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始まりの村
事情説明 2
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「っ!?は、はい・・・分かり、ました」
そんなガンディの迫力に、もはや言葉を飲み込むしかなくなったクルスは、するすると力を失うように膝をついている。
彼にはもはや、ガンディの言葉に反論する力は残されていない。
そんな彼の足の間に、するするとアナがその身体を忍び込ませていた。
「ですので、どうかご安心を。それにほら、うちのアナも貴方になついているようですから。そんなお人を追い出す訳には参りませんよ」
力を失い、ぐったりと膝をつき崩れ落ちたクルスの足の間に陣取ったアナは、彼の両手を操っては遊んでいる。
そんな娘の姿を目にして、ガンディはにっこりと微笑んでいた。
「ん!ちんちん!!」
そんな父親の声に応えるように、アナは元気よく声を上げている。
しかし彼女が嬉しそうな表情で口にしたその言葉は、果たしてそんな微笑ましい場面に相応しいものであったか。
「ちんちん?はて・・・?」
「っ!!ちんちん、ぽっぽーってね!!ほら、こう・・・しゅしゅ、ぽっぽって!!」
娘の素っ頓狂な発言に、父親であるガンディは不思議そうな表情で首を捻っている。
しかし彼はやがて、その言葉の意味に辿り着いてしまうだろう。
そうなってはお終いだと焦るクルスは、訳も分からず思いつくままに言葉を叫んでいた。
「何ですかな、それは?」
「え、えーっと・・・その僕にも何とも。そのご存じかもしれませんが、記憶がないものでして・・・」
「はぁ、そうですか・・・」
混乱したクルスは、その両手を腰の辺りに構えては激しく回転し始めている。
そんな奇怪な彼の姿にガンディは首を捻るばかりであったが、その答えはクルス本人にも分からないようだった。
「ちんちん!!きゃははは!!ちんちん、ぽっぽー!!ちんちん、ぽっぽー!!」
しかしその奇怪な動きと掛け声はアナにはお気に召したようで、彼女はその大きな瞳を輝かせながら彼のポーズを真似ては大声を上げている。
「ちょ、アナ!?だから駄目だって、それは・・・!!」
子供らしい無邪気さで、アナはクルスが先ほどした動きを真似ながら彼の周りを回っている。
しかし彼女が繰り返し大声で叫んでいる言葉は、クルスにとって少しばかり都合の悪い言葉であり、彼は必死にそれを止めようとしていた。
「ふふふ、ははははっ!!いいではないですか、クルスさん!これも楽しそうです、好きにさせてやってください」
「は、はぁ・・・しかしですね」
何とか止めさせようとしていた子供の振る舞いも、その父親がそれを許せばその大義名分を失ってしまう。
ちょこまかと動き回り、中々捕まえられないアナに苦労していたクルスは、豪快な笑い声を上げてそれを許したガンディの声に、その両手の行き場をなくしてしまっていた。
「貴方、ちょっと・・・」
「おっと失礼。家内が呼んでいますので、ここで失礼させてもらいますよ」
それでも何とか説得の言葉を続けようとしていたクルスの努力はしかし、この部屋の外から掛かった声によって頓挫させられてしまう。
外から掛かった声に振り返ったガンディは、そのまま軽くクルスに別れの挨拶を告げると、そのままこの部屋から出ていこうとしていた。
「えっ?ちょっと待ってください、ガンディさん!?この子はどうするんですか!?」
部屋から出ていこうとしている父親の姿にも、アナは楽しそうにクルスの周りを回り続けている。
そんな彼女を置いて出ていこうとしているガンディに、クルスは慌てて彼を引き留めようと声を掛けていた。
「あぁ、そうでしたな。ふむ、それも懐いているようだし・・・クルスさん、お願いしてもよろしいでしょうか?それの面倒を」
「えっ!?でもそれは・・・」
クルスの声に足を止めたガンディは、顎に手をやると何やら考えだしている。
しかしそれもすぐに終わり、彼はアナの面倒をクルスに任せると口にしていた。
それに驚くクルスの目の前では、そんな彼などお構いなしにその両手を掴んでは振り回しているアナの姿があった。
「っ!?ちょっと貴方!?それは・・・!!」
「いいじゃないか、リトリー。あの子には時間が・・・」
「そう、ね。その通りだわ、貴方の言う通り。分かりました。クルスさん、どうかうちの子をお願いします」
そんなガンディの言葉に驚いたのは、何もクルスだけではない。
部屋の外で夫が出てくるのを待っていたその妻も、彼の言葉にいても立ってもいられず部屋の中へと飛び込んできている。
そうして夫であるガンディに食って掛かった妻はしかし、彼の諭すような言葉に唇を噛みしめると、俯いたままで娘をお願いしますとクルスに向かって頭を下げていた。
「いや、ちょっと待ってくださいよ!こう言っちゃなんですが、僕なんて見ず知らずの他人じゃないですか!そんなのに大事な娘さんを・・・って、行っちゃった」
夫婦の結論はどうやらあっさりと決まってしまったようだったが、それは他人であるクルスには全くをもって関係のない話だ。
彼はついさっき知り合ったばかりの子供に対して責任など持てないと、それを思い留まらせようと試みていたが、そんな試みも空しくガンディ達はこの場を後にしてしまっていた。
「・・・え、えーっと。ど、どうしよっか?」
「ちんちん!!」
「わんわん!!」
ガンディ達が立ち去り、沈黙が訪れた部屋には困ったような表情で佇むクルスと、アナだけが取り残されていた。
いなくなった両親に、もはやそれしか取るべき手段がないクルスは、アナへと窺うような視線を向ける。
そんな彼に対して、アナはいつの間にか現れた飼い狼のレオと共に、心の底から楽しそうな返事をすると、その手を元気よく掲げていた。
そんなガンディの迫力に、もはや言葉を飲み込むしかなくなったクルスは、するすると力を失うように膝をついている。
彼にはもはや、ガンディの言葉に反論する力は残されていない。
そんな彼の足の間に、するするとアナがその身体を忍び込ませていた。
「ですので、どうかご安心を。それにほら、うちのアナも貴方になついているようですから。そんなお人を追い出す訳には参りませんよ」
力を失い、ぐったりと膝をつき崩れ落ちたクルスの足の間に陣取ったアナは、彼の両手を操っては遊んでいる。
そんな娘の姿を目にして、ガンディはにっこりと微笑んでいた。
「ん!ちんちん!!」
そんな父親の声に応えるように、アナは元気よく声を上げている。
しかし彼女が嬉しそうな表情で口にしたその言葉は、果たしてそんな微笑ましい場面に相応しいものであったか。
「ちんちん?はて・・・?」
「っ!!ちんちん、ぽっぽーってね!!ほら、こう・・・しゅしゅ、ぽっぽって!!」
娘の素っ頓狂な発言に、父親であるガンディは不思議そうな表情で首を捻っている。
しかし彼はやがて、その言葉の意味に辿り着いてしまうだろう。
そうなってはお終いだと焦るクルスは、訳も分からず思いつくままに言葉を叫んでいた。
「何ですかな、それは?」
「え、えーっと・・・その僕にも何とも。そのご存じかもしれませんが、記憶がないものでして・・・」
「はぁ、そうですか・・・」
混乱したクルスは、その両手を腰の辺りに構えては激しく回転し始めている。
そんな奇怪な彼の姿にガンディは首を捻るばかりであったが、その答えはクルス本人にも分からないようだった。
「ちんちん!!きゃははは!!ちんちん、ぽっぽー!!ちんちん、ぽっぽー!!」
しかしその奇怪な動きと掛け声はアナにはお気に召したようで、彼女はその大きな瞳を輝かせながら彼のポーズを真似ては大声を上げている。
「ちょ、アナ!?だから駄目だって、それは・・・!!」
子供らしい無邪気さで、アナはクルスが先ほどした動きを真似ながら彼の周りを回っている。
しかし彼女が繰り返し大声で叫んでいる言葉は、クルスにとって少しばかり都合の悪い言葉であり、彼は必死にそれを止めようとしていた。
「ふふふ、ははははっ!!いいではないですか、クルスさん!これも楽しそうです、好きにさせてやってください」
「は、はぁ・・・しかしですね」
何とか止めさせようとしていた子供の振る舞いも、その父親がそれを許せばその大義名分を失ってしまう。
ちょこまかと動き回り、中々捕まえられないアナに苦労していたクルスは、豪快な笑い声を上げてそれを許したガンディの声に、その両手の行き場をなくしてしまっていた。
「貴方、ちょっと・・・」
「おっと失礼。家内が呼んでいますので、ここで失礼させてもらいますよ」
それでも何とか説得の言葉を続けようとしていたクルスの努力はしかし、この部屋の外から掛かった声によって頓挫させられてしまう。
外から掛かった声に振り返ったガンディは、そのまま軽くクルスに別れの挨拶を告げると、そのままこの部屋から出ていこうとしていた。
「えっ?ちょっと待ってください、ガンディさん!?この子はどうするんですか!?」
部屋から出ていこうとしている父親の姿にも、アナは楽しそうにクルスの周りを回り続けている。
そんな彼女を置いて出ていこうとしているガンディに、クルスは慌てて彼を引き留めようと声を掛けていた。
「あぁ、そうでしたな。ふむ、それも懐いているようだし・・・クルスさん、お願いしてもよろしいでしょうか?それの面倒を」
「えっ!?でもそれは・・・」
クルスの声に足を止めたガンディは、顎に手をやると何やら考えだしている。
しかしそれもすぐに終わり、彼はアナの面倒をクルスに任せると口にしていた。
それに驚くクルスの目の前では、そんな彼などお構いなしにその両手を掴んでは振り回しているアナの姿があった。
「っ!?ちょっと貴方!?それは・・・!!」
「いいじゃないか、リトリー。あの子には時間が・・・」
「そう、ね。その通りだわ、貴方の言う通り。分かりました。クルスさん、どうかうちの子をお願いします」
そんなガンディの言葉に驚いたのは、何もクルスだけではない。
部屋の外で夫が出てくるのを待っていたその妻も、彼の言葉にいても立ってもいられず部屋の中へと飛び込んできている。
そうして夫であるガンディに食って掛かった妻はしかし、彼の諭すような言葉に唇を噛みしめると、俯いたままで娘をお願いしますとクルスに向かって頭を下げていた。
「いや、ちょっと待ってくださいよ!こう言っちゃなんですが、僕なんて見ず知らずの他人じゃないですか!そんなのに大事な娘さんを・・・って、行っちゃった」
夫婦の結論はどうやらあっさりと決まってしまったようだったが、それは他人であるクルスには全くをもって関係のない話だ。
彼はついさっき知り合ったばかりの子供に対して責任など持てないと、それを思い留まらせようと試みていたが、そんな試みも空しくガンディ達はこの場を後にしてしまっていた。
「・・・え、えーっと。ど、どうしよっか?」
「ちんちん!!」
「わんわん!!」
ガンディ達が立ち去り、沈黙が訪れた部屋には困ったような表情で佇むクルスと、アナだけが取り残されていた。
いなくなった両親に、もはやそれしか取るべき手段がないクルスは、アナへと窺うような視線を向ける。
そんな彼に対して、アナはいつの間にか現れた飼い狼のレオと共に、心の底から楽しそうな返事をすると、その手を元気よく掲げていた。
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