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オカルト研究会
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「ただいまー」
僕はどっと疲れた体を引きずり自宅のドアを開けた。
『むぅ、なんであんパンを買いに行かぬのだっ』
「しょうがないだろ。こんな格好じゃ飲食店なんて入れないよ」
帰りの途中にガーシャは駄々をこねるので尚更疲れたのである。例のパン屋を通り過ぎてからずっとこんな調子である。
玄関に入ると濡れたズボンで玄関マットを汚さないように大きめに足を開いて跨ぐ。
自分が漂わせる匂いが申し訳なく思うぐらい、相変わらずこの時間には晩御飯の美味しそうな香りが漂っている。
「おかえりなさいー。あら? 誰か来たのかしら?」
僕は「やば、普通に話ちゃってた…」と後悔した。うまく誤魔化さないと変に思われてしまう。
「それに何か匂いますよ?」
母さんが、エプロンで手を拭きつつ台所から出てきた。
「ちょっと、今日は川に行ってうっかり足を突っ込んじゃって…」
「まぁ! 川は危ないから気をつけなさい」
「はい…」
母さんには珍しく大きめの声を出している。心配している気持ちが伝わってきたので申し訳なく思う。
「それに女の子にまで送らせたりして……。ごめんなさいね」
「えっ?」
『ほう』
女の子? 母さんが言った言葉に疑問を持つ。
「あら、ごめんなさい。また、変なこと言っちゃったみたいね」
母さんは慌てて口を押さえながら申し訳なさそうに言った。
『視界が取れない分、第六感的なものが発達してるのじゃろ』
「優希ちゃん。お母さん変なこと聞くけど、他に誰もいないのよね?」
「え、あ。うん…」
僕は言葉を濁す。
『良かったなぁ、優希。これで妾が妄想でないことが証明されたようなもの』
「えっ? 優希ちゃん?」
「「んっ?」」
母さんの不可解な反応に思わずガーシャとハモッてしまった。
『もしや、貴様は妾の声が聞こえておるのか?』
「うそっ? その子が話してるの?」
母さんは声を震わせ壁に手を添えながらゆっくりこちらに近づいてくる。
『クックック。残念ながら妾は貴様の息子に憑りついておる。除霊なんぞ行っても無駄じゃぞ? 妾は毛頭離れる気なんぞ……』
「キャー!」
母の短い悲鳴が耳に入る。
それもそうだ、息子に悪霊が憑りついてペラペラと呪いの言葉を吐き出しているのだから。僕は、このあとどうやって母をなだめようかと思考を巡らせて――
「何? この可愛い子っ! やだっ? 声の通り小さいっ」
『もごっ!』
母さんが虚空を抱きしめるようなジェスチャーをしている。
いや、実際に僕には見えない何かを抱きしめているようである。
「髪も長くてサラサラ。私、昔から娘の髪を結うのが夢だったのよ」
『ぷはぁっ! ええい、離さんか!』
「あらあら、私のしたことが…。ごめんなさいね。昔から聞こえたり感じてたりしてたけど、あなたほどコミュニケーションがいたことなかったの」
『そんな事情知らぬ! ええぃ、はーなーせー!』
僕にはガーシャの姿は見えないが、実は母さんはとんでもない能力の持ち主だったのかも知れないと取り残されたようにその様子を眺めていた。
僕はどっと疲れた体を引きずり自宅のドアを開けた。
『むぅ、なんであんパンを買いに行かぬのだっ』
「しょうがないだろ。こんな格好じゃ飲食店なんて入れないよ」
帰りの途中にガーシャは駄々をこねるので尚更疲れたのである。例のパン屋を通り過ぎてからずっとこんな調子である。
玄関に入ると濡れたズボンで玄関マットを汚さないように大きめに足を開いて跨ぐ。
自分が漂わせる匂いが申し訳なく思うぐらい、相変わらずこの時間には晩御飯の美味しそうな香りが漂っている。
「おかえりなさいー。あら? 誰か来たのかしら?」
僕は「やば、普通に話ちゃってた…」と後悔した。うまく誤魔化さないと変に思われてしまう。
「それに何か匂いますよ?」
母さんが、エプロンで手を拭きつつ台所から出てきた。
「ちょっと、今日は川に行ってうっかり足を突っ込んじゃって…」
「まぁ! 川は危ないから気をつけなさい」
「はい…」
母さんには珍しく大きめの声を出している。心配している気持ちが伝わってきたので申し訳なく思う。
「それに女の子にまで送らせたりして……。ごめんなさいね」
「えっ?」
『ほう』
女の子? 母さんが言った言葉に疑問を持つ。
「あら、ごめんなさい。また、変なこと言っちゃったみたいね」
母さんは慌てて口を押さえながら申し訳なさそうに言った。
『視界が取れない分、第六感的なものが発達してるのじゃろ』
「優希ちゃん。お母さん変なこと聞くけど、他に誰もいないのよね?」
「え、あ。うん…」
僕は言葉を濁す。
『良かったなぁ、優希。これで妾が妄想でないことが証明されたようなもの』
「えっ? 優希ちゃん?」
「「んっ?」」
母さんの不可解な反応に思わずガーシャとハモッてしまった。
『もしや、貴様は妾の声が聞こえておるのか?』
「うそっ? その子が話してるの?」
母さんは声を震わせ壁に手を添えながらゆっくりこちらに近づいてくる。
『クックック。残念ながら妾は貴様の息子に憑りついておる。除霊なんぞ行っても無駄じゃぞ? 妾は毛頭離れる気なんぞ……』
「キャー!」
母の短い悲鳴が耳に入る。
それもそうだ、息子に悪霊が憑りついてペラペラと呪いの言葉を吐き出しているのだから。僕は、このあとどうやって母をなだめようかと思考を巡らせて――
「何? この可愛い子っ! やだっ? 声の通り小さいっ」
『もごっ!』
母さんが虚空を抱きしめるようなジェスチャーをしている。
いや、実際に僕には見えない何かを抱きしめているようである。
「髪も長くてサラサラ。私、昔から娘の髪を結うのが夢だったのよ」
『ぷはぁっ! ええい、離さんか!』
「あらあら、私のしたことが…。ごめんなさいね。昔から聞こえたり感じてたりしてたけど、あなたほどコミュニケーションがいたことなかったの」
『そんな事情知らぬ! ええぃ、はーなーせー!』
僕にはガーシャの姿は見えないが、実は母さんはとんでもない能力の持ち主だったのかも知れないと取り残されたようにその様子を眺めていた。
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