笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

文字の大きさ
115 / 121

38

しおりを挟む



『さあ、ついに降魔学園体育祭も最終競技を迎えました!!終わりが近づくのが惜しくなるほど盛り上がっていますが、やはり最後は白熱!紅白選抜リレーで間違いないでしょう!!』





 騎馬戦の後、俺は司会のその言葉に静かに驚いた。全く気が付かなかったが今から俺が出るリレーでこの体育祭は終わりだ。これが終わったら、俺はもう体育祭を経験することはないだろう。自然と両手に力が入った。


 

 
『それでは、第一走者は準備してください』





 トラックは一周200メートルで、両組18人ずつの選抜選手が走ることになっている。つまり、クラスに換算すると各クラス二人の選手が出場することになるな。





 第一走者は赤組は1ーB、白組は2ーAの生徒で先輩後輩対決になりそうだった。体格差があるのでこれは序盤から厳しい戦いになるかもしれない。

 


『スタート!!!』





 宙に響くピストルの破裂音と共に二人がスタートを切った。有終の美を飾れるか否か、それは俺たちに懸かっている。



「んー……ねむ……」





 徐々に白組との距離が離されていく様を見ていると、俺の前で座って順番を待っていた尚が眠たそうにくぁ、とあくびをした。




 俺たち赤組のアンカーは言うまでもなく西連寺で、その西連寺にバトンを繋ぐのは俺だ。そして尚は俺の前。最初は役職持ちの三年がこんなに後半に固まってもいいのかと思ったが、赤組の作戦では後半に巻き返すらしいのでこの人選は正しいのだろう。速い、という分類にしてもらっている以上結果を約束しなきゃな。




 あと少しだから頑張れ、と尚を元気づけながら戦況に目を向ける。走者が変わっていたが、相変わらず白組の後を追いかける形になっていた。一番を一年生に任せるのは重すぎたのかもしれない。



『現在一位は白組、走者は一年Sクラス陸上部の瀬戸隼君です!』





 しかも今走っているのは陸上部の星である瀬戸だ。当然ながら圧倒的な走りを展開しており、一年の中ではもちろん、二、三年でも彼に敵うものは少ない。




 バトンはやがて終盤選手に渡っていこうとしていたが、多少持ち直した程度で差は歴然だった。かなり差が開きみんなが焦る中、尚はいつも通りまったりとした足取りでスタートラインに立つ。
 


「猫谷様!!!」





 一生懸命走ってきた三年Bクラスの生徒が必死の形相で尚にバトンを渡した。白組は少し前に出発しておりすでに少し背中が小さい。尚は、



 
「ん………」




 と一言返してふわっと重心を傾ける。そして地面を強く蹴って、速度を上げて走り出した。普段の尚からは想像できないほど力強く雄々しい走り方だった。


 圧倒的に他者よりも速い。そして走っている顔は気だるげながらもかっこいいのだから、いつもの可愛さとのギャップに一般生徒がやられるのもよく分かる。




「「「きゃーっ!!猫谷様ぁあ!!!!」」」






 空気が揺れているのではというほどの甲高い悲鳴が場を支配して尚のファンと思われる生徒たちが身を乗り出す。カーブに差し掛かり白組との距離をぐんと縮めた。しかし惜しくも距離が足りず追いつくことは出来なかった。



 だが、それでも十分だ。俺はテイクオーバーゾーンに立って走ってくる尚に片手を上げて応えた。尚が俺を見つけて嬉しそうな顔をする。バトンが右手に渡った感触を感じた。




 
『ここで赤組、本命とも言える風紀委員長様にバトンが渡りました!猛追です!!!』

 



 受け取った。そう確信した瞬間、俺は風を切って助走から走りに繋げて全力で駆けた。




 目的は前、追い越すのが最優先だが最悪追いつくだけでも構わない。何故なら、俺は西連寺に道を作る役割に過ぎないからだ。




 まあ、西連寺なら一人で抜かせそうだが……俺とあいつの思い出ということにしてもいいだろう。共闘の証だ。




 


『対する白組は逃げに徹しています!えー、現在の走者は………え、ぁれ?」








 ん?






 司会の声が後半小さくなって、マイクが疑問を拾う。誰が走っているんだったか、と前を注視して俺は目を細めた。見覚えのある特徴的な髪が揺れている。










 ………なるほどな。







『あっ、す、すみません……えー、っと、現在の白組走者は一年Sクラス、藍野純君です!』










 これはちょっときな臭いかもしれない。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? 夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ
BL
アイドル好きの姉4人の影響で男性アイドル好きに成長した主人公、雨野明(あめのあきら)。(高2) 学校にバイトに毎日頑張る明が今推しているアイドルは、「ラヴ→ズ」という男性アイドルグループのメンバー、トモセ。 そんなトモセのことが好きすぎて夢の中で毎日会えるようになって・・・。 攻めアイドル×受け乙男 ラブコメファンタジー

坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。 ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

処理中です...