた。
【エデンのほとり】にはミスタシアの皆も揃っていた。ランティスは手錠をされたまま泉を眺めていた。
「ランティス」
「・・・イリア」
「追放されるって聞いて・・・」
「・・・うん。当然の処分だ」
「受け止めてるの・・・?」
「其だけの事をしたからね」
「・・・そう」
ランティス本人が望んでいる事ならイリアに止める権利などない。けれど、今まで優しくしてくれた想いが溢れ出してくる。今でもあの日の事はランティスに救われたと思っている。優しく抱き締めてくれた温もりが忘れられない。
「ランティス。そろそろ・・・」
「あぁ・・・」
少しずつ【エデンのほとり】へと近付いていく。天界から追放された者は下界で生まれ変わり、記憶も何も残らない。二度と会う事は出来ない。
「・・・・・・やだ・・・」
「イリア?」
「嫌だ!」
イリアはランティスの前に出て追放を阻止した。
「ちょっと、リーちゃん・・・」
「イリアちゃん。何のつもり?」
ミスタシア達が怪訝な視線を向ける。
「・・・いけないって解ってる・・・。でも・・・あたしは、ランティスがいなくなるなんて嫌だ!」
イリアは泣きながら訴えた。
「ランティスは・・・あたしに優しくしてくれた。あたしが泣いてても何も聞かないで側にいてくれたの!あの日だって、壊れそうになるのを止めてくれた。皆に危害を被った事は許せないと思う。追放されても仕方ないなのかも知れない。でも・・・あたしは・・・ランティスみたいな優しい天使が居なくなるなんて絶対に嫌なの!」
清廉とした空気にイリアの声が響いた。
「イリア・・・」
「こんなの・・・我儘だって解ってる・・・。でも・・・手離したくない!」
「――イリアちゃん。其は皆も一緒だよ。でも、あそこまで滅茶苦茶にして何のお咎めも無いなんて、他の天使達に示しが付かないでしょう?」
アルカディアはなるべく優しげな口調で諭した。
「・・・だったら、ランティスからミスタシアの称号は剥奪する。優遇される権利も無くすわ。だけど、一つだけ条件を付ける。ランティス」
イリアはランティスに手を伸ばした。
「ずっとあたしの側から離れない事。あたしに命を預けなさい。何があってもあたしを守って」
「・・・イリア・・・」
予期せぬ発言にアルカディア達も戸惑いを見せた。イリアの側近としての存在になり、危害が及ぶ場合は盾となる事。ランティスに自由は与えられない。
「誓うなら、この手にキスして。もし、また裏切る様な事をしたら追放なんかじゃ済まさない。あたしが貴方を殺すわ」
イリアの強い意志に誰も反対出来なかった。ランティスはイリアの手を取り、その甲に口付けした。
「仰せのままに。女神様代理」
「皆も・・・良いですね?」
その条件なら・・・とミスタシア達は納得した。イリアはランティスの手錠を外し、そのまま神殿へ連れ帰ってしまった。
「・・・正直、驚いたわ。あの子があんな事言うなんて」
二人がいなくなった後、ナージャが口を開いた。
「まさかミスタシアの称号を剥奪するとはね。そこまでは考えもしなかったなぁ」
「でもさ、イリアの側にいていざって時には自分の命と引き換えにイリアを守れって・・・其って・・・」
「あぁ。追放されるより過酷かもな」
「イリアに何かあったらランティスの責任って事だろ?其でいいのかな・・・」
「良いんじゃないの?ランティスも受け止めたから誓ったんでしょう」
アルカディアは少し苛立った様子で話をまとめようとした。
「・・・アルカディア、焼きもち?」
「なっ・・・!変な事言わないでよ、ユゥ」
「ごめんよ」
ユゥはペロッと可愛らしく舌を見せながら謝った。
「他の天使達はすぐには受け止めきれないだろうな」
イラは独り言のように呟いた――。
神殿に戻ったイリアはランティスを寝室に連れてきた。
「――敵わないね、あんたには」
「・・・ランティス・・・」
「ぼくは構わないよ。ずっと君の側に居られるなら何だってする。もう、裏切ったりしないよ」
「うん・・・」
「此からは、イリア様と呼んだ方が良いかな」
「えっ・・・」
「示しを付けなきゃならないでしょう?当分ぼくは他の天使達から爪弾きにされる。君の側にいる事を烏滸(おこ)がましいと思う天使も出てくるだろうし」
「・・・そっか」
仕方のない事だ。償うには時間が掛かる。ランティスも解っていた。
「・・・さっきの、嬉しかったよ」
「えっ・・・」
「優しいって言ってくれて。誰かに必要とされたの、初めてなんだ」
「本当の事だよ。ランティスはあたしが辛い時、いつも側にいてくれた。だから、こんな状(かたち)で別れるなんて嫌だったんだ」
「・・・そっか。ありがと」
「今日には他の天使達にもランティスの事は伝えられると思う。何かされたらすぐにあたしに言ってね」
「うん」
ランティスはイリアの優しさを受け止めながら改めて感謝した。
「――あ、着替える?」
気付けばもう日中だ。イリアはパジャマである事を忘れていた。
「そうしようかな」
「じゃ、外で待ってるから」
「えっ?何で?」
「えっ・・・?着替えるんでしょ?」
「別に見られて困るような体じゃないし」
「イリア様。貞操はちゃんと守ってくれないと」
「・・・はぁい。じゃ、ちょっと待ってて」
イリアはあまり羞恥心を感じない。誰が居ようが構わず着替えようとするし、脱ごうとする。仮にも女の子なのだからとミスタシア達は注意するが本人は気にしていない。
「どういう事ですか!ランティスの処分は決まったんじゃないんですか!?」
御触れを出したイラに天使達が殺到していた。ランティスの処分は誰もが天界からの追放だと思っていた。其が女神様代理(イリア)の側近としての存在になったとあらば黙っている訳にはいかない。
「処分は決まった。御触れの通りだ」
「納得いきません!何故天界を壊そうとした奴がイリア様の側近になれるのですか!」
「イリアが決めた事だ。其に、ランティスはイリアに命を預けた。お前達はあの子の為にその身を犠牲に出来るのか?」
そう問われて天使達は視線を逸らした。誰だって命は惜しい。誰かの為に命を投げ出せる程、強くはない。天使達の中にはサラの姿もあった。
「もう決まった事だ。今更変える事は出来ない」
「だったら!ミスタシアの位は誰に与えられるのですか!」
「はっ?」
「ランティスがミスタシアから外されたって事は、新しいミスタシアが必要って事じゃないんですか?」
その発言には他の天使達も頷き、同意を求めた。イラは収拾が付けられなくなり、検討するとだけ答えその場を後にした――。
他の天使達も日常を取り戻した事で安寧の時を過ごせていた。
「お姉!」
天使達と話していたユゥを見付け、ナギが声を掛けた。
「おぅ。どうした?」
「イリア様が目を覚ましたんだ」
「そっか・・・。じゃあ、挨拶しに行くかな」
「うん」
ユゥは身体を伸ばしながら神殿へと向かった。入口にはパンドラの姿があり、ナギは挨拶しながらイリアに会う事を伝えた。
「久しぶりですね、ユゥ」
「そうだな。お前は相変わらず堅苦しいな」
「そういう貴方もガサツになりましたね」
「もう悩むのやめたんだよ」
「・・・そうですか」
親しく話すユゥを見てナギは微笑ましく思う。誰にでも打ち解けられるユゥの性格を知っているからこそ、ナギはまた以前と同じ様に振る舞う姉を自慢に思えた。
「じゃ、また後でな」
「はい」
パンドラは色の戻った瞳で二人を見送った。
イリアは寝室にいた。他のミスタシア達もいるだろう事を想定していたナギ達は誰もいない事に拍子抜けしてしまった。
「どうしたの?ナギ」
「いえ・・・。お一人なんですね」
「あぁ、今みんな会議中」
「会議?」
「ミスタシアだけで話したい事があるって」
「そうなんですか。怪我の方はどうですか?」
「うん。もう大丈夫だよ。ナージャに治して貰ったから」
悪魔王が消滅した後、イラもカサンドラもランティスも悪魔王の能力から解放された。カサンドラの能力も自然解凍し、すぐに治癒活動を行う事が出来た。イリアもナージャによって治癒され、傷跡は残らなかった。
「良かった・・・」
「あんたが悪魔王を倒したんだってね」
安堵するナギの隣でユゥは突発的に聞いた。
「必死だったけどね・・・」
「凄いんだね。一人で立ち向かうなんて」
「えっ・・・」
「ミスタシアの奴等でさえ敵わなかった奴なのに、本当凄いなって思うよ」
ユゥに誉められ、イリアは頬を真っ赤にした。
「・・・ありがとう・・・」
「紹介がまだだったね。アタシはユゥ。ナギの姉だ」
「あぁ、貴方が・・・。あたしは・・・」
「女神の代理・イリア様だろ?」
「様なんて付けなくていいよ」
「じゃあ、イリアって呼ぶけど」
「うん。その方が落ち着く」
イリアは可愛らしく笑った。
「イリア様。お姉が天界を元通りに直したんですよ」
「そうなんだ。ありがとね」
「いやいや。大した事してないよ」
「其でも、あたしには出来ない事だから。ありがとう」
改めてお礼を言われるとユゥは顔を逸らしなが「どういたしまして」と返した――。
【王座の間】にはミスタシア達が集まっていた。重い空気が支配する。話し合う事はあるのに、切り出し方が解らない。
「・・・腕、大丈夫?」
「少しずつ慣れてきました。まだ重心を保つのが難しいですけど」
エチカは片腕を失った事で杖を使用する事になった。利き腕だったので色々と不馴れな部分もあり、カサンドラが支えていた。
悪魔王に操られていた時の記憶はなく、後からアルカディアによって知らされた。カサンドラは何度もエチカに謝ったが、エチカは優しく笑んで許してくれた。
「ランティスの事・・・だけど」
気まずい空気を破って口火を切ったのはアルカディア。悪魔王を復活させ、式典を滅茶苦茶にしたランティスは地下牢にいた。
「どうする?」
「どうって・・・。あれだけの事したんだもん。ちゃんと責任は取って貰うべきよ」
ナージャが最もな意見を述べた。
「当然かな。オレ達を裏切った罪もあるし」
「・・・追放・・・と言う事ですか・・・?」
レフィが確信に触れた。その言葉程嫌なものはない。だが、他に意見は上がらなかった。
「イラは?」
アルカディアはずっと黙っているイラに聞いた。
「反対はしない。私も、イリアを傷付けたみたいだからな。決める権利はないよ」
「そっか。じゃ、決まりだね。レフィ、イリアちゃんに伝えてきて」
「・・・はい」
指名されたレフィはすぐに寝室へと向かった。話し合いは終わり、アルカディアは地下牢へと足を運んだ。
「無様だね」
足と手に錠を掛けられ、大人しくしているランティスにアルカディアが言った。
「・・・・・・」
「君の処分が決まったよ」
「・・・そう」
「【エデンのほとり】まで来てもらおうか」
「・・・お前の判断か?」
「妥当でしょ。其だけの事したんだもん。責任は取って貰わないと」
アルカディアはランティスの足枷を外しながら言った。
「――なんだ。てっきり情に流されてくれるもんだと思ってたのに」
「オレはそんな甘くないよ」
「イリアはどうかな」
「・・・えっ・・・」
「あの子は優しいから」
ガッとアルカディアはランティスの襟元を掴んだ。
「イリアちゃんの事傷付けといてよくそんな事言えるね。式典だって楽しみにしてたのにあんな風に壊されたら・・・オレだって許せないよ」
アルカディアはランティスを放し、檻から出した。 外に出ると他の天使達がランティスを見ながら囁き合っていた。当然の視線だ。多くの天使を傷付けて、その代償に大切な人を失った。
その凶報を聞いてイリアは理解に遅れた。レフィが言った事を頭の中で復唱する。ランティスの処分。其は、天界からの追放。
「・・・ランティスは?」
「もうアルカディアと【エデンのほとり】に・・・」
イリアはすぐに【エデンのほとり】へと向かった。パジャマのまま裸足である事にも気付かずに。レフィとナギ達も後を追う。
「イリア。まだ無理をしては・・・」
「大丈夫。もう身体は平気だから」
逸る気持ちが抑え切れない。呼吸が荒くなる。縺れそうになる足を必死に動かしながら【エデンのほとり】へと着いた。ちゃんと息が出来ない。膝に手を付きながら呼吸を整える。アルカディアが側で心配する声が聞こえる。
「イリアちゃん」
「・・・大丈夫」
深呼吸し、脈を整えた。
【エデンのほとり】にはミスタシアの皆も揃っていた。ランティスは手錠をされたまま泉を眺めていた。
「ランティス」
「・・・イリア」
「追放されるって聞いて・・・」
「・・・うん。当然の処分だ」
「受け止めてるの・・・?」
「其だけの事をしたからね」
「・・・そう」
ランティス本人が望んでいる事ならイリアに止める権利などない。けれど、今まで優しくしてくれた想いが溢れ出してくる。今でもあの日の事はランティスに救われたと思っている。優しく抱き締めてくれた温もりが忘れられない。
「ランティス。そろそろ・・・」
「あぁ・・・」
少しずつ【エデンのほとり】へと近付いていく。天界から追放された者は下界で生まれ変わり、記憶も何も残らない。二度と会う事は出来ない。
「・・・・・・やだ・・・」
「イリア?」
「嫌だ!」
イリアはランティスの前に出て追放を阻止した。
「ちょっと、リーちゃん・・・」
「イリアちゃん。何のつもり?」
ミスタシア達が怪訝な視線を向ける。
「・・・いけないって解ってる・・・。でも・・・あたしは、ランティスがいなくなるなんて嫌だ!」
イリアは泣きながら訴えた。
「ランティスは・・・あたしに優しくしてくれた。あたしが泣いてても何も聞かないで側にいてくれたの!あの日だって、壊れそうになるのを止めてくれた。皆に危害を被った事は許せないと思う。追放されても仕方ないなのかも知れない。でも・・・あたしは・・・ランティスみたいな優しい天使が居なくなるなんて絶対に嫌なの!」
清廉とした空気にイリアの声が響いた。
「イリア・・・」
「こんなの・・・我儘だって解ってる・・・。でも・・・手離したくない!」
「――イリアちゃん。其は皆も一緒だよ。でも、あそこまで滅茶苦茶にして何のお咎めも無いなんて、他の天使達に示しが付かないでしょう?」
アルカディアはなるべく優しげな口調で諭した。
「・・・だったら、ランティスからミスタシアの称号は剥奪する。優遇される権利も無くすわ。だけど、一つだけ条件を付ける。ランティス」
イリアはランティスに手を伸ばした。
「ずっとあたしの側から離れない事。あたしに命を預けなさい。何があってもあたしを守って」
「・・・イリア・・・」
予期せぬ発言にアルカディア達も戸惑いを見せた。イリアの側近としての存在になり、危害が及ぶ場合は盾となる事。ランティスに自由は与えられない。
「誓うなら、この手にキスして。もし、また裏切る様な事をしたら追放なんかじゃ済まさない。あたしが貴方を殺すわ」
イリアの強い意志に誰も反対出来なかった。ランティスはイリアの手を取り、その甲に口付けした。
「仰せのままに。女神様代理」
「皆も・・・良いですね?」
その条件なら・・・とミスタシア達は納得した。イリアはランティスの手錠を外し、そのまま神殿へ連れ帰ってしまった。
「・・・正直、驚いたわ。あの子があんな事言うなんて」
二人がいなくなった後、ナージャが口を開いた。
「まさかミスタシアの称号を剥奪するとはね。そこまでは考えもしなかったなぁ」
「でもさ、イリアの側にいていざって時には自分の命と引き換えにイリアを守れって・・・其って・・・」
「あぁ。追放されるより過酷かもな」
「イリアに何かあったらランティスの責任って事だろ?其でいいのかな・・・」
「良いんじゃないの?ランティスも受け止めたから誓ったんでしょう」
アルカディアは少し苛立った様子で話をまとめようとした。
「・・・アルカディア、焼きもち?」
「なっ・・・!変な事言わないでよ、ユゥ」
「ごめんよ」
ユゥはペロッと可愛らしく舌を見せながら謝った。
「他の天使達はすぐには受け止めきれないだろうな」
イラは独り言のように呟いた――。
神殿に戻ったイリアはランティスを寝室に連れてきた。
「――敵わないね、あんたには」
「・・・ランティス・・・」
「ぼくは構わないよ。ずっと君の側に居られるなら何だってする。もう、裏切ったりしないよ」
「うん・・・」
「此からは、イリア様と呼んだ方が良いかな」
「えっ・・・」
「示しを付けなきゃならないでしょう?当分ぼくは他の天使達から爪弾きにされる。君の側にいる事を烏滸(おこ)がましいと思う天使も出てくるだろうし」
「・・・そっか」
仕方のない事だ。償うには時間が掛かる。ランティスも解っていた。
「・・・さっきの、嬉しかったよ」
「えっ・・・」
「優しいって言ってくれて。誰かに必要とされたの、初めてなんだ」
「本当の事だよ。ランティスはあたしが辛い時、いつも側にいてくれた。だから、こんな状(かたち)で別れるなんて嫌だったんだ」
「・・・そっか。ありがと」
「今日には他の天使達にもランティスの事は伝えられると思う。何かされたらすぐにあたしに言ってね」
「うん」
ランティスはイリアの優しさを受け止めながら改めて感謝した。
「――あ、着替える?」
気付けばもう日中だ。イリアはパジャマである事を忘れていた。
「そうしようかな」
「じゃ、外で待ってるから」
「えっ?何で?」
「えっ・・・?着替えるんでしょ?」
「別に見られて困るような体じゃないし」
「イリア様。貞操はちゃんと守ってくれないと」
「・・・はぁい。じゃ、ちょっと待ってて」
イリアはあまり羞恥心を感じない。誰が居ようが構わず着替えようとするし、脱ごうとする。仮にも女の子なのだからとミスタシア達は注意するが本人は気にしていない。
「どういう事ですか!ランティスの処分は決まったんじゃないんですか!?」
御触れを出したイラに天使達が殺到していた。ランティスの処分は誰もが天界からの追放だと思っていた。其が女神様代理(イリア)の側近としての存在になったとあらば黙っている訳にはいかない。
「処分は決まった。御触れの通りだ」
「納得いきません!何故天界を壊そうとした奴がイリア様の側近になれるのですか!」
「イリアが決めた事だ。其に、ランティスはイリアに命を預けた。お前達はあの子の為にその身を犠牲に出来るのか?」
そう問われて天使達は視線を逸らした。誰だって命は惜しい。誰かの為に命を投げ出せる程、強くはない。天使達の中にはサラの姿もあった。
「もう決まった事だ。今更変える事は出来ない」
「だったら!ミスタシアの位は誰に与えられるのですか!」
「はっ?」
「ランティスがミスタシアから外されたって事は、新しいミスタシアが必要って事じゃないんですか?」
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