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おっさん、戦う
石像
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「……ねぇ、あれって……」
「そうっすね……」
バジリスクを撃破した後、コカトリスと戦うジオを見ていた二人。
彼が負けるとは微塵も思っていなかったが、悠々と戦闘を終わらせてこちらに手を振る中年男性に驚かないはずがない。
それを苦笑いという形で表出し、恩人の笑顔に応えながら、キャスとランドは小声で話していた。
「ジオはあんまり強いってバレたくない……んだよね?」
「そうだと思います。兄貴ならワンパンであいつ倒せますし、わざわざ回りくどい戦い方をするってことは……」
ジオに育てられた者たちは、誰もが彼のことを大切に思っている。
それが恋愛感情であれ尊敬であれ、形に違いはあれど、幸せを願っているという点で一貫している。
つまり、ジオの考えが読み取れるのは当然と言えるが……。
「でも、クイーンコカトリスを倒してる時点で、街の人たちにとんでもなく強いと思われるのは確定してるんすよね……」
そもそも中位魔術を使ったから弱いとか、そういう次元の話ではなかった。
「あの速さの攻撃をいなして勝ってる時点でね」
「兄貴の人柄と強さなら、みんなに慕われるし危険なんてないと思うんですがねぇ」
そう言ったものの、二人はジオの過去を知っている。
人間が世界をどのように捉えるかは、経験から発生する教訓による。
良い思い出しかなければ世界は美しいと感じるし、迫害され、虐げられていれば世界への憎しみを抱く。
自分たちはジオに救ってもらい、ドス黒い過去を輝かしい未来へと変えてもらったが、彼は違う。
二人は顔を見合わせ、決意を表情に滲ませた。
「私たちがなるべくジオを助けないとね」
「兄貴への敬意は消せないっすけど、あんまり強くないと思わせるくらいはでき……ますかね?」
「無理そうではあるけど頑張るしかないよ。だって見てよ、あの笑顔」
「『たまたま倒しちゃった。てへ!』って顔に書いてありますね……」
こちらに思惑がバレていないと確信している恩人のため、二人は一肌脱ぐことにした。
・
「いやぁはは、なんだかよく分からないけど自滅してくれたみたいだ」
「マジっすか!? 兄貴ならちょちょいと倒せる気もしますけどね」
「いやいや、俺も流石に歳だから。動きも全然見切れなかったよ」
「相手は危険な能力を持っていたのに、さぞ運が良かったんだろうね。あぁ全く心配したよー」
キャスは心配が解消されたように胸を撫で下ろしている。
どうやら俺の戦い方は二人を騙すことができたらしい。
この調子で徐々に力が衰えていると周りの人間に伝えてもらえれば、トラブルに巻き込まれることも少なくなるだろう。
「とりあえず私はバジリスクの残骸を、依頼してきたギルドに届けないといけないから行くね。ジオとランドくんはどうするの?」
「えっと……どうする?」
どうすると問われても、俺は二人に引きずられて来たんだよ。
「そうっすね。コカトリスは依頼に含まれてなかったんすよね? だから報告しなくていいとして、奇跡的に綺麗な石像になってるんで……新居の庭にでも飾ったらどうです?」
「おお! インテリアってやつだね?」
知識だけはある。
都会では使い道に困るようなオブジェなんかを家に飾るそうだ。
そうして周囲の家に経済力をアピールするんだとか。
俺は経済力の「け」の字もない男ではあるが、都会的な装飾というのも一度はやってみたかった。
……あの山で作れるものといったら木彫り作品くらいだったからな。
家の前に置いても破壊される可能性があるし。
「じゃあ、直接持って帰りますか。兄貴は反対側お願いしていいっすか?」
「腰が心配だけど任せてよ。いちにの、さんっ!」
ランドと力を合わせてコカトリスの石像を持ち帰る。
一瞬、腰に電流が走ったが、きっと気のせいだろう。
木造の家に石のオブジェは合わないと思ったが、ランドの建ててくれた家自体が中々の荘厳さを醸し出しているため、意外と馴染んでくれた。
・
「じゃあ俺も仕事があるんでそろそろマルノーチを出ようと思います」
「分かった。色々とありがとう。気をつけるんだよ」
「また何かあったらいつでも言ってください。すっ飛んできますから!」
そう告げてランドは走り去っていった。
彼の背中が見えなくなるのを確認して、俺は家の扉を開ける。
「……一人だと広いな」
「私がいるのを忘れてるだろ」
振り返るとルーエの姿があった。
「いつまで経っても帰ってこないからどうしたかと思ってテレポートしてみたが……なんだこの家は。あれか、略奪か?」
「違うわ! 俺を兄貴って慕ってくれる子が建ててくれたんだよ。ここに住んでいいって」
「でかしたぞジオ! あの山の家は狭いしベッドが固くて敵わんからな。これで私たちの夜もさらに燃え上がるというものだ」
「はいはい、今日は疲れたから汗を流してもう寝ような」
ぶつくさ言っているルーエを無視して水を浴びることにした。
「そうっすね……」
バジリスクを撃破した後、コカトリスと戦うジオを見ていた二人。
彼が負けるとは微塵も思っていなかったが、悠々と戦闘を終わらせてこちらに手を振る中年男性に驚かないはずがない。
それを苦笑いという形で表出し、恩人の笑顔に応えながら、キャスとランドは小声で話していた。
「ジオはあんまり強いってバレたくない……んだよね?」
「そうだと思います。兄貴ならワンパンであいつ倒せますし、わざわざ回りくどい戦い方をするってことは……」
ジオに育てられた者たちは、誰もが彼のことを大切に思っている。
それが恋愛感情であれ尊敬であれ、形に違いはあれど、幸せを願っているという点で一貫している。
つまり、ジオの考えが読み取れるのは当然と言えるが……。
「でも、クイーンコカトリスを倒してる時点で、街の人たちにとんでもなく強いと思われるのは確定してるんすよね……」
そもそも中位魔術を使ったから弱いとか、そういう次元の話ではなかった。
「あの速さの攻撃をいなして勝ってる時点でね」
「兄貴の人柄と強さなら、みんなに慕われるし危険なんてないと思うんですがねぇ」
そう言ったものの、二人はジオの過去を知っている。
人間が世界をどのように捉えるかは、経験から発生する教訓による。
良い思い出しかなければ世界は美しいと感じるし、迫害され、虐げられていれば世界への憎しみを抱く。
自分たちはジオに救ってもらい、ドス黒い過去を輝かしい未来へと変えてもらったが、彼は違う。
二人は顔を見合わせ、決意を表情に滲ませた。
「私たちがなるべくジオを助けないとね」
「兄貴への敬意は消せないっすけど、あんまり強くないと思わせるくらいはでき……ますかね?」
「無理そうではあるけど頑張るしかないよ。だって見てよ、あの笑顔」
「『たまたま倒しちゃった。てへ!』って顔に書いてありますね……」
こちらに思惑がバレていないと確信している恩人のため、二人は一肌脱ぐことにした。
・
「いやぁはは、なんだかよく分からないけど自滅してくれたみたいだ」
「マジっすか!? 兄貴ならちょちょいと倒せる気もしますけどね」
「いやいや、俺も流石に歳だから。動きも全然見切れなかったよ」
「相手は危険な能力を持っていたのに、さぞ運が良かったんだろうね。あぁ全く心配したよー」
キャスは心配が解消されたように胸を撫で下ろしている。
どうやら俺の戦い方は二人を騙すことができたらしい。
この調子で徐々に力が衰えていると周りの人間に伝えてもらえれば、トラブルに巻き込まれることも少なくなるだろう。
「とりあえず私はバジリスクの残骸を、依頼してきたギルドに届けないといけないから行くね。ジオとランドくんはどうするの?」
「えっと……どうする?」
どうすると問われても、俺は二人に引きずられて来たんだよ。
「そうっすね。コカトリスは依頼に含まれてなかったんすよね? だから報告しなくていいとして、奇跡的に綺麗な石像になってるんで……新居の庭にでも飾ったらどうです?」
「おお! インテリアってやつだね?」
知識だけはある。
都会では使い道に困るようなオブジェなんかを家に飾るそうだ。
そうして周囲の家に経済力をアピールするんだとか。
俺は経済力の「け」の字もない男ではあるが、都会的な装飾というのも一度はやってみたかった。
……あの山で作れるものといったら木彫り作品くらいだったからな。
家の前に置いても破壊される可能性があるし。
「じゃあ、直接持って帰りますか。兄貴は反対側お願いしていいっすか?」
「腰が心配だけど任せてよ。いちにの、さんっ!」
ランドと力を合わせてコカトリスの石像を持ち帰る。
一瞬、腰に電流が走ったが、きっと気のせいだろう。
木造の家に石のオブジェは合わないと思ったが、ランドの建ててくれた家自体が中々の荘厳さを醸し出しているため、意外と馴染んでくれた。
・
「じゃあ俺も仕事があるんでそろそろマルノーチを出ようと思います」
「分かった。色々とありがとう。気をつけるんだよ」
「また何かあったらいつでも言ってください。すっ飛んできますから!」
そう告げてランドは走り去っていった。
彼の背中が見えなくなるのを確認して、俺は家の扉を開ける。
「……一人だと広いな」
「私がいるのを忘れてるだろ」
振り返るとルーエの姿があった。
「いつまで経っても帰ってこないからどうしたかと思ってテレポートしてみたが……なんだこの家は。あれか、略奪か?」
「違うわ! 俺を兄貴って慕ってくれる子が建ててくれたんだよ。ここに住んでいいって」
「でかしたぞジオ! あの山の家は狭いしベッドが固くて敵わんからな。これで私たちの夜もさらに燃え上がるというものだ」
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