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24 どこまでが
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今日はもう、モニに案内してもらうのは無理だろうが、大通りへの道筋を教えてもらわないと帰れない。今日だけで三件も見た呪いの正体がオサヒグンラのものなら、どうしてそんなことになっているのか、ヒメサマと早く話し合いたかった。
だけど、回復したロニが、モニに縋りついて謝りはじめた。すぐに帰りたいと言い出せる雰囲気ではない。
「おねえちゃん、ごめんね。あたしね、わるいことしたの」
「ロニ?」
こうなったら話を全部聞いてしまおうと、病み上がりにも効くかわからなかったが、回復薬を飲ませたらロニは楽になったようで詳しい話をはじめた。
「あのね、あたしね、たびのひとのにもつをとったの……そしたらね、黒いのがあしにくっついて、こわくて、にもつをすてたの」
「ロニ、あんたはまだ小さいから、お金なんて気にしなくていいって言ったのに」
「おねえちゃんだって、こどもだもん! うわーん」
ロニは旅人の鞄を置き引きしたら、呪いを受けたようだった。悪いことをしたとはいえ、幼いふたりだけで生きて行かねばならないことへの同情も強い。
ひとしきり泣いたロニが落ち着くのを待って、トーカは気になることを聞いた。
「鞄の中に何かが入っていたのか。ロニ、鞄を捨てたのはどこか覚えてる?」
「さんぼんばしの、ひとつめのとこ」
「そこに案内したらいい?」
モニはすぐにトーカが何をしたいか気付いた。
「……明日でいい。今日は妹についていたほうがいいだろう」
「仕事をさせて。ロニ、あたし、この人に案内のお仕事してるの。待ってられるね?」
「うん。おねえちゃんを、おねがいします」
しっかりした姉妹だった。親がなくてもきょうだいがいたら違っていたのだろうかと考えて、今が幸せなのになぜこんなことを思うのだろうと疑問に思う。
モニに出会ってから、やけに仮定の話が多い。
単に経験不足だったから、突然の現実の奔流についていけていないだけか、それとも。
「ロニの言ってた橋はここ」
「陸橋なら、下は人が通るんじゃないか」
「この下は騎馬専用の道なの」
「騎馬……まさか」
モニの暗い顔に、トーカは昼間の馬車の転倒事故を思い出した。馬車用の馬がここを通ったかどうかはわからない。しかし、街中の移動がメインだと思われる馬車の馬が魔物の呪いにあたることは、珍しいはずだ。
「聖者さま、ロニは捕まりますか」
「今のロニは呪われてない。神殿での解呪を受けなければ、呪いはとけないんだろう? おれは回復薬をあげただけ。栄養が足りなくても人は病気になる」
「回復薬のおかげ……」
「そう」
トーカは、姉妹が安心する方法を必死に考えた。
普通の街では、偉い人と偉くない庶民がいて、偉い人の命は庶民よりずっと重いとされているのを知っている。偉い人にちょっと怪我をさせるだけでも庶民は処刑されることもあるという。
納得がいっているわけではないが、そういう仕組みになっているものを壊したいというほどでもない。
「あと、おれは聖者じゃない」
「猫ちゃんが聖者さまなの?」
「うん。でも、内緒にしてほしい。人に知られたら、神様の国に帰っちゃうんだ」
「わかった」
キリッとした顔で、トーカの言葉に頷いたモニは、たった数時間でずいぶん成長したように見えた。
モニに宿まで案内され、馬車からモニの件で、思いがけず離れたところまで行っていたこともわかった。狭い部屋へ入ってやっと、トーカはひと息ついた。
「なんか……濃い一日だった。ヒメサマ、街ってすごいんだね」
『俺はトーカが頑張っている姿を見るのが楽しい』
「モニに比べたらおれなんて大したことないよ」
村にいた頃は皆が貧しくて、トーカが特別みすぼらしい格好をしていたわけではなかったし、不当に食事を減らされることもなかった。物乞いのような真似をする必要もなかったから、自分を可哀想だとは思っていない。何よりも、愛する人と想いあっている。
『そのモニを救ったのはトーカ、おまえだよ』
「そっか。そうかな」
膝に乗ったヒメサマが肉球で太腿を優しくふみふみする優しい感触に、トーカは微笑んだ。人がどんな生き方をしても愛している神にとっては、たくさんあるうちのよくある一つのエピソードなのかもしれない。
踏むのをやめたヒメサマが、真面目な顔でトーカを見上げた。
『トーカ、呪いについて調べたほうがいい』
「ヒメサマでもわからない?」
『アレはオサヒグンラの管轄だ。地上に出てきたらどうしてもいいが、あれでも神に属するものだからただの人間には手に余る』
「だから神殿に行かないと解けないのか?」
『そう。特殊な修行をした神官にしかできない』
オサヒグンラの悪神としての性質を思い出し、トーカはずっとかき乱されている気持ちを結びつけた。
「なあ、呪いがオサヒグンラさまのものなら、おれを惑わせようとしたってことはない?」
『ありえる。惑ったのか』
「うん。おれにきょうだいがいたら、とか、街に生まれていたら、とか考えても仕方ないことをやけに考えた」
『……人はそういうものではないのか?』
「おれ、そんなにうじうじしないだろ。ヒメサマがいて、季馬を捕まえるための蔓も見つけたのに、むしろあと少しって有頂天になってないとおかしいよ」
『自己分析が完璧だな』
「ふふん、これでも地上の神の夫だからな!」
だけど、回復したロニが、モニに縋りついて謝りはじめた。すぐに帰りたいと言い出せる雰囲気ではない。
「おねえちゃん、ごめんね。あたしね、わるいことしたの」
「ロニ?」
こうなったら話を全部聞いてしまおうと、病み上がりにも効くかわからなかったが、回復薬を飲ませたらロニは楽になったようで詳しい話をはじめた。
「あのね、あたしね、たびのひとのにもつをとったの……そしたらね、黒いのがあしにくっついて、こわくて、にもつをすてたの」
「ロニ、あんたはまだ小さいから、お金なんて気にしなくていいって言ったのに」
「おねえちゃんだって、こどもだもん! うわーん」
ロニは旅人の鞄を置き引きしたら、呪いを受けたようだった。悪いことをしたとはいえ、幼いふたりだけで生きて行かねばならないことへの同情も強い。
ひとしきり泣いたロニが落ち着くのを待って、トーカは気になることを聞いた。
「鞄の中に何かが入っていたのか。ロニ、鞄を捨てたのはどこか覚えてる?」
「さんぼんばしの、ひとつめのとこ」
「そこに案内したらいい?」
モニはすぐにトーカが何をしたいか気付いた。
「……明日でいい。今日は妹についていたほうがいいだろう」
「仕事をさせて。ロニ、あたし、この人に案内のお仕事してるの。待ってられるね?」
「うん。おねえちゃんを、おねがいします」
しっかりした姉妹だった。親がなくてもきょうだいがいたら違っていたのだろうかと考えて、今が幸せなのになぜこんなことを思うのだろうと疑問に思う。
モニに出会ってから、やけに仮定の話が多い。
単に経験不足だったから、突然の現実の奔流についていけていないだけか、それとも。
「ロニの言ってた橋はここ」
「陸橋なら、下は人が通るんじゃないか」
「この下は騎馬専用の道なの」
「騎馬……まさか」
モニの暗い顔に、トーカは昼間の馬車の転倒事故を思い出した。馬車用の馬がここを通ったかどうかはわからない。しかし、街中の移動がメインだと思われる馬車の馬が魔物の呪いにあたることは、珍しいはずだ。
「聖者さま、ロニは捕まりますか」
「今のロニは呪われてない。神殿での解呪を受けなければ、呪いはとけないんだろう? おれは回復薬をあげただけ。栄養が足りなくても人は病気になる」
「回復薬のおかげ……」
「そう」
トーカは、姉妹が安心する方法を必死に考えた。
普通の街では、偉い人と偉くない庶民がいて、偉い人の命は庶民よりずっと重いとされているのを知っている。偉い人にちょっと怪我をさせるだけでも庶民は処刑されることもあるという。
納得がいっているわけではないが、そういう仕組みになっているものを壊したいというほどでもない。
「あと、おれは聖者じゃない」
「猫ちゃんが聖者さまなの?」
「うん。でも、内緒にしてほしい。人に知られたら、神様の国に帰っちゃうんだ」
「わかった」
キリッとした顔で、トーカの言葉に頷いたモニは、たった数時間でずいぶん成長したように見えた。
モニに宿まで案内され、馬車からモニの件で、思いがけず離れたところまで行っていたこともわかった。狭い部屋へ入ってやっと、トーカはひと息ついた。
「なんか……濃い一日だった。ヒメサマ、街ってすごいんだね」
『俺はトーカが頑張っている姿を見るのが楽しい』
「モニに比べたらおれなんて大したことないよ」
村にいた頃は皆が貧しくて、トーカが特別みすぼらしい格好をしていたわけではなかったし、不当に食事を減らされることもなかった。物乞いのような真似をする必要もなかったから、自分を可哀想だとは思っていない。何よりも、愛する人と想いあっている。
『そのモニを救ったのはトーカ、おまえだよ』
「そっか。そうかな」
膝に乗ったヒメサマが肉球で太腿を優しくふみふみする優しい感触に、トーカは微笑んだ。人がどんな生き方をしても愛している神にとっては、たくさんあるうちのよくある一つのエピソードなのかもしれない。
踏むのをやめたヒメサマが、真面目な顔でトーカを見上げた。
『トーカ、呪いについて調べたほうがいい』
「ヒメサマでもわからない?」
『アレはオサヒグンラの管轄だ。地上に出てきたらどうしてもいいが、あれでも神に属するものだからただの人間には手に余る』
「だから神殿に行かないと解けないのか?」
『そう。特殊な修行をした神官にしかできない』
オサヒグンラの悪神としての性質を思い出し、トーカはずっとかき乱されている気持ちを結びつけた。
「なあ、呪いがオサヒグンラさまのものなら、おれを惑わせようとしたってことはない?」
『ありえる。惑ったのか』
「うん。おれにきょうだいがいたら、とか、街に生まれていたら、とか考えても仕方ないことをやけに考えた」
『……人はそういうものではないのか?』
「おれ、そんなにうじうじしないだろ。ヒメサマがいて、季馬を捕まえるための蔓も見つけたのに、むしろあと少しって有頂天になってないとおかしいよ」
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「ふふん、これでも地上の神の夫だからな!」
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