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おっさん、街へ行く
住居
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ランドが戻って来てからパンケーキを食したが、驚くほどの柔らかさだった。
空に浮かぶ雲が口に入っているのではないかと錯覚するほどの食感に思わず声を出してしまい、周りの席に笑われてしまう。
だが、ランドが週に3回もこの店に通っているのには納得だ。
意外と甘党だったからな。
「――へぇ、しばらくはマルノーチにいるんすね。俺はこれから他の街に仕事に行くんすけど……住むところはあるんすか?」
「一応ギルドが宿を用意してくれるらしいよ。まだどんな場所かわからないけど」
「そうでしたか……。だったら、今から俺が持ってる土地に家建てるんで、そこを別荘として使ってくださいよ!」
「俺が持ってる土地!?」
土地を所有しているというのが凄いことくらいは俺にもわかる。
なんてったって、数十年も住んでいるあの山は俺の所有じゃないのだから。
「自分で言うのもアレなんですけど、俺も界隈じゃそこそこ名の通った建築家なんす。んで、報酬の代わりに土地をもらったりってのもあってですね」
「……すごいんだねぇ」
「あざす! ってことで、ここからそう離れてないんで、チャチャっと家作りますよ!」
チャチャっとは家を建てる擬音ではない気がするが、とりあえず彼について行ってみることにした。
マルノーチの街は、中心から外に向けて徐々に居住区が増えてくるらしい。
もちろん最も栄えているエリアにも塔のような居住施設があるものの、おそらく凄まじく金がかかるだろう。
そして俺たちが案内されたのは、中心部からそう離れていない閑静なエリア。
家が立ち並ぶ中にぽつりと空間ができていた。
しかも、普通に豪邸が建てられそうなくらいには広い。
「ここっす! どうですか?」
「どうもなにも……こんな良さそうな場所を提供してもらっていいの?」
「そうだね。かなり良い土地のはずだよ。
街に精通しているキャスが言うのだから間違いないだろう。
「一体、誰がこんなすごい土地を……」
「確か……マルノーチの近くにある国に呼ばれて、騎士団用の宿舎を建てた時っすね。拠点がここだって言ったら、王様がくれたんすよ」
「お、王様……」
小説の中でしか聞いたことないぞ、王様。
明らかに俺のような田舎者が住んでいいところではない。
「何言ってんですか、むしろ器のデカい兄貴にはもっとドドンとした場所がお似合いですよ!」
「落ち着かないよ」
「それじゃあ、あっちにしますか? あんまり変わんないんすけど……」
ランドが指差したのは対面の空き地だった。
大きさといい、今いるところと何ら変わりない、むしろ向こうのほうが大きいかもしれない。
「あそこもランドくんの土地なの!? 報酬でこんな高価そうな土地を貰えるなんて、こっちはどんな仕事を受けたの……?」
俺も気になっていた。
そもそも報酬って現金じゃなくても良いんだな。
「これは、前にマルノーチの大図書館の場所を移すってことで、新しい外装のデザインを任されたんすよ。んで、その報酬で良いとこの土地あげるから自由に使ってねってことらしいっす」
「街の重要施設を……そりゃあ報酬も弾むってもんだね」
自分を慕ってくれる子がデザインした大図書館か。
俄然行きたくなってきた。
「えっと……わからないけど、こっちにしようかな……」
「うっす! あんまり時間もないんでそろそろ建てちゃいますね。兄貴は希望とかありますか?」
「うーん、正直雨風を凌げればなんでもいいって言うか……」
なんならそこら辺の洞窟でも良いくらいだ。
「お前の力を見せてみろってことですね! 了解っす!」
「そういうわけじゃないけどね?」
今さら俺が判断することでもないだろう。
ましてや俺は、最低限しか建築の知識を持たない男だし。
ランドは自分の肩にかけていたバッグから紙とペンを取り出し、難解な道具を駆使して図を描き始めた。
長い時間がかかるかと思っていたが、彼が集中して手を動かしていたのは5分ほどで、その後は俺にいくつかの質問をしてくる。
「ほしい家具とかはありますか? 基本何でもいけるっす」
「うーん……強いて言えば本棚とか?」
「あの家でも一番大切にしてましたもんね、了解っす。ベッドはシングルとダブルのどっちにします?」
「当然シングルで――」
「ダブルかな」
「キャス!?」
勢いよく会話に入り込んできたな。
「あ、前の家では数人で一つのベッドを共有してたもんね。でも、ダブルベッドはどちらかというと二人で寝ることを前提としてて……」
「わ、わかってるよそれくらい。……もう子供じゃないんだし」
口を尖らせてそう言われても、余計に意図が読めないんだが。
「兄貴も罪な男っすねぇ! よっし、やる気がもりもり湧いてきた!」
一人で納得したように頷くと、ランドは設計図を左手に持ち変えて、もう一方の手を宙に掲げた。
「いきますよ! オラァ!」
彼の掛け声とともに、傍らに積み上がっていた木材が宙に浮かぶ。
「おおおおお!?」
ランドが手を動かすたびに木材も動き、まるで積み木を載せるような容易さで骨組みが出来上がっていく。
そのまま30分ほど見ていると、すっかり家が完成していた。
「……俺の知ってる建築と違うんだけど」
「魔術で木材を巧みに動かしていたし、組み方も繊細だったし、意外とインテリ系?」
「本読んだり勉強したり、そういう方が好きなんすよ、俺」
「あぁ、ランドは真面目に学べる子だもんね。俺も最初は身体を動かすのが好きだと勘違いしてたなぁ……」
脳内に在りし日の思い出が蘇ってくる。
「そうっすねぇ。二人で魔物の巣にピクニックに行ったの、今でもたまに夢に出てきますし。今となってはいい思い出なんすけどね。その時にできた傷のおかげで俺だって証明できたわけですし」
「炎を避けて肉を焼くの楽しかったよね」
「どんな距離の詰め方してるわけ……?」
キャスは若干引いているようだったが、何はともあれ、ランドのおかげで当面の住居を確保することができた。
要望した本棚も立派なものをこしらえてもらえたし、一面を本で埋めるのが楽しみだ。
空に浮かぶ雲が口に入っているのではないかと錯覚するほどの食感に思わず声を出してしまい、周りの席に笑われてしまう。
だが、ランドが週に3回もこの店に通っているのには納得だ。
意外と甘党だったからな。
「――へぇ、しばらくはマルノーチにいるんすね。俺はこれから他の街に仕事に行くんすけど……住むところはあるんすか?」
「一応ギルドが宿を用意してくれるらしいよ。まだどんな場所かわからないけど」
「そうでしたか……。だったら、今から俺が持ってる土地に家建てるんで、そこを別荘として使ってくださいよ!」
「俺が持ってる土地!?」
土地を所有しているというのが凄いことくらいは俺にもわかる。
なんてったって、数十年も住んでいるあの山は俺の所有じゃないのだから。
「自分で言うのもアレなんですけど、俺も界隈じゃそこそこ名の通った建築家なんす。んで、報酬の代わりに土地をもらったりってのもあってですね」
「……すごいんだねぇ」
「あざす! ってことで、ここからそう離れてないんで、チャチャっと家作りますよ!」
チャチャっとは家を建てる擬音ではない気がするが、とりあえず彼について行ってみることにした。
マルノーチの街は、中心から外に向けて徐々に居住区が増えてくるらしい。
もちろん最も栄えているエリアにも塔のような居住施設があるものの、おそらく凄まじく金がかかるだろう。
そして俺たちが案内されたのは、中心部からそう離れていない閑静なエリア。
家が立ち並ぶ中にぽつりと空間ができていた。
しかも、普通に豪邸が建てられそうなくらいには広い。
「ここっす! どうですか?」
「どうもなにも……こんな良さそうな場所を提供してもらっていいの?」
「そうだね。かなり良い土地のはずだよ。
街に精通しているキャスが言うのだから間違いないだろう。
「一体、誰がこんなすごい土地を……」
「確か……マルノーチの近くにある国に呼ばれて、騎士団用の宿舎を建てた時っすね。拠点がここだって言ったら、王様がくれたんすよ」
「お、王様……」
小説の中でしか聞いたことないぞ、王様。
明らかに俺のような田舎者が住んでいいところではない。
「何言ってんですか、むしろ器のデカい兄貴にはもっとドドンとした場所がお似合いですよ!」
「落ち着かないよ」
「それじゃあ、あっちにしますか? あんまり変わんないんすけど……」
ランドが指差したのは対面の空き地だった。
大きさといい、今いるところと何ら変わりない、むしろ向こうのほうが大きいかもしれない。
「あそこもランドくんの土地なの!? 報酬でこんな高価そうな土地を貰えるなんて、こっちはどんな仕事を受けたの……?」
俺も気になっていた。
そもそも報酬って現金じゃなくても良いんだな。
「これは、前にマルノーチの大図書館の場所を移すってことで、新しい外装のデザインを任されたんすよ。んで、その報酬で良いとこの土地あげるから自由に使ってねってことらしいっす」
「街の重要施設を……そりゃあ報酬も弾むってもんだね」
自分を慕ってくれる子がデザインした大図書館か。
俄然行きたくなってきた。
「えっと……わからないけど、こっちにしようかな……」
「うっす! あんまり時間もないんでそろそろ建てちゃいますね。兄貴は希望とかありますか?」
「うーん、正直雨風を凌げればなんでもいいって言うか……」
なんならそこら辺の洞窟でも良いくらいだ。
「お前の力を見せてみろってことですね! 了解っす!」
「そういうわけじゃないけどね?」
今さら俺が判断することでもないだろう。
ましてや俺は、最低限しか建築の知識を持たない男だし。
ランドは自分の肩にかけていたバッグから紙とペンを取り出し、難解な道具を駆使して図を描き始めた。
長い時間がかかるかと思っていたが、彼が集中して手を動かしていたのは5分ほどで、その後は俺にいくつかの質問をしてくる。
「ほしい家具とかはありますか? 基本何でもいけるっす」
「うーん……強いて言えば本棚とか?」
「あの家でも一番大切にしてましたもんね、了解っす。ベッドはシングルとダブルのどっちにします?」
「当然シングルで――」
「ダブルかな」
「キャス!?」
勢いよく会話に入り込んできたな。
「あ、前の家では数人で一つのベッドを共有してたもんね。でも、ダブルベッドはどちらかというと二人で寝ることを前提としてて……」
「わ、わかってるよそれくらい。……もう子供じゃないんだし」
口を尖らせてそう言われても、余計に意図が読めないんだが。
「兄貴も罪な男っすねぇ! よっし、やる気がもりもり湧いてきた!」
一人で納得したように頷くと、ランドは設計図を左手に持ち変えて、もう一方の手を宙に掲げた。
「いきますよ! オラァ!」
彼の掛け声とともに、傍らに積み上がっていた木材が宙に浮かぶ。
「おおおおお!?」
ランドが手を動かすたびに木材も動き、まるで積み木を載せるような容易さで骨組みが出来上がっていく。
そのまま30分ほど見ていると、すっかり家が完成していた。
「……俺の知ってる建築と違うんだけど」
「魔術で木材を巧みに動かしていたし、組み方も繊細だったし、意外とインテリ系?」
「本読んだり勉強したり、そういう方が好きなんすよ、俺」
「あぁ、ランドは真面目に学べる子だもんね。俺も最初は身体を動かすのが好きだと勘違いしてたなぁ……」
脳内に在りし日の思い出が蘇ってくる。
「そうっすねぇ。二人で魔物の巣にピクニックに行ったの、今でもたまに夢に出てきますし。今となってはいい思い出なんすけどね。その時にできた傷のおかげで俺だって証明できたわけですし」
「炎を避けて肉を焼くの楽しかったよね」
「どんな距離の詰め方してるわけ……?」
キャスは若干引いているようだったが、何はともあれ、ランドのおかげで当面の住居を確保することができた。
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