うちの娼館に元貴族で記憶喪失な新人くんが入店したが懐くを通り越してきた

清田いい鳥

文字の大きさ
13 / 14

12 リカルド再来

しおりを挟む
 図ったように連絡が来たのはその翌朝だった。朝一番に通信魔道具のベルが鳴り、出たら聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。仕事があるからと一度断ったが、じゃあそっちに行くからと言われ、こちらの返事も聞かないうちに切られてしまった。プロポーズの続きではなさそうだ。何か緊急の話だろうか。



「久しぶり。早速だが部屋に通してもらっていいか」 
「いいけど…どうしたのこんな早くから」

 見たことがない質の良い服をきたリカルドが訪ねてきた。会って早々肩を抱かれて急かされ、ろくに片付けてもいない僕の部屋に通した。お茶を持ってこさせると言ったが被せ気味に要らない、と却下された。

「アーロンのことは調べがついてる。あいつ危ないんだろ。今は必死で金策に回ってるはずだ」
「情報が早いね、もう知ってるの。僕、昨日知ったばかりだよ」

「みたいだな。あいつと寝たろ。魔力の気配でわかるよ」
「えっ…………ごめんなさい」

 寝たろ、と言われた瞬間心臓がドクリと音を立てた。捕食者を前にした気分だ。表情を消し、脚を組み、指でトントンと膝を叩くリカルドが怖い。

「まあいい。いや、全然良くないが。二度目はないぞ」
「う、うん…………」

「どうせ同情したんだろう。あなたは他人に甘すぎ…いや、違う、ごめん忘れてくれ。まだ口約束だし、付き合ってくれとも言ってないのに束縛するのはおかしい。そんな話をしに来たんじゃないんだ」
「あ、うん、ありがとう……?」

 しん、と沈黙が降りた。一応契約不履行とはされず安堵した僕と、気まずそうに下を向くリカルドとでしばらくお見合いを続けた。そうだ、金策の中にうちの娼館が入っていることを彼は知っているだろうか。

「あのさ、リカルド。この店、なくなるかもしれないんだ。でも僕はどうにかして維持したいと思ってる。だから僕は稼がせる立場じゃなく、稼ぐ立場に戻ろうと思うんだ。だからその、結婚の話は──」
「は? 待ってくれ、結婚はする。返事してくれただろ。まさか俺が嫌いになったわけじゃないよな? そうなのか?」

「ううん、嫌いになってないよ。でもここをなくすわけにはいかない、だってみんなの生活が……」
「一応話の順序は決めてはいたがすっ飛ばそう。この店は俺が買う」

 ──買う。…………買う??



「えっ、えっ? どういうこと? あ、お婆様の財産で??」
「違うよ。俺が作った金だよ。俺の事業は軌道に乗った。まだ一般向けには販売していないから知らないだろうが、主に兵士が使う商品を作った。つまり商売相手は国になる。評判は上々だよ」

「え、なんか凄そうだね…、それ何?」
「通信魔道具。遠隔用の」



 リカルドの話は専門的すぎて全ては理解し切れなかったが、大雑把に言えばこうだ。

 今までの通信魔道具の作りでは、通信用の回路は地中に埋めた水道管に併走させたりして各家に通すしかない。だから大体あっても壁などに設置してあるのだ。家具のひとつとなっている。

 その常識を彼は覆した。何をどうやっているのか、回路を繋がず使える通信魔道具。動力回路の仕組みを説明してくれたが、魔術学園などに通ったことのない僕には内容がアカデミックすぎてサッパリだった。僕のような者は読み書きが出来るだけで御の字なのだ。

「まだ離れすぎると音質が悪くなったり通信できなくなるから改良の余地があるが、衛兵同士の外での通信には充分使える。今はもう生産が追いついてない状況だ。守衛地は山ほどあるからな」
「凄いよリカルド…頭がいいとは思ってたけど、思ってた以上に凄いよ…」

「お婆様の財産はこの事業のために使った。一旦底をつきかけたが増やした。実家とは縁が切れてるからそっちも問題ない。俺がここを買えばアーロンの野郎もまあ助かることにはなる。レオさんが身売りする必要もなくなる。ていうかそもそも、しなくていいじゃねえか。沈むのはあいつひとりでいいだろ」
「リカルド、ここはね。店を出してみるかって打診を受けたとき、これ幸いとばかりに僕の理想を詰め込んだ場所なんだ。アーロンには感謝してる。だからひとりで沈めなんて思えない。それはわかってほしい」

 目を伏せて頬杖をつき、考える仕草をするリカルドを見ながら僕もまた考えていた。早くアーロンに話を持ちかけなければ。権利書は彼が持っている。僕は何をすればいい。今日中に捕まればいいが、リカルドの予定と合うだろうか。

「……わかった。レオさんの気持ちは汲む。これから権利の譲渡と支払い諸々をやることになるが、実はもう話はつけてある。今日の夕方にうちへ来るよう呼んであるから。はい同意書」
「えっ、早っ」

「サインして。…よし、はいここに指を乗せて。ここに押して。はいこれで完了」
「すご、全然実感湧かない」

「はい、これで俺はここの出資者も同然。レオさんは出資者となら寝るんだよね」
「えっ」

「えっ、じゃないよ。寝るんだよね、出資者となら」
「えっ…………はい」

 リカルドは会心の笑みを浮かべて僕を見ている。僕の時間はしばらく止まったままだった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...