97 / 154
おっさんと再会
回想
しおりを挟む
なんの外傷も作らず、巨大な木の中に入り込む方法は少ない。
子供なら尚更である。
見たところ、年齢は10になるかどうかというところで、今までに見たことのない独創的な髪型をしていた。
このくらいの歳なら、男女ともに顔立ちにあまり違いは見られず、髪型のせいで、男の子とも女の子ともとれる。
身につけているのはボロボロと呼ぶのが相応しい貧相な布だったが、質感に違和感があった。
好奇心に駆られて布に触れてみるが、刺々しさがなく滑らか。
もしかすると、この子は高貴な家の出身なのかもしれない。
……それにしては、捨てるにしてももう少し品のある格好を、と思ったが、あえてみすぼらしい装いをさせることで、家柄を誤魔化している可能性もあるな。
それとも、この子の出身地の技術が特殊で、どの衣服も触り心地が良いのかもしれない。
とにかく、俺は子供を家に連れ帰ることにした。
手に持っている文字の書かれた長方形の紙と、すやすや眠っている様子が気になったが、危険なことには変わりない。
仮に観光でここに来ているなら、謝った後にまた木の中に戻してやろう。
・
あれから3日が経過した。
連れ帰った子はどうやら女の子のようで、目を覚ましてからの印象は、不思議としか言いようがなかった。
1日目は、起き上がると猫のような目で周囲をキョロキョロと見回していて、俺が声をかけても、首を傾げて返事をしてくれなかった。
共に暮らしている子供たちも同様で、使用言語が違うのではないかと不安になる。
2日目の朝。
自室で目を覚ますと、布団の中に彼女が潜り込んですやすやと眠っていた。
人離れした雰囲気だからか、何故だか背筋のぞっとした俺は彼女を起こし、話しかけてみることにした。
すると、昨日とは違ってぽつぽつと返事がくる。
彼女の名前は「ミヤ」というらしく、まだ詳しい事情は理解していないようだったが、やはり捨て子だった。
また、出身の話を聞いてみるが、内容から察するにかなり遠いところだ。
つまり、このまま山の麓まで送って行っても野垂れ死ぬだけ。
彼女に了解を得て、この山で育てることにした。
3日目からは徐々に口数も増えていき、他の子供達ともコミュニケーションをとるようになる。
しかし――。
「ふあぁ……今日は腰が痛いなぁ。心なしか身体も重いし……って何やってんの!?」
「おはようございます、お館様。今日は一段と冷えると思いましたので、私が温めて差し上げようかと。人肌こそがいちばんの温もりであると、先日、本で学びました」
「今は夏だしそんなことを書いてる本は持ってないよ!?」
一年、二年と共に過ごしていくうちにスキンシップが激しくなっていき――。
「いやぁいい湯だ。こうして風呂に入ることで肉体の疲れをとって、美しい月を見て精神的な……ん? 妙にブクブク……おおお!?」
「お疲れ様でございます、お館様。ミヤがお背中を流して差し上げようかと思い――」
「もう身体洗ってるんだわ! 早く出なさい!」
ということで、彼女がいる間は油断ならない毎日だった。
だが、子供成長は早いもので、元から要領の良かったミヤは立派に成長したのだ。
そのため人里に降りてもらうことになったのだが――。
「……ぐすっ。手のかかることほど可愛いってよく言ったもんだよ。ミヤ、外に行っても元気でいるんだぞ……」
「もちろんですお館様。それでは花嫁修行の旅に出て参ります」
「え、それだけ!? もう姿見えなくなってるね!?」
辛そうなのは俺だけで、ミヤはケロッとした顔で去って行ってしまった。
うんうん、俺もまだまだ捨てたもんじゃないな。
こうやって過去のことも思い出せているし、実はそんなにおっさんじゃないのかもしれない。
温泉で疲れもとったし、老化かと思ったら過労か?
お、今のはなかなか良い洒落が……っていうか俺の身体、揺れてない?
子供なら尚更である。
見たところ、年齢は10になるかどうかというところで、今までに見たことのない独創的な髪型をしていた。
このくらいの歳なら、男女ともに顔立ちにあまり違いは見られず、髪型のせいで、男の子とも女の子ともとれる。
身につけているのはボロボロと呼ぶのが相応しい貧相な布だったが、質感に違和感があった。
好奇心に駆られて布に触れてみるが、刺々しさがなく滑らか。
もしかすると、この子は高貴な家の出身なのかもしれない。
……それにしては、捨てるにしてももう少し品のある格好を、と思ったが、あえてみすぼらしい装いをさせることで、家柄を誤魔化している可能性もあるな。
それとも、この子の出身地の技術が特殊で、どの衣服も触り心地が良いのかもしれない。
とにかく、俺は子供を家に連れ帰ることにした。
手に持っている文字の書かれた長方形の紙と、すやすや眠っている様子が気になったが、危険なことには変わりない。
仮に観光でここに来ているなら、謝った後にまた木の中に戻してやろう。
・
あれから3日が経過した。
連れ帰った子はどうやら女の子のようで、目を覚ましてからの印象は、不思議としか言いようがなかった。
1日目は、起き上がると猫のような目で周囲をキョロキョロと見回していて、俺が声をかけても、首を傾げて返事をしてくれなかった。
共に暮らしている子供たちも同様で、使用言語が違うのではないかと不安になる。
2日目の朝。
自室で目を覚ますと、布団の中に彼女が潜り込んですやすやと眠っていた。
人離れした雰囲気だからか、何故だか背筋のぞっとした俺は彼女を起こし、話しかけてみることにした。
すると、昨日とは違ってぽつぽつと返事がくる。
彼女の名前は「ミヤ」というらしく、まだ詳しい事情は理解していないようだったが、やはり捨て子だった。
また、出身の話を聞いてみるが、内容から察するにかなり遠いところだ。
つまり、このまま山の麓まで送って行っても野垂れ死ぬだけ。
彼女に了解を得て、この山で育てることにした。
3日目からは徐々に口数も増えていき、他の子供達ともコミュニケーションをとるようになる。
しかし――。
「ふあぁ……今日は腰が痛いなぁ。心なしか身体も重いし……って何やってんの!?」
「おはようございます、お館様。今日は一段と冷えると思いましたので、私が温めて差し上げようかと。人肌こそがいちばんの温もりであると、先日、本で学びました」
「今は夏だしそんなことを書いてる本は持ってないよ!?」
一年、二年と共に過ごしていくうちにスキンシップが激しくなっていき――。
「いやぁいい湯だ。こうして風呂に入ることで肉体の疲れをとって、美しい月を見て精神的な……ん? 妙にブクブク……おおお!?」
「お疲れ様でございます、お館様。ミヤがお背中を流して差し上げようかと思い――」
「もう身体洗ってるんだわ! 早く出なさい!」
ということで、彼女がいる間は油断ならない毎日だった。
だが、子供成長は早いもので、元から要領の良かったミヤは立派に成長したのだ。
そのため人里に降りてもらうことになったのだが――。
「……ぐすっ。手のかかることほど可愛いってよく言ったもんだよ。ミヤ、外に行っても元気でいるんだぞ……」
「もちろんですお館様。それでは花嫁修行の旅に出て参ります」
「え、それだけ!? もう姿見えなくなってるね!?」
辛そうなのは俺だけで、ミヤはケロッとした顔で去って行ってしまった。
うんうん、俺もまだまだ捨てたもんじゃないな。
こうやって過去のことも思い出せているし、実はそんなにおっさんじゃないのかもしれない。
温泉で疲れもとったし、老化かと思ったら過労か?
お、今のはなかなか良い洒落が……っていうか俺の身体、揺れてない?
21
あなたにおすすめの小説
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
スキル覚醒の覇王ー最弱から成り上がる異世界チート伝
あか
ファンタジー
主人公:
名:天城蓮(あまぎ れん)
高校生。異世界に転生。
与えられたスキルは「模倣(コピー)」だが、初期は“未熟”で使い物にならない。
しかし実は、一定条件で“覚醒進化”し、あらゆるスキルを「上位変換」できる唯一無二の能力へと進化する。
ヒロイン:
エリス・ヴァンデル — 王国の天才魔導士。蓮に興味を持ち、共に旅をする。
やがて、蓮の覚醒の鍵となる存在。
世界観:
五大神に支配された世界「アルカディア」。
スキルによって人生が決まり、弱者は徹底的に排除される。
蓮はその理不尽なシステムを破壊する“異端者”として成り上がる。
80話で完結になっています。
ご感想などあればよろしくお願いします。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる