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19 真実を知る
王都へ通じる街道は数本だったため、結婚式に参列するための貴族の馬車は多かった。
しかし、大貴族ほど王都に家を持ち長期滞在するものが多く、式の直前に王都入りするのは宿を取る必要のある滞在費用を節約したい下級貴族がほとんどだ。彼らはグロリア公爵の馬車を見て挨拶をして通り過ぎて行った。
しかし、イヴィクのグロリア公爵家が到着し、マサルたち三人が合流した翌日、黒塗りだが王家の紋章入りの馬車がやってきた。
それは、留学していたカナン王子が兄である王太子リオンの結婚式に参列するために帰国してきたものだった。
「黒塗り……格好いい……」
「まずい、ジョーがうっとりしてる」
「でも金持ちそうだよな。誰の馬車なんだろう」
三人は礼儀を知らないため、騎士団長の後ろでまずいことをしたら教えて欲しいと言って小さくなっている。
しかし、ぼそぼそと会話しつづけており、騎士団長が苦笑してこっそり解説していた。
「あれは第二王子のカナン殿下の馬車です。留学から戻られたようですね」
「えーお兄さんの結婚なのに、こんなのんびりなんだ」
「色々あるのでしょう。カナン王子がいらっしゃったので、イヴィク様が挨拶に伺われます」
カナン王子がアイシャールの葬儀以降、再三の帰国要請を受けても留学先から戻らなかったというのは、国内では有名な話だった。
その名を聞いてもわからない様子の三人に、五年前からの経緯を知ったばかりの騎士団長は、これならアイシャールも別人として逃げ延びることができたのだろうと納得する。
「あ、そうか、あのイヴィク様より偉いんだ」
「そうだ、マサル。身分チートが集まったなら、イベントが起きるぞ」
「やめろ、ジョー。洒落にならない」
騎士団長としては、カナン王子は気難しいという噂があるから、三人がおかしな行動に走らないことを祈るばかりであった。平和に見えても、三人のうちの一人でも騎士団長と互角か、それ以上の実力者だと気付いているからだ。
†
アイシャールの死ののち、黒衣しか着なくなったカナン王子は、魔法研究の盛んなホレイメルリ王国に留学した。王太子の婚約式にも出席せず、再三の要請で五年ぶりの帰国となった。
アイシャールを失ってから、カナンはずっと自分に何ができただろうと考えていた。神を疑い、魔力の研究を選んだ。リオンはカナンの選択を支持していたが、二年ほど前、聖女ミノリと近しい関係になってから連絡が途絶えた。その後、婚約が発表されたけれど、カナンは無関心だった。
第二王子という立場はあるけれど、兄のリオンは王太子として申し分ないし、歳の離れた弟妹もいる。カナンはいずれ王家の籍を抜け、ホレイメルリ王国で魔法の研究者として生きていくことを考えていた。
婚約者を捨てて聖女ミノリを選んだ兄、リオンのことは不審に思ったものの、魔法の研究より急いで戻るほどの案件ではなかった。王宮にはアイシャールとの思い出があるから、あまり長居したくもない。
リオンが選んだのなら、ミノリがアイシャールの死に関わっていないのだろうと考えられるため、敵対する気持ちはない。
カナンにとって、魔法は神聖力とは違う大きな力と言う認識であり、王国が神聖力に依存する必要がなくなるよう研究する目的だった。神に疑いを抱いたカナンにとって、魔法は理解しやすく適性もあった。
大切なものを失った現実から逃れるように勉強や研究に没頭したカナンは、並びたつ者がないほどの魔法使いになっていた。
時間が経って成長しても、カナンの中でアイシャールは守るべき大切な存在だった。もし彼女にもう一度会えるなら、どんな姿になっていても構わない。そんな想いを抱えて、ホレイメルリの禁書庫にも侵入した。
死者を甦らせたり呼び出す魔法はなかったが、禁書によって様々な知識を得ることができた。
「カナン王子、グロリア公爵家からご挨拶に伺いたいとのことです」
「イヴィク殿か。いいだろう。少し早すぎたから、結婚式の前日までここに滞在しようか」
「カナン王子、それは」
「結婚式には出席する」
カナンの冷ややかな態度に肩を落とした侍従が出ていく。
挨拶の場は、宿が整わないため、カナンの馬車の中となった。狭いからカナンとイヴィクの二人だけである。
「お久しぶりです、カナン殿下」
イヴィクと顔を合わせるのも久しぶりだったが、その顔を見るたびに胸が傷んだ。アイシャールとよく似ているからだ。
カナンと顔を合わせたイヴィクは、すっかり大人になったと感慨深かったが、その表情に、彼に真実を隠し続けることはできないと判断した。何より敵に回したら危険なほどの成長も感じたからだ。
グロリア公爵のせいでカナンに疑いの目が向いたことも、謝罪しなくてはならない。
「アイシャールに関するご報告があります」
「いまさら?」
「死んでいないことがわかりました」
「どう……いうことだ」
「色々な思惑が重なった結果です。元凶は我が父、グロリア公爵ですが……」
説明を聞いたカナンは、混乱して取り乱した。
「アイシャールが、男……待ってくれ、あれが、男?」
「私も幼い頃は天使のようでした」
しゃあしゃあと言ってのけたイヴィクを睨みつける。
途端に魔力が溢れて、息苦しいほどになった。
外にいた三人が一瞬で戦闘態勢を取る。
「完全に闇堕ちしてる感じじゃね?」
「マジか。もしかしてラスボス登場? 聖女は?」
「すごい魔力だ……やばい、おれさまよりも強い……」
しかし、大貴族ほど王都に家を持ち長期滞在するものが多く、式の直前に王都入りするのは宿を取る必要のある滞在費用を節約したい下級貴族がほとんどだ。彼らはグロリア公爵の馬車を見て挨拶をして通り過ぎて行った。
しかし、イヴィクのグロリア公爵家が到着し、マサルたち三人が合流した翌日、黒塗りだが王家の紋章入りの馬車がやってきた。
それは、留学していたカナン王子が兄である王太子リオンの結婚式に参列するために帰国してきたものだった。
「黒塗り……格好いい……」
「まずい、ジョーがうっとりしてる」
「でも金持ちそうだよな。誰の馬車なんだろう」
三人は礼儀を知らないため、騎士団長の後ろでまずいことをしたら教えて欲しいと言って小さくなっている。
しかし、ぼそぼそと会話しつづけており、騎士団長が苦笑してこっそり解説していた。
「あれは第二王子のカナン殿下の馬車です。留学から戻られたようですね」
「えーお兄さんの結婚なのに、こんなのんびりなんだ」
「色々あるのでしょう。カナン王子がいらっしゃったので、イヴィク様が挨拶に伺われます」
カナン王子がアイシャールの葬儀以降、再三の帰国要請を受けても留学先から戻らなかったというのは、国内では有名な話だった。
その名を聞いてもわからない様子の三人に、五年前からの経緯を知ったばかりの騎士団長は、これならアイシャールも別人として逃げ延びることができたのだろうと納得する。
「あ、そうか、あのイヴィク様より偉いんだ」
「そうだ、マサル。身分チートが集まったなら、イベントが起きるぞ」
「やめろ、ジョー。洒落にならない」
騎士団長としては、カナン王子は気難しいという噂があるから、三人がおかしな行動に走らないことを祈るばかりであった。平和に見えても、三人のうちの一人でも騎士団長と互角か、それ以上の実力者だと気付いているからだ。
†
アイシャールの死ののち、黒衣しか着なくなったカナン王子は、魔法研究の盛んなホレイメルリ王国に留学した。王太子の婚約式にも出席せず、再三の要請で五年ぶりの帰国となった。
アイシャールを失ってから、カナンはずっと自分に何ができただろうと考えていた。神を疑い、魔力の研究を選んだ。リオンはカナンの選択を支持していたが、二年ほど前、聖女ミノリと近しい関係になってから連絡が途絶えた。その後、婚約が発表されたけれど、カナンは無関心だった。
第二王子という立場はあるけれど、兄のリオンは王太子として申し分ないし、歳の離れた弟妹もいる。カナンはいずれ王家の籍を抜け、ホレイメルリ王国で魔法の研究者として生きていくことを考えていた。
婚約者を捨てて聖女ミノリを選んだ兄、リオンのことは不審に思ったものの、魔法の研究より急いで戻るほどの案件ではなかった。王宮にはアイシャールとの思い出があるから、あまり長居したくもない。
リオンが選んだのなら、ミノリがアイシャールの死に関わっていないのだろうと考えられるため、敵対する気持ちはない。
カナンにとって、魔法は神聖力とは違う大きな力と言う認識であり、王国が神聖力に依存する必要がなくなるよう研究する目的だった。神に疑いを抱いたカナンにとって、魔法は理解しやすく適性もあった。
大切なものを失った現実から逃れるように勉強や研究に没頭したカナンは、並びたつ者がないほどの魔法使いになっていた。
時間が経って成長しても、カナンの中でアイシャールは守るべき大切な存在だった。もし彼女にもう一度会えるなら、どんな姿になっていても構わない。そんな想いを抱えて、ホレイメルリの禁書庫にも侵入した。
死者を甦らせたり呼び出す魔法はなかったが、禁書によって様々な知識を得ることができた。
「カナン王子、グロリア公爵家からご挨拶に伺いたいとのことです」
「イヴィク殿か。いいだろう。少し早すぎたから、結婚式の前日までここに滞在しようか」
「カナン王子、それは」
「結婚式には出席する」
カナンの冷ややかな態度に肩を落とした侍従が出ていく。
挨拶の場は、宿が整わないため、カナンの馬車の中となった。狭いからカナンとイヴィクの二人だけである。
「お久しぶりです、カナン殿下」
イヴィクと顔を合わせるのも久しぶりだったが、その顔を見るたびに胸が傷んだ。アイシャールとよく似ているからだ。
カナンと顔を合わせたイヴィクは、すっかり大人になったと感慨深かったが、その表情に、彼に真実を隠し続けることはできないと判断した。何より敵に回したら危険なほどの成長も感じたからだ。
グロリア公爵のせいでカナンに疑いの目が向いたことも、謝罪しなくてはならない。
「アイシャールに関するご報告があります」
「いまさら?」
「死んでいないことがわかりました」
「どう……いうことだ」
「色々な思惑が重なった結果です。元凶は我が父、グロリア公爵ですが……」
説明を聞いたカナンは、混乱して取り乱した。
「アイシャールが、男……待ってくれ、あれが、男?」
「私も幼い頃は天使のようでした」
しゃあしゃあと言ってのけたイヴィクを睨みつける。
途端に魔力が溢れて、息苦しいほどになった。
外にいた三人が一瞬で戦闘態勢を取る。
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