星降る夜に

天野 恵

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清二は茶会での成功を胸に、さらに茶道の勉強に励む日々を送っていた。薫との交流も増え、彼女の穏やかな指導と温かい微笑みが、清二にとって何よりの励みとなっていた。

ある日、清二はいつものように桜井家の茶屋に足を運んだ。薫はいつも通り彼を出迎えたが、今日はどこか浮かない顔をしていた。

「薫さん、何かあったのですか?」清二は心配そうに尋ねた。

薫は少し躊躇いながらも、やがて小さなため息をついて話し始めた。「実は、父がお見合いの話を進めているんです。」

「お見合い?」清二の胸に一瞬、鋭い痛みが走った。

「ええ。相手は地元の有力者の息子で、父も母もとても喜んでいます。でも、私は...」薫の声が少し震えた。

清二は彼女の気持ちを察し、優しく問いかけた。「薫さんは、その方と結婚したくないのですか?」

薫は黙って首を横に振った。「まだ心の準備ができていないんです。それに、私は...」彼女は言葉を詰まらせた。

清二は優しく彼女の手を取った。「無理をしなくてもいいんですよ、薫さん。あなたの気持ちを大切にしてください。」

その瞬間、薫の目に涙が浮かんだ。「ありがとう、山田さん。あなたがいてくれて、本当に救われます。」

清二は彼女の手を握り返し、心からの思いを込めて言った。「薫さん、私はあなたの力になりたい。あなたが本当に望むことを見つける手助けができるなら、何でもするつもりです。」

その言葉に薫は深く感謝し、涙を拭いながら微笑んだ。「山田さん、本当にありがとうございます。あなたがいてくれることで、少しずつ勇気が湧いてきます。」

二人はその後も茶屋の庭で静かに話を続けた。薫は清二に、自分の夢や家業への思い、そして父親の期待に応えたいという気持ちを語った。清二は彼女の言葉に耳を傾け、理解と共感を示し続けた。

夕暮れが近づき、庭に美しいオレンジ色の光が差し込む中、薫はふと立ち上がった。「山田さん、今日は特別にお見せしたいものがあります。」

清二は興味津々で彼女に従った。薫は家の奥へと彼を案内し、ふすまを開けた。そこには、古い茶道具が並べられた部屋があった。

「これは、私の曾祖母が使っていた茶道具です。彼女はこの茶道具を使って多くの茶会を開き、桜井家の名を高めたそうです。」

清二はその美しい茶道具に目を奪われた。「本当に素晴らしいですね。まるで歴史が詰まっているようです。」

薫は微笑みながら、その一つ一つに触れた。「これらの道具を見るたびに、私は曾祖母の思いや努力を感じます。だからこそ、茶道を大切にしたいと強く思うんです。」

清二は薫の言葉に深く感動した。「薫さん、あなたのその気持ちを忘れずに、これからも茶道を続けてください。そして、あなた自身の道を見つけてほしい。」

薫は頷き、再び清二に感謝の言葉を述べた。「山田さん、あなたの言葉が私の支えです。本当にありがとうございます。」

その夜、清二は茶屋を後にしながら、自分自身の心にも深い決意が芽生えた。彼は薫のために、そして自分自身のためにも、さらに努力しようと心に誓った。薫の夢を守り、彼女の笑顔を守るために。
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