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おっさん、王国へ行く
呼び出し
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「えー、ジオ・プライム! ジオ・プライム……殿、至急姿を見せるよう!」
聞き覚えのない男の声で目を覚ます。
「……なんだ、ジオ。お前、また何かやらかしたのか? ……ふわぁ」
隣で寝ていたルーエも起きてしまったようで、彼女は俺の顔を見て、俺が知らないことを理解すると、布団をかぶって再び眠ってしまった。
「ジオ・プライム殿! これ以上、我々を待たせるのは得策とはいえない! 近隣住民の迷惑も考えてもらおう!」
いや、朝っぱらから大声で、それも拡声の道具なり魔術なりまで使ってるのはそっちだろう。
そもそも、俺が一体何をしたと言うのだ。
「……あのぉ、とりあえず一度出てきていただいてもよろしいでしょうか? 私達としてもですね、ここでこのままマルノーチの方々に睨まれたままというのは……」
急にしおらしくなったな。
理由は未だ不明だが、彼、あるいは彼らも上司に命令されてここに来ているだけなのだろう。
可哀想だし出ていってやるか。
「ルーエ、ちょっと行ってくる」
「……ジオ、そこはダメだぞ……そこは……」
「…………」
どんな夢を見ているんだこいつは。
とりあえず服を着て、最低限身だしなみを整えた俺は家の扉を開ける。
まず最初に感じたのは、今日も天気が良いなということだった。
雲ひとつない青空、生ぬるい風、小鳥の囀りも聞こえてくる。
山の朝も澄んでいて気持ちが良かったが、人の活気が溢れるような朝もまた素晴らしい。
そして、視線をまっすぐに向けると20人余りの人間。
無論、彼らはマルノーチの住民ではないだろう。
身に纏っている防具は冒険者のような軽装ではなく、金属製の鎧だった。
「お越しいただきありがとうございます!」
俺を呼んでいたのと同じ声だ。
鎧集団は皆一様に同じ格好をしていたが、その代表のように前に出ている二人だけは違った。
一人が、今、俺に呼びかけて頭を下げている男。
兜の顔部分が開けられていて、端正な顔立ちと意思の強そうな黒い眉毛が見える。
「「「ありがとうございます!」」」
彼に続くように背後の戦士達も頭を下げたことから、彼らのリーダーのような役割なのではないかと推測できる。
「…………」
そしてもう一人だが、その人物はすっかり顔を兜で覆ってしまっているため何もわからない。
特徴らしい特徴といえば、一人だけ鎧に赤が入っているところとか、兜の上部がつばの広い帽子のようになっていることだろう。
立ち振る舞いからかなりの使い手なのはわかる。
おそらく、隣の黒眉の男よりさらに上の立場だ。
「えっと、私に何かご用でしょうか? 呼び出されるようなことをした覚えはないのですが……」
そう聞くと、黒眉の男はピシッと背筋を伸ばして口を開く。
「はっ! 当然のことながら、ジオ殿に悪評などありません! 要件は他でもない、昨夜のマルノーチ死守戦のことでございます!」
「……はい?」
余計に意味がわからない。
昨夜の勝利は、マルノーチを拠点とする冒険者達が力を合わせて勝ち取ったものだ。
俺はアドバイスこそしたが、あの場で俺の正体に気づけた人がいるとは思えない。
「あの勝利は書の守護者、いや、洞察賢者殿のお力があってのことと、その活躍は我々の国にまで流れてきました!」
「ドウサツ……ケンジャ?」
知らないうちにまた新しい呼び名が増えているぞ。
しかも、ちょっと恥ずかしい系のやつだ。
「そんな並外れたお力を持つジオ殿にお願いがあってやって来たのです!」
黒い眉の男は一歩前に出て、深く頭を下げる。
「どうか、我々ケンフォード王国の騎士団にもお力添えをいただけませんでしょうか!」
「ケンフォード……王国? 騎士団?」
聞き慣れない言葉ばかりだ。
……待てよ。王国って確か、マルノーチよりさらに大きい場所だってレイセさんが言ってたよな?
マルノーチでさえ人が多いと感じるし、視線も怖い。
それがさらに増すであろうケンフォード王国に来てほしいと言われているのか?
「いやいやいやいやいや、そんな恐れ多いです! 私はもうすぐ田舎に帰りますので……」
「いやいやいやいやいや、待ってくださいジオ殿! あなたほどの傑物に巡り会える機会など二度とないのです! ここはひとつ……」
「いやいやいやいやいや、そのケツ……って言うのはよくわからないですけど、私は歳でお尻も硬いのです! だから家にですね……」
「いやいやいやいやいや、何卒お願いいたします!」
ダメだ。このままだと勢いで押し負けてしまうだろう。
こんな時には「ワンダフルユーモア」の出番だ。
シャレを思い出す時、俺の脳は最高速で回転する。
……ほら、いいのが出て来たぞ。
今回は「断り編」から「早く家に帰りたい時のジョーク」だ。
これは、自分の家の遠さを暗に伝えることで相手に退いてもらう高等テクニックだ。
なるべく嫌な言い方にならぬよう、最大限注意を払って口を開く。
「いやぁ、ウチなんて何キロかかるかわからないくらいの帰路でね、遠いんですよ」
俺が渾身の一撃を繰り出すと、黒い眉の男は言葉を止める。
そして、先ほどまでぴくりとも動かなかった赤い鎧の戦士が一歩踏み出してきた。
何をするのかと身構えると、そいつは自らの兜を取り――。
「――えっ?」
美しい金髪のショートカットに凛々しい顔立ち。
ボーイッシュではあるが、紛れもなく女性。
彼女は俺に丁寧に一礼すると部下の方へ振り返り、合図のように腕を振る。
その動きを見て戦士達は。
「――ははははははははは!」
皆一斉に笑い出したのだ。
聞き覚えのない男の声で目を覚ます。
「……なんだ、ジオ。お前、また何かやらかしたのか? ……ふわぁ」
隣で寝ていたルーエも起きてしまったようで、彼女は俺の顔を見て、俺が知らないことを理解すると、布団をかぶって再び眠ってしまった。
「ジオ・プライム殿! これ以上、我々を待たせるのは得策とはいえない! 近隣住民の迷惑も考えてもらおう!」
いや、朝っぱらから大声で、それも拡声の道具なり魔術なりまで使ってるのはそっちだろう。
そもそも、俺が一体何をしたと言うのだ。
「……あのぉ、とりあえず一度出てきていただいてもよろしいでしょうか? 私達としてもですね、ここでこのままマルノーチの方々に睨まれたままというのは……」
急にしおらしくなったな。
理由は未だ不明だが、彼、あるいは彼らも上司に命令されてここに来ているだけなのだろう。
可哀想だし出ていってやるか。
「ルーエ、ちょっと行ってくる」
「……ジオ、そこはダメだぞ……そこは……」
「…………」
どんな夢を見ているんだこいつは。
とりあえず服を着て、最低限身だしなみを整えた俺は家の扉を開ける。
まず最初に感じたのは、今日も天気が良いなということだった。
雲ひとつない青空、生ぬるい風、小鳥の囀りも聞こえてくる。
山の朝も澄んでいて気持ちが良かったが、人の活気が溢れるような朝もまた素晴らしい。
そして、視線をまっすぐに向けると20人余りの人間。
無論、彼らはマルノーチの住民ではないだろう。
身に纏っている防具は冒険者のような軽装ではなく、金属製の鎧だった。
「お越しいただきありがとうございます!」
俺を呼んでいたのと同じ声だ。
鎧集団は皆一様に同じ格好をしていたが、その代表のように前に出ている二人だけは違った。
一人が、今、俺に呼びかけて頭を下げている男。
兜の顔部分が開けられていて、端正な顔立ちと意思の強そうな黒い眉毛が見える。
「「「ありがとうございます!」」」
彼に続くように背後の戦士達も頭を下げたことから、彼らのリーダーのような役割なのではないかと推測できる。
「…………」
そしてもう一人だが、その人物はすっかり顔を兜で覆ってしまっているため何もわからない。
特徴らしい特徴といえば、一人だけ鎧に赤が入っているところとか、兜の上部がつばの広い帽子のようになっていることだろう。
立ち振る舞いからかなりの使い手なのはわかる。
おそらく、隣の黒眉の男よりさらに上の立場だ。
「えっと、私に何かご用でしょうか? 呼び出されるようなことをした覚えはないのですが……」
そう聞くと、黒眉の男はピシッと背筋を伸ばして口を開く。
「はっ! 当然のことながら、ジオ殿に悪評などありません! 要件は他でもない、昨夜のマルノーチ死守戦のことでございます!」
「……はい?」
余計に意味がわからない。
昨夜の勝利は、マルノーチを拠点とする冒険者達が力を合わせて勝ち取ったものだ。
俺はアドバイスこそしたが、あの場で俺の正体に気づけた人がいるとは思えない。
「あの勝利は書の守護者、いや、洞察賢者殿のお力があってのことと、その活躍は我々の国にまで流れてきました!」
「ドウサツ……ケンジャ?」
知らないうちにまた新しい呼び名が増えているぞ。
しかも、ちょっと恥ずかしい系のやつだ。
「そんな並外れたお力を持つジオ殿にお願いがあってやって来たのです!」
黒い眉の男は一歩前に出て、深く頭を下げる。
「どうか、我々ケンフォード王国の騎士団にもお力添えをいただけませんでしょうか!」
「ケンフォード……王国? 騎士団?」
聞き慣れない言葉ばかりだ。
……待てよ。王国って確か、マルノーチよりさらに大きい場所だってレイセさんが言ってたよな?
マルノーチでさえ人が多いと感じるし、視線も怖い。
それがさらに増すであろうケンフォード王国に来てほしいと言われているのか?
「いやいやいやいやいや、そんな恐れ多いです! 私はもうすぐ田舎に帰りますので……」
「いやいやいやいやいや、待ってくださいジオ殿! あなたほどの傑物に巡り会える機会など二度とないのです! ここはひとつ……」
「いやいやいやいやいや、そのケツ……って言うのはよくわからないですけど、私は歳でお尻も硬いのです! だから家にですね……」
「いやいやいやいやいや、何卒お願いいたします!」
ダメだ。このままだと勢いで押し負けてしまうだろう。
こんな時には「ワンダフルユーモア」の出番だ。
シャレを思い出す時、俺の脳は最高速で回転する。
……ほら、いいのが出て来たぞ。
今回は「断り編」から「早く家に帰りたい時のジョーク」だ。
これは、自分の家の遠さを暗に伝えることで相手に退いてもらう高等テクニックだ。
なるべく嫌な言い方にならぬよう、最大限注意を払って口を開く。
「いやぁ、ウチなんて何キロかかるかわからないくらいの帰路でね、遠いんですよ」
俺が渾身の一撃を繰り出すと、黒い眉の男は言葉を止める。
そして、先ほどまでぴくりとも動かなかった赤い鎧の戦士が一歩踏み出してきた。
何をするのかと身構えると、そいつは自らの兜を取り――。
「――えっ?」
美しい金髪のショートカットに凛々しい顔立ち。
ボーイッシュではあるが、紛れもなく女性。
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その動きを見て戦士達は。
「――ははははははははは!」
皆一斉に笑い出したのだ。
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