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27 目的のために
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カフィラムが呼んだ警備担当の屈強な神官たちを難なく倒して、実践がうまくいったことに満足したトーカは、外で待っていたモニとロニに合流した。しかし、すぐに他の神官が出てきて待ってくださいと叫んでいる。トーカの目標は街中にないから、待つ気はない。
「神官に追われてる。二人とも振り向かずに走れ!」
姉妹は指示に従って走り出した。神殿からはトーカの影になって見えにくく、二人とも身を隠して走るのに慣れていた。後ろを走るトーカですら二人を見失いそうになりながら走った。
あっという間に入り組んだ路地に入り、二人が壁の前でよじ登ろうとしているのを抱えて一気に飛び越える。完全に見失ったらしい神官の声が聞こえたが、それもまた遠くなった。
「すごーい。とんだよ、おねえちゃん」
「うん、すごいね。聖者さまは何でもできるんだね」
完全になんの気配もなくなってから、姉妹が声をあげた。無邪気にはしゃいでいるところは子どもらしい。
「何でもできるわけじゃないよ。モニ、ロニ、おれのことはトーカと呼んでくれ。神官に追われていたのは、面倒ごとに巻き込まれたくないからだ。この街に長居するつもりはない。昨日の……呪いを受けていた旅人を覚えてる?」
「うん。緑の目亭に泊まってる。ここから近い」
いつの間に情報を収集したのか、モニが即答する。トーカが欲しがりそうな情報を先んじて集めていたのだろう。
トーカは、モニの有能さに好感を持つと同時に、カフィラムのことは好きでなかったようだと気が付いた。他者に対して負の感情を抱いたのは初めてかもしれない。
「モニはさすがだな。彼らを探している理由を教えるよ。おれは旅人が呪いを受けたところに行きたいんだ。それから次の目的地に行く」
「行っちゃうの?」
「もともと旅の途中だ。うまくいったら、またモニとロニに会いに来るよ」
「うん……呪いのところに行くの、怖くないの?」
モニの疑問に、後ろにいるロニもうんうんと頷いている。ロニへの呪いは強くないものだったが、幼い彼女の命を蝕むには十分だった。呪いが解けたとはいえ、まだ恐怖が残っている。
街に出た呪いの理由がトーカなら、さっさと季馬を捕らえることができれば、幼い姉妹の心配も減るだろう。リナサナヒメトだけが季馬を捕らえる理由だったが、子どもの平穏な生活を守りたいと思う自分に、大人になったことを実感してトーカは笑った。
「秘密だけど、おれは聖者だから、呪いにはかからないんだ」
「そっか。よかった」
「ひみつ」
邪魔しないようにずっと黙っていたロニが口元に人差し指を立てているのが可愛らしかった。
トーカは、自分の外套を買い替えるときに二人に安いけれどまともな服を与えた。外見の印象でできる仕事も変わっていくだろうと思ったからだ。困っている人すべてを助けたいほどの気持ちはないから、不思議だった。
◇
旅人が泊っているという緑の目亭は三階建てで、一階に道具屋と食堂、二階より上が宿になっている大きな建物だった。
「お金を持ってない旅人はよくここに泊まるの」
「なんで?」
「仕事の紹介をしてくれるの。宿は紹介したところからお金をもらっておいて、宿代ぶんを先にとっておくんだって」
「優しいんだか、優しくないんだか、よくわからないな」
「あたしもわかんない」
モニとロニに旅人を呼び出してもらう間、トーカは人目につきにくい建物の陰でヒメサマに宿代の仕組みについて聞いてみた。
『旅人に提示する報酬と宿代が、本当の報酬と合っているとは限らない』
「それって、宿が差額を自分のものにしてるってこと?」
『そういうことだ。しかし、その代わりに宿代を踏み倒されても、他の客からの利益で宿は損をしない』
「うーん、良いとか悪いとか言いにくい……」
『だろう? 面白いことを思いつくものだ』
昨日までとは違う外套でもフードを目深にした姿は同じだがら、旅人たちはすぐにトーカに気がついた。
「昨日の話の続きだ。討伐隊が出たかどうかは知らないが、早めにお前たちが魔物に出会った洞窟に行きたい。案内料ははらう」
「あんたに金は貰えねぇよ。でも、俺は今日の仕事を受けちまったから、ユノヒにやらせる。昨日あんたに助けてもらった奴だ。案内ぐらいはできるだろう」
「助かる」
旅人が宿からユノヒを連れてくると、トーカに跪くから普通の態度にしてもらうのに苦労した。
モニとロニ姉妹は街を出るところまで見送ると言ってついてきた。
ユノヒは話好きらしく、相槌を打たなくてもずっと話し続けていた。
「おかげさまで元気です。ダイルの奴にゃまだ休めって言われてたんすが、前より調子いいぐらいで」
ユノヒは先程の旅人ダイルの兄だという。旅の仲間はダイルとその妻と従兄弟の四人、ダイルとその妻が街に移住する旅の途中だったそうだ。ダイル夫妻で小道具屋を開き、ユノヒと従兄弟は商品の運び屋をする予定だった。
「弟の足引っ張って、面目ねえ」
「命あっての物種だ」
「はは……あんとき、洞窟にゃ珍しい石があることが多いんすよ。旅の途中があんまり平和だったから油断したんです。金になるもんは少しでも多いほうがいいって、欲をかいたせいで荷物も全部置いて逃げる羽目になっちまった。弟の門出だっていうのに」
こういう時なんと言えばいいのか、社会経験のないトーカにはわからなかった。ただ、誰も悪くないはずなのに、と切なくなる。
「神官に追われてる。二人とも振り向かずに走れ!」
姉妹は指示に従って走り出した。神殿からはトーカの影になって見えにくく、二人とも身を隠して走るのに慣れていた。後ろを走るトーカですら二人を見失いそうになりながら走った。
あっという間に入り組んだ路地に入り、二人が壁の前でよじ登ろうとしているのを抱えて一気に飛び越える。完全に見失ったらしい神官の声が聞こえたが、それもまた遠くなった。
「すごーい。とんだよ、おねえちゃん」
「うん、すごいね。聖者さまは何でもできるんだね」
完全になんの気配もなくなってから、姉妹が声をあげた。無邪気にはしゃいでいるところは子どもらしい。
「何でもできるわけじゃないよ。モニ、ロニ、おれのことはトーカと呼んでくれ。神官に追われていたのは、面倒ごとに巻き込まれたくないからだ。この街に長居するつもりはない。昨日の……呪いを受けていた旅人を覚えてる?」
「うん。緑の目亭に泊まってる。ここから近い」
いつの間に情報を収集したのか、モニが即答する。トーカが欲しがりそうな情報を先んじて集めていたのだろう。
トーカは、モニの有能さに好感を持つと同時に、カフィラムのことは好きでなかったようだと気が付いた。他者に対して負の感情を抱いたのは初めてかもしれない。
「モニはさすがだな。彼らを探している理由を教えるよ。おれは旅人が呪いを受けたところに行きたいんだ。それから次の目的地に行く」
「行っちゃうの?」
「もともと旅の途中だ。うまくいったら、またモニとロニに会いに来るよ」
「うん……呪いのところに行くの、怖くないの?」
モニの疑問に、後ろにいるロニもうんうんと頷いている。ロニへの呪いは強くないものだったが、幼い彼女の命を蝕むには十分だった。呪いが解けたとはいえ、まだ恐怖が残っている。
街に出た呪いの理由がトーカなら、さっさと季馬を捕らえることができれば、幼い姉妹の心配も減るだろう。リナサナヒメトだけが季馬を捕らえる理由だったが、子どもの平穏な生活を守りたいと思う自分に、大人になったことを実感してトーカは笑った。
「秘密だけど、おれは聖者だから、呪いにはかからないんだ」
「そっか。よかった」
「ひみつ」
邪魔しないようにずっと黙っていたロニが口元に人差し指を立てているのが可愛らしかった。
トーカは、自分の外套を買い替えるときに二人に安いけれどまともな服を与えた。外見の印象でできる仕事も変わっていくだろうと思ったからだ。困っている人すべてを助けたいほどの気持ちはないから、不思議だった。
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旅人が泊っているという緑の目亭は三階建てで、一階に道具屋と食堂、二階より上が宿になっている大きな建物だった。
「お金を持ってない旅人はよくここに泊まるの」
「なんで?」
「仕事の紹介をしてくれるの。宿は紹介したところからお金をもらっておいて、宿代ぶんを先にとっておくんだって」
「優しいんだか、優しくないんだか、よくわからないな」
「あたしもわかんない」
モニとロニに旅人を呼び出してもらう間、トーカは人目につきにくい建物の陰でヒメサマに宿代の仕組みについて聞いてみた。
『旅人に提示する報酬と宿代が、本当の報酬と合っているとは限らない』
「それって、宿が差額を自分のものにしてるってこと?」
『そういうことだ。しかし、その代わりに宿代を踏み倒されても、他の客からの利益で宿は損をしない』
「うーん、良いとか悪いとか言いにくい……」
『だろう? 面白いことを思いつくものだ』
昨日までとは違う外套でもフードを目深にした姿は同じだがら、旅人たちはすぐにトーカに気がついた。
「昨日の話の続きだ。討伐隊が出たかどうかは知らないが、早めにお前たちが魔物に出会った洞窟に行きたい。案内料ははらう」
「あんたに金は貰えねぇよ。でも、俺は今日の仕事を受けちまったから、ユノヒにやらせる。昨日あんたに助けてもらった奴だ。案内ぐらいはできるだろう」
「助かる」
旅人が宿からユノヒを連れてくると、トーカに跪くから普通の態度にしてもらうのに苦労した。
モニとロニ姉妹は街を出るところまで見送ると言ってついてきた。
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