【電子書籍1〜2巻発売中】ダジャレ好きのおっさん、勇者扱いされる~昔の教え子たちが慕ってくれるけど、そんなに強くないですよ?~

歩く魚

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おっさん、戦う

vsオーク

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「はぁ、本当に俺もやるのか……」

 途中で「冗談でした」と止まってくれることもなく、俺はマルノーチから連れ出されてしまった。
 まだ日は沈まないとはいえ、うかうかしていると暗くなってしまう。
 早く目的の魔物を討伐しなければ、明らかにこちらが不利。
 だというのに、周囲には平原が広がるばかりで、そのネームドモンスターとやらは影も形もない。

「強い奴ほどそう簡単には姿を現さないよ。だからちょっと別のやつを倒そっか」
「準備運動っすよね」

 キャスはどこからともなく取り出した長い木の杖を、ランドはどデカいハンマーを構えている。

「……あれ、キャスのその杖ってもしかして……」
「ん? あ、うん。山からの卒業祝いでジオにもらった杖を核にして作ったんだ。あの杖のままでも良かったんだけど、鈍器としても使える方が接近戦にも対応できるから」

 キャスが一人前の人間になったということで、山を出る日に渡した杖。
 俺の自作のものだ。
 お世辞にも出来がいいとは言えない代物だし、外の世界で良い物を手に入れるまでの繋ぎとしてプレゼントしたのだが――。

「そんなに大切にしてくれてたのか……」
「も、もちろんだよ。ジオから貰ったこの杖が、山を出てからの私の支えだったんだから」
「わかりますよそれ。俺も兄貴からいただいた世界の建築デザイン本おかげでここまでのし上がれたんで」

 そうそう、ランドには世界中の珍しい建物が描かれている図鑑を渡したんだ。
 元はルーエ……アロンが遺棄しようとしていたものだったな。
 俺は「こんなものもあるんだな」という楽しみ方をしていたが、彼はそれを自らの血肉にしていたらしい。
 柔軟な思考やスポンジのような吸収ができる若さが羨ましいばかりだ。

「あ、あそこにちょうどいいのがいるね」
「オークっすか。ちょっと弱いっすけどやりますか」

 一人瞳を潤ませている俺を放って、二人はオークを狩りに行ってしまった。
 オークはうちの山にはいない種だが、その存在を知らない者はいないだろう。
 人間には劣るがかなりの知能を持ち、その気になれば略奪のために村を襲う。
 武器を持てばそれなりに強いと幼い頃に聞いた覚えがある。
 こうした恐ろしい生態を持つため、進んでオークを狩る冒険者は多い。
 そして、強者にとっては雑兵も同然。
 二人は自分の背丈を越えるオークの軍団をいとも簡単に薙ぎ倒していた。

「フレイムプリズン! 収縮!」
「オラァ! 吹き飛べ!」

 キャスは巨大な炎の檻を作り、それを徐々に狭めることで多くのオークを丸焼きに……多くのオークか。
 また良いジョークを見つけてしまったな。
 ランドのハンマーで天高く吹き飛ばされたオークはすぐに見えなくなる。
 5分としないうちに、群れを作っていたオークは全て倒れ伏していた。

「ま、こんなもんかな」
「無詠唱魔術っすか。すげぇ……」
「私も外に出て驚いた。世間では魔術には詠唱が必要なんだもんね」

 ……え、そうなの?
 俺が愛読している魔術書にも長ったらしい文章は記されていたが、「これは読まなくていい。イメージ的なやつ」と書かれていたぞ。
 いちいち文章を読み上げるなんて、あの山では格好のカモになってしまうしな。

「流石に最上級の魔法は少し時間かかるけどね。ジオみたいに即座にはまだ無理かな」
「パねぇ……」

 単純に学んだ期間が違うんだろう。
 俺はもう40近いが、彼女はまだまだ若い。
 追いつけ追い越せだ。

「……ん? なんか聞こえないか?」

 二人に声をかけると、彼らも気づいたようで顔が引き締まる。

「血の匂いに釣られて来たようっすね」
「ここからが本番だよ。ジオもよろしくね!」
「よろしく!? 俺も戦うの!?」

 慌てふためいている間にも気配が大きくなっている。
 強い風が吹き、木々が揺れ、嫌でも存在を認識してしまう。
 だが、魔物が近づいてくる足音は一向に聞こえない。
 ということは――。

「空か!」

 視線を上へ向ける。

「――マジで?」

 思わず口から言葉が漏れてしまう。
 魔物の見た目が俺の想像とはかけ離れていたからだ。
 夕陽を背にして、巨大な2体の鳥が雄々しく羽ばたいていた。
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