人を生きる君

爺誤

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26  判断

 大人しく夕飯を終えて部屋に戻った途端に、ヒメサマは人型に変わった。
 トーカの服が手際良く脱がされて、あっという間に全裸で寝台に転がされる。

「今日はヒメサマも脱いで……いや、おれが脱がせるからじっとして」

 覆い被さってきたリナサナヒメトにサッと身体を入れ替えて、馬乗りになった。この五年間で仕組みのわからなかったリナサナヒメトの服も脱がせられるようになった。実はもっと複雑だったのを、トーカが脱がせやすいように改良されたことは知らない。
 しかし頑として下半身は覆われたままだった。トーカも無理は言わない。

「相変わらず良い身体だ」
「トーカにそう思ってもらえて光栄だ」
「自由に変えられるなら、ここも猫サイズにしたらトゲつきでもなんとかなるんじゃないかな?」

 トーカは下穿きの上からリナサナヒメトの股間を揉んだ。欲はあると言いながらも、そこが硬くなっていたことはない。トーカはリナサナヒメトに触れられるとすぐに硬くなってしまうのに、不公平だと思う。
 触りあうぐらいしてみたいトーカだったが、リナサナヒメトからは勃起したら入れたくなるからダメだと言われ続けている。

「ここも身体の一部だが、比率は人型のサイズに合わせられる。なんなら人間大の猫にもなれる」
「えっ……悪くないかも」

 おおきな猫のヒメサマの毛に埋もれる自分を想像して楽しくなったトーカに、リナサナヒメトが微笑んで頭を撫でた。

「焦る必要はない。トーカがうまくやれば、オサヒグンラを出し抜けるだろう。五年間のトーカを見ていて、それだけの能力があると判断した」

 能力を認められることは嬉しいけれど、もどかしい思いでリナサナヒメトの胸に頭をおしつける。

「神の試練がそんなに簡単かな」
「難しいように思うか?」
「季馬の居場所はだいたいわかってて、捕まえる道具も近くにある……難しくないのかも」

 顔を上げたトーカは、余裕の表情で微笑んでいるリナサナヒメトの頭を両手で掴んだ。

「余裕ぶってるところが、なんか、もやもやする。したいのはおれだけ?」
「まさか。歴代のリナサナヒメトの中で一番性欲が強い自信がある。だからこそ、神格がなければ危険だと言っているんだ」
「それって、性欲薄めだったらとっくにできてたってこと?」
「そうだ」

 リナサナヒメトへの情欲を自覚してから我慢するのは無理だと発散を手伝ってもらっていたが……

「もしかして我慢してる?」
「少し。だが、我慢した後にトーカと抱き合うのを楽しみにしている。するときは中庸の地に戻ろう。地上に影響があるといけないから」
「そんなに……そっか、嬉しい。頑張ろう」

 その気持ちが嬉しかったトーカは我慢しようとしたけれど、リナサナヒメトに見抜かれて気持ち良くされてしまった。


 ◇


 朝の支度をしながらトーカはやることを整理していた。

「昨日の旅人からデズグルの生息地を聞くのと、神殿にどれだけ呪いの情報が集まってるか確認するのと……とりあえず神殿かな。肉が入ってなかったけど美味かったし」
『神殿に行くなら姿を消しておく』
「うん」

 宿を出て神殿に行くと、既にモニが来ていた。子ども用の炊き出しの列にロニが並んでいた。

「おはよう。まずは朝食にするから、案内はもっと後でいい。ロニと一緒に食べておいで」
「はい! あの、ロニも一緒でいい? 役に立つから!」
「料金はこれ以上払わないよ?」
「やったあ。また後で!」
「うん」

 トーカがよく見たら、昨日買い与えた服をモニとロニで分けていた。うまく元々のボロい服と合わせてそこそこに見えるように工夫していた。ああは言ったけれど、後でロニの服も買おうと思った。
 賢者さまと呼ばれるのが満更でもなかったからだ。

 先日は気付かなかった神殿の食堂の入り口で、前の人間より多めの寄進をして、トレイに乗ったスープとパンを受け取った。
 昨日と具材と味が変えられていて美味しい。見渡せば少し裕福そうな民が数人いる。この朝食のために寄進している者もいそうであった。
 食べ終えてトーカは礼拝堂へ向かったが、食べるだけで礼拝堂に向かわない者もいたから、やはり食事目当ての寄進があるのだろうと笑う。そういう態度を許す神殿のやり方には好感を持った。

「我らが神よ、降臨なされた理由は恐ろしき地底の大悪に対抗なさるためだったのですね」

 いきなり昨日より明らかにくたびれた様子のカフィラムが現れ、トーカの足元にひれ伏した。
 ぎょっとして周りを見たが、神官の姿はあるが一般信者はいないようでほっとする。

「地底の大悪……呪いのこと?」
「そうです神よ。闇の者たちからの宣戦布告でしょう」
「大袈裟な」

 オサヒグンラが神として扱われていないことがわかった。天上の神は関わらないからわかるけれど、その存在を知るトーカとしては少し意外だった。

「大悪を奉じる邪教徒がこの街に呪いをばら撒いたのです。昨日から領主に神官たちが呼ばれて、平穏が乱されています」

 大袈裟に嘆いてみせるカフィラムは、細い目の隙間からチラチラとトーカの反応を伺っている。

「おれを試しているのか? 聞きたいことがあったが、他に聞くことにする。お前たちの役割は、そうだな、呪いに困っている人を助けてやってくれ」

 トーカからカフィラムに提供できる情報はない。それに、オサヒグンラが神であることを知らない者に、対抗できる何かがあるとも思えなかった。
 違うだの申し訳ないだの叫んでいるカフィラムを置いて、トーカは神殿を出た。


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