The war of searching

黒縁めがね

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ベルム闘争戦

第16話本部突撃、⑥/狂気と快楽と生と執着と___

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デイビッドは這いつくばり、左足を引き摺りながら東の壁へ行こうとしていた。
視界が霞む、息が上がる、鎧に関係なく体の隅々までが思い。
デイビッドはすこし血を流しすぎた、もう長くは持たないだろう。
デイビッドは意味もなく、あたりを見渡してしまう。
「やっぱ、り…居ない、かぁ…」
そう息絶え絶えに喋る。
彼は自分で気づかない内にメネを探していた。いずれ見つかるかもしれない、そう浅く考えたつもりだった。それがこれほどまで人の意思を無意識に変えるほどにこの戦場は辛すぎた。
親も、故郷も、友人も、メネも、血も、時間も奪われ、残ったのはこの壊れかけの体と実行と手段の現実を理解できないほどの人格と、命。
彼は、奪われすぎた。
ただ今あるモノよりも大切なものを取り返すために動くだけの心のあるこの人間擬きは、今終わりを迎えようとしている。
知らぬ足音が迫るがその正体はジョシュアードだった。
「やっと、見つけたぞ!」
ジョシュアードは歓喜しながらデイビッドに歩みよる。その顔は狂気と言うに少し喜びすぎていた。
その、面に収まりきらないような笑顔を張り付かせデイビッドのうなじに突き立てようと
ジャベリンを振りかぶる。
「まだ…まだ、メネは探し出せてない…。」
また意味もないのにメネを探してしまっていた。めまいがする。視界のピントが合わない、殺される。そんな中、この人間擬きはいつもメネの事ばかりを考えていた。
ジャベリンはデイビッドに迫る。
デイビッドには、走馬灯ではないけれど目の前にメネの姿が見えた。
鎧を着ない、昔のような農民服のメネ。
それを見て「こんなんだったんだ」と心の中でデイビッドは呟く。
そして___

___デイビッドに迫るジャベリンは一つの波打つ血剣に弾かれた。その剣の持ち主は言う。
「ドラゴ、兵団、の方、ですね。」
マスクの男はデイビッドを見るとそうつぶやいた。その頃にはデイビッドの意識は、もはやここにはなかった。

~~~


「___終わりだ!」
薄い緑の髪の王国兵が、ストローベリーブロンドの髪色の血塗れの少年の王国兵に紐を巻きつけたジャベリンを振り下ろし、突き刺そうと迫る。マスクの男はそれを自身のフランベルジュのリカッソで弾いた。
恐らくこの少年は話に聞くドラゴ兵団の本隊員なのだろう。
「ドラゴ、兵団、の方、ですね。」
確認しようと、話しかけたが、血を流しすぎたのか、もうすでに気絶していた。
王国兵の方へ向くと目が合う。
その瞳には狂気が宿いて、故や訳は知らないが、今にもこちらにそのジャベリンを振り投げようと言わんばかりの殺気をマスクの男に向け、口を開く。
「お前、なんだァ、なんだなんだなんだなんだァ!」
声色は、瞳と同じく狂気が纏わりついていた。だが狂気と言うには、少し昂りがすぎている。
そして、息が荒い。こちらを捉える瞳はわずかながらも震えていた。
よって、この狂気ではないモノの正体は___
「…正気、じゃ、ないな、ハイ、になって、る。」
___ハイと言う状態だった。
兵士は常に死と隣り合わせで敵と戦っていて、常に恐怖を感じ取る者。戦闘時は極度の緊張感と恐怖を味わっている。それは本能から来る恐怖の一端で理性では隠しきれないほどだ。
そんな中、この王国兵は興奮していた。
自身の可能性に繋がる未知を知る者、ストロベリーブロンドの髪色の少年のデイビッドに。
そしておそらくこの王国兵、ジョシュアードは履き違えたのだろう、極度の緊張感と恐怖とデイビッドへの昂りを。理性は本能の恐怖や緊張感を抑えきれなくてもそれらを"反転"させる事は可能であった。現に殴ったり、虐めたりすると感じる罪悪感に異常に昂るサディストや、自身への痛みや不幸に異常に昂るマゾティストが居た。それらもまた、何かに対する恐怖や痛みを興奮や嬉しみに変化する者達で常人には理解し難い"変人"だった。
何も、ここでは理解する必要はないのだが。
「死ねぇぇえ!」
とうとうジョシュアードはジャベリンを右逆手に持ち、マスクの男に突き立てるように迫り振るう。男はそれを左半身を出すように躱し、その勢いのままジョシュアードに左ジャブを顔に打ち込む。
「ふぎぅっ」
情けない声を上げて、顔を左手で押さえながら後ろよろめくように二、三歩下がった。鼻血が地面に二、三滴ほど地面に溢れる、致命傷では無いが、大きな隙が生まれた。
マスクの男はジョシュアードに迫り、首を狙ってフランベルジュを右から左へ薙ぐ。
「…!」
「なっ。」
ジョシュアードは左手を顔から首の左横、ちょうど男の狙う部位へ瞬時に場所を変える。男のフランベルジュはジョシュアードの左手首に深く斬り込むが、勢いが出る前に当たったせいか切断とまではいかなかった。
マスクの男はそのままジョシュアードを右回し蹴りを入れる。ジョシュアードは大きく左へ吹き飛び、巻き込まれたテントは土埃を上げながら崩壊する。
追撃を加えようと迫った時___
「隊長、こちらは終わりました!」
そこへテント群突入前、背後にいた兵士たちがマスクの男を呼びながら駆けつけた。
一瞬、そちらに気を取られる。
「!」
土埃が晴れ、崩れたテントの姿が鮮明を映るが、そこにジョシュアードの姿はない。
取り逃がしたようだった。
「それ、は、ともかく」
振り返ると倒れるデイビッドの方へ駆け寄る。
背後の兵達はその様子を眺めているだけだった。脈を測ろうと首筋に触れる。
かなり冷たい。人とは思えないほどだったが、
微弱だが存在していた。
外傷が酷い、左大腿をジャベリンが貫通した後からの血の流れる量は凄まじくデイビッドよりも二つ三つ回り小さい血溜まりができている。
早く処置をしなければならない。
「この、子を、東の壁、に」
すると隊員達の人をが言った。
「もう、助からないようにもみえますが…」
すると男は声色を恐ろしく変えて言った。
「早く、してくだ、さい!」
だが、この帝国兵が言った言葉も理解できる。デイビッドの周りに溜まる血はもう出血死しているようにも見えるほどだ。だが、右手を見ると固く握りしめた拳がそれを否定できる材料だった。
それは死後硬直とは言えないほど、固く握りしめた右手、異常と言えるほどの執着。
その執着は呪いに近く、また生へのものでもないような、別の何かに、誰かに向けられた執着。
少なくとも、マスクの男にはそう見えた。

帝国兵が抱き抱え、去り際に男に問う。
「隊長は、これからどちらに…?」
問われた男は言った。
「殺して、おかな、ければなら、ない王国兵、が、います、それの、完、遂を。」
そう答え、隊員達とは真逆の方角へ歩く。

人殺しの狂気と快楽の知識をその脳に孕んだ男と、生では無い別の何かで自身の命を繋ぎ止める男。
どちらもただの一兵卒にしては、少し___








___少し、この国には邪魔かもしれない。
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